(08)608 『スパイの憂鬱3』

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意識のない人間を抱えて歩くというのがここまで辛いことだとは、
リゾナンターになるまで知る由もなかった里沙。
汗を流しながら小春をリゾナントの2階まで引っ張りあげて、
里沙はリビングの床にぐったりと座り込む。小春は放り投げた、別にいいかなと思って。

れいなもジュンジュンをその辺に転がして、自分の城からシーツを引っ張り出してくる。
れいなの見事な拳骨によって獣化が解けちゃったジュンジュン、女子しかいないとはいえ
なかなか刺激的な姿で気を失っているのだ。
肉付きのいい肉体だなと感心しながら、里沙はとりあえず下に戻るかと階段の方へ足を向ける。


「のうわあああああああ!」

里沙は足を引っ張られて、盛大にすっ転んだ。もちろん、昭和丸出しの転び方である。
全身に鈍く走る痛みを堪えて、体を起こすと。
里沙のリアクションを見て、遠慮無く笑い転げる女がいた。
リゾナントオレンジこと、亀井絵里である。

傷の共有という非戦闘系能力と、風使いという戦闘系能力を併せ持つ能力者であり
持ち合わせた能力をフルに使ったトリッキーな戦術が魅力、なのだが。
余り戦うことが好きではないらしく、積極的に前に出ているところは見たことがない。
心根が優しいのだろうと思う反面、もうちょっと戦いに出てくれないと報告書が書きにくいから
頑張って戦ってくれよというのが里沙の本音である。


里沙は頭痛を堪えながら、絵里の方を睨み付ける。
その視線の鋭さに、れいなが怖いと呟いたことはちゃっかりスルーした。
ちなみにリンリンはと言うと、ちゃっかり階下でお留守番をしていたのでこの惨事は目撃していない。


「亀、あんた何でこんなことしたのか説明しなさいよ!」

「今日、絵里占いワースト1だったんですよー。んで、幸運の鍵が昭和リアクションを見ることって
占いのおねーさんが言ってたんで、よし、昭和といえばガキさんしかいないよなぁって。
期待通りのリアクション、グッジョブですよ」

「占いごときで人を転ばすんじゃないの!これ、階段の方にまで転がってたらあたし大怪我してたでしょーが!」

「大丈夫、何かあったとしてもさゆがいますから問題ないですって」


そういう問題じゃないでしょうがと言いたい、激しく。
ていうか、どんな占いだよ幸運の鍵が昭和リアクションって。
だが、絵里と会話していると怒っている自分が何だかむなしくなってくるのだ。
暖簾に腕押しとはこのことか、と里沙は脱力しながら思った。
そういえば、リンリンを下に残してきたということに里沙は気付く。
リンリンを1人下にいさせては、誰か来たときにちゃんと接客できるか怪しい。
ここで絵里の顔を見ているだけで疲れが倍になる気がして、里沙は今度こそ階下に行こうと歩き出す。



「だあああああああああああ!」


里沙は後ろから激しく胸を揉まれて、絶叫する。
素早く振り払って、後ろを振り返ると。
ガキさんの胸はもう成長しなさそうなのと言いながら、両手をワキワキさせる女。
リゾナントピンクこと、道重さゆみである。

治癒能力以外に、さえみという別人格に変わることで使える物質崩壊という能力を併せ持った能力者だが、
ピンチにならないとさえみに変わらないため、普段は戦闘に参加しない非戦闘員。
本人申告により、さえみという人格や能力については分かったものの。
実際どの程度の能力が使えるのかは、一度この目で見てみないことには判断が付かないと里沙は報告書に記した。

さゆみはどこからかメモ帳を取り出して、何やら文字を書いている。
その表情は真剣そのものだが、里沙としてはいきなり胸を揉んだことに対する謝罪がないのが気になる。
ここはビシッと怒っておかないと、おそらく何度でもこいつは人の許可なしにセクハラを繰り返すに違いない。
里沙は気合いを入れて、さゆを睨み付ける。この胸にこみ上げる熱い怒り、思い知らせねば。


「ちょっと、さゆ、いきなり何てことするのよ!セクハラで訴えるわよホントにもー!」

「メンバー全員のバストサイズを把握するのは、さゆの生き甲斐なんです!譲れないんです!
ガキさんの胸は成長の見込みはないんです、そこも譲れないんです!」

「…あ、そう…ふーん」

「ツッコミもリアクションもなしなの、さゆ、ちょっとやりすぎたかもしれないの」


そんなこと生き甲斐にするんじゃない、さゆ、っていうかお前はただ人の胸揉みたいだけなんじゃないのか。
っていうか、あたしの胸はもう成長しないのか、そうかそうか、分かってたけどさ。
色んな意味でショックが大きすぎて、昭和リアクションどころか返事するのすら億劫になる里沙。
里沙ももう19歳、自分のことは自分がよく分かっている。
だけど、こうして人の手によって断言されてしまうと涙が溢れそうになる。

余りにも悲しい空気に、気絶から復活したばかりのジュンジュンや小春でさえも一言も発しない。
リアルタイムでその場に居合わせた絵里やれいなは、さゆみの方を冷たい目で見ている。
明らかにやらかしてしまいましたという雰囲気が流れる中、誰も言葉を発することが出来ずにいた。
重々しい雰囲気をぶち破るかのように、階段を上る音がする。



「こんにちわー、って、何で皆何もしゃべらんのん?え、何この空気、めっちゃ重いやん」

「みっつぃーのその空気読まない発言、今日ばかりは救われるっちゃ」

「そうそう、この重い空気に見事に風穴を開ける発言…絵里、みっつぃーのそういうところ尊敬する」

「光井サン、ご褒美にこのバナナをあげマス。光井サンはすごい人、ジュンジュン尊敬!」

「みっつぃーのそういうところ、あたし好きだよ。これからも何かあったときはよろしくね」

「え、何、何なん?っていうか、新垣さんめっちゃ暗いし、道重さんは何か知らんぷりしてるし
一体何事なん?とりあえず、新垣さんを抱きしめておけば解決?」


そう言って、地の底まで落ち込んだ里沙を優しく抱きしめる胸の豊かな女。
リゾナントパープルこと、光井愛佳である。
予知能力と心の浄化という能力を使える非戦闘員であり、その能力の強さは戦いでは計り知ることは
不可能であると里沙は報告書にまとめている。

滋賀の出身と言うこともあり、関西弁を使ってしゃべる愛佳はリンリンと同じく、
里沙にとっては癒しをもたらしてくれる貴重な存在だ。
たまに怖い発言をすることもあるが、基本的には可愛い末っ子キャラ。
妹が1人出来たみたいで、リゾナンターに入ってよかったと思えることの一つに挙げてもいいと
里沙は思っている。残念ながら、よかったと思えないことの方が多い日々ではあったが。


15歳、これからどんどん成長していくであろう愛佳(とその胸)に、里沙は嫉妬しそうになる心を抑える。
貧乳が何だというのだ、貧乳はステータスなんだと心の中でひたすら呟き続けながら、愛佳にしがみつく里沙。
どっちが年上なんだか分からない光景ではあるが、この場の空気が和らいだことに他の皆は安堵した。
愛佳は何が何だかと言った顔で、里沙の頭をなで続ける。15歳にして早くも母の貫禄を醸し出しているが、
本人からしたら勘弁してくれと言ったところであろう。


「おわー、何があったか分からんけどあーしのガキさんがみっつぃーに独占されとる、てか
これはガキさんがみっつぃーを独占してる?え、何、浮気?」

「…いつから愛ちゃんのものになったのよ、あたしは」

「え、あの日出会った時からガキさんとあーしはフォーリンラブやなかったっけ?」

「あのねえ、変なこと言わないでくれる?あたしには心に決めてる人がいるんだから」


いきなり訳の分からないことを言いながら、リビングに現れた女。
リゾナントイエローこと、高橋愛である。
精神感応や瞬間移動と言ったサポート的能力に加えて、光使いという特殊な戦闘能力を駆使して
戦う、超能力戦隊リゾナンターのリーダー。
身体能力も突出しており、基本的に光使いの能力は使わずに戦う武闘派である。


光使いという攻撃能力を使わない理由は明らかにはされていないが、
とりあえず里沙は報告書に光使いの能力も使えるようであると記しておいた。
実力はさすがにリーダーと言ったところで、粛正人R(本名は石川梨華)との戦いにおいては、
Rに指一本触れさせることなく瞬間移動を駆使した華麗な動きで撃墜した。

その能力の高さゆえのリーダーなのかと、里沙は入った当初はそう思っていたのだが。
能力の高さだけで、この個性派集団をまとめられるわけがない。
入ってから観察して分かったことと言えば、間違いなくこのリーダー、女好きである。

どこか母性本能をくすぐる可愛い容姿、そしてその容姿に見合わぬ男前っぷり。
そのギャップにやられたメンバーは多く、愛のイケメンっぷりがこのバラバラな個性をまとめ
超能力戦隊リゾナンターを支えていると言っても過言ではない(はず)。


里沙は何故かリゾナンターに潜入したその日から、愛に異様に気に入られている。
敵のリーダーに気に入られること自体は悪いことではないが、こうも鬱陶しい発言をされるのは迷惑きわまりない。
里沙にとって自分の女扱いされても一向に構わないのは、この世でただ1人。
それは間違いなく目の前でさゆみを抱き寄せ耳元で何かを囁いている愛ではなく、あの人ただ1人だけなのだ。

目の前でいちゃつく2人のせいか、リビングが何だか玉虫色の空気になってきた。
何て言うか、全員(リンリン除く)揃ったのはいいんだけど…大して何もしないうちから
何でこんなに疲れねばならないのか。
里沙は頭を抱えたい衝動を堪えて、愛佳にしっかりとしがみつく。
胸柔らけぇ、羨ましいという親父的発言を心の中で繰り返す里沙の頬には一筋の涙が伝っていた。




















最終更新:2012年11月24日 13:06