(15)176 『蒼の共鳴-Project-Resonantor』

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バスを降りて、事前に麻琴に指示されていた場所へと向かう小春と愛佳。
他の皆も、そこを目指して歩いているはずだった。
初めてきた場所だけに、どうしても堂々とした感じでは歩けない二人。

しかも、今から向かう場所は…観光地でありながら、同時に―――自殺の名所として有名な場所。
深く何処か鬱蒼とした森が見えてきた。
そして、先に集まっていた他の皆も。

全員揃ったのを確認して、麻琴が努めて明るく声を出した。


「ちょーっと不気味だけど皆頑張って歩こうね、噂にあるように方位磁石が使えないってことはないし、
基本的には遊歩道とか案内看板もあるから。
ただ、一般人の目になるべく付かないように道から外れた奥の方を目指さないといけないから、一応気をつけて
後は…何かあっても極力能力は使わないでね、ダークネスに居場所を感知されるから」


麻琴の言葉に、皆頷いて。
方位磁石を手に持った麻琴を先頭に、まずは目の前にある道をひたすら歩いていく。
すれ違う人達の訝しげな視線を振り切るように、早足で。

それもそうだろう、10代から20代と思われる女の子達が連れだって来るような場所ではない。
近くにキャンプ場などの施設があるにはあるが、今の時季はまだキャンプシーズン前。
幸い、遠足に行く子供のような大きいリュックを背負っているおかげか、誰にも声をかけられることはなかったが。

徐々に、麻琴が道から外れていく。
途端に悪くなる足場に、足をひねりそうになりながら。
それでも、皆懸命に歩きを進めていく。

こんな所に一人で住むなんて、一体どういう人なんだろうという疑問。
見渡す限り、同じようにしか見えない特徴のない深い森。
その特徴のなさ故に、一度道を踏み外したら元の場所へと戻ってくるのは非常に困難に思えた。


不気味ささえ感じさせる森の中で。
誰も無言のまま、ひたすら森を進んでいく。
愛佳は、身を隠すのには最適かもしれないと額に滲む汗をハンカチで拭きながら想う。

少なくとも、こんな奥深くまで歩いてくるような人間はそうそういない。
いるとしたら、その人間は。
その先を考えそうになる自分を戒めて、愛佳は先を行く麻琴の後ろ姿を見つめる。

頼りなげな容姿とは裏腹に、的確な指示を与えて皆を導くその姿は。
愛とはまた違う落ち着きを漂わせている。
否、落ち着きというよりは―――決意。

決死の覚悟でダークネスから脱出してきたのだ。
こんなことくらいで取り乱すような、脆い人間ではないだろう。
ボロボロになりながらも、自分達をここに連れてくるために必死で逃げてきたのだ。

必ず、頼まれた願いを叶えてみせる。
そういう決意に満ちあふれた姿を見ていると、麻琴をここまで強くする安倍なつみという人は一体どういう人なのだろうと想う。
里沙の命の恩人であり、麻琴の命の恩人でもあるとは聞いた。

その人が逃がしてくれたと言っていたが、それはすなわち、残された彼女はどんな目に遭わされているか分からないということ。
前を歩く麻琴の心中を想うと、自然と胸が苦しくなる。
どれだけ、彼女を連れて逃げてきたかったことだろうか。
里沙を置いて、そして彼女を置いて。

リゾナントに着くまでの間も、追っ手に怯えてまともに眠れずにいたのではないか。
あの体中に残る傷の数は、こんな森の中を歩くように…普通の人間ならまず使わないような道なき道を逃げてきたからかもしれない。

そこまでして、自分達を連れて行かなければならない理由。
きっと、その理由は麻琴が連れて行こうとしている場所に着いたら分かるに違いない。


途中、休憩を挟みながら。
ここから一人で帰れと言われたら、まず帰ることは出来ないだろうと想うくらい奥まで歩いてきた。
時計を見て愛佳はため息をつきたくなる衝動を堪える。

―――この森に足を踏み入れてから、既に4時間が経過していた。


もう歩きたくない、と声に出して言いたくなってきた頃。
ふいに、辺りの空気が変わった。
今までのどこか暗く不気味な空気から、穏やかに人を包み込む柔らかい空気へと。

前を歩く麻琴が足を止めたのに倣うように、皆も一斉に足を止める。
麻琴が視線を向けている方を見たら。
深い緑を背にして悠然と立っている、白衣姿の女性がいた。


「…お久しぶりです、保田さん。
よく私達がここに来たことが分かりましたね」

「小川、あたしを誰だと思ってるのよ…なんてね。
なっちが教えてくれたから、あんた達が近日中に来るはずだって。
さ、早く行きましょ」


保田さんと麻琴が呼んだ女性は、そう言って踵を返して歩き出す。
まだ歩くのかと内心思いながらも、全員その背中を追いかけて歩き出した。
女性の姿が、徐々に地面に吸い込まれていくのを見て思わず声を上げそうになる愛佳。


だが、女性はけして地面に吸い込まれているのではなかった。
女性の背中を追っていった先にあったのは、地下へと続く薄暗い階段。
最後尾を歩いていた愛佳が階段を下り始めて程なく―――地上への出入り口は地面に覆われて消えた。


 * * *


薄暗い廊下を抜けた愛佳達が見たものは。
夥しい数のコンピューターや何に使うのか皆目見当も付かない機器の山だった。
何処から電力を供給しているのか、そしてこれだけの設備が何故こんな深い森の中にあるのか。
何より、何故女性はこんな所に隠れ住んでいるのか。

まるでSF映画のような光景に何も言えずにいる愛佳達へと向き直り、女性はよく通る声をあげる。


「…初めまして、私は保田圭。
元“M”の能力者兼機器開発技術者で、今はここで技術開発をしながら―――あなた達がここに来るのをずっと待っていた」

「あの、保田さん、すいません…“M”って一体?」


愛の声に皆一様に頷いたのを見て、圭は麻琴の方を向いてあんた何もこの子達に教えてないのねと苦笑いする。
その苦笑いに、麻琴が一刻も早くここに彼女達を連れてきたかったのでと謝って。
圭は軽く息を吐くと、時間がないところ悪いけど少し長い話になるわよと告げる。
鋭い眼光に、皆息を呑んだのと同時に圭は語り始めた。


かつて、一人の研究者が存在した。
その研究者はクローン研究の第一人者と言われ、人のみならず数々の動物のクローンを生み出すことに成功していた。
研究結果で得た莫大な富を、さらなる研究へと注ぎ込みながら研究を続ける日々。

その日、研究者はいつものようにクローンを作るべく作業を進めていた。
いつもと同じように作業を進めていた研究者は誤って、本来移植すべきである“核”とは異なる“核”を細胞に移植してしまう。
その間違いに気付いたものの、これも研究材料になると研究者はそのまま仮親の子宮へと着床させる作業へと移った。

約十ヶ月後生まれたクローンは、そのまま成長を続ける。
研究者はそのクローンを観察しデータを取りながら、研究を続けていた。
クローンが生まれて七年目。

研究者は、とんでもない“化け物”を生み出してしまったことを知った。
見た目は普通の人間とは変わらないクローンがその身に宿していたのは、常人にはけして理解できぬ力―――“超能力”。
研究者はその発見に震えた。
普通の人間のクローンなら、今や他の研究者でも資金と施設さえあれば作ることが出来る。

だが、この…人と呼ぶのを躊躇われてしまうクローンは、世界の何処を探しても自分以外まだ作れないのだ。
研究者はその後、研究に没頭していった。
男女ではどのような違いが生まれるのか、またどういった人間の核を得ることが出来ればより凄い“化け物”が生み出せるのか。

研究に研究を重ねること15年、研究者は一つの結論を導き出した。
男と女とでは幼年期ではさほどの能力の違いはないが、女性は成長するにつれて能力がより強くなる。
また、能力を持ったクローン達の遺伝子を組み合わせることで、高い潜在能力を秘めたクローンが生み出せるということを。
その結論を元に、研究者は複数のクローンを生み出す。

そのクローン達は最初研究者の施設で数年育てられた後、一般の世界の里親達へと引き取られた。
無論、超能力を有しているなどという情報は一切伏せ、彼女達にもけしてその力を人前では使うなと厳しく教育した上で。
普通の人間の元で、一般世界の清濁に無垢な心を傷つけながらも成長していったクローン達。


「そのクローン達の集まりが“M”だったの、今や…私やなっちを除いた他のメンバー達はダークネスへと転身したけれど」


圭の余りにも現実離れしている話に、誰も何も言えなかった。
目の前にいる圭が人ではなくクローンだなんて、とても信じられない。
だが、圭の目は言葉よりも遙かに今話したことが事実であり真実であると告げていた。


「この話にはまだ続きがあるの」


そう言って、圭は再び口を開いた。



強大な力を持つクローンを生み出すことに成功した研究者。
その研究結果に満足することなく研究を続ける彼の脳裏に閃いた、ある一つの可能性。

研究のために作り出したあのクローン達が、何らかのきっかけで“悪”の意識に染まってしまったら。
そうなってしまったら一般人どころか軍隊などの武力勢力をも制圧し、その強大な力を持ってこの世界を支配しようとするのではないか。
どんな武力も役には立たない、彼女達はそれを使わせることなく目に付く全てを破壊し尽くせるだけの力を持っているのだから。

研究のためだけに作り出したクローン達。
だが、自分の探求心のままに生み出したクローン達が場合によっては世界を滅ぼす“悪”となる可能性を秘めている。

もしもこの懸念が現実のものとなった時のために、それを止めるだけの力を持ったクローンを生み出さねば。
研究者の中に存在した、小さくも確かな“正義”。


数年の研究を経て、研究者はようやく…自らの生み出した最強のクローン達を超える可能性を秘めたクローン達を生み出すことに成功した。
かつてのクローン達にはない、“共鳴因子”と名付けた因子をその身に宿すクローン達。
その因子の働きにより、クローン同士で全ての感情を共有し幾重にも重ね合わせ、その想いを自らの力へと変えることが出来る。
この“共鳴因子”がおそらく、いや必ず彼女達を倒すための鍵となるはずだ。

研究者は“共鳴因子”を持つクローン達を、赤子のうちから一般人に育てさせた。
この世のあらゆる清濁全てを受け入れ、その上で光を掲げることの出来る心の強さを持てるように、
あえて赤子のうちに普通の世界へとクローン達を送り出したのだ。

かつてのクローン達とは違い、一般人に能力を使ってはいけないなどという教育も必要な知識も施されていないクローン達。
生まれ持った力が露見する時クローン達は確実に心身共に傷つくだろう、自らに宿る力を憎むだろう。
容赦なく傷つけてくる人間達を殺したい程恨んで、肉体の成長と共にその心を悪に染めてしまう可能性も十分あり得た。
だが、研究者はそれでも尚、クローン達が何もかも全てを受け入れて“光”を掲げてくれることを信じたのだった。



「“共鳴因子”を持つクローン達、それがあなた達。
研究者はこの研究のことをこう名付けたわ―――“Project-Resonantor ”と。
あなた達は研究者が希望を込めて作り出した、蒼き光を心に掲げて闇を撃ち抜く、共鳴という可能性を秘めた雛鳥。
闇に墜ちる可能性も、強く光を掲げる可能性も秘めた、この世界の希望であり絶望にもなり得る存在」

「そんな…」


静かな空間に響いたのは誰の声だったのか。
圭は鋭い視線のまま、はっきりと、まるで捕らえた獲物にとどめを刺すかのように告げた。


「とても信じられないかもしれないけれど―――これが私の知っている真実よ」




















最終更新:2012年11月25日 17:14