(15)471 『七回目の言葉、初めての想い』

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「みんなが喜んでくれるなら、誕生日があって良かったわ」


土曜日の営業が終わると、喫茶リゾナントは賑やかになった

日曜だし、明日はお休みにしよう、という数人の提案を押し切り、
店長のお達しは、通常営業の一言。
こう決まったら変わらない。
普通のことには大らかなリーダーも店のこととなると意志が固い。
変なメニューも。新しいバイトも。

そうと決まれば次のプランだ。
少しでも長く宴の時間を確保すること。
普段店に出ないメンバーも総出で翌朝の仕込みや掃除を手伝う。
また、汚すくせに…そう言いたげなリーダーもまんざらでもなさそうだ

明日は誕生日。
彼女たちを闇の中から這い出させた、リーダーの誕生日。

皆、下手をすれば、自分の誕生日よりもその日を喜ぶ。
一体なんの為のパーティなのか。その日は精力を上げて楽しむ。



「ハイハイハーイ!小春、エア月島きらりやっりまーす!」
それはあんた、ちょっと…なんて芸を披露する小春。
小春、ちょっとやそっとじゃ認めんっちゃよ、なんて言ってた田中っちも、
それが始まると思わず身を乗り出す。これ、毎年毎年見る光景。

机の上にはみっつぃの作った巻き寿司が並び
さきほどまで寒くて長い漫才をしたジュンジュンが一人バナナを貪る。
それ、愛ちゃんへのとっておきのバナナじゃなかったっけ?

その相方のリンリンはさゆ…じゃなくプリンセスワイワイさんに助手をするレクチャーを受けている
「いい、ここでさゆみが合図したら、火をこうブオッと!」
それ、イリュージョンじゃないじゃん…能力じゃん…
私はおでこを掻きながら、中央の椅子で誰よりも笑う愛ちゃんを見る

七年前、彼女に出逢った。
あの時は、もっと野性のサルみたいな人だったのに
いつからだろうあんなに大人っぽくなっちゃって。
スパイの対象足るに相応しい、リーダーになった。
その成長が眩しくて、嬉しくて、悲しかった。

ああ、でも…もうそんな想いからは解放されたんだ…
そう、感傷に浸っていたら誰か一人を視界に入れていないことに気付いた。



「ガキさん、ガキさん、ちょーっとお話が」
予想だにしなかった角度からその相手―カメ―に囁かれ、大きくリアクションをとる
この流れ、何か頼みごとをしてくるつもりだ。怪訝な顔で何、と聞く

「実はー、絵里、プレゼント2階においてきちゃってー」
 絵里ちゃん怖いから、ガキさん取りにいってきゅれますぇ~ん

ちょっとオーバーに表現してしまえば、こうだ。
私は答える、アンタジブンデイキナサイ。
しかし、カメは屈しない。最早自分のプライドは折れ曲がっているのだ。
もう何百人分かの一生のお願いを放つと、素早く愛ちゃんの横に行った。
あのやろ…と言いかけて拳を握る。抑えよう今日は愛ちゃんの誕生日パーティなんだから。

私はミシミシ言う階段をそっと上がり、カメのプレゼントを探した
その時、まるで包まれたように、風が吹き、思わずそちらを向いた
窓が開き、月明かりが差し込んでいる
幻想的な風景に、なんとなく、そこに近付くと、誰かが上にやってくるのを感じた

そうだ、少しゆっくりしすぎたかもしれない。私の投げ入れを披露する時間になったのかもしれない。
実はカメにプレゼント探すように頼まれて、そう言い訳しようとして、その相手に驚く

「何しとんのやー、ガキさん」
聞けば、カメにガキさんが呼んでる、そう言われここまでやってきたらしい
みんなは急に眠くなり、もうすぐここにあがって仮眠するとのこと
そんなことある訳ない。あんなに元気だったくせに…


あいつらぁー、愛ちゃんはともかくとして、私まで謀りおって…

「なんか、大事な話があるんやろ?」

そんな話があるって話を初めて聞いたのに、真剣な顔で愛ちゃんは私の手を掴むと、
満天の星空の下へ私を運んだ。そう、気がつけば喫茶リゾナントの屋根の上だった。

「うーわ、綺麗な夜空やの」
さっきのは、カメたちの冗談で話なんてないの、そう言おうとして口をつぐむ。
背も大して変わらないからこそわかる、彼女の大きな瞳に映る星達の煌き。

「誕生日、おめでとう。」
思わず言ってから、しまった、そう思った。
それを最初に投げかけたのは、7年前の今日だった。
唐突に今日誕生日やったわ、とカレンダーを掴みながら言われて、慌ててはなったその言葉に
彼女は些か悲しみの色を浮かべた。
その意味を知ったのは、その数週間後の私の誕生日。

『あーし、本当に生まれた日はわからんでの』

組織に作られた彼女には、いつ生まれたのか、正確な時がわからないのだ。
どうしてか、その言葉を投げかけるべきだった、スパイとしては。何も知らないフリをして。
でも、それは言えなかった。もうあの時から既に、私の心はリゾナンターだったのだろう。
彼女を傷つけたくもなく、事実を知っていることを悟られ、リゾナントを去るのも嫌だった。
ただ、何も知らないフリをして、あえて聞かないフリをした。
以来、明るくみんなと一緒にしか言わないと決めたその言葉をどうして簡単に言ってしまったのか。


「ありがと。」
愛ちゃんは、軽く息を吐くと、屋根に腰掛けた。
私も戸惑いを含みながら、隣に腰を下ろす。

「誕生日ってなんか、生まれてきても良かったって証明の日って気がする」
 みんなにおめでとうって言われて、ありがとうって返して。
「みんながおらんかったら、あーし、生きてる価値なんかない気がするからさ…」

 みんながこうやって、あーしの誕生を喜んでくれるってのは、本当にありがたい。

思い描いた通り。去年と同じ、出生への消極的な言葉に、若干の眩暈さえ覚えた。
私はこんなことを言わせる為に、あなたを祝いたいわけじゃ、ないのに。
口から言葉は生まれず、喉は小さく音を立てる。

「あーでも、でも、なんていうか…」

それだから良かった、あなたの次の言葉を聞くことができたから。

「いつもと違って“――――なぁ”って思う。」

聞き間違いかと思った
目頭が熱くなり、愛ちゃんの方を向いていられない。
もう一度聞きなおしたい。でも言葉が出てくれない。涙まで出てしまいそうだから。
さっきとは違う理由で、愛ちゃんの言葉だけが夜空に溶け出す。


「あのさ、毎年ゆーてた言葉、覚えてる?これからもずっと、共に闘い続けよーってやつ」

忘れるわけない。スパイだった私にとってその言葉は希望であり、同時に絶望だった。

「あれ、ホントは…あーしの願望やった」
 ガキさん、いつか出てくってわかってたから。
 その時間を少しでも延ばしたくて、わがままやった。

ああ、そうだ。今年の誕生日は、去年とは違う。
私はあなたの裏切り者じゃない。
あなたは謝った。わかっていながら私を救えなかったことを。
どこまでも優しいあなたは、私を許した。他の仲間達も同様に。

  今年からは、素直に受け取れる。ずっと、みんなと闘…

「でも、なんていうか…うん…あのな、できるだけ短い時間一緒に闘いたいんよ」
「え…あ…」

急に言われた言葉に、背筋が凍る。
やはり、一度失った信頼は、取り戻せないものなのだろうか。
やり直して欲しいなどと、甘くて汚い考えなのだろうか。

「あーなんか、上手く言えん!」


「なんていうか、闘うんは、一緒におるホントの理由じゃなくてさ。」
 その後に絶対来る、平和…
 とかキモいかもしれんけど、そういうのがホントにほしいもんで
 もう、ガキさんにそういうの望んでいいんやったら、闘いとかさ、
 そんなのちょっとでも早く終わらせるべきっていうか…とにかくさぁ!!

「長い時間、みんなと一緒にずっとずっと、笑いあってよう?」

目一杯張り上げた愛ちゃんの声が、夜空に木霊する
嬉しくて、自分が許せなくて、でも嬉しくて。ぼうっと、愛ちゃんの顔を眺める。

「ガキさん、あーしの話聞いてなかったやろ?さっきから何も喋ってないがし!」
「きっ、…聞いてたからー!!」

何を勘違いしたのか愛ちゃんはちょっと不機嫌に私の頬をつねる
痛くないのに、涙が出そうだ。違うんだよ、愛ちゃん。

「あ、でさー。ガキさんの話って何やったん?」

言葉で言いたかった。でもなんかうそ臭くもなるし、ちょっと仕返しもしたくなった。
私は自分の頬に置かれていた、愛ちゃんの手を握ると、精一杯の想いを込めた。
これなら、さっきの話、ちゃんと聞いてたってこともわかるでしょ?
届いた言葉に愛ちゃんは少し泣きそうな笑顔で、ありがと、と囁いた

『早く、平和な世の中にして、毎年こうやって、おめでとうって言いたい。
 愛ちゃんが“生まれてきて良かった”って思ったこと、何よりも嬉しいと思ってるから』




















最終更新:2012年11月25日 17:28