(12)492 『BLUE PROMISES 5』

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&br() 5. 「…なんで愛ちゃんは、わかっちゃうのかなぁ」 里沙は愛の目の前に立つ寸前、愛の記憶を書き換えていた。 里沙の声の記憶、顔や身体の特徴を、別の人間のそれへと。 顔や身体はこのローブで隠すことができる。 その上で声を書き換えてしまえば、とうてい気づかれないだろうと思っていた。 それなのに。 愛は、相手が里沙だとは気づかないまでも、何かを感じ取っていた。 虚ろな瞳に、必死に自分の姿を映して、探して。 全てのメンバーを術中に陥れることに成功した。 里沙に関する記憶を全て消し、私物やメールまで、あらゆる痕跡を消した。 案の定、翌日のメンバーの会話には里沙の話題はなかった。 だから、上手くいったと思っていた。 だけど、愛は行方不明になった。 まさか、と思った。 リゾナントの他のメンバーに顔は知られていない―――忘れられている―――のだから、 直接見に行って、確認するくらいはできないことはなかった。 だが、今さらあの中に戻って無関係を装えるほど、里沙は強くなかった。 里沙も、逃げていた。 断ち切った糸になるべく触れないように。 もう一度手にしてしまえば、絶対に戻れなくなるから。 やっとの思いでここまで離れたのに…それを無に返したくなかった。 たとえそれが、本心とは真逆の道を歩んでいるのだとわかっていても。 愛の記憶を操作することに躊躇いがなかったわけではない。 だが、実行しなければ自分だけではなく、愛をも傷つけることになる。 それは、避けたかった。 確実に愛の中にある里沙の記憶を抹消した―――はずだった。 それなのに、愛は確かに「ガキさん」と名前を呼んだ。 里沙が扱う能力のことさえ、狂いなく覚えていた。 それが記憶が消されず、いまだに愛の中で里沙が生き続けている、動かぬ証拠。  …覚えてて、くれたんだね。 それを嬉しいと思ってしまう自分は、情けない人間だと里沙は思った。 もしかしたら、愛が里沙を想う心が、干渉を拒んだのかもしれない。 自覚は、あった。 いつだって近くには愛がいて、里沙がいた。 お互いを補い合い支え合って、何年も戦ってきたから。 里沙にとって、どうしても他のメンバーよりも大切な存在だった。 愛もまた自分に対しては同じような感情を持っていると、断言できた。 今まで数多くの敵を苦しめた自分の技をかいくぐってくれるほど、 愛が里沙を想ってくれているのだとすれば、それはこれ以上ない喜びであり…、 逆に、愛のような実力者に対しては自分の能力が発揮しきれないという、 まだ能力者としては未熟者であることを里沙は思い知らされ、落胆したのも事実。 愛がいなくなった原因が、里沙に見当がつかないわけではない。 里沙のことを覚えていないメンバー。里沙のことを覚えている愛。 その摩擦に加え、愛が頼りにしてきた自分が突然消えたとすれば――― 里沙は、力及ばぬ自分を責め続けた。 愛がすべてを忘れていれば、こんなことにはならなかった。 「…愛ちゃん、ごめんね」 小さなつぶやきは雨音にかき消される。 里沙は、胸につけられた小さなバッジに手を当てる。 それは、ダークネスの組織員である証。 ダークネスへ強制送還され、軟禁生活の日々が続いた。 得られる情報は少なかったが、幸運にもかつての仲間、あさ美に出会えた。 その知識と実績で、すでにダークネス内でも特別な科学者として一目置かれている。 そんなあさ美の元には、内外から様々な情報が集められる。 組織内部の指令、組織外部での事件、その他、特にリゾナンターに関する情報――― ―――その中に、愛の情報があった。  [―――i914、拘束指令―――] あさ美は、その指令書のコピーを里沙に見せた。 里沙はそれを読むとさっと顔色を変え、指令書を握りつぶした。 愛の居場所は、わかった。 しかし、ダークネスの指令に抗えるような立場にはないこともわかっていた。 自分は軟禁されている身。この施設を自由に抜け出すことなどできるはずもない。 それ以上に、リゾナンターのメンバーや愛に対してしたことを考えれば、 彼女の前にどんな顔をして出て行けばいいのかわからなかった。 愛とメンバーを引きはがすきっかけを作っておいて、 正義を気取って愛を助けに行くなんて、あまりにも都合が良すぎた。 …だからといって、このまま愛が捕らえられるさまを黙って眺めなければいけないのか。 途方に暮れている里沙に、あさ美はある物を無言で差し出した。 里沙はそれを受け取ると、部屋の外へと飛び出した。 あさ美が差し出した物の一つは、ワープ装置の鍵。 功績を認められて特例が下り、この研究施設内に設置された物だった。 これを使えば、他の組織員の目に留まることなく移動が可能になる。 指令書を目にして慌ててしまい、そのままあさ美の差し出す物を受け取ってはしまったが、 里沙は、あさ美に感謝しながらも疑問に思っていた。 なぜ、愛の情報を真っ先に自分に漏らしたのか。 なぜ、ダークネスの監視下にある自分を、簡単に施設外に逃したのか… 手渡された黒いローブと銀色の腕輪、そしていくつかの錠剤。 いずれも、里沙が研究室で目にしたことのあるものだった。 皮肉にもそれは、あさ美のリゾナンターに対する研究から生み出されたもので、 腕輪にはれいなの能力を模した力を、錠剤はさゆみの能力を結晶化させたものだった。 あさ美は、何も言わなかった。 だが手渡されたものを見て、すべきことが何なのかは自ずと理解できた。 黒のローブは、己の存在を隠す。 あの科学者はそうやってダークネス幹部としての任務を遂行していった。 あらゆるデータを集め、分析し、ダークネスの繁栄のためにと… 里沙がローブを纏った時、視界は開けた。 日の昇らぬ永遠の闇、荒廃の地。里沙は思わぬ光景に息をのむ。 だが、やがて耳に届いた男たちの怒号に、里沙は雑念を捨てて意識を集中させた。 増幅した力は男の神経へと攻撃を加え、その機能を停止させた。 数秒も経たぬうちに一切の行動はできなくなるだろう。 そして、瀕死の愛の意識下に潜り込み、里沙に関する記憶を書き換えた。 ―――やはり、消えずに残っていた里沙の記憶に驚きながら。 ---- ---- ----

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