(14)613 『魔法なんていらない -5-』

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里沙は抱きしめた愛の耳元で囁いた

「私ね、ここにくるまでに色々考えてたんだ。 どうやって愛ちゃんを助けようかって。
愛ちゃんは悪くないよ、って。 悪いのはあの男の子や愛ちゃんのそんな”力”を開発した人たちだよ、とか。
私は親に捨てられようとしたから、逆にこっちから捨ててやったんだ。 辛いのは愛ちゃんだけじゃ無いんだよ、とか。
頭で考えてわかろうとしてた。 助けてあげられると思ってた。 でも無理だよね、私バカだし」

言葉が愛の身体に、心に染み入っていくのが里沙には判った

「高橋愛」
「えっ」
改めてフルネームで呼ばれたことに、戸惑う愛

「高橋愛、いいかい1度だけ言うよ。っていうか1度だけしか言えないよ。 私、バカだから
高橋愛、あんたはこれからも傷つくよ
ここで”力”の使い方や抑え方を身につけて、『M。』の正式メンバーになって、外で働くよう
になっても、あんたは傷つくよ
あんたは悪い人間だけが自分のことを傷つけると思ってるかもしれないけど、良い人間
だってあんたのことを傷つけるよ
だから、あんたが傷つくのがいやだったら、哀しむのがいやだったらもう起きないほうが良い。
このままこの暗い場所からずーっと出ないほうが良い」

「うっ、ううっ、何でそんなこと言うのん、今さら、うう」
「だけどね、聞いてよ、愛ちゃん
これまで愛ちゃんは哀しいことがあっても、一人っきりで苦しむしかなかったかもしれないけど、これからは私がいるよ
感じない、私の胸の奥の哀しみを。 これはね愛ちゃんがひどい目にあってきたことを知って出来た私の心の傷だよ
愛ちゃんのこれまでの哀しみも、これからの哀しみも減らしてあげることは出来ないよ、私には
でも愛ちゃんの横で一緒に哀しんであげることは出来るよ、一緒に泣いてあげるよ
そしてね、そして一緒に笑ってあげるよ、笑わせてあげるよ」


「だからね、一緒に行こう
暗闇の中にいれば、傷つくことはないかもしれないけど、嬉しいことも起こらないと思うよ
太陽の下は傷つくこともあるけど、楽しいことだってきっと起こるよ
生きたい、私は生きたい。 そしてあなたと歩きたい。
会いたい、安倍さんに、あさ美ちゃんに、麻琴にだって会いたい
あなたを連れてゆきたい場所があるんだ、見せたい場所があるんだ
ねえ、もんじゃ焼きって知ってる。 美味しいんだよ、見かけはちょっとグロイかもしれないけどさ」

感情の赴くままに、言葉の嵐を愛にぶつける里沙
愛の身体を支えているつもりだったが、いつのまにか愛に支えられていた
愛の手が里沙の頭に置かれた

「里沙ちゃん」
「愛ちゃん…、うわああああ」

愛の精神世界内に構築された施設の建物は崩壊し、その残骸は二人を飲み込み、奔流となり暗闇へと消えた



――暗い
里沙の意識は闇の中を漂っていた
――ええっと、これって死後の世界に向かってるって事かな、もうじき川が見えてきて、対岸から女の人が手招きするのね、きっと
もう少しだったのに、もう少しで心を開いてくれそうだったのに愛ちゃん、ごめんね

「何であやまるんや」
「ほえーっ、愛ちゃんいたの」

「ああ、さっきから里沙ちゃんのそばにいたよ。 それに何で私にあやまるの」
「だって、だって、私何にもできなかったし、それに、それに、うっ、うう」

愛の優しい口調に、言葉を詰まらせる里沙
闇の中、姿は見えないけど何か暖かいものが伝わってくる

「里沙ちゃんは泣き虫で、頼りないのう」
「ぐすっ、ごめんね」
「でも、やっぱり里沙ちゃんがあーしの王子様や」

「愛ちゃん」
「里沙ちゃんはあーしを助けてくれた。 だから今度はあーしが里沙ちゃんを助ける」

「だって、だってもう何も見えないし、一体どうやって」
「さっきのお返しや」
言いながら、愛は里沙を後ろから抱きしめた


「感じるやろ、あーしの胸の鼓動。
これまでのあーしの心臓はただ弱く波打って血を体中に送り出しとるだけやった。 でも今は違う
何て言ったらいいか、よくわからんけど、あーし話すのは苦手やし」

はにかみながら、語りかける愛
里沙の背中から伝わってくる愛の胸の鼓動は、さっき里沙が抱きしめた時に感じたよりも、力強くリズムを刻んでるように思えた

「んーとね、血ーだけやない、強い気持ちを全身に送り出しとる
そんな気がする」
「気持ちって」

「それは不安と…」
「不安と…」

「希望、この気持ちは里沙ちゃん、あんたがあーしにくれた
だから、あーしは里沙ちゃんを連れてゆくよ、胸の高鳴る方へ!!」



「♪戦いのときがきた~、胸は高鳴る!」

酔いが回ったのか、やるんじゃないかと心配していた一人ミュージカルを案の定始めだした
それも「シンデレラ」だけでは飽き足らず、以前見たらしい別のミュージカルの名場面まで演りだした
店内の客は半ば引きつつ、半ば笑いつつ、麗人の酔態を生暖かく見守っている

――この分じゃ、私が送っていかなきゃね
里沙はその旨をメールで、留守番をしているれいなに送りながら、回想に戻った

愛が里沙を背中から抱きしめている状態で二人が目覚めた時、あさ美と麻琴が傍にいた
麻琴は喜んで泣いていて、何故か白衣を着ていたあさ美は呆れながら、それでも嬉しそうだった
長いと思っていた愛の精神世界への旅も、現実の世界では1時間足らずだったようだ
麻琴は使い物にならないのであさ美に聞いたら、里沙たちが目覚める5分ぐらい前に安倍さんがあさ美と
麻琴の個室を訪れ、2人を”i914”の部屋へ誘ったらしい

「2人が戻ってくるのを、迎えてあげてね」と言って

安倍さんはといえば、私は安倍さんとの約束―戻ってきたらすぐに愛のことを紹介するという約束を守れなかった
破ったのは安倍さんの方だったが
これもあさ美情報によると
「悪者を懲らしめてくる」と出て行ったらしい

「いかにも安倍さんらしいよね」とあさ美は笑っていた


安倍さんが悪者を懲らしめてくれたお陰か、研究施設の体制は変わった
そこは子供たちを閉じ込める牢獄ではなくなり、”力”について学ぶ場所となった
訓練自体は以前よりも厳しくなったが

”i914”に関するデータは破棄され、それに関った人間は粛清されたらしい

私と愛、あさ美と麻琴は施設での訓練、研修を終え『M。』に配属された
私は安倍さんの横で戦うという夢が叶った
また私、愛、あさ美、麻琴の4人は『M。』への配属年度から、「五期」と呼ばれ、『M。』史上最高のチーム
と呼ばれ、短い期間であったが一緒に駆け抜けたのだが、その辺のことはまた別の話だろう

それにしても不思議なのはあの時の精神潜航のことだ
今の私は当時と比べて、精神干渉の能力者としてのスキルは段違いにアップしている
そんな私でも、あの時のような潜航は出来ないと思う
他の精神系の能力者に意見を求めても、答えは一緒だ
あれは私が見た夢だったのか
ある時あさ美にも聞いてみたが、彼女は笑っているだけだった
暫くたって彼女は言った

「もしかして、安倍さんが?」

「まさか、ね」

そして私達は笑った



今、私の前には高橋愛がいる
こうして醜態を晒していても、誰かの助けを求める声が聴こえたら、彼女は行くのだろう
そして、時に慌てふためき、時に哀しみ、時に笑うのだろう、無神経なくらいに
それで良い
それでこそ高橋愛だから

さっき彼女が言ってた「魔法がなければ、シンデレラと王子様は魔法が無ければ巡り会えなかったのか」
という話題について考えてみる

――確かに魔法の手助けがあったから、シンデレラと王子は巡り会い結ばれた
でも、愛ちゃん
あなたと私の間には魔法なんて無かったよ
何の偽りも無かったよ
あの時、私はあなたの剥き出しの魂と向き合った
傷ついて、それでも闇に堕ちまいと懸命に抗っていたあなたの魂と
あの時の記憶がある限り、私はあなたを守り続ける
王子様にしては頼りないけど、それでも守る
それがあの闇の中、あなたの鼓動を感じながら決めた私の誓い




















最終更新:2012年11月25日 16:56