(15)835 『共鳴修学旅行~プロローグ~』



今日も平和な喫茶リゾナント
マターリ時間は過ぎて行きます

「なかなか止まんのぉ…この雨…」

真っ白なコーヒーカップを磨きながら窓の外に目を向ける愛がため息まじりに呟いた

「台風が来てるんだって」
愛の言葉に顔を上げた里沙は今朝のテレビのワイドショーから仕入れた情報を披露した

「ほぉー…ほしたらしばらくはこんな天気が続くんやろか?」
「明後日には晴れるらしいよ?」
「ホンマですか!?良かったぁ」

里沙の隣で学校の宿題に取り組んでいた愛佳が安堵の笑みを浮かべる

「明後日、なんかあるの?」
「はい!愛佳、明後日から修学旅行なんです!」
「おぉっ!修学旅行か!ええのぉ!どこ行くんや?」

愛佳が弾んだ声で予定を告げると愛のテンションは一気に上昇



「京都と大阪と神戸に行くんですわ」
「京都か!本能寺や!織田さんや!」
「織田さんて…愛ちゃん、知り合いみたいに…」
「大阪か!くいだおれや!くいだおれ人形や!」
「愛ちゃん、くいだおれ人形はもういないし…」
「神戸か!宝塚や!今は雪組絶賛公演中や!」
「愛ちゃん、宝塚は神戸じゃなくて宝塚市だから…」
「ええのぉ~修学旅行…あーし修学旅行とか行った事ないがし」
「そうなんだ…」

一人盛り上がった後、ちょっと寂しそうな笑顔を浮かべた愛に
里沙はきつくツッコミを入れた事をちょっぴり後悔した

「愛佳、あーしも連れて行くやよ」
「愛ちゃん、無理だから」

里沙は後悔した事を後悔した



「ニイガキ。シュウガクリョコーてなんダ?」

カウンターの中で自らバナナジュースを作っていたジュンジュンが
ミキサーから視線を外さずに質問した

「ジュンジュン、言葉遣いまたおかしいから」
「修学旅行って言うのは~学校のみんなと一緒に旅行しながら学習することやねん」

いつまで経っても直らないジュンジュンの呼び捨て癖に苦笑しながら愛佳が答えた

「旅行カ…ワタシも行きタイ」
「ワタシも行きタイです!」

店内の観葉植物に水をあげていたリンリンが元気良く右手を挙げて会話に入ってきた

「ワタシ、日本来てカラ東京イガイ行ったコトないダ!」
「ワタシもナイ。ニイガキ、連れて行け」
「ジュンジュン、それ、人にモノを頼む口調じゃないから」
「里沙ちゃん、あーしも行きたいがし」
「ちょ…愛ちゃんまで何言っ…」
「れなもれなも!れなも行きたいっちゃん!」

ちょうど出前から帰って来たれいなも店の入口で喚き出した

「ちょ…田中っち…いつから居たのよ」
「いや、どこに行くかは知らんけどみんなが行くなられなも連れてってほしいったい」
「テキトーだねー。そしてみんなワガママ過ぎだから!」



「そーゆー里沙ちゃんは行きたくないんか?旅行」
「そりゃ、旅行はしたいけどさぁ…」
「じゃぁ、こうしたらどうですか?」

愛佳が持っていたペンをピッと立ててニコニコ笑う
その場に居合わせた全員が愛佳の次の言葉に耳を傾ける

「今度、9人みんなで旅行に行きましょうよ!」

一瞬、間を置いて店内の空気が柔らかくなった

「ほやな。行こか!みんなで旅行」
「行きタイです!楽しソウです!バッチリです!」
「どこ行くと?!」
「ニイガキ、いつ行くノダ?」
「ハァ…旅行の計画前から思いやられるわね…」

暴走気味のメンバー達にウンザリしながらも、里沙もこみあがる笑みを抑える事はできなかった


━2日後
愛佳は修学旅行出発の集合場所である新幹線のコンコースに居た




友人と隣あわせてベンチに座り、ガイドブックを読んでいた

「愛佳~、何読んでるの?」
「ん~?お土産をいっぱい買わなアカンから今から選んどこぉ思って…」

友人の問いかけに、喫茶リゾナントの仲間達の笑顔が愛佳の頭に思い浮かんだ

「あ。先生達も来たよ!」
遠くの方で聞き馴れた声が集合を呼びかけている

愛佳は友人と顔を見合わせて立ち上がる

「愛佳、行こ!」
「せやな!ここで置いて行かれたらかなわんしな!」

大きい荷物を肩にかけて自分と同じ制服姿が集まる集団に向かって走り出した

「愛佳!お土産、何買うか決まった?」

友人の問いかけに仲間の一人ひとりの顔を思い浮かべる

「全然決まらんわー!」

何を買って帰っても里沙以外からはキツいツッコミが入りそうだな
愛佳はそんな事を思った

「あれ?」

急にとんでもない違和感を覚えた愛佳は走っていた足を止める

「愛佳?どうしたの?」



愛佳の3歩先で友人も立ち止まる

「え?えぇ?」

今、愛佳の頭の中で浮かんでいた顔が…

今、愛佳の目の前に…

「おーーーーぃ、愛佳ぁ!」
「早く来るったい!置いて行くっちゃよ!」
「集合時間バッチリ間に合いましタ!」
「絵里ちゃん眠いと~」
「絵里が集合時間に間に合ったのは奇跡なの…」
「バナナ冷えてルぞ。一本ダケならヤルぞ」
「小春もバナナ食べたい~!」
「………。」

「えええええええええぇっ!!!!!!」

そこには制服姿のリゾナンターが居た




















最終更新:2012年11月25日 17:46