(05)053 『喫茶リゾナント』

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「いらっしゃいませぇ~」

扉を開くとかわいい声が俺を迎えてくれた。
俺は軽く挨拶を交わすと、店の角にあるテーブル席に座る。
店内が一望できるお気に入りの場所だ。
いつもカウンターの中にいるのがこの店のオーナーの愛ちゃん。
そして今注文を取りに来ようとしてるのが、みんなから「さゆ」って呼ばれている子だ。

「ご注文お決まりですか?」
「いつもの」

俺はメニューを見ずに注文する。

「はい、ブレンドとチーズケーキですね。今日のブレンドはモカとコロンビアです。少々お待ちください」

ぺこりと頭を下げ、2つに縛った黒髪を上下に揺らしながらカウンターの中に引っ込む。
メイド服が似合うなかなかの美少女だ。
ちょっとこの店には不釣り合いなコスチュームだけど、それすら帳消しになる可愛さだと思う。
ちなみにここの手作りチーズケーキはものすごく美味い。もし来る機会があったら是非食べることをお薦めする。
俺は鞄から文庫本を取り出すと、のんびり読み始めた。


しばらくするとコポコポというサイフォンの音とともに珈琲の香りが漂ってきた。
その匂いに誘われるように奥のテーブルの住人が目を覚ましたようだ。
少女は、んーっと背筋を伸ばすと大きなあくびをした。
このふわふわした感じの美少女は「カメちゃん」とか「えりちゃん」と呼ばれており、どうやらさゆちゃんの友人らしい。
俺が来るときはだいたい店の一番奥のテーブルに座って寝ているか眠たそうにしている。
彼女たちの会話を聞いていると、カメちゃんは大病を患っていて入退院を繰り返しているらしいのだが、
全然深刻な様子が見られないのはこの子の屈託のない笑顔のせいだろう。

「お待たせいたしました」

ほどなくして珈琲とチーズケーキが運ばれてくる。
奥のカメちゃんにもケーキとココアらしきものが並べられる。
さゆちゃんが向かいの席に座ってひとつのケーキを二人で突いていた。
俺は一口ずつチーズケーキの味と珈琲の香りを堪能しながら文庫本に目を戻す。

俺が初めてここ喫茶リゾナントに来たのは単なる暇つぶしだった。
町をぶらぶら散歩して偶然発見した小さな喫茶店。
地味な外見に期待はしていなかったのだが、手作りのチーズケーキと本格的な珈琲の味は格別だった。
俺はその日以来、ほぼ毎日通う常連客となっている。
ただ俺を惹きつけているのはチーズケーキと珈琲だけではなかった。


しばらく通ううちに俺の他にも常連客がいることに気付く。

ガキさんと呼ばれる女性はいつもカウンターに座る。とくに愛ちゃんと親しいようだ。
カメちゃんとふざけたりもするが、たまに寂しげな表情をするのは何か悩みを抱えているのだろうか。

ショートカットの女子高生も毎日のようにやってくる。
彼女は占いが得意なようで店の子や常連客をよく占っている。
かくいう俺も一度だけ占ってもらった。
というか帰り際に「車に気を付けて」と言われただけなのだが、それがズバリ的中した。
その帰り道、一時停止をせず路地から飛び出してきた自動車に危うく引かれそうになったのだ。
注意して歩いていなければタダでは済まなかっただろう。

そうそう女子高生と言えば、現役女子高生トップアイドルの「月島きらり」が来たことがある。
入口で俺の姿を見るなり回れ右をするように出て行ってしまったがあれは間違いない。
同じようなことが何度かあったから近所に住んでいるのかも知れない。

他にもバナナばっかり食べてる中国人の女二人組もよく見かける。
メニューにはバナナ単品はないので持ち込みなのか店の好意なのかわからんが変わった客だ。

だけど俺はこの店の雰囲気が大好きだった。
個性的な人間が集まっていながら、まるで家族のような絆を感じさせる空間。
俺もその一人になりたかった。


いや、一人だけ天敵のような奴がいた。

「また来とぅ」

茶色い癖っ毛を掻き上げながら鋭い眼差しで俺のことを睨みつけ、野良猫のように警戒心を露わにする。
この店の上に住んでいるらしいのだが、客に対する態度が全然なっていない。
まるでこの俺が悪の手先か某国のスパイかのように疑っている。

「来ちゃ悪いか、俺は客だぞ」
「はーん、どうだか? いい加減正体を現したらよかとね」
「相変わらずなに訳のわからんことを言ってるんだ、おまえは。ごちそうさまー」

俺はテーブルに代金を置くと席を立った。

「ありがとうございましたぁ」
「二度と来んな!」
「失礼しましたぁ(汗」「コラッ! レイナッ!」

店の中で愛ちゃんが怒鳴っている声が聞こえてくる。
俺はにやつきながら家路についた。



ある日、店の入口に「臨時休業」の看板がぶら下がっていた。
その時はなにか用事があったのだろうと大して気にも留めていなかった。
しかしそれが一週間を越えると少し不安になってくる。
そして10日目にとうとう「閉店」の張り紙がしてあった。

俺は胸騒ぎがしたので不動産屋に訊ねてみた。
なんでも急用で出かけたまま帰ってこれなくなったらしい。
家財道具もそのままに店を引き払うとオーナーが連絡してきたそうだ。

この場所を決してなくしてはいけない。
いつ彼女たちが戻ってきてもいいように。

その想いが俺を動かす。
俺は不動産屋を強引に説得すると店をそのまま預かることにした。
「おかえりなさい」と言えるその日が来るまで。


 ─ 喫茶リゾナント 「OPEN」 ─




















最終更新:2012年11月24日 07:49