(08)913 『Air on G - 2. Precious Memories-』

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彼女は確かにそう言った。
「バイバイ、またね、、、。」



何を考えているのかよくわからないというのが後藤のもっぱらの評判であった。
基本的にマイペースであり、気分屋。
重要な作戦会議でも気が付くと爆睡中などざらである。
笑わん姫の異名を取ったこともあり、よく他の先輩が笑わせようとやっきになっていた。
もっともこれは決して笑わない訳ではなく、笑いのツボが著しくずれていたためだったようであるが。

また、精神感応に対する障壁のようなものを持っており、よほどの能力者でも彼女の心は
容易には読めなかった。しかもそれは特に防御の能力を使っているからでもなく、
本人によれば無意識にやっていたのだそうだ。
そうした上に人見知りも強く、初対面の人間とはなかなか打ち解けなかったから、
周囲からは捉え所のない人物として一歩引いて扱われていたのも事実であった。
実行部隊の『M。』はともかく母体組織の『アサ=ヤン』には非能力者の職員も多かったから、
勿論そうした連中も世間のように能力者を差別することはなかったが、
どこか畏敬の念を抱いていたのは確かなようである。

基本的に謎に包まれたような彼女のプロフィールであったが、弟がいるらしいというのは聞いていた。
『M。』とは別の部隊にいたが、そこの上司と対立してそのまま姿を消したという噂も。
そして、その話を聞いた後藤の様子。彼女が落ち込んでいるところを見たのは後にも先にもその時だけである。
「れいなわかる気がする。どんなバカでも弟は弟っちゃけねぇ。」
「そうなん?」
「うん。れいなにも、血は繋がってないけど一緒の孤児院で育ったのは兄弟みたいなもんやけん、
生意気だけど可愛い弟とか、喧嘩を教えてくれたおねーちゃんとか、大人は信用できんかったけど
あの子らのためだったら何でも出来るって思っとったけん。」
「ほうやねぇ。あーしも分かる気はするわ。」
「愛ちゃん?」
「あーしもほら、8人も血の繋がらない妹がおるから。
ま、一番上と一番下の妹はあーしよりよっぽどしっかりしとるけど。」
「ははっ。」
「でもそれはあの人も同じだったと思う、、。」

実際彼女はそんな性格ながら、後輩に対しても面倒見はよかったのである。


「あれは、あたしとあさ美ちゃんが初めて先鋒を任された時やった-。」
愛は記憶をたぐり寄せる。

「それまではほんとに下っ端だったで、先輩がサポートしてくれるとはいえ
あんまり不安で仕方なくて、2人で思わず訓練中に逃げだそうとしかけた事があったんよ。」
「ぇえーそれまずくない?」
「まぁ逃げ出すっていうか、もう出来ませんってね。
先輩方の中にははっきり落胆する人もおった。」
「そりゃそうやろ。」
「そんな中、あの人だけはあーしらにちゃんと向かってね、しっかりしろアンタ達なら出来る。
決して優しい言い方やなかったけど期待に応えなきゃって思った。やる前から逃げてどうするって。」
「ふーん、、。」

後藤の能力はオールマイティで、どちらかというと攻撃系の能力が優れていたが、
それ以外の能力も決して低いレベルではなかった。
特徴的だったのは彼女は直感力に優れている事である。
「野生の勘、ていうのかな。そういう意味じゃれいなに似てるかも。」
「あたしに?」
「うんそう。戦い方とかもなんとなく、だし。あとアンプリファイアの能力もあったみたい。
ま、れいなに比べれば全然だけど。
そういえばあの人のパーソナルカラーも青だったしね。」

誕生石の色なのだと、そう彼女は言っていた。
「9月だからサファイア。あ、でも愛ちゃんもそうだっけ。
でもアタシの方が先だったから仕方ないね。ゴメンね。」
「ええですよそんな、、。」
「あ、んじゃ、もしアタシが抜けることがあったり、例えば今度の作戦でやられちゃったりしたら、
その時は愛ちゃんに譲るから。」
「何言ってるんですか!やめてくださいそんなの!」
「例えばだよ、例えば。」
「例えばだって嫌です!そんな、いなくなるなんて、、。」
「ゴメンゴメン、あぁもういちいち泣かないのこの子はー。」




あくまで例え話だと彼女は笑った。
例え話だと思っていた。この時はまだ。




作戦名「DO IT NOW」。
初めて愛が本格的に戦闘に参加するその作戦は、多方面連携してここで一気に敵を殲滅するものであった。
敵本陣に向かう先鋒に愛とあさ美、サポートに後藤と安倍。
他のメンバーはやはり数人ずつで敵の各拠点をそれぞれ向かう。
作戦は徹底的に練られ、穴がないか何度も慎重に検証された。
そして、いよいよ決行の日を迎える。

(おかしい、手応えがなさ過ぎる。)
敵のアジトに辿り着いたものの、愛は違和感を感じていた。
「ちょっとあっけなさ過ぎるよね。」
違和感を感じていたのはあさ美も同じだったようである。
「うん。見てみぃ。さっきから下っぱしかおらん。」

偵察部隊からの報告によればここが本部で間違いないはずだ。
なのにさっきから現れるのはまるで顔に下っぱだの二束三文だの書いてあるかのような下級戦闘員のみ。
何か重要な見落としがあるんじゃないかと言う想いが頭を掠めたその時-。
「愛ちゃん、あれ、、。」

そこは明らかにここの中枢と見られる空間。
だが人のいる気配は全くなく、代わりにそこにあったものは、
「あれは、ライトンR30!アサ=ヤン研究室で開発していた筈の新型爆弾が、なんでここに、、。」
あさ美が驚くのも無理はない。
自分達の組織内部で研究中、当然最重要機密だったものがここで稼働しているからである。
しかも、研究中だった筈なのにそこにあるのは完成形である。一体何が、、、。

突然鳴り響く警報に思考は遮られる。
背後の入口にはシャッターが下り、その禍々しい物体に取り付けられたパネルに表示された数字は、刻一刻と少なくなっていく。
「まさか!」
「うん、時限爆弾だと思う、、。」


「はよ逃げな!」
「待って、逃げても無駄。これがほんとにあの爆弾なら、これが爆発したら周辺10kmには影響が、、。」
「えええぇ、どどどうしよ!そんなんが爆発したら、、。」
「落ち着いて。研究室にはあたしも出入りしてたから多少は分かってる。多分解除出来ると思う。」
ただし間に合えばの話。表示された時間はあと3分を切っている。

解除作業に集中するあさ美を見守りながら愛は考えていた。
誰がどう見てもこれは罠である。自分達をおびき寄せて一掃するための。
だが今回の作戦の決行タイミングは自分達ですら直前に教えられたのである。
加えてこの新型爆弾。どう考えても組織に内通者がいるに違いなかった。
一人か、もしくは複数、、。

そうこうしているうちにカウントは既に1分を切っている。
もし解除が間に合わないのであればそろそろ逃げなければいけない。
自分だけなら10km以上先までテレポートすればよい。だが、それではあさ美は助からない。

とはいえ迷うことはなかった。
あさ美なら必ずやってくれる。
普段はおっとりしているように見えるがここ一番という時にはやることはやると、そう信じていたから。

ようやく解除作業を終えた時は、カウントは既に「002」を表示していた。
「ふぅ。危機一髪やったね。」
ほっとしたその時、再び警報が鳴り響く。

壁のモニターらしき画面に流れる文字を読むあさ美。
「愛ちゃん。この基地崩壊するって。」
「ええぇやべーじゃん!」


入口のシャッターをあさ美の正拳突きで破り、2人は命からがら逃げ出した。
ほどなく敵のアジトは地響きを立てて崩れ落ちた。

「愛ちゃん。」「うん」

自分達が罠に掛けられたと言うことは、他のメンバー達の身も危うい。
2人は早速各方面に飛んだメンバーと連絡を取った。だが、、。

通信機は軽いノイズが入るだけで何も応答しない。
とはいえもとよりこの状況で通常の通信など当てにしていない。意識のアンテナを広げて呼びかける。

(-誰か、答えて誰か-)

しかし、何度呼びかけても誰からも応答は帰って来なかった。
そういえばすぐそばでバックアップに付いているはずの安倍と後藤の姿もない。
諦めかけたその時、2人の頭にかすかな意識が飛び込んできた。

『-誰、、こちら本、、、後、、が、、』

「先に行って!愛ちゃん!あたしもすぐ追いかける。」
「おう!」
本部に何かあったと直感した愛は瞬時に光に姿を変える。
敵の狙いはこれだったのか。自分達をおびき寄せて手薄になった本部を叩く寸法。
基本と言えばあまりに基本過ぎる作戦だが、仮にもアサ=ヤン本部である。
M。が出払っているとはいえ能力者の一人や二人は迎え撃つ体制は整っているはず。
なのに、愛の胸騒ぎは止まらない。それは、愛の後を追うあさ美も同じであった。


本部に着いた愛が見たものはあたり一面の火の海。
生きているのか死んでいるのかそこここに倒れている本部達。
「あたしが敵なら狙うのは-」
愛は真っ直ぐに中央指令室に向かった。

「大丈夫!しっかり!一体何があったの!」
まだ僅かに意識のあるらしい隊員を見つけ、特に致命傷は無いことを確認して揺り起こす。
「ご、後藤が、、」「後藤さん!?」
後藤に何があったのか。そう問い質そうとした時、愛は視線を感じて頭を上げた。

大きな穴が空いた天井から見える満月。
外に燃えさかる炎に照らされて自分を見下ろす無表情な、しかしよく見知った顔。
身に纏ったオーラは微かに青く光り、背後にまるで蝙蝠の翼の様に形を取る。
まるでマンガに出てくる悪魔、いやあれは-。



「後藤さん、、。」


そこに立っていたのは紛れもない後藤真希、その人であった。



炎に照らされた姿に一瞬見入ってしまった愛は、しかし後藤の脇に抱えられた身体に我に返る。
「安倍さん!」
しかし返事はない。安倍は意識を失っているようだ。
いつもよりも増して冷たい視線を投げ、彼女の口が開く。
「-やっぱりあんたが来たんだね。」
「なんで、これどういう事ですか!」
「ハッ」鼻で笑う。治らない癖なのだと言っていた。
「見てわかんないかな。そう、アタシがやったの。」
「・・・!」
「ダークネスへの手みやげっていうかね。これくらいはしていかないとね。」
「これも!この火も倒れてるみんなも全部!」
「そうだよ。じゃあね。アタシは行くよ。」
「どうして!一緒に戦ってきたじゃないですか!これからも一緒にって、、!」
「あぁーもう!」
半泣きで非難する愛に苛ついたように吐き捨てる。
「そういうのウザイから。飽きた。だからもう正義の味方ごっこはおしまい。」
気を失ったままの安倍を抱えて消え去ろうとする後藤に向かって叫ぶ。
「安倍さんを離せ!」
「そうはいかないよ。なっちは連れて行く。」
「させるか!」
咄嗟に能力を使うのも忘れ、思わず飛びかかる。
しかし能力戦ならともかく体術は圧倒的に後藤の方が上だ。
素早く背後に回り込まれ、当て身と念動力による衝撃波を至近距離からモロに喰らって、愛はそのままその場に崩れ落ちた。


薄れゆく意識の中、彼女は確かにそう言った。
「バイバイ、またね愛ちゃん。-いや、、、i914。」



忌まわしい記憶と共に封印した筈の名前。
アサ=ヤンの誰にも話したことのないその名を呼ばれたことで、愛は理解した。
後藤は闇に堕ちたのではない。
単に元来た場所へ帰っただけの事なのだ。-




















最終更新:2012年11月24日 14:12