(11)801 『Air on G - 4. fragile-』

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彼女が本来ダークネスの人間だというのはあの時に分かっていたつもりだった。
しかし改めて本人から、しかも自分と同じだと聞かされると衝撃は隠せなかった。

「それじゃ、やっぱり始めから─。」
「別にスパイってんじゃないけどさ。」「じゃあどうして!」
「んー、アンタがいたから、かな。」
「───あたしが?」
「この際だ教えてあげるよ。アタシがどうしてあそこにいて、今ここにいるか。」

かつて後藤真希と呼ばれた女、g923はゆっくり語り始めた。



それまでの無数の実験体の中でg923は抜群の成績を上げていた。
強力なサイコキネシスと、微弱ではあるがアンプリファイアの能力を持ち、精神干渉にも
強い防御力を持つ。加えて生身の身体能力も高く、下級戦闘員程度なら能力を使わずとも
充分倒せる。
これならば至高王─high-king─、すべての能力者を統べる存在にもなり得ると期待された。

しかし、彼女を持って研究が終了すると言うことはなかった。
「ムラがあり過ぎるんだってさ。」

確かに『M。』においてもそれが後藤のもっぱらの評価だった。
実戦はまだしも訓練においてはモチベーションが目に見えて下がる。
多くの場合それがあからさまに成績に直結するので、「訓練では40点だが実戦は98点」と
よく訓練所の教官に言われていたのを愛は思い出した。

「あの頃は実戦でも気分次第だったからね。随分組織も手を焼いたってさ。
んで、そのうちにi914、アンタが出来て。聞いちゃったんだよね。」

能力者を育てる施設にしては不用心としか言いようがない。
それとももしかして意図的に聞かせるつもりだったのか、ともあれ研究員のその会話は
結果として筒抜けだった。

『i914。傑作じゃないか。』『これほどの能力なら至高王にも、、。』
『特性は違うがg923よりは使いやすい。』

『実験は終了だ。次の段階に移ろう。』

「分かるよね。つまりアタシはもう用済みってこと。」

用済みの実験体がどうなるか、覚えてはいないが容易に想像は付く。
「だからね、逃げたんだ。さすがに一人じゃしんどかったから他の子と協力して。」



母の手で逃がされた愛とは違って彼女は自分の力でそこから逃れた。
その分逃亡中の追っ手との戦いは壮絶を極めた事であろう。
もちろん正面から1対1で彼女に敵う者はほとんどいないが、それほど甘い組織ではない。
なんとか追っ手を振り切り、さらに何日もさまよって、ようやく街に辿り着いたg923と
もう一人の実験体、g927は、たまたま立ち寄った養護施設にそのまま身を寄せた。

「真希って名前はそこで付けて貰ったんだ。」
もう一人、弟ということにした彼は裕樹と名付けられた。
「でも、あんまりいい思い出はないな。院長先生は優しかったけど他の大人はロクなもんじゃ
なかったし、年上の連中からはよく生意気だって虐められた。まぁ。喧嘩になれば負けや
しなかったけどね。能力なんか使わなくても。」

いい思い出はない、と語りながらふと懐かしむような遠い目を見せた事に愛は気付いた。
今なら不意を付いて倒せるかもしれないと思いつつ、それは出来なかった。
あんなに尊敬していた先輩が敵として存在している理由を知りたい、それだけではなく
何かが引っかかると感じていた。

「ただ、下の子達にはなんでか懐かれてたから、それはまぁ悪い思い出じゃあないか。」

しばらくして2人はある夫婦に引き取られ、初めて名字が与えられた。
実の子のように可愛がって育てられた2人だが、やがて悲劇が訪れる。

「父さんがね。死んだの。」
趣味の山登りに行っての事故死という事だった。──表向きには。

「でも遺体を見てアタシにはわかった。あれは、組織の仕業。間違いない。」



その後成長した真希は密かに欠員補充のための能力者を探していた『M。』の指令に見出され、
M。の追加メンバーとしてアサ=ヤンに加入する。
程なくして弟の裕樹も別部署のメンバーとして加入した。

「居場所を見つけたような気がしたんだよね。父さんの敵も討てると思ったし。
それに、どうせいつかは粛清される筈。それならこっちから先にやってやるって思った。」

そこまで語って不意に愛を見据えて言う。

「来るのはアンタだと思ってたけど。」

当然の推測である。
最強クラスの戦闘能力を持つg923を倒すには、それと同等かそれ以上の能力を持つi914を
ぶつけるのがどう考えても正しい。
脱走の時にはまだi914は実戦に投入できる段階まで成長してなかった事が幸運であった。

「だからアンタがまさか後輩になってると知った時にはちょっと驚いたんだよ、これでも。」
「───いつ、分かったんですか。」
「最後の作戦の前。手合わせしたでしょ。あん時。」

忘れもしないアサ=ヤン壊滅に至った、作戦コードDIN。
確かにその実行1週間ほど前、実戦形式の訓練ということで、愛は後藤と仕合っていた。
そういえば後藤と訓練とはいえ実際に戦ったのは、あの時が最初で最後だった。

「それまでの話で組織から抜け出して来たんだってのは大体分かってたけど。」
場にそぐわぬ自嘲気味に見える微笑を浮かべながら続ける。
「まさかよりによってあのi914が来たとはね。」
「なんであたしだと──」「はっ。」聞き慣れた鼻で笑う声。
「最初は訓練のつもりだったけど段々実戦やってる気になって来てたさ。
アタシを本気にさせる程の力を持った奴なんてそうそういる訳がないじゃん。」


「だから裏切ったって言うんですか。」
怒りとも寂しさともつかない感情のこみ上がりを抑えて問い質す愛。
「あたしが、同じところに来たから──。」
「裏切ったのは違うな。帰ったんだよ。元居たところに。」
先程までとは違う、冷たい声で応える。
「ま、結構ダメージ与えて逃げ出した奴がすんなり戻れる程甘い組織じゃないからね。
本部壊滅くらいの手土産は必要だったってこと。」
「なんで!何で一緒に戦うんじゃだめだったんですか!」
「言ったろ?アタシは戦うために生まれたんだって。」
「だから!」
「アタシはね、強い奴と戦いたい。そのためなら光でも闇でも関係ない。それに───」
既に後藤真希だった時のまなざしはなく、冷たい眼でしっかりと見据え、そして告げる。
「アタシが一番戦いたいのは、やっぱりアンタだよ。i914。」
「そんな───」

言い終わるやいなや一気に距離を詰め、両手に鉤爪を持つ姿に変えての攻撃。
肉体同士の戦いでは愛はどうしても防戦一方になる。思考は相変わらず読めないが、
そもそもこのスピードでは例え読めたとしても既に攻撃を喰らった後だろう。
ひとまず距離を取り優位に立つため愛は相手の背後に瞬間移動する。
瞬間、虚空に放った後ろ回し蹴りがそこに現れた愛の鳩尾に命中した。

「ぐあっ!」

崩れ落ちる愛。
なんとか立ち上がろうとするが、まったくガード出来ない状態で受けた衝撃は、殊の外
大きかった。

「アタシの勘を舐めちゃいけないな。さて、話は終わり。立てないんなら死んで貰うよ。」

そう言って彼女はその巨大な鉤爪を振りかざした。



───ヒュン!

通りの入口方向から飛んできた物体はすかさずガードした腕に当たって砕け散った。
虚をつかれて一瞬怯んだ後藤に、さらに襲いかかる脚。

「でぇぇぇいやぁぁぁあああ!!」

渾身の力を込めたであろう跳び蹴りの衝撃に、敵は数10m先まで吹き飛ばされた。
跳び蹴りの主はそのまま着地して、まだ立ち上がれないでいる愛に駆け寄った。

「愛ちゃん!!」
「れいな!なんでここに!?」
「れいな帰ろうとして電車乗ったけん、なんか嫌な予感がして次の駅で引き返したと!
そしたら愛ちゃんの呼ぶ声が聞こえたけん、やけんれいなここに来よったと。」

どうだ、とばかりに誇らしげなれいなに愛は安堵の色を浮かべた。
が、それも束の間。敵の立ち上がる気配に2人は戦闘態勢で向き直る。

「もう大丈夫。れいなが来たけん、2人で戦えばそうそう負けんっちゃ。」
「あんがと。でも気ぃつけて。あの人を甘く見ちゃだめ。」
「分かっとう。愛ちゃんが苦戦するくらいやもん。でも、、、───え?」
「──れいな?」





「───真希姉ぇ───」




















最終更新:2012年11月24日 16:39