(05)392 『P線上のキャメイ(前編)』

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「むー・・・」

ここは喫茶リゾナント。
いつものようにリゾナンターのメンバーが集まっている。

「っむむむー・・・」

小春は仕事、ジュンジュンとリンリンはバイトで、今日は来れないらしい。

「じゃあ光井、練習始めよっか」
「は~い」

愛佳ちゃんの予知能力を高める為、今日もガキさんと愛佳ちゃんはテーブルに座って特訓中だ。

「リゾリゾの具を考えてみたの」
「まだそんなこと言っとると!?」

カウンターでは、れいながさゆの餌食になっている。

「また良い案あったら言ってねー」

愛ちゃんはコーヒーカップを拭きながら、のんきに二人を見てほほえんでいる。

「・・・むむむむ・・・」

そして絵里は、ななななーんと!
一人で秘密特訓中ですよ?



「むぅ・・・っ」

誰にも頼らず、一人で黙々と特訓中・・・。
絵里ってカッコイイ・・・!
おっといけない、集中集中。
手の中で風を作り出すイメージ・・・。

「・・・おりゃっ!!」

カタカタカタ―――

キター!!!!

棚に置かれている皿が、絵里の起こした風によって小刻みに揺れ出した。

「なん・・・?地震?」
「やだ、さゆみこわーい!」

ぶりぶりした声を出しながら、さゆみがれいなに抱きついている。
フフフ・・・地震じゃなくて、絵里がやったんだと言ったら、みんなは驚くだろうか。

―――パリーン!!!!

あれ。


「きゃぁ!!」
「うおっ!!」

皿が落ちて割れる音とほぼ同時に、さゆの悲鳴と愛の声が店内に響いた。
そして、沈黙が流れる。

ま、マズイ・・・。
背中を嫌な汗が流れる。

「な、何が起きたと・・・?」

その沈黙をれいなが破った。

どうしようどうしようどうしよう。
やっぱりさっきのは地震ということで・・・

「かーめー」
「はいぃっ」

名前を呼ばれた瞬間、身体がビクッとなってしまった。
ガキさんが怖い顔をして、絵里の方に歩いてくる。

「や、やだなぁガキさん。そんな怖い顔して・・・」

なるべく穏便に済ませてほしい。
とりあえず笑顔を作ってみたけど、上手くできなかった。


「店内で風を起こすと危ないから、外でやりなさいって昨日言ったばっかでしょーがー!」
「はい、おっしゃる通りです。すいません・・・」

頭が上がらない。
ガキさんの顔が見れなかった。

昨日もこうしてガキさんに注意されたのだ。
気まぐれで起こる風で、さゆのスカートをめくったり、
愛佳ちゃんの学校のプリントを吹っ飛ばしたり、
ジュンジュンのバナナを切って落としてしまったりしていたのだ。

昨日は謝れば許されることばかりだったけど、今日は違う。
皿を割ってしまったのはマズかった、よね・・・。

「ごめんなさい」

素直に言葉を出すことができた。
絵里だって悪いことは悪いと判断できるようになったのだ。

「まぁ、誰もケガしなくて良かったよ。次から絶対気をつけなきゃダメだからね?」
「はい・・・」

愛ちゃんが割れた破片を集め始めて、れいなとさゆもカウンターの中へ入った。
愛佳ちゃんは、絵里がこうして怒られることも視えたのかな。


「みんなも拾う時気をつけてね・・・って愛ちゃん危ないから!」
「だいじょぶだいじょぶ!わかってるってぇー」

愛ちゃんとガキさんのいつも通りのやりとりをきっかけに
店内がいつもの和やかな雰囲気に戻っていった。
でも、絵里の気持ちは落ちたままだ。



みんながどんどん能力を伸ばしていって
実践で活躍しているのを見ては、いつも悔しい思いをしていた。

―さゆがいないと何もできない。

そんなことないと思いながらも、心のどこかで認めている自分がいた。
絵里もみんなを助けたい。さゆを守りたい。
気持ちばかりが焦って、命を顧みずに能力を使うこともあった。
その度にみんなやさゆに迷惑をかけてきた。

でも新しい能力は違う。
助けてもらうばかりじゃなくて、助けることができる能力。
早く使いこなせるようになりたかった。

最近はずっと風を出す練習をしていた。
さゆやれいなが楽しく喋っている時も、
愛ちゃんが変な名前のメニューを考えている時も、
絵里はひたすら練習した。

なのに、みんなに迷惑をかけてしまった。
頑張った結果がこれだ。
やっぱり絵里には、みんなを助けるなんて無理なんだ・・・。


ぼんやりとそんなことを思っている時、
愛ちゃんがひょこっとカウンターから顔を出して
「絵里」といつものように名前を呼んだ。

「風、出せるようになってきたじゃん」
「え・・・」
「練習の成果だよ」
「・・・!」

怒られると思った。
慰められるかと思った。
でも今、褒められたよね?

「あ、・・・ありがとうございます!」

愛ちゃんは柔らかくほほえむと、またカウンターの陰に隠れてしまった。
絵里は、愛ちゃんの顔があった辺りを見つめたまま動くことができなかった。
嬉しくて口元が緩むのを抑えることができなかった。

「亀井さん」
「ん?」

いつの間にかそばに愛佳ちゃんが立っていた。

「今、亀井さんが嬉しそうにしてる場面が視えました」
「絵里が?」
「はい。めっちゃ良い顔でしたよ」
「えーとそれは・・・いつ頃の場面?」
「んー・・・今ではないです」

愛佳ちゃんは、そう言ってニコッと笑った。



「え、それってどういう・・・「あー!!!」」

カウンターの向こう側で、愛ちゃんが思い切り立ち上がって叫んだ。

「な、何何ぃ!どうしたの、いきなり!」

ガキさんも立ち上がって、不審なものを見るように愛ちゃんを見た。

「麺ゆでたのに忘れてた!!」
「はぁ!?」

お皿を片付け終えたさゆとれいなも立ち上がって、愛ちゃんの一挙一動を見ている。

「あちゃー・・・新作だったのに・・・」

愛ちゃんは鍋の中を見て、がっくりと肩を落とした。
ものすっごくがっかりしている愛ちゃんを元気づけようと、
みんなを代表して絵里は口を開いた。

「ちなみに、何作る予定だったんですか?」
「冷めたラーメンじゃないことだけアピールする冷やし中華」
「は?」

愛ちゃんの言葉に、真っ先に返事をしたのはやはりガキさんだった。



「え、もっかい、ゆーっくり言って?」
「冷めたラーメンじゃないことだけ、アピールする冷やし中華」
「えーと・・・愛ちゃん?」
「ん?どした?」

開いた口がふさがらないとはこういうことを言うんだと絵里は思った。
だって、れいなもさゆも愛佳ちゃんも、ポカンとしてる。
ガキさんは眉間に皺を寄せながら、絵里の方を向いた。

「愛ちゃんのセンス、亀の風でびゅーっとなんとかならないかな」
「いやー・・・これはもうどうにもならないと思いますよ」
「やっぱり?」
「はい」

頼りにしてくれて嬉しいんですけど、こればっかりは、さすがに。

「何がおかしいのー?」
「もういいから、ほら、麺のびるよ?」

みんな楽しそうに笑っている。
やっぱり絵里は、この生活を守りたい。
みんなと一緒に戦いたい。

「よし、もう一頑張り!」
「絵里、まだ練習するの!?」
「もう絵里はお皿割るからダメやって!」

みんなと笑っていたいから、みんながいるから、絵里はがんばれる。
いつか誰かを助けることができますよーに。




















最終更新:2012年11月24日 08:08