(18)508 『あなたにそこにいて欲しい』

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「…うん、ワタシ気を失っていたノカ」

「あ、ジュンジュンまだ起きたらあかん。 目が覚めたんやったら道重さん呼んで来るわ」

「イヤ、イイ。 それより聞かせてクレ。 今日は何であんな無茶をシタノカ」

「……夢を視たんや…」

「ユメ、どんな夢を見たンダ」

「ちょっと遠い未来の夢。 十五年後の夢や。そこで私はリゾナンターのリーダーをしてた」

「光井がリーダーか。 久住よりは向いているダロウな」

「私は一人で敵の、ダークネスの集会に乗り込んで宣戦布告するんや」

「ダークネス、シブトイナ。 だが宣戦布告って、今既に奴らとは戦ってイルじゃないカ」

「その会合であいつらはこう言っていた。 リゾナンターは2008年に壊滅した。 リーダーの、リーダーの高橋愛は死んでしまったって」

「だからあんな事をしたノカ。 戦場に潜んでいて高橋サンを襲おうとした敵の前に立ちハダかって」

「私には敵を攻撃できる力が無いから、ああするしか手が無かったんや。」

「確かにあの時、あの敵に気付いていたのはお前だけダッタ。 だからと言って、ゴホッ、ゴホッ」

「やっぱり道重さん呼んで来るわ」

「イヤマテ。 もう少し話をシヨウ。
それでその十五年後の未来には私はいなかったノカ
リンリンも、新垣サンも」

「う、うん。 私の傍にはおらんかった」

「亀井サンもか、道重、田中もカ」

「……」

「ソウカ」

「久住さんはおったんちゃうかなあ。
念写能力で私をサポートしてくれてた」

「十五年後カ。
私はこの戦いが終わったら、歌を歌っていたいと思ってイタ。
別に歌手になって金を儲けようとかじゃナイ。
私の歌を中国の、いや日本も含めた世界中の人に聞いて欲シイ。
ただそれだけダ」

「それは私も知ってた。  
ジュンジュン、歌が上手いし。
きっとなれるよ、出来るよ」

「でも十五年後も戦いは続いてるんダナ」

「いや私の視た夢が絶対現実のことになるかはわからへん。
ひょっとしたらただの悪い夢やったかもしれへんし」

「デモお前は自分の命を賭けてでも、高橋サンを救おうとシタ。
自分では思ってるんダロ。 
それは未来に起こる出来事ダロウと。
リゾナンターの崩壊。
高橋サンの…」

「いやや、そんなん。
そんな未来やったら、私が変えてみせる」

「ダカラなのか。
だから十五年後リゾナンターのリーダーになっている自分が、今日死ねば未来は変ワル
そう思ったノカ」

「……」

「ソッカ。
光井は学校の成績はイイかも知れナイけど、バカだなあ」

「ごめんなジュンジュン。
私を庇おうとして、怪我までして」

「私のことはイイ。
とっさに獣化シタし、道重も治してクレタみたいだし」


「光井、私は前に高橋サンと話したことがアル。
ジュンジュン誰かの心の中を読ンダリ、未来を予知スルことは出来ナイ。
でもその時は何故か判ッタんだ。
高橋サンはこの戦いが終わった時、何処かに行ってシマウって。
イヤ、この戦いに勝つ為に、自分の身を投ゲダスつもりダって。」

「そんなことがあったんや」

「ジュンジュン言ったヨ。
例えダークネスをやっつけて世界が平和にナッタとシテモ、高橋サンがイナイなら…
そんな平和イラナイって。
光井、それはお前も一緒ダ。
お前のイナイ未来なら、そんな未来はジュンジュンはイヤだ」

「えっ」

「光井、今ここでモウ一度その十五年後ヲ予知してミロ」

「ちょっ、そんなん急に言われても。
視たい未来が必ず視れるってわけやないし」

「イイからヤッテみろ。
お前ならデキル」

「わかった」


私は目を閉じた。
これから視ようとするのは十五年先の未来。
目で視ようとしても視えるものではない。
傍にいるジュンジュンの息遣いと体温を感じながら、精神を集中する。
目を閉じた私の心の中を何色もの光彩が交錯する。
その中の一本を捉えた。
その光を通じて、私は意識を飛ばす。
いつかの夢で視たあの会場へ。
ダークネスの全国会議が行われている会場の風景を脳裏に思い起こす。
そこには何千人ものダークネスの能力者達がいた。

私はその会場の近くのビルの屋上に、久住さんと二人でいた。
二人とも大人の女になっていた。
私と久住さんは共鳴して会場内の一人の能力者の精神を掌握する事に成功した。
その能力者の意識を通じて、会場に私の姿を貼り付けた。
私は宣言した。
意識を研ぎ澄ませと
正義の響きは共鳴を呼び、絶えることは無いと
全ての者に告ぐ。   蒼き正義に共鳴せよと

会場周辺の警備体制は久住さんが念写していた。
人員の動員計画は私が予知していた。
全ては完璧な筈だった。
誰の血も流さずに、新しい一歩を踏み出せる。
そうなる筈だった。
混乱が沸き起こる眼下の風景を無感動に眺めながら、私たち二人は離脱しようとしていた。
でも、その時それは起こった。


会場を警備している警官隊。
一見普通の警官のようだが、その装備といい物腰といいどこか雰囲気が違う。
彼らは突然腰の警棒を抜くと、会場周辺にいた一般の民衆に襲い掛かった。
その威力は普通の警棒とは思えなかった。

私たち二人は困惑した。
私たちにはホゼナンターという支援者組織が存在する。
だが彼らの殆どは普通の人々。
能力なんて持ってない普通の人々。
だから今回の計画にも直接参加してもらっていない。
だから警官隊が襲っている人々の多くは、何の罪も無い、ただそこに居ただけの人々。
これはおそらく罠。
でも例え罠だと判っていても、そのままそこから逃げ出すことなど思いも寄らなかった。
二人はお互いの瞳を見つめると、一瞬で考えを共有した。
助けに行こう。

地上に降り立った二人。
久住さんは念写能力で敵を撹乱した。
私は敵の攻撃を回避しながら、襲われていた人々を安全な方角へ誘導した。
二人が共鳴して発電能力で攻撃を加えれば、そこにいた敵は一蹴できるだろう。
でもそれでは少なからぬ一般の人々も巻き添えにしてしまう。
だからそういうやり方で助けることにした。
でも敵の卑劣さは私たちの想像を遥かに超えていた。
私たちの姿を捉えた敵は特殊なガス弾を使用した。
一般の人はおろか、自分達の味方すら犠牲にして恥じない卑劣な攻撃。
そのガスを吸った人間は一瞬で悶絶し,地面をのたうち回っている。
久住さんが言った。

「みっつぃ、逃げて」


「え、そんなん。 私も戦います」

「こいつらの汚さはハンパじゃない。 誰かが残って敵を足止めしなくちゃ二人とも助からない。
それにこの人たちも」

「でも、でも」

「いいから行ってみっつぃー、例えあんた一人になっても、あんたはもう一人じゃない。 わかるよね。」

私は久住さんの考えを拒もうとした。
でもそうすることは出来なかった。
この戦いは私一人の戦いではないから。
久住さんと二人だけの戦いでもない。
この戦いは仲間の思いを引き継いだ戦いだから。
姿を消してしまった仲間。
思いは同じなのに、心ならずも袂を別ってしまった仲間。
世界を覆う闇を引き裂かんとする思いを抱いた全ての人々の思いを引き継いだ戦いだから。
私は久住さんを止めることはできない。
たとえ他人に仲間を見捨てた卑怯者だと罵られようとも。

久住さんはハンカチを手にして私の顔から出ていた血を拭ってくれた。
そして笑ってこう言ってくれた。

「みっつぃ、今日までありがとうね」

そんなこと、お礼を言わなあかんのはこっちの方です。

私が声をかける暇さえ与えず久住さんは敵の方へ歩いていった。
体中から殺気が溢れ出ている。
襲い掛かってくる敵の攻撃を避けようともしない。
その戦い方を見て私は思った。
敵を誰一人、自分より後ろに越えさせないようにしているんだなと。
私を逃がす為の犠牲になろうとしていると。
自分一人が助かるための戦い方なら、久住さんはもっと華麗に戦える。
でも、でも久住さんは…。
私は感情と思考を切り離した。
敵の攻撃を受けて地面に倒れ伏す人々に言った。

「動ける人はついて来て。 動けへん人は置いていく。
力の残ってる人は、弱ってる人に手を貸してもええ。
でももし倒れたらそこに置いていく。
もうすぐここは大きな雷が落ちるで、物凄く大きな」

非情に振舞えば、大切な人を戦場に置いていく悲しさから逃れられるかと思ったが、無理だった。
涙が出てきて止まらない。
人々の先頭に立ちながら、私は戦いの場から逃げようとした。
でも視線は久住さんから離すことが出来ない。
倒しても倒しても湧いて出てくる敵に囲まれてその姿を捉える事ができなくなった。

あかん、やっぱり私も戻って戦おう。
共に戦って共に死のう、そう思った時、誰かの声が私の中で響いた。

「光井は学校の成績は良カッタかもしれないけど、バカだなあ」

「えっ、この声は」

久住さんを囲む敵の群れ。
その真っ只中に何かが降って来た。
それは近くのビルの窓ガラスを突き破って降って来た。
それと言ってしまったのは、その姿が人間ではないから。

その者は四足歩行の獣の姿をしていた。
その者が鋭い爪を振るうたびに、闇が切り裂かれていった。
その者が牙を閃かせるたびに、闇が悲鳴を上げた。
その者が咆哮を上げる度に、私の心の泉から勇気が沸き出てきた。
その者の瞳は怒りに満ちていた。
その怒りは邪な怒りではない。
虐げられた者の怒りを代弁する正義の怒り。
その者の身体を覆うのは、黒と白、二つの色。
その者の名は、その人の名は、

私は目を開き、意識を喫茶リゾナントの田中さんの部屋に戻した。
そのベッドの上には、十五年後の未来、敵の罠にはまって追いつめられた私と久住さんを助けに
来てくれた人がいた。
その人はパジャマ代わりのジャージを着て、端正な顔に微かな笑みを浮かべていた。


「ジュンジュン…」

「ま、そういうコトダ。 十五年後もヨロシクダナ」

「ちょっと、これはどういう」

「ジュンジュンは未来も視えナイし、心も読めナイから光井がどんな未来を視タカ判らナイ。
ただたった今、心に決メタことがアル。  それがどういうことか、光井には判ルナ。
お前のイナイ未来なら、ジュンジュンは要らナイ。
いやお前だけじゃナイ、高橋サンも新垣サンも、亀井サンも、田中も、道重も、リンリンも
バカの久住も同じダ。
皆のいない未来なら要らナイ、意味がナイ。
ダカラ、私も一緒に連れてユケ、お前の未来二」

「…わ、わかったから。 それはちょっと感動したけど、かなり感動したけど、一つだけええか。
なんでジュンジュンは左手だけジャージから抜いて、もろ肌見せてるんや」

「これはリンリンから聞イタ。 敵に回るか、味方につくか。
それをはっきりと表明スル時、こうスルと。 左袒とか言ってタナ。
ジュンジュンは何がアッテモ光井の味方。 だからコウシタがイケナカッタのか」

「そういうのを聞いたことはあるけど、そのジャージは高橋さんのやから伸びたらあかんのちゃうかなあ。
それにそれやったら、指切りでもええんちゃうかなあ」

「指ヲ切ルノカ。 何て恐ろシイ。 ジュンジュンには出来ナイ」

「おおきに。 ありがとうな、ジュンジュン」

「喋リ過ぎタラ眠くナッタ、ちょっと寝かセロ。
それと起きてからバナナがたくさん食べタイ。 光井ヨロシクナ。 
あ、それと光井、やっぱり指切りシヨウ。 」





















最終更新:2012年11月26日 22:06