『共かずき』
【小説】8p
あらすじ
人間に化けて暮らしていく海の底の魔性、「共かずき」。
普段は海女に擬しているが、あるとき男が海の底に落ちてきて・・・
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感想
☆面白かったです。
☆伊勢志摩あたりの妖怪?がモチーフのようですが、生物的な描写がされていたので、
生物として解釈するなら、普段は何を食べて、どのように子孫を残してるのかとか、
ちょっとしたSFチックな解釈をしても楽しそうです(そうした方がよいというわけではないですが)
▼伝奇的な着想を端正な文章とすっきりした構成で物語って、全体的な完成度の非常に高い作品だと思います。
▼他方で、プロット重視に過ぎるというか、小説としての厚みに欠けるという印象を持ちました。良くも悪くも引っかかりなく読めてしまう。個人的には、「男」について掘り下げてほしかったです。「共かずき」にとって「男」のパーソナリティは問題にならないのでしょうが、だからこそ彼の人格的な側面を語った方が、読者にとっては「共かずき」とのコントラストが色濃く印象に残ると思います。
▼好みの問題ですが、終わり方には少し不満が残りました。「共かずき」がもっと読者に迫ってくるような終わらせ方でもよかったのではないでしょうか。語り手が、対象との距離感を非常に丁寧に扱っていることはよくわかるのですが、その分、対象が読者のみに迫ってくるような迫力はないかな、と感じました。
(野瀬)
△タイトルを見たときには「トモ カズキ」という男性(おそらく少年)が主人公だと思い、そのつもりで読み始めたので、最初の数行でたまげた。
△文章、決して上手だとは思わないし、むしろそっけなさ過ぎてつまらないと感じたが、題材とのバランスを考えると味があるともいえる。おかしみもある。実際笑えるところもあった。語り手の設定が良かったのかもしれない。おもろいと思た。おかしみというのは、なかなか狙っても出せない。ただ、狙ってるとはどうしても思えない。
△とにかく、「共かずき」という名前がすばらしい。それに尽きる。
●とても面白い作品だと思いました。共かずきを取り巻く無時間な感覚、その描写が好きです。伝説とはそういうものかもしれませんが。作者のなかではいつの時代の設定だったんでしょうか。男のパーソナリティーを今後掘り下げるのなら、大きなポイントになりそうです。しかし個人的には男に深入りはしてほしくありません、無時間な感覚が侵されてしまうからです。
∞「共かずき」は著者の造語でしょうか(広辞苑には載っていなかった)。すばらしいセンスだと思いました
女という性のなんともいえない“気持ち悪さ”が静かに表現されていていいなあと思いました
共かずきが感じたであろう、(結局は女性にしか化けられないのですが)これまでとは違う生き物に化けることへの違和感がもっとあってもいいんじゃないかなとも思いました(最終的には違和感がなくなっていくにしても、というかそもそも共かずきが突っ込んだ思考をしない存在にしても、その変化、経過がもう少し描写されても面白いかなと)
作者です。△さん∞さんが「共かずき」という名称に触れているので、とりあえずそれだけ補足させていただきます。
- 「共かずき」はわたしの造語ではなく(残念ながらそんな言語センス持ってないです)、実際に語られていた名称(のはず)です。わたしは、水木しげる先生の本で知りました。
- 類似の怪異はいろいろなところにあるものの、「共かずき」という名称は志摩地方のものです。ただし本作では、語感などを理由に、志摩ではなく伊勢の話にさせていただきました。その点ご了承ください。
では、各指摘に答えたいと思います。
☆さま SF的解釈は、作品内に入れる余地はないですが、頭の中ではぜひしたいです。思いつかれたことがあったら教えてください。
▼さま プロット偏重なのはそのとおりで、厚みを持たせるのは課題なのですが、男のパーソナリティーを重視する方向に作品を改造する予定は今のところありません。やはり単線的な語りにしてこそ意味があるのだろうと考えますし、男に厚みを持たせると全体の曖昧さが薄れ、作品が成立しなくなる恐れがあるからです(それは逃げだといわれるかもしれませんが)。
また、終わり方についても、わたしもそれは作品の弱さだと考えております。一応、最後の文章である「今もそこにいる」という言葉でもって、これまでのお話をゴロリと放り投げられたら、とは思ったのですが、確かに成功しているとはいえないでしょう。とはいうものの、たとえば一人称叙述なども試したのですが、作品全体が読むに耐えないものになったので、「「共かずき」がもっと読者に迫ってくるような終わらせ方」には憧れつつも、現状がベストかなあという感じです。
△さま そんな大胆な主人公名はつけません(笑)。「共」が名字ってのは斬新です。
文章等についてのご指摘は、具体的なものではなく答えにくいので、いいえ狙いです、といっておきます(笑)。
●さま 具体性を欠いた雰囲気をお気に入りいただけたのなら幸いです。時代設定は、公式設定としてはまったく決めていないのですが、いち読者として思い返してみるに昭和30年前後という感じでしょうか?
∞さま ――たしかに、変身場面の描写を深くするのはアリですね。検討します。ただ、共かずきにはある程度距離を置いて接したいので、うまくできるかどうかわかりませんが。こういうところの描写を濃くしていくことで、ラストをもうちょっと鮮烈にすることにつなげられるかもしれませんね。
以上、みなさまさまざまな感想・批評ありがとうございました! 合評会も楽しみです。
▼最終的に作品をどのように仕上げるかはもちろん作者の意志に委ねられるので、どうこうしたほうがいいという意見というよりは、一批評としてお聞きください。
▼●さんの言う無時間的な感覚というのは、的外れな指摘だと思います。冒頭、「共かずき」が反復・往還するニーチェ的な永劫回帰の(無)時間性の中を揺曳しているのはたしかです。ただしその(無)時間性は、「男」と出会うことによって綻びを見せ始めるわけです。「男」が持つ、死後までを含めた歴史的な時間性と触れ合うことによって、「共かずき」に固有の(無)時間性そのものが変質し始める。もし人間が主人公であれば、異界との接触によって別の時間性の中に踏み込んだ、時間性の越境が生じた、ということになるでしょう。これは伝承的な物語に典型的なプロットであり、その代表例を求めるなら「浦島太郎」になるでしょうし、現代的なアレンジなら『千と千尋~』かな。しかし「魔性」である「共かずき」は人間のように判明な時間意識を有しておらず、それゆえに時間的な越境を完全には果たしえないわけで、それまで生きてきた反復的な永劫の(無)時間性と人間的なリニアな時間性との狭間で二重性を帯びることになります。この点に作品の魅力があり、物語の駆動力もかかっているわけです。作者が言う「曖昧さ」は、男のパーソナリティが不分明であるということに由来するのではなく、「共かずき」が生きる時間性が二重であることに起因しています。作者は「単線的な語り」と言いますが、このような「単線的な語り」が起動しうるのは、あくまで「男」との接触を経たからです。越境であるのか非越境であるのかが判然としないまま、むしろ「共かずき」自身が二つの時間性の間でその双方を侵食するように拡大していく境界線そのものと化す、というのがこの物語の主題であるように思います。その意味で、この物語の描写は「共かずき」の(無)時間性を強調することに偏重し、「男」によって主題化され「共かずき」の変質の契機ともなる人間的な時間性に十分な注意を払えていないのだと感じます。「男」の人格を掘り下げてほしいと言ったのは、彼が背負っていたであろう固有の事情を知りたいというわけではなく、彼が代表する世界の時間性を提示する必要があると感がるからです。この作品は、無時間性を主題とするものではなく、二つの時間性のせめぎ合い、揺らぎを描く作品であり、完遂されることなく肥大化してゆく移行の物語です。偉そうですが、厳しい言い方をすれば、作者自身がこの物語が提起する問題系を自覚していなかったのではないかと思いました。以上、放言。
作者です。
ああ、批評の意味が、やっと理解できました。丁寧なご指摘ありがとうございます。男について掘り下げることの意味は、確かに誤読しておりました。
そのうえで回答しますと、作者としては、作品を書いた時点では、「「共かずき」自身が」「境界線そのものと化す」ことを主題には考えておりませんでした。「二つの時間性の間でその双方を侵食するように拡大」するのではなく、むしろ、「永劫の(無)時間性」からの脱出という、一見「進化」のように見える変化がまるで意味を持たず、それが果たされないということ自体を重視していたように思います。男が、「人間的なリニアな時間性」を背負っているかどうかは、念頭になく、ただ上から落ちてきて上昇を誘う「構造」であって構わないと考えました。「結局無時間に回帰してしまう(が、そうでないのかもしれない)」というあたりを話の落とし所として捉えており、「二つの時間性がせめぎ合った結果の、完遂されることのない移行の肥大化」を真正面から据えたつもりはないのです(その意味で、●さんのいう「無時間な感覚」が的外れとは思いません)。
では、これからどうするのか、というところは、まだもう少し考えてみたいと思います。▼さんの提案された主題は魅力的ですが、無時間性に呑まれたという読みも保持しておきたいのです。「双方を侵食する」「境界線」を主題化する方向に進んでしまうと、それを第三の価値として、ふたつの時間性より上位の「答え」として提示することになりかねないという恐怖もあります(これは作者の実力の問題ですが)。そしてそれは、分をわきまえた共かずきの姿にはふさわしくないものでしょうから、時間性を越境する可能性は、あくまで可能性として、ほのめかすだけに留め置きたい(ただしもう少し印象的に打ち出したい)と思います。
◆かけこみ投稿、かつ感想で。
文体は、割と見かけるような気がしますが「現代人の手による伝奇もの」というとっつきやすいもので、観察のされかたは気に入りました。
読点=息継ぎが多くて、伝承の雰囲気を出していますし、それと散文としての詳細な描写が前後するあたりのミックスは上手だなと。
◆物語は、ああ頭の中での言葉の回転スピードがものすごく速そうな人が書いているなあという印象です。これで十分まとまっている気もしますが、もう少しぞわぞわした感じを長くひっぱってほしかったです。高速でしゃーっと読めてしまったので、無時間性が…時代はどこか…という問題はうっちゃってしまいました。それだけ呑みこむ空気作りがお上手なのかも。
◆映画になるなーこれ、と思えるくらいライトモチーフが多いので、その分文体(描写とか言葉使いかな)にはもう少し緊迫感がほしかったです。好みですね。こちらの作品は、脚本のト書きのようだなという印象を受けました。
◆余談ですが、映画にするなら、なぜかと聞かれると困りますけれど舞台をポーランド沖にして、映画「溺れる森」みたいな狭い共同体内部の話にしても面白そうだなと思いました。色合いも硬質な寒々とした感じで、なぜかラストは土の色(赤っぽい)、という。以上です。
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最終更新:2010年05月19日 13:34