(08)720 『夜猫と蛍火』

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「おー帰ってきたんかー」

屋根伝いに居候する店に戻ると
店主がその屋根の上でコーヒーを燻らせていた

何時やと思ってると?
ま、れいなにも言えることやけど

「ちょっと遊んできた」

そっけなく答える。

「んーほーか」

別に夜遊びしたって、彼女は怒らん
心配はされるけど、信頼されてるってわかる


だから、心地いい。愛ちゃんの隣は。




最初のうちは何考えてるかわからんかった
れいなみたいな子拾って、
あまつさえ住処まで与えた

何もできんのに、ただ食費が2倍になっただけっちゃない?
そんなれいなを側に置く、彼女の気がしれんかった

何か、何か他の思惑があるんじゃないかって怯えてた
怯えて怖くなって、街を彷徨った。

愛ちゃんに裏切られる前に
れいなが裏切る それが幸せな気がして

爆発して自暴自棄になって、昔みたいに喧嘩。
目の前に広がるれいなの起こした惨劇を紅いランプが取り囲んだ時、
れいなは一瞬にしてリゾナントの前に連れ帰られた

抱き寄せられ、心配したと囁かれる
2人の体が離れた時、
愛ちゃんの頬を汚したのが目に入った
それはれいなについてた返り血

まっさらなキャンパスを汚した気分になって
れいなは大声を上げながら、
涙と共に、自分の気持ちをぶちまけた





愛ちゃんの優しさが、怖い
温かすぎて、怖い
どうして、そんなれいなに優しくするの?
れいなに何の価値も無いのに





近すぎる距離で、愛ちゃんはれいなの目を見ながら言った。

あーし、そんな優しい人じゃ、ないがし
やめてやー、人を聖人扱いすんのは。

『れいなと、一緒におりたいって願いを、叶えてるだけやで?』

それはれいなの望んでいなかった言葉
望んではいけなかった言葉

髪の毛に手を差し込まれ
優しく上から下に梳かれる

『あーし、れーなからいろいろ貰ってるんよ』
それやのに不安にさせちゃってたなら、ごめん
『じゃあ、れいなにも、仕事して貰って、ええ?』

そう言って提示されたのが、料理。

もともとデザインとか好きやったれいなにとって、
料理も自分を表現できるアートやった
厨房を任されて、ホントの意味で
愛ちゃんの家族になれた気がした。



「んーおいしーわー」
愛ちゃんが食べてるのは、昼間売れ残ったケーキ
愛ちゃんはアスリートみたいな人やけん、
そんなもんあんまり食べんのに

そんな優しさ、れいなも配れる人になりたいな
ま、れいなはもっとスマートにやりたいっちゃけど。
泣いてる人より泣いてるようじゃ、あかんよ、愛ちゃん


2人だけのティータイムが終わって、
いよいよ明日に備えて眠りにつくことになった

部屋に消える愛ちゃんにおやすみって言い、
れいなはこっそりと一階の厨房に向かう

「れーな」

ドアが再び開いて呼び止められた

「絵里元気やったー?」
いたずらっこみたいな、くしゃくしゃの笑顔で聞かれる
ば、ばれとったと!?

「厨房、あーしが片付けといたから、もう早く寝ーね?
 れいなが倒れたら、厨房回す人おらんがし」
「さゆじゃ、営業停止が積の山っちゃもんね」




ごろりとロフトに寝そべりながら、
天窓かられいなを見下ろす、星達を睨む


指先で星をなぞって、みんなの顔を思い返す

一人も欠けたらいけん。
その為に、
力でも
料理でも
努力は惜しまんつもり


仲間とか、絆とか。
寒い、言葉だけのもんやって思ってた。
それなのに、今こんなにも心地良い
これを伝えたくて、昔の人はこういう単語を作ったんやろうね


自分の心にメラメラと揺らめく熱い気持ちを
もう少し感じていたかったのに、
れいなの疲れは、それを許さなかった

視界が歪む、それが合図。
もし叶うなら、夢の世界でも…




















最終更新:2012年11月24日 13:51