(12)812 『蒼の共鳴番外編-温かな孤独-後編-』

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&br() やがて、愛佳の住むマンションが見えてきた。 自分の住むマンションと比べると随分立派なことにジュンジュンはびっくりする。 1人暮らしだと小春が言っていたが、1人で住むには広過ぎるだろうとジュンジュンは思った。 ここで1人で暮らす愛佳の孤独を思うと、悲しい気持ちになる。 その気持ちが伝わったのか、愛佳はそっとジュンジュンの手を握る。 触れた手から伝わるのは、けして孤独ではないのだという愛佳の気持ち。 伝わってきた気持ちに、ジュンジュンは安堵した。 鍵を開け、部屋に入る。 いつもと変わらない部屋だけど、今日はいつもと違う。 ジュンジュンに鍵をかけてから入ってきてなと言って、愛佳は部屋の照明をつけて回る。 「お茶菓子の1つくらい出せたらええんやけど、人呼ぶことがないから何もあらへん。 ごめんなぁ、ジュンジュン」 「大丈夫、ジュンジュン、いつもバナナ持ってルかラ」 「…今の時季はええけど、夏場はやめとき。腹壊すで」 人の家でも普通に持参したバナナを食べ始めるジュンジュンに苦笑いしながら、 愛佳は冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出す。 コップを二つ準備しそれぞれにお茶を注いで、冷蔵庫に再びペットボトルを戻した。 お盆にコップをのせて、リビングに戻ると。 ジュンジュンは既に二本目のバナナを食べ終わっていた。 日本人なら、こういう時は家主が戻るまで遠慮しているものだが。 その辺は文化の違いなのか、ジュンジュンは何も気にすることなくバナナを食べている。 改めて、国の違う人間と一緒にいるのだなと思いながら、愛佳はジュンジュンにお茶の入ったコップを差し出した。 「ありがトございまス」 「いえいえ。しかし、付いてきてもらっといてあれやけど。 愛佳、明日も学校やねん…だから、もうお風呂入って寝るだけなんよ」 「ひょっとしテ、ジュンジュン、付いてこなイ方が良かっタ?」 「あんなぁ、ジュンジュンには愛佳が大人しそうに見えてるのかもしれんけど。 愛佳、本気で嫌やったら意地でもジュンジュン振り切って帰るで」 「迷惑、ではないってことでスか?」 「…そうや、だからそんな顔で愛佳のこと見んといて」 愛佳は苦笑いしながら、ジュンジュンの額に手を伸ばして前髪をかき回す。 本当、この人は本当に成人してるんだろうかと思ってしまうのは許して欲しかった。 真っ直ぐでキラキラとした光を湛える瞳で見つめられては、照れくさい。 年下の自分でも可愛らしいと思ってしまう程の幼い顔なのに、一度戦いの場に出れば。 念動力と獣化能力を駆使して敵を倒す、戦闘系能力者の顔を見せる。 人は見た目では量れない、改めてそう思わせてくれるジュンジュンはというと。 愛佳が何故苦笑いしたのか分からないと言った顔で、バナナに口を付けていた。 温かい、人がいると言うだけでこの部屋にはこんなにも温もりが溢れるというのか。 胸をじんわりと浸していく温もりに、愛佳はふわりと微笑む。 ジュンジュンもまた、その笑顔を見てにっこりと笑う。 心と心が繋がって、重なって、響き合う。 共鳴という絆によって2人もまた、確かに結ばれているのだ。 言葉を交わさなくとも通じ合う気持ち。 だが、名残惜しくてもこの温かな時間を終わらせなければならない。 温もりに気が緩んだせいか、睡魔がこんなにいい場面で出しゃばってきた。 「それ食べたら、お風呂入って寝るで。 ていうか、もう、愛佳まぶたが重すぎて辛いわ…」 日頃の疲れもあるのだろう、眠そうに目をこする愛佳。 それを見たジュンジュンは立ち上がり、愛佳が何か言葉を発するより早く愛佳を立ち上がらせる。 「お風呂は明日の朝、ちょっト早起きしテ入ればいイ。 眠い時にハ、眠る。 その方がずっと、体に優しイ」 「え、でも何か嫌や、そんなん。 男の人じゃないんやから、お風呂入らないで寝るとかちょっとあかんやろー」 「光井サン、お姉ちゃンの言うことは聞クの」 「しゃあないなぁ、今日だけ言うこと聞いたるわ。 …まさか、ジュンジュンは愛佳のこと差し置いて風呂に入るとか言わへんよね? 家主を差し置いて1人身綺麗にして寝ようとか、愛佳は許さへんで」 「でモ、ジュンジュン、バナナ臭いヨ?」 「バナナ臭いって自分で言うか、普通…。 っていうか、ジュンジュン、分かっててそういうこと聞くとかないわ」 顔を赤くしてそっぽを向いた愛佳の言葉に、ジュンジュンはニヤリと笑う。 せっかく一緒にいるのに1人で先に寝るのは寂しいという愛佳の心の声が、ジュンジュンにはしっかり聞こえていたのだ。 聞こえていたくせに、わざと意地悪を言ってきたジュンジュン。 だが、その意地悪はけして愛佳を傷つけたくて言っているのではないと、愛佳には分かっている。 大きくて、それなのに子供みたいで。 優しいのに、意地悪なことを言ってみたり。 だけど、ジュンジュンなりに考えて愛佳に接しているのだ。 それが分かるから、愛佳は何も言わずに寝室に連れて行き。 小さいけど勘弁してなと言いながら洗い立てのパジャマ一式をジュンジュンに渡して、パジャマへと着替える愛佳。 ジュンジュンが着替えている気配を感じながら、愛佳はささっと制服を脱ぎ、スカートをハンガーに掛ける。 糊のきいたシャツも同じハンガーへとかけて、肩の所にネクタイも掛けて明日着る制服の準備を終え。 脱いだシャツを洗濯機に放り込んで帰ってきた時には、ジュンジュンは既に布団の中で寝息を立てていた。 お姉ちゃんの言うことは聞くのとか言って、これじゃどっちがお姉ちゃんか分からへんやん、と呟いて。 愛佳は苦笑いしながら、目覚まし時計の針をいつもより大分早い時間に設定する。 お風呂に入るだけじゃなく、この大きなお姉ちゃんに朝ご飯を食べさせてあげないと。 「…ジュンジュン、まさか朝ご飯からバナナ一房とか言わへんよな。 この家にバナナなんてないで」 そう言いながら、愛佳はジュンジュンを壁の方へと少し押してその身を布団へと滑り込ませる。 自分の熱で温めたのではない、柔らかな温もりが既に宿る布団。 もう随分と長い間、そんな温もりには触れていなかった。 自然と目尻から伝ってくる涙に戸惑ったのと同時に、愛佳を包み込む優しい腕。 普通にもう、眠っているはずなのに。 愛佳が泣いていることなんて、分からないはずなのに。 その腕は確かに、愛佳を包み込んで離そうとしない。 寝ぼけて抱きついているわけではないと分かるのは、触れている場所から伝わってくる愛佳への気遣いの気持ち。 既に眠っていたであろうジュンジュンを起こしてしまったのかと、愛佳は申し訳ない気持ちになる。 それすら包み込むように、ジュンジュンの腕に込められる力。 とろとろとした温もりと、自分でもよく分からない感情を包み込んでくれる優しさに。 愛佳の意識はゆっくりと、眠りの淵へと沈んでいく。 まさに眠りに落ちるその瞬間に、愛佳が発した心の声に。 目を伏せたまま、ジュンジュンは小さく微笑んだ。 頑張り屋で、真面目で、年上の人間から見てもしっかりしている愛佳。 だからこそ、たまにはこうして小さかった子供の頃のように甘えればいい。 未来を視て、不測の事態からリゾナンター達を守る愛佳。 ならば、自分はその繊細な心を守る者になろう。 ―――ジュンジュンの心の声に、遠く離れた場所で眠っているはずのリンリンの声が応えた気がした。 ---- ---- ----

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