(18)282 『世界の終わり-Birthday of 19-』

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好きな漫画も好きなテレビも服の趣味もよく聴く音楽も泣ける映画も違う二人。
なのに不思議と気が合って、やっぱり考えてみると奇跡だとしか思えない。
いろんな偶然が重なり、偶然の爪先で自分達は踊らされてるだけでは無いだろうか。
だが、彼女は決まってこう言ってみせる。

 「偶然なんてないんじゃない?きっとさ。だって嫌じゃない?
 面白くも無いし、偶然なんかで生まれたり死んだりもしたくない。
 こうやってここに居る事も、こうして幸せなことも、きっと、必然なんだよ」

 それに、こんな景色を「偶然」なんていう言葉で表すこと自体が勿体無いないでしょ。

グラスを傾けながら彼女は笑って言った。
目の前には主賓を尻目に騒ぐことを止めない面々。

MDコンポからは次々とポップな曲が流れ、一生懸命飾りつけしたと思わしき
天井の装飾は蛍光によって淡黄色を帯びていた。
テーブルには数々の料理が皿に盛り付けられていたが、大食漢な人間が多いためか
既に余りモノしか残っていない。
れいなは溜息を付きながら、自分用にとっておいた小皿にフォークを刺す。

 「ていうか、これ片付けるん誰がやると?」
 「こういう時のオチって結局主役の人が大変な思いをするんだよね」
 「そんな恒例イベントいらんし」
 「まぁいいやん。これも一つの思い出って事で」

ふと、隣に避難させてあるメンバーからのプレゼントと手紙を見つめ
思わず緩む口角を無理やりグラスを傾けて掻き消す。
祝杯を挙げられるのは嫌いではない、寧ろ心地の良い空間がれいなは好きだった。


帰ってきた瞬間にクラッカーの音と共に花が咲いたようなメンバーの笑顔。
口々に述べる祝いの言葉に感謝し、執拗に絡んでくるのをわざと嫌そうに払ったり。
大きなマンホールのケーキに涙腺が緩んだものの、思いっきり蝋燭を消してやったり。

  そんな他愛の無いパーティが始まったこの日、田中れいなは19才になった。

隣に座る彼女、道重さゆみとはまた同い年になったワケである。
何度か自分達が二十歳になることを思い描きながら話もしたし、その時自分達は
どうなっているかなどが凄く気になっていた。
その最初の一歩目を歩んだのだが、不思議と、あまり、何も無かった。

否、もっと何か、違うものだと思っていたのかもしれない。
何かが終わって、何かが始まるような、そんな期待感。
もしくは世界の終わりのような変化をこの身で感じられるかのような瞬間。
そういうのを求めていたのだろうか。

だがその結果、何も変わらずに世界は廻っている。

 「さゆはさ、この年になってみて、何か変わった?」

れいな自身が19歳になった時に聞いてみようと思っていた問い掛け。
さゆは「んー」と考えるような仕草をし、不意にれいなが持っていたフォークの先に
刺さっていた唐揚げを指で摘み上げた。

「あ」と声を発する前には既に指に挟まれた唐揚げは口の中へと消えている。
美味しそうに食べるその顔を恨めしそうに見つめるれいなに、さゆは言った。


 「なーんにも」
 「なーんにも?」
 「変わるって事はさ、気持ちの持ちようって関係してくるような気がするんだよね。
 多分心の中で「変わりたくない」って思ってる部分があるんじゃない?」
 「じゃあ、それをどうやって「変わりたい」にすると?」
 「れいなは変わりたいの?」
 「……分からん」
 「じゃあさ、れいなは何で変わりたいって思うの?」

指先を軽く舐めて問い掛けるさゆに、れいなは言葉に詰まった。
何故大人というものに拘るのか。
何故かと問われた瞬間、れいなはその理由が曖昧な事に気付く。
二十歳なんだから、大人なんだからという言葉を並べてはいるものの、その人物が
まだまだコドモな部分があるのだと知ると余計に分からなくなった。

 オトナになれば分かると思っていたその答えが欲しくて。

思えば、それが初めて変化を求めたのかもしれない。
単純な場所から生まれた疑問は、れいなに焦りの色を混ぜ合わせて行た。

 「私は、今のれいなが好きだけどなぁ。
 だから、こうして同い年になったれいなにお祝いしたいって思ったんだもん。」

さゆみは事も何気にそんな発言をする。
れいなは顔が熱くなるのを感じ、グラスを傾けようとした。
中身の無いグラスからは、一滴の粒も流れてこない。

 「あ、おかわり取ってこようか?」
 「いいけん、自分で取りにいくと」


無愛想に言って、空になった小皿とグラスを持って立ち上がる。
と、突然、れいなよりも真っ赤な顔で瓶を片手に出現する黒い影。
酒独特の匂いが全身を纏っているかのように漂っている。

 「何々ー?れいな顔真っ赤だよぉー?」
 「クサッ、酔っ払いが何言うとるん…ってか、絵里まだ未成年っちゃろ?」
 「ガキさんも飲んでるから良いのー」
 「はぁ?そんなワケないやろうがっ」

絵里の背後に見えたのはMDコンポの前で何か説教しているかのような里沙の姿。
その手にはコーラがグラスの中で揺れていた。
れいなは見なかったフリをし、絵里から瓶を取り上げ、酔っ払いの首謀者である愛とジュンジュンに返した。
隣で喚く彼女を無視し、テーブルの残骸を見つめ、まだ残っているモノを適当に小皿に移す。
その隣の隣では愛佳、小春、リンリンがよく分からないゲームをし始めている。
「いももの1!」という小春の声が聞こえた気がした。

 「それにしても、絵里ってホントにお気楽やね。二十歳になる人間とは思えんと」
 「んー?あー…そういえば来月かー絵里の誕生日、ウヘヘ、大人の階段を全力疾走だよ」
 「転がってまた19歳に逆戻りとかは勘弁やけんね」
 「デキル女は風速300メートルのチカラによって羽ばたくのさーっ!」
 「あっそ」

「れいな冷たーい」と酔っ払いの絡みの如く引っ付いてくる絵里を肘で剥がすれいな。
不意に、そんな彼女を見ていると思わず自分が考えていたものがバカらしくなった。
オトナになるにしろ、コドモの自分にしろ、田中れいなは田中れいなだ。
大人への憧れは確かにある、が、それが本当にれいなが求めている大人の姿なのかは分からない。


ならその答えは、その時になれば嫌でも分かる。
今拘っていても、結局自分は自分でしかないのだから。
18才の自分におやすみなさい、19才である自分におはようございます。
でも時には、その時の自分に帰ってみるのも良い。

 自分の中に境界線を張る必要などないのだから。

 「れいなー?どうしたの?」
 「んーま、コドモな絵里にはまだ分からんことっちゃよ」
 「わーれいなにコドモ扱いされるのって何かムカつくんですけどぉ」
 「さゆに聞いても多分そう言うやろね」

バカにしたように笑顔を浮かべて言うと、絵里はフニャフニャとさゆみの傍へと行ってしまった。
さゆみと視線が合い、笑顔を浮かべると同じく笑顔を浮かべる。

「偶然」でも「必然」でもどちらでも良い。
ただここに、誰かに励まされて、守られて、守って、心から笑える世界を生きて行くのが大切な事だから。
未来の自分にタスキを渡す為に、田中れいなは、第一歩を進んだのだ。






















最終更新:2012年11月26日 00:43