「——ユウト、ユウト起きて、ユウト」
「うるせぇ」
突然体を揺さぶられ、夢の世界から現実に引き戻される、目を開けるとそこには、オレの顔を心配そうな表情で見つめる少女の姿があった。へそ上あたりに跨がり、肩に手をおいている、真っ白な肌に真っ白な髪の少女、紅の双眸以外に色の付いた箇所は見受けられず、まるで、良くできた雪像のようにも見える。
少女の両親が『雪菜』という名を付けたいと思う心境もよく理解出来る。
「また、あの夢?」
「ああ、そうみたいだ」
問いかけに短く肯定し、ゆっくりと上体を起こす、少女——雪菜はそのままオレの体の上でゴロンと仰向けになり、オレの足の上に少女の胴体が乗り、少女の足がオレの腹部を挟むという、なかなかに奇妙な体勢が出来上がった。
「邪魔だどけ」
「……」
片足を上げ少女を横に転がす、少女の反応を見るにどうやら半分眠っているらしかった。
オレを悪夢から解放してくれる、少女には少なからず感謝している、だがそれを伝えることはしないだろうし、当の本人も望んではいないだろう。
オレは外の空気を吸いに土管から這い出た、当たり前のことだが冬の朝はかなり寒い、マジで寒い。
土管の中はと言うと段ボールを敷き詰めてあるし、片方の穴を木の板や土で外気が入らないように塞いである、加えてオレの能力で空気を暖めているから中は意外と暖かい。だけどいつまでもこの生活を続ける訳にはいかないだろう。
「土管暮らしも、そろそろ卒業しないとな、雪菜のためにも……アパートでも借りるか」
部屋を借りるだけの金はある、問題はそのあと、どう生活費を稼ぐかだ、良いバイトがあれば良いけど。そんなことを考えつつオレはトレーニング場へ向かった、トレーニング場と言ってもただの空き地でオレと雪菜が寝床にしているような土管があるだけ
土管の中を覗くと雪菜がすやすや寝息をたてて眠っている、雪菜の生活は完全に昼夜逆転している。
最終更新:2017年06月22日 03:53