(07)338 『未来はこの手の中に ―SIDE Darkness―』

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「カオリンまた未来と“交信”してんのー?キャハハハ!」


けたたましい笑い声がすぐ近くで響き、遠くに飛んでいた圭織の意識は“現在”に戻った。


同時に、今まで時を越えていた視線を声の方に向ける。
足元・・・と表現したくなるくらい下方向に向けた視線の先に、その声の主――真里の姿はあった。


「・・・カオリンなんて馴れ馴れしく呼ばないでって言ってるでしょ?」

無表情に・・・というよりもいつもの表情で、圭織は無機質な返事を返す。


「なんだよー。ほんっと愛想ないよなーカオリンはさー」

そう言ってわざとらしく膨れっ面をしてみせる小さな後輩から視線をはずし、圭織はゆっくり歩き出した。


「ねえ、何が視えたの?あ~あ、オイラも予知能力がほしかったなー。なんか便利そうだし・・・ぶっ」

歩き出した圭織の後ろを追いかけながらそう言った真里は、直後に大きな壁・・・圭織の背中にぶつかった。


「いってー。急に止まんなよ。なんだよー」

鼻を押さえながら上を見上げた真里は、そこに珍しく表情のある圭織の顔を見た。
それがいかなる感情を表現した表情であるのかは分からなかったけれど、自分が言うべきではないことを言ったというのは何となく分かった。

組織から絶大な信頼を置かれ、自らのことを密かに「神」と称することすらある者がするべき表情ではなかったから。


「・・・人には分相応ってものがあるの。あんた程度のレベルの人間が予知だなんて冗談にもならないわ」


だが、真里がそう感じたのは一瞬のことで、圭織の表情はすぐにいつもの無表情に戻っていた。
見間違えだったかと思ってしまうほど見事に。


「ハイハイ。どーせオイラは低レベルな人間ですよー」


その電柱のような後ろ姿に向けて捨て台詞を残すと、真里は圭織についていくのをやめ反対方向へと歩き出した。
あの“神”にも人間らしい感情があったことに、驚きと・・・ほんの少しの親しみを覚えながら。


遠ざかってゆく真里の足音を聞きながら、圭織は再びゆっくりと歩き出した。
独りになった途端、またあのビジョンが浮かんでくる。


横転したバス。
どしゃ降りの雨。
砕けて散乱したガラス。
あたりに響く悲鳴、怒声、泣き声。
アスファルトの上にその面積を広げてゆく赤い水たまり―――


それはかつては“未来”だったビジョン。
そして今では“過去”となって久しい映像。

実際に目にしたわけではないその映像は、実際に自分が目にしたどの場面より鮮明に圭織の記憶の中に焼きついていた。


そのバスに乗るのは自分だった。
 ・・・正確には乗るはずであったのは。

だが、実際にそのバスに乗り、そして事故によって命を落としたのは・・・妹だった。


圭織は妹の命を死神に差し出したのだ。
自分の命の身代わりとして。



「仕方なかったのよ・・・」


何度呟いたか分からない言葉がまた口からこぼれる。


自分が死ぬ。

その“未来”が予め“視え”ていて、それを避ける方法も分かっていたとして・・・一体誰がその道を選ばないというのか。


そう、仕方がなかったのだ。
ああしなければ・・・妹の命を差し出さなければあたしは死んでいたのだから。

あたしはあのとき死ぬべきではなかった。
だからあたしはあの映像を“視た”のだ。
自分が助かる“未来”を選べるように。

そうだ、あたしは何も悪くない。
あたしは神になれる人間。
あんなところで死ぬわけにはいかなかったのだ。
身代わりになった妹だってきっとそう思ってくれるはずだ。


あたしは神。
だから自分の命を救うために他者を犠牲にすることだって許される。
許されるのだ。



ふと、圭織の頭にあのときの――幽霊ビルでの一件の際の言葉がフラッシュバックする。


「神なんかとちゃう・・・」


光井愛佳という少女・・・あの予知能力者の発したその言葉が。

思わず立ち止まり、そして遠くを睨みつけたまま、低く叫ぶ。


「黙れ・・・黙れ・・・黙れ!あたしは神だ!」


認めない。認めるわけにはいかない。

あたしは神なのだ。
このチカラを持って生まれたときからずっと。

そう、あたしは神。
未来をこの手の中に収めた存在。
あたしは・・・神。

後ろを振り返ることは何も生み出しはしない。
重要なのは未来だ。
あたしは未来だけ“視て”いればいい。


圭織は再びゆっくりと歩き出した。

いつものように全ての表情と感情を消し去って―――




















最終更新:2012年11月24日 10:53