(11)085 『Air on G - 3. moments-』

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「アタシもアンタと同じだからさ。
教えてあげるよ、アタシの名前。」




やっと追い付いたあさ美によって意識を取り戻した時には既に後藤の姿はなく、
辺りはつい先刻までアサ=ヤン本部と呼ばれていた残骸だけが一面に拡がっていた。

拠点を失った組織はやがて崩壊するしかない。
安倍を連れて後藤が姿を消し、他のメンバーも連絡が取れず生死不明のまま。
後藤はさすがに非能力者の生命を奪うことまではしなかったようだが、とはいえ多くの者が
戦闘不能であり、ほとんどはそのまま戦意を喪失して組織を去っていった。
あさ美もこの哀しみをなくすための方法を探すと言って旅立った。

やがて愛が再び戦う事を決意し、敵の能力者によって猫に姿を変えられたM。の指令との再会、
れいな達との出逢いを経てリゾナンターとして復活を遂げ、そしてあさ美の裏切りを知るのは、
それからさら数年の時間を必要としたのである。


「さ、そろそろ帰らないとガキさん来るって言ってたし。」
「…待たせたらまたお説教2時間コースやね。」
気が付けば外はすっかり暗くなっていた。

れいなは今聞いた話に正直なところ軽くショックを受けてはいた。
が、それ以上にその決して楽しくない、もしかしたら思い出すのも辛いかもしれない事を
自分に話してくれたことが嬉しく、それだけに話させてしまった事を少し後悔もしている。
そんなれいなを愛は気遣ってか、そこからの会話はもっぱら今の仲間と店の話題であった。

喫茶店を出て駅に着いたところで、急に愛が立ち止まって言った。
「いかん、さっきの店に忘れ物した。」
「えー?」
「ごめんれいな先帰ってて。」「いいよ探しに行くんならあたしも一緒に。」
「や、ガキさん来ちゃうといかんからさ。先帰って鍵開けといて。」
「もぉー、しょうがないなー。」
ふくれっつらをして改札口に向かうれいなを見送り、愛はさっき出てきた店へと走り出す。

が、すぐの角を曲がったところで足を止め、脇の路地に入って立ち止まった。
ふと見上げると空には満月がまるであの時のように赤味を帯びて光っている。

そのまま誰に向くともなく話しかける。
「で、何の用ですか。」
「やっぱり分かっちゃったか。さすがだね。」

背後の闇の中から一人の女が姿を現した。
振り返った愛の前に月明かりが女の顔を照らす。

「―――ずいぶんお久しぶりですね。後藤さん。」



あの時のように月光を受けてそこに立っているのは、かつて愛が先輩として慕い、
そして敵として袂を分かった後藤真希。

「何しに来たんですか。」
語気を強めて問いかける。
「久しぶりだってのに冷たいねぇこの子は。」
「――白々しい。」
数年の溝も敵対した事実もまるでなかったかのように話す後藤に愛は怒りを覚える。
この人のせいで、あたしらは、みんなは、、。
あさ美の裏切りも里沙の苦悩もなかった筈。そう思うと感情を抑える事は出来なかった。
「貴様が――!!」
瞬時に歩を詰め、至近距離から殴り掛かる。
もとより当たるはずもなくかわされる拳。先ほどまで立っていた場所には最早後藤はおらず、
「そこ!」
気配を背中で感じた愛は振り返らずに後ろ回し蹴りを放つ。
「やるねぇ。あの頃よりは腕を上げたかな。」
涼しげな顔をして後藤が言う。もちろん蹴りは当たらいない。
「お世辞なんか!」
体術では所詮敵わないと理解して無数の光の矢を放つ。
これなら当たるか、そう期待した瞬間しかし後藤は衝撃波を放って地面を砕き、
巻き上がった土煙とアスファルトの破片で光は霧消する。

当然のようにここまでも愛は後藤の思考を読みながら戦っている。
しかし相変わらず思考は読めない。
否、これだけの動きを何も考えずに天性の勘だけでやるのが彼女の恐ろしさである。
後藤はさらに自分にもぶつかりかねない破片を避けるべく跳び、そして――――。



「危ないなぁ。こんな狭いところで。」
背中には仄青く光る蝙蝠の翼。
あの時は象っているだけだったオーラが今でははっきりと視覚化されていた。
その翼を広げ、宙に「――浮いてる?」
「何を驚くことがあるかな。念動力で自分の身体持ち上げればいいだけじゃん。」
事も無げに言う――、と愛は思った。
ジュンジュンほどの力があればいざ知らず、自分の力では一瞬でも浮ければいい方。
それすらおそらくかなりの体力と精神力を消耗する。
それを涼しい顔をしてやってのける後藤に改めて驚愕した。

一瞬の沈黙の後、やがて先に後藤が口を開いた。

「さっきの子、田中ちゃんって言ったっけ?」
「!?」
しまった。
と愛は思った。もしかすると一人で帰したのは失敗だったかもしれない。
自分達を分断して個別に倒す作戦だとしたら、、。

「あ、別に今どうこうしようってんじゃないから安心して。」
咄嗟に曇った表情を読んだかのごとく彼女は言う。
「アタシ以外に気配がないのはわかってるっしょ。
第一ウチの戦闘員程度じゃあっという間にやられて終わりだしね。」
仮にも味方に対する評価がそれなのかと思うくらい軽く言い放つ。



「やーほら、あの田中博士の娘だって言うじゃない。どんな子か興味があってね。」「!!」
それに、、、と言いかけてやめたのは既に愛の耳には入っていない。
「───どうしてそれを、、。」
「紺ちゃん、じゃないやDr.マルシェに聞いたよ。」「!!」
あさ美、─今の名前はDr.マルシェ─はその事は組織に報告していないはず。
いやむしろ報告していたらマルシェの研究自体が組織から反逆と取られ消去されかねない。
愛の表情が一瞬曇ったのに気付いたのか後藤はいつもの笑みを浮かべる。
「ははっ。変な関係だね。敵なのに心配してるって。」
「そんなんじゃ、、。」
「安心しなよ。別に組織の連中にはわざわざ言うつもりはないし。
それにあの子の研究自体、能力の消去とかはあたしにはどうでもいい。
他の能力者がどうなろうと知ったこっちゃないからさ。あぁ、でも、、」
ふと独り言のように呟く。

「そうなって強い奴がいなくなると、ちょっと困るな。」
「どういう事ですか。」
「敵に対して敬語?相変わらず真面目だね。」
「茶化さんで!」
「はっ。いやさ、せっかくこうやって強い相手と戦えるんだもの。
そう簡単にいなくなっちゃったら勿体ないじゃん。」
「そんな事!それじゃ、、。」
「そうだよ。そのためにあたしはこっちに来たんだ。」
「そのためって、、そんな事のためにあの時───!!」
怒りと共に放った光の矢を自身の念動波で打ち消し、静かな声で後藤は語る。

「戦う事、あたしはそのために生きてる。何故なら、、。」

『戦うために生きる』その言葉にふとおぼろげな記憶とともに背筋に嫌な感触が走り、
愛は距離を保ったまま攻撃を止める。

「アタシもアンタと同じだからさ。愛ちゃん、いや、i914、、。」「・・・」




「教えてあげるよ、アタシの名前。」「名前?」

今さら何を言い出すのか、訝る愛を見据え、後藤の口がゆっくりと動く。




「―――g923。それがアタシの本当の名前。」

「まさか!!」
「そう。アンタの2つ前のタイプの実験体23番目。それがアタシ。」




















最終更新:2012年11月24日 15:57