(12)585 『Smile Maker(後編)』




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なんだか冷たい空気に包まれている。
これは・・・絵里が出してる?
とても涼しくて冷蔵庫の中にいるみたい。
風さん、絵里に力を貸してくれるの?

『絵里の頑張りには負けたよ』

へへへ。
絵里、頑張ったでしょ。

『・・・絵里!』

ん?どうしたの?

『絵里!!』

だからどうしたのって。

『絵里!・・・絵里!』

もー・・・

「聞こえてるってば!!」

―ゴンッ



「いったたたたた」
「いってぇー・・・」

・・・あれ、愛ちゃん?

「聞こえとるなら、もっと早く起きろ!アホ!」
「え、え、え?」

絵里がキョロキョロしている間も、愛ちゃんは痛そうにおでこを押さえていた。
絵里のおでこも、まだじんじんと痛みが残っていたけど・・・なんとなく我慢。

「あれからずっと外におったやろ。軽い日射病や」
「え、絵里がですか?」
「絵里以外に誰がおるんよ・・・」

愛ちゃんはやれやれと言うようにため息をついた。
うわー・・・やってしまった。

「まぁ、なんともなくて良かったよ。帰れるか?」
「あ、はい・・・。大丈夫です。すみません・・・」
「今度またあんな無茶したら怒るで」
「はい・・・」

どうも絵里は軽い日射病で倒れてしまったらしい。
それで、愛ちゃんが眼鏡屋さんに頼んで休憩室で寝かせてもらっていたみたいだ。
眼鏡屋さんの店員さんにお礼を言って、再び太陽の下に出た。


「あんなに長い間、何しとったん?」
「ちょっと特訓を・・・」
「こんな暑い中で、休み無しにやることないのに」
「すいません」

愛ちゃんと並んで歩く。
行きと違って、足取りは重い。

「結局できたんか?」
「うーん・・・夢の中では出来てたんですけどねぇ」

起きてみると、やっぱり出来る感じがしない。
もうちょっと練習してみないと。

「夢の中でもしてたの!?」

愛ちゃんは目と口を大きく開いて、絵里の顔を見た。
なんだか照れくさくて、絵里は笑いながら頷いた。

「まぁ、練習熱心なんはいいことなんやけどな・・・」

愛ちゃんは困ったように呟いて、頭を掻いた。

「絵里が倒れてしまったら、私はどうしたらいいんよ」
「・・・え?」
「絵里が倒れたら、私が今日休んだ意味もなくなるやろ」
「はい」
「みんなが強くなるのも嬉しいけど、みんなが元気でおる方が私にとっては大事やから」

・・・!
愛ちゃんの言葉に絵里は胸を打たれた。


大事なことを忘れてしまっていたみたいだ。
愛ちゃんに無理しないでって言ってばかりで、自分のことなんて考えてなかった。

「だから、今度からは気をつけるんやで?」
「・・・はい!」

リーダーのくせに、みんなにいじられてばかりでどっか抜けてて訛ってて
いつも一人で無茶するけど・・・やっぱり絵里のリーダーは最高だ。
最後には、いつも絵里に大事なことを伝えてくれる。
仲間のことを、信じてくれる。

「愛ちゃん、おでこ大丈夫ですか?」
「あ、あー・・・忘れとったけど、絵里に言われたら痛くなってきた」
「え!ご、ごめんなさい!」
「へへ、嘘だよ」

ニシシって笑う愛ちゃんは、全然年上っぽくないし頼れるリーダーっぽくもないけど
それでも絵里よりしっかりしてて、みんなのリーダーなんだ。

「ただいまー!」
「おかえりー!」

リゾナントの扉を開けると、絵里の安心する音と安心する笑顔に包まれる。

「デート楽しかったですかー?」

すぐさま声をかけてくるのは、やはり小春だ。
もちろん、楽しか・・・


「絵里が日射病で倒れて散々やったわ」
「え、絵里倒れたん!?」

ちょ、え、愛ちゃん。・・・え、え。
れいなの心配そうな目が絵里を見るのがわかる。
愛ちゃんの方を見ると、楽しそうに笑っていた。
愛ちゃんのバカ~~!!

「なんや、二人ともおでこ赤くないですか?」

―ギクッ
みっつぃーが自分のおでこを触りながら言った。

「あれー?今度は頭突きでもされちゃったんですかぁー?」

小春がニヤッニヤと笑い出した。
くそぉぉぉぉ。

「絵里」
「はい!?」

小春のほっぺをちみぎってやろうと一歩踏み出した時、愛ちゃんに呼び止められた。

「カフェオレ、飲まんか?」
「の・・・飲みますよ!飲むに決まってるじゃないですか!」

カウンター席にガタンと乱暴に座る。
絵里は怒りましたよというのを見せつける為にも、口はへの字に尖らせたままだ。
それでも・・・それでもこのカフェオレを飲むと、なんだか暖かい気持ちになる。
絵里の好みの甘さにしてくれてあるであろう、苦くないカフェオレ。
愛ちゃんの優しさが込められていると飲む度に思う。



「今日はありがとな」
「散々だったんじゃないんですか」

素直に答えるのが恥ずかしくて、素っ気なくそう答えた。

「そりゃまぁ、ね。目の前で仲間に倒れられるのは、理由がなんにせよ良いもんじゃない」

愛ちゃんはそう言うと、小さく苦笑した。
それはそうだろう。
絵里だって、仲間が傷つくのを見るだけで心臓が止まりそうになる。
こんなことを言うと・・・シャレにならないってガキさんに怒られちゃうな。

「おかげで助かったよ」
「え?」

愛ちゃんは何も言わずに、自分の右目を指さした。

「あぁ」
「おかげで、みんなの笑顔がはっきり見れる」

静かにそう言った愛ちゃんは、本当に嬉しそうで、
絵里には上手く返す言葉が見つからなかった。
でも、すごく嬉しかった。


「・・・絵里の顔も、ちゃんと可愛く見えますか?」
「絵里の可愛い顔もちゃんと見えるよ」

愛ちゃんが嬉しそうにしているのが嬉しくて、にやけそうになった。
それをごまかしたくて。

「うへへ」
「自分から言ったくせに」

違うんです。
今、絵里が緩む口元を抑えられないのは、そういうことじゃないんですよ。

「今日は、楽しかったですか?」
「楽しかったよ」
「なら良かったです」

それだけでも絵里は十分です。
次は、絶対倒れたりしませんから。
ずっと隣で笑ってますから。
だから・・・。

「次は、いつにしますか?」

また、どこかに出かけましょうよ。
次は・・・みんなで。




















最終更新:2012年11月24日 20:33