(11)677 名無し募集中。。。 (夏の蜃気楼)

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「遅っ!いつになったら絵里は来ると?」」
「だから絵里と待ち合わせするときは予定より30分早く伝えないとダメって言ったのに」
「その話今聞いたんだけど」
「まぁまぁ。それより多分あと30分は来ないからどっかでお茶でもしない?
絵里にはあとでお昼ご飯でも奢らせればいいよ」
「さゆって何気に・・・・・」
「ん?」
「なんでもなか。そやね、暑いしどっかで涼もうか」



いつまでも暑い路上に居たくなかったのでさゆの提案に乗って私達は近くのコーヒー
ショップに入ることにした。
自分はアイスカフェモカ、さゆはアイスハニーミルクラテを頼んで席を探す。
そしてたまたま窓側の席が空いていたのでそこに座ると、暑さに顔を顰める人々を
尻目に私達は冷たい飲み物で喉を潤した。


そしてたわいもない話をしながら時間を潰しているとさゆが突然「絵里にメールしないと」
と言って慌ててカバンから携帯を取り出す。
さゆがメールを打ち出したので私は手持ち無沙汰になってしまいぼんやりと外を眺める
ことにした。



そのとき交差点の付近にあるコンビニでタバコを吸っている女の人を見つけた。




私はその人の姿を確認したくてつい見入ってしまう、でも不意に我に返ってさゆの方を
見ると少し悲しそうな瞳と目が合った。
絵里にメールし終えたのかその手に携帯はなかった。


さゆはさっきまで私が視線を向けていた人を横目で軽く見てからわざとらしく
溜め息を吐き出すと暢気な声で言った。
「藤本さんじゃなかったね」
「べ、別にそういうわけじゃなかと」
「藤本さんの吸ってたタバコって何だったっけ?」
「マルボロのメンソール」
「まだ覚えてるんだ」
「そ、それはよくパシリに行かれとったから・・・・・」
私は決まりが悪くなって言葉が途切れると同時にさゆから少しだけ顔を逸らした。





初めは正直ちょっと怖かった。
基本的に腕を組んで仏頂面だし話し掛けても素っ気ない答えしか返ってこない人だった。
だから当時新人だった絵里とさゆと共に藤本さんにはいつも一歩引いた態度で接していた。
でも戦闘でも全く物怖じしない性格と高い実力を目の当たりにしたとき、私の感情は一変して憧れの人になった。



そして藤本さんがタバコを吸うと知ったのは一緒に活動するようになって少し経った頃のことだった。
みんなといるときは吸わないからベランダで一人タバコを吹かしている姿を見たときは
いけないものを見てしまったような気分だった。
見られた藤本さんも少し気まずそうで共犯にする気だったのかタバコを勧められた。
勿論その場は断ったけれどその代わりまたここに来ていいかと聞くと、藤本さんはちょっと
面食らった顔してからすぐに笑った。
そして「匂いがついても構わないなら別にいいよ」とタバコを銜えながら言った。



密かに藤本さんには憧れていたから親しくなれる機会があればと思っていた。
だから本当はみんな知っているのかもしれないけど、タバコを吸っているという
二人だけの秘密を共有できて嬉しかった。





「買って来ましたよ、マルメン」
「ん、あんがと。っていうかいつの間にタバコの銘柄覚えたの?」
「こんだけ買いに行かされてたら嫌でも覚えますよ」
「それもそっか」
「っていうか自分で行ってくださいよ、お店の目の前に自販機があるんですから」
「ヤダ。面倒臭いもん」
藤本さんは苦笑いしながら私からタバコを受け取るとパッケージを破いて箱の底を軽く叩く。
そして器用に一本だけ取り出すとそれを口に挟みながらライターを取り出して一服する。



藤本さんは夜風に靡く髪を軽く押さえながらベランダのフェンスに寄り掛かると少しだけ目を細めて遠くのネオンを見つめていた。
「あまり吸いすぎると健康に良くないですよ?」
「いいよ、別にそんな長く生きる気ないし」
「早死にしてもいいんですか?」
「うん。ダラダラ醜く老いるなら若くて綺麗なまま死にたいね」
藤本さんは軽く鼻で笑ってから自信満々にそう言った、それから携帯灰皿を取り出して
タバコの灰を落とす。
私はそういう根拠のない自信に溢れている時の藤本さんが一番好きだった。





当時私と絵里とさゆの3人は藤本さんと組まされることが多かった。
けれど藤本さんはいつも一緒に行動してくれなくて、私達がピンチになるとたまに顔を出して
助けてくれる。
とはいっても本当にたまになので3人ともあまり期待していなかった。
でもあのときは心の底から助けてほしかった。







その日の戦闘はまず初っ端で絵里が発作を起こして突然倒れてしまったので、まずさゆが
付っきりで回復に回る。
その時点で敵とは私が一人で戦う羽目になった。
でもさゆ達を庇うのが精一杯で攻撃できる状態じゃなかったし、それに一人だけなのに
思ったより強くて完全に劣勢を強いられていた。
絵里が回復してくれたら少しは勝機が上がりそうなものだけど青白い顔を見る限り
無理な願いだった。



「かはっ!」
腹に強烈な一撃を食らい私は吹っ飛ばされて数メートル地面を転がる。


「れいな!」
さゆの悲痛な声が聞こえてきて何とか答えてあげたかったけれど立ち上がることすら
もうできなかった。





そして段々と足音が近づいてくるのが分かってこれで最後かと諦めた瞬間、あの人の声がどこからか聞こえた。
「おっ、何か大変なことになってんじゃん」
とその声は完全に他人事で場違いなくらい呑気なものだった。
これが俗に言う走馬灯かと思ったけど腹を軽く靴で小突かれたのでこれが残酷な現実
だということが理解できた。

何とか声のした方に顔を向けるとタバコを銜えた藤本さんが私の横に立っている。
「こんな雑魚すぐ片付けろよ」
「だって・・一人じゃ・・・・絵里も・・倒れ・・とったし」
「仲間に頼ってたら自滅するよ?実際こうやって一人になったときどうすんの」
「・・・・・」
「まぁいいや。全く、さっき火つけたばっかりなんですけど」
すぐ答えられなかった私に痺れを切らしたのか藤本さんは頭を掻きながらゆっくりと
敵に向かっていく。


そして襲い掛かってくる敵の攻撃を軽く体を捻るだけであっさりとかわすと、
「うぜぇんだよ、カス」
藤本さんは鼻を鳴らしてそう言うと口に銜えていたタバコを投げ捨ててから
回し蹴りを放つ。


さっきの私と同じように敵は吹っ飛ばされて地面に転がる、その様子に頭を掻きながら
つまらなそうに見つめていた。
それから藤本さんは指を鳴らすと地面から鋭い氷柱が何本現れて敵の体を貫いて持ち上げる。
敵は悲鳴のような甲高い声を上げながらもがき苦しんでいた、でもすぐに動かなくなり
脱力したように手足が下に垂れる。




「さてと・・・・重さん、亀井は大丈夫そう?」
「このまま続けていればもう少しで落ち着いてくると思いますよ」
「ならそのまま頼むね。こいつは私が負ぶって喫茶店まで運んでいくからさ」
「はい」
さゆに指示を出すと藤本さんは私を強引に立ち上がらせると軽々と背負って歩き出す。



夕陽に照らされた藤本さんの背中は小さいのに大きく見えた。
「れいな・・・・強くなれよ。それで重さんや亀井やみんなを助けてあげなよ」
そのときどんな表情で藤本さんが言ったのかは分からないけれどいつになく真剣な声だった。


その言葉に胸が熱くなって私は少し泣きそうになる。
「はい!」
でも奥歯を噛み締めて何とか堪えると私は力強く頷いた。
そして最近少しは近づけたと思っていたけど、やっぱり藤本さんにはまだまだ
追いついてないなと思った。





さゆは優しく微笑むとこちらの顔色を軽く窺いながら言い及ぶ。
「れいなは藤本さんのこと嫌い?」
「・・・・正直分からん」
「・・・・そっか。でもさ、藤本さんに教えてもらったことは間違ってないと思う」
「えっ?」
「そう思わない?藤本さんが教えてくれたこと今でもたまに思い出すもん、さゆみ。」
「うん・・・・れなも時々思い出すと。」
さゆがあまりに普通な顔して平然と言うから釣られたように口から言葉が出た。
でもそれは多分私の本心だと思う。


何気なく窓の外を見るとタバコを吸っていた女の人はいなくなっていた。



「ごめーん!遅くなっちゃった」
突然後ろから聞き慣れた声がしたので振り返るとちゃっかり飲み物を手にした絵里が
笑いながら立っていた。
その顔には反省の色はなく悪びれた様子もない。


私とさゆは顔を見合わせると何も言わなくても互いの言いたいことが分かったので
頷いてそれに答えた。
「行こうか、れいな。」
「そうだね、ウチらはちょうど飲み終わったところだし。」
「まだ絵里は飲んでないんですけどぉ」
「歩きながら飲めばええやん」
「そうそう」
「もうっ、2人ともひどい!」
私達は椅子から立ち上がると抗議している絵里を後目に店を出た。




















最終更新:2012年11月24日 16:35