(11)118 『蒼の共鳴-綻んでいく絆 前編1-』

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ジュンジュンとリンリンが意識不明の重傷を負わされた事件から3日経った。
さゆみの治癒能力のおかげで、傷自体は塞がったものの。
ジュンジュンとリンリンの意識は戻らない。

手が空いた人間が交代して様子を見に行くから、2人はいつもの通りリゾナントを通常営業してて。
そう言った里沙の瞳の鋭さに、愛もれいなも何も言えなかった。
里沙が怒ったところを見たことがないわけではない。
だが、今の里沙の怒りようは今までにない感じであった。

愛とれいなはいつも通り、リゾナントの営業を続ける。
合間合間に他の皆が来ては様子を知らせてくれるのだが、未だに意識の戻らない2人を思うと
普通に仕事をしながらでも胸がキリキリと痛んだ。

―――それでも、時間は流れていく。



閉店間際のリゾナントに、里沙が現れた。
里沙の顔色が優れないところを見て、今日も2人の意識は戻らなかったのかとれいなは思う。
案の定、今日も意識が戻らなかったと言う里沙の瞳は翳っていた。

そんな里沙に、愛はそっとコーヒーの入ったカップを差し出す。
お客さんがいないリゾナントはとても静かで、何故か気分が暗くなってくる。
各テーブルを拭いて回りながら、れいなは愛と里沙の会話に聞き耳を立てた。


「肉体的なダメージはもう完全回復してる、だけど…
未だに意識が戻らないのは精神にも大きなダメージを負っている可能性が高いの。
自然に起きるまで待つっていうのも考えたけど、いつまた襲撃があるか分からない状態で
2人も戦闘系能力者が戦線離脱してるのはキツいから、今度私が意識に潜り込んで
呼び起こせないか試してくる」

「確かに今の状態で何かあったらかなりキツいわ。
だけど、そんなことが可能なの?」

「起こすことは出来ると思ってるけど。ただ、正直…精神のケアまでは
あたしの能力じゃ出来ない。起こした後は、皆で何とかするしかないかな」

「うん…頑張ろう、里沙ちゃん。
れいなも、ね」



テーブルを拭く手が止まっていたことに気付いていた愛は、れいなに話を振る。
頷きながら、愛には敵わないなとれいなは苦笑いした。
再度、テーブルを拭き始めるれいな。

また店内は静かになった。
だが、その沈黙はもうれいなの気分を落ち込ませるようなものではない。
戻らない2人の意識は、里沙が何とかして呼び戻してくれる。
それが分かった以上、落ち込む必要はもうないのだ。

二十歳になったというのに、バナナの1本で小春と喧嘩寸前になるジュンジュン。
だけど、ジュンジュンは優しい心の持ち主であることをれいなは知っている。
頼まれた物の買い出しに行って、荷物が多すぎて1人じゃ持って帰るのが辛かった時。

れいなのこれ、1人で持って帰るとかキツいとと言う心の声が聞こえたのか。
颯爽と現れたジュンジュンが、荷物を半分持ってくれたのだ。
ありがとうと言ったれいなに、リゾナントに行くついでだから気にしないでいいですよと
言って微笑んでくれたジュンジュン。


お笑い芸人の真似をしたりして、皆をいつも笑わせてくれるリンリン。
似ていない物真似もあったりするけど、それでも何だか笑ってしまうのは。
リンリンの気遣いが胸を温かくしてくれるからだと、れいなは思っている。

以前、些細なことから場の空気が悪くなってしまったことがあった。
誰も何も言えない状況の中、リンリンは突如エアーロデオを披露する。
突然のことに皆固まったものの、その動きの愉快さに皆一斉に吹き出した。
動きの愉快さもだが、それ以上にリンリンの気遣いが暗い空気を払拭してくれた。

2人とも、とても優しい心の持ち主で。
その2人を激しく傷つけたダークネスに対して、今まで以上に怒りがこみ上げる。
もし、自分がダークネスの襲撃にあったら。

―――その時は、ただでは済まさない。

拳をキツく握りしめ、れいなは虚空を睨み付ける。


「あ、電話だ…。じゃ、愛ちゃん、そういうことで。
田中っち、あんま思い詰めると空回りしちゃうから気をつけてね」


そう言って、里沙はバッグを手に取って店を出て行く。
里沙の言葉に苦笑しながら、れいなは里沙のいたカウンター席へ歩み寄り後片付けを始めようとした。
―――れいなの視界に入ってきたのは、シンプルな鍵。
手にとって、れいなは愛に声をかける。

「愛ちゃん、これ、ガキさんが忘れていったと」

「何の鍵やろ。…家の鍵だったりすると里沙ちゃん大変やね。
れいな、悪いけど里沙ちゃん追いかけて渡してきてくれる?」


その言葉に頷いて、れいなは駆け足で店を飛び出していく。
里沙の家はリゾナントからかなり離れているので、里沙はリゾナントへの行き帰りはタクシーを利用しているのだ。
早く捕まえないと、里沙は鍵を忘れたことに気付かずにタクシーで帰ってしまう。


ダッシュでタクシーが捕まえられる大通りへと向かうれいな。
程なく里沙の後ろ姿が見えて、声をかけようと思ったが。
里沙は立ち止まって、誰かと携帯で話をしているようだ。

電話が終わってから声をかけようと、れいなは里沙から5メートルくらい離れたところに立つ。
すぐに会話が終わってくれるといいけど、と思いながられいなは手持ちぶさたに辺りを見回した。


「…それがあなたの仕事だとは分かっています、ですが、今回のはやり過ぎです。
あそこまでやらなくても、あなたの仕事は充分完遂できるでしょう?」


風に乗って聞こえてきた里沙の声に、れいなの思考が一瞬固まる。
何だ、里沙は何を言っているというのだ?
仕事の話にしては、里沙の怒りようは尋常ではない。


「次の調査をいつ行うつもりか知りませんが、次はやり過ぎないようにしてください。
お願いします。では、また」


携帯を切る仕草が見えて、れいなの思考は再び動き出す。
とりあえず、電話が終わったみたいだから声をかけないと。
そう思うのに、なかなか声をかけれないのは。

―――里沙から放たれる、怒りの雰囲気。


視線を感じたのか、里沙はれいなの方を振り返る。
れいなを見て、里沙の顔から鋭さが消えた。
いつもの里沙の顔に、れいなはようやく里沙に声をかける。


「ガキさん、これ忘れていったとー。
家の鍵とかだと、ガキさん困るっちゃろ?」

「ありがと、田中っち。
 …電話終わるまで待っててくれたんだよね、ごめんね」

「気にしなくてよかと。それより、ガキさんこそ大丈夫?
何かすごい怒ってたけど」

「あぁ、ちょっと仕事のことでね。
それよか、田中っち、早く帰らないと愛ちゃん心配するよ」


里沙の言葉に、れいなは里沙に鍵を手渡す。
鍵を受け取った里沙は、じゃ、おやすみと言って大通りの方へと歩き出した。

その後ろ姿を見ながら、れいなは心が震えないように歯を食いしばる。
あの会話は絶対、仕事の会話なんかじゃない。
ものすごく嫌な予感がする。

里沙が立ち去った後も、れいなはその場に立ちつくす。
この嫌な予感が裏切られればいいのにと願うれいなの心の声は、誰にも届かない。


―――少しずつ皆で築き上げてきた絆は、確実に綻び始めていた。




















最終更新:2012年11月24日 16:00