(06)287 『絆と足枷』

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リゾナントからの帰り道、里沙は幾度ともなくため息をつく。
以前はこの時間帯は組織への連絡時間だった。
今はなにもせず、とぼとぼと帰る。

手持ち無沙汰で携帯を触ってしまうと、
あの時の痛み・・・精神的な痛みがフラッシュバックする。
そして、解いたはずのマインドコントロールが心の奥底からふつふつと湧き上がってくる。
今頃になって気づく。
あの、組織への報告もマインドコントロールの一環だったと。

その全てが怖くて里沙は帰る時間帯はいつもサイレントのマナーモードにしていた。
仲間の一大事には携帯よりの精神が感応する。
里沙にとって携帯は組織を思い出させる代物でしかなかった。



人ごみが嫌いな里沙は街灯もまばらな道をゆっくりと歩いて帰る。


ふと、わき道に気配を感じた。
訝しがって通りの真ん中を歩く。
もちろんいつでも戦闘できるように、気配を隠して。


「相変わらず、組織のマニュアルどおりの戦闘体勢だね」
聞き覚えのある声がした。
「こんこん!」
わき道から姿を現したのは以前リゾナント、そして組織で一緒だったマッドサイエンティストこと紺野あさ美だった。

丸渕のめがねをかけて白衣を羽織っている様は以前となんら変わりない。
さも、今まで研究していましたよ、という感じだ。

「私を連れ戻しにきたの?」
里沙は間合いをとって問いかける。
あさ美自体に戦闘能力はさほどない。
それでも油断をしてもいい相手ではなかった。


「楽にしなよ。今日は友人として里沙ちゃんを待ってたんだよ」
あさ美はそう言うとにっこりと微笑んだ。
「組織はもうさほど里沙ちゃんにたいして執着はしてないよ。
それよりも愛ちゃんに強い興味をしめしている。
愛ちゃん、というか・・・i914に」
あさ美は里沙の目を見ずに淡々と話した。

「里沙ちゃんを助けに来た時のi914の能力に組織はとても驚いていたわ。精神観応、念動能力、瞬間移動。里沙ちゃんの報告よりもずば抜けて強かった」
「それは・・」
「わかってる。れいなでしょ?あと、さゆ。小春もかんでるのかな?共鳴・・・うまいネーミングだよね。組織は共鳴を信じてないの。半信半疑。だって組織の中で共鳴する者は一人としていないもの」
あさ美は本当に愉快そうに言った。
あんな組織の連中には共鳴など逆立ちしたって出来ないだろう。
自分の快楽のため、自分の野心のため、自分の見栄のために他人を蹴落とそうとしている奴等に共鳴など・・・
里沙は組織を改めて憎いと感じた。
「こんこん?どうして私にそんなこと?」
里沙は先ほどから思っていた疑問を口にした。
「言ったでしょ?今は里沙ちゃんの友人。元リゾナントの一員として里沙ちゃんを励ましているの」
「励ます・・・?」
「たぶん里沙ちゃんは組織のマインドコントロールに苦しめられているだろうから。
それに里沙ちゃんは組織にとっての恰好のおとりなの」
あさ美は急に真剣な目つきになった。
「おとり?だって私は!」
「そう、里沙ちゃんは自分の意思でリゾナントにいる。そして組織を本当に憎いと思っている。でも、さっきの通り里沙ちゃんの戦いは組織のマニュアルでしかすぎないの。
つまりマニュアルの裏をかけば里沙ちゃんはすぐに倒せる。
愛ちゃん、ひいてリゾナンターたちを倒す突破口になり得る。
組織は今全力をあげて里沙ちゃんが組織にいたころの戦闘プランの見直しをしている」
あさ美の言うとおりだった。里沙は組織に戦闘の方法を1から10まで全て習った。
組織の癖が里沙のカラダには染み付いている。



「そんなこと教えてこんこんはだいじょうぶなの?」
里沙は聞いた。友人としての心からの心配だった。
「私は大丈夫。私は組織にとってなくてはならない人材だよ。今、組織の戦闘プログラムも私が開発している」
あさ美は自信満々に答えた。
「なら・・」
里沙が口を開くと同時にあさ美は少し語気を強めて言った。

「私はリゾナントが好き。リゾナントにいたみんなが好き。あの時間は私にとって最高の時間だった。でも、麻琴は帰ってこない。
あれが不慮の事故だってことはわかっている。組織が仕向けた事も」
「組織が?」
「そう、組織のアーカイブにあの時の資料があった。組織が憎い。麻琴を殺した組織が憎い。でも、それ以上にi914が憎い」
あさ美の目にはこぼれそうなくらい涙が浮かんでいた。
「愛ちゃんはあの時能力が暴走してしまって」
里沙の目にも涙が浮かんでいた。
「わかっている。愛ちゃんは憎くないの。i914・・能力が憎い。
能力さえなければ私たちは幸せに暮らしていたはずでしょ?平和な毎日を過ごしていたはず。私はね、能力を消す方法を研究しているの。
それにはi914、ならびに能力者の捕獲が必要なの。それも、共鳴が大きなポイントになる。
だからあなたたちを私は倒さなければならない。
組織なんて関係ない。ただ、能力を消すにはあなたたちが必要で不必要なの。
だから、私は敵対組織に身をおいている。本気であなたたちを倒すために」
あさ美は里沙をまっすぐに見据えた。


「どうしてそれを私に?ヒントを与えて倒せなくなるかもしれないのに?」
里沙の頬には涙が伝っていた。あさ美の気持ちが嬉しかった。
「吉澤さんにね、能力がなくなれば本当に幸せなのかって言われたんだ。たしかに過去のような迫害は受けないかもしれない。けれど、能力がもとで私たちは出会えたわけでしょ?そして、共鳴とかいうすごく大きな力を手に入れた。
リゾナントのみんなは本当にそれを望んでいるのかどうかわかんなくなった。みんなを傷つけてぼろぼろにしてそれが幸せに繋がるかどうかわかんなくなった」
あさ美は苦しんでいた。本当に苦しんでいた。
「リゾナントに戻ろうよ。愛ちゃんもみんなもきっと暖かく受け入れてくれるよ」
里沙はすがりつくように言った。
「でも、、、やっぱりだめなの。戻る事は出来ない。足枷があるから・・・」
あさ美は寂しそうに答えた。
「足枷?」
「吉澤さんだってそう。本当は組織が悪だってわかってる。石川さんだって洗脳されているだけだって。でもできないの」
あさ美の頬に涙が伝って、落ちた。
その瞬間あさ美は消えるようにいなくなった。





足枷・・・なんのことだろう?
里沙は足枷の言葉がさす意味を考えながら歩いた。
自宅のほうではなく、今きた道、リゾナントへ続く道へと。
























最終更新:2012年11月24日 08:51