(01)434 名無し募集中。。。 (全てはあの人のために)

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病院から出ると既に外は暗くなっていた。
玄関口にいたタクシーに乗り込み、行き先を告げる。

夜の街を、車は滑るように走っていく。
ふと窓から外を見上げると、空に小さく月が輝いていた。
見るとも無く眺めていると、不意にそこに先ほどのさゆみの、友を想う真摯な眼差しが重なった。
そして苦しみに引き歪みつつ愛佳を案じる、絵里の眼差しも。

今自分がしようとしているのは、さゆみと絵里を、ひいてはリゾナンダー全員を破滅へと導く、
酷い裏切り行為だ。
……何も気に病むことはない、自分はそもそもそのためにリゾナンダーに入ったのだから。
そう思い定めても、これで良かったのかという胸を締め付けるような疑念は一向に去らない。
もう事は動き出した。それなのに何故自分はこんなにも迷っているのだろう。

押し殺すようにため息をつき、里沙は車窓にもたれかかった。
その脳裏にもう一つ浮かぶのは、リーダーの――愛の眼差し。
メンバー達が全幅の信頼を寄せる強きリーダーが、自分と二人だけの時にはふと優しく、
そしてどこかか弱げな眼差しを見せる。
里沙ちゃん、とこれもまた二人だけの時のみ使う呼びかけの声、
そしてメンバーとして最も長いあいだ一緒にいる自分にだけ見せる、儚い笑顔――

駄目だ、とブンブンと頭を振り、それらを脳内から追い払う。
そうしてつと携帯を取り出し、暗証番号を入れて或る写真を表示させた。
他の人間には絶対見せてはならない、あの人の写真を。


その顔を見ればたちまち、里沙の口許に笑みがこぼれる。
そうだ、私はこの人のために戦っているんだ。
組織もボスも、もはや自分には関係ない。
リゾナンダーに潜入したのもあの人の命令。
あの人のためなら私はどんな危ない橋でも渡るし、どんな汚いことにだって手を染めてみせる。
迷うな。全てはあの人の為なのだから。
私の命は、あの人のためにあるのだから。

携帯を閉じ、そっと胸に抱き寄せる。
目を閉じてもまぶたに浮かぶその面影に向かって里沙はそっと、その人の名を呼んだ。
運転手に聞こえないように小さく、ほとんど聞き取れないような声で。
「安倍さん」と。























最終更新:2012年12月17日 11:18