(19)164 『海上の孤島 -奪還すべき人- 』

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颯爽と牢獄島内を駆け回る愛達。
鉄の扉の向こうでは収容されている輩が奇声を上げたり叫んでいたりしている。
侵入してきた愛達に感化されているのだろうか。

島内は赤いランプの色で埋め尽くされ、サイレンが鳴り響いていた――――


   ◆◆


「愛佳次!!」
「右後方45度です!」
「焼けロ!!」

れいなとリンリンの二人が愛佳に聞き、愛佳が二人に応える。
愛佳の能力で敵の次の行動を瞬時に予知し、二人に伝えていくという戦法で進んでいた。

一方、絵里・さゆみ・ジュンジュン・小春の組はというと、
彼女たちは彼女たちなりの戦法をとって進んでいた。
小春の能力である念写で敵を混乱させ、ジュンジュンの獣化と絵里の風で敵を退ける。
さゆみは敵が死なない程度に敵を回復させ、後方支援として共に戦っていた。


あくまで今回の作戦は新垣里沙を奪還するのが目的であり、
あえて敵は殺さないようにというリーダーからのお達しがあった。
その為、さゆみは死なせない程度に敵を回復しているのである。


そして、どちらの組にもいなかったリーダー・高橋愛は、
一人で新垣里沙が捕まえられているであろう場所へと先に進んでいた。


   **


愛たちと訪問者を乗せた船はゆっくりと島に近付いていた。

「そろそろ作戦の確認をしましょう」

詳しい作戦内容はこうであった。

  • 新垣里沙は牢獄島の中でも一番警備の厳しい場所に囚われている
  • よって、少しでも警備を緩める為、島内で暴れる必要がある
  • 暴れるグループは三人、四人の二手に分かれる
  • 残り一人はその間に新垣里沙のいる場所へと気付かれぬように近付く
  • 二手に分かれたグループは、ある程度暴れた後に新垣里沙のいる場所へと行く


「けど、一番厳しい場所ってどれくらい厳しいの?」
「……確信があるわけではないけれど、いずれ処刑される者がいるという噂です」
「なっ…」
「それなら早く助けないと!」
「それは大丈夫です。
 そうだとしても、処刑されるまでに収容されてから最低一週間は日にちがありますから。
 新垣さんの場合、牢獄に入れられてまだ3日しか経っていませんので」

「それでも、早くガキさんを助けよう」


最後に愛はそう言い、目の前に現れた『海上の孤島』に目を向けた。

そして、腰のベルトに付けてあるお守りを、ゆっくりと撫でる。
それに想いを込めて、愛は立ち上がった。


    ◆◆


意外にすんなりと敵の目を欺き、掻い潜ることができた愛は、すでに白い扉の前に立っていた。
この扉の向こうには里沙が待っている。
そう思い、愛は扉の取っ手に手をかけて開けた。

扉を開けて目を見張る。
そこは部屋全体が白く、牢獄とは言えないような場所であった。
愛は少しずつ足を進め、右手にある刀を握りなおした。

「なんやここ……しかも、扉が五つとかどこにいるか分からんし」

目の前には黒塗りの鉄の扉が五つあった。
どれなのかそれぞれの扉を見ていると一つだけ、右から二番目の扉が少し開いていた。

「罠か…?」

そう思いながらも、愛は扉に手をかけて開ける。
しかし、その向こうに広がっていたのは誰もいないごく普通の牢屋だった。

愛は考える。
もしかしたらここに里沙がいたかもしれないことを。


もう一度、先ほどの広くて白い場所に出るが、他の扉は鍵がかかっていた為に開けることはできなかった。
試しに押さえ気味に小さく声を出して名前を呼んでみたが、どこからも返事は無い。
愛は考えながら、広くて白い場所の中心に立った。


「うーん…どこにいるんやろか?」


いろいろと考えを巡らせていると、いきなり床が動き出し、愛はそこから飛び退いた。
先ほどまで愛が立っていた床下から、瞬く間に螺旋階段が現れたのである。
愛はそれを見つめている間、螺旋階段は動きを止めた。
どうやら階段は天井よりも高い場所へと続いているようである。

愛は少し考えるも、目の前にある階段以外に探す場所は無く、螺旋階段を上っていくことにした。


    ◆◆


「罪人・新垣里沙。
 己は我らの敵である共鳴者と通じ機密情報を流した罪と、
 共鳴者の側に身を寄せた反逆者として死刑を言い渡す。」


今、新垣里沙は暗雲立ち込めた夜空の下、牢獄島の屋上とでも言える広い場所で刑を言い渡されていた。


先ほど、里沙の下に監視者が複数来た。
その中の一人がこれから刑を執行すると里沙に伝え、
彼らは里沙に目隠しをしてここに連れてきたのである。

処刑日は一週間後だったのではなかったのか?
そう思うも、すでに里沙は疲れきっており、理由を問いただす気力など無かった。

おぼつかない足取りで辿り着いた場所は、月や星なども出ていない夜空の下、
イエス・キリストが打ち付けられていた物と同じような十字架がそこにあった。
それはひどく不気味で異様な雰囲気を放ち、それまで冷静だった里沙の心を一瞬で乱した。


監視者の一人が、里沙の手首に繋がれている手錠の鎖を持って十字架の前へと連れていく。


一歩ずつ近付くたびに、里沙の頭の中では今までの思い出が甦ってくる。

愛と初めて出会った時のこと
絵里のお見舞いに行った時のこと
さゆみとおいしいスイーツの話で盛り上がったこと
れいなと戦いのことでたくさん話し合ったこと
小春に毎回叱っては結局甘い顔をしてしまったこと
愛佳の能力を引き出して練習に毎日付き合ったこと
ジュンジュンにバナナのことで揉めるなと言ったこと
リンリンからたくさんの笑顔をもらったこと


すべてが大切で、愛しくて、忘れられないことなのに…

自分だけが覚えていればいい。彼女たちは何も悪くないのだ。
スパイとして彼女達に近付き、敵と戦わせてしまった自分が悪いのだ。


このお守りに誓ったことも、自分だけが覚えていればいい。

十字架の前に立ち、里沙は最後の願いをする。
いつのまにか涙を流していたが、里沙はその涙を拭うことはしなかった。



そして、十字架の前に置かれた台の上に上がろうとした瞬間―――



「っ里沙ちゃん!!!」


名前を呼ばれ、咄嗟に後ろを振り向く。

そこにはここにいるはずのない
けれど、死ぬ前に一度でもいいから会いたいと願わずにはいられなかった


  ――――大切な仲間、大切な人、愛の姿がそこにはあった




    ◇◇




「彼女を解放しろ」


刀を握り締めてそう言い放つ貴女を見て、
たった三日しか経っていないのにとても久しぶりのようで。

その言葉の奥から私を懸命に探してきてくれたことが、強く伝わってきた。


    ◆◆


階段を駆け上がると、そこは塔のてっぺんにある開けた場所だった。

周囲を見渡すと、目に映るのは大きな十字架。
そしてその下には、今まで探していた求めてやまない人がいた―――


「っ里沙ちゃん!!!」


愛は声を荒げて叫ぶ。
目の前の状況を見て、分からない人なんていない。
里沙は、まさに処刑されようとする寸前だった。


「そいつを殺せ!!」


監視者の一人が声を上げ、周囲にいた者たちが一斉に愛に詰めかかる。
しかし、愛はこの状況を目の辺りにし腹を立て、怒りが頂点に達した。

刀を振り上げ、敵を斬り刻む。
もうすでに愛の頭からは敵を殺さないという約束は消えていた。
ただ刀を振り回し、里沙をここから助け出すということしか考えていなかった。


数多の敵が来ようとも冷静に斬り数を減らしていく愛に、もはや監視者達は成す術など無かった。
敵の数が減り、お互いがその場でにらみ合いとなった頃、愛は里沙の側にいる監視者に向けて言い放つ。


「彼女を解放しろ」


冷たい瞳で、下手に動いたら一瞬で斬るという意志を込めて、敵に言う愛。
里沙の側にいた監視者は鎖を離し、ゆっくりと離れた。
そして、愛は里沙のもとへと歩み寄る。


「…っ愛ちゃん、愛ちゃん!」
「里沙ちゃん、もう大丈夫やから…」


里沙は泣き出し、愛が近くに来ると身を寄せた。
そんな里沙を愛は左腕で抱きとめ、大丈夫だと諭し安心させる。


「っ愛ちゃん、わたしね」
「話すんは後や。今はここから出ることを考えようか」


話そうとする里沙に後からでいいと抱きしめたまま言う。
里沙はさらに泣き出すかと思ったが、涙を押しとどめ黙った。


「…っと、その前に」
「愛ちゃん…?」


愛は里沙を離し、監視者のほうへと近付く。


「里沙ちゃんの手首に付いてる手錠。あれ取る為の鍵とか誰か持っとらん?」


冷たい言い方で問いただす愛。
さすがに愛の前では何もできないと思ったのか、
誰も抵抗はせず一人の監視者が鍵を愛の方へと放り投げた。
愛はその鍵を拾い上げ、里沙の手首に付いている手錠を開錠した。


「さあ、帰ろうか」


そう言って里沙に手を差し伸べる愛。
当然のように、里沙は手を重ねてくれると思っていた。

しかし―――


「無理だよ、愛ちゃん」


里沙は俯きながら、言葉を搾り出すように愛に言った。


「…っな、なんでぇ?」


愛は混乱する。


「もう、一緒に帰れないよ…」


そう言いながら、里沙は顔を上げて愛を見つめる。


「……私は、闇から逃れることができない」
「いきなり、何言ってるんやっ…そんなこと、ここから出ればいいだけ」
「ダメなんだよ!」


声を荒げて説得する愛を止める。


「ダメなんだよ…もう、…帰れない…」


再び涙を流し始める里沙。
なぜ帰れないというのか、なぜダメだと言うのか。
愛は混乱し、目の前にいる里沙がどこか遠くにいるように感じた。


「……里沙ちゃん…」


愛が里沙の泣く姿を見つめていると、視界の端で敵が動く気配を感じた。
無防備になったと思い敵は攻撃を仕掛けてくるが、
今の愛は神経質になっているせいと里沙が傍にいる為、
敵からの攻撃をすべて回避し里沙を守りながら、敵を斬っていった。


その場にいた敵がまったくいなくなった頃、愛は口を開き里沙に言う。


「なんで里沙ちゃんが帰れんのか、あーしは分からん。
 けど、一つだけ言えることがある。
 …みんなは、あーしも、里沙ちゃんのことを責めとらんよ。
 嫌ってないし、むしろ嫌ってたらここまで来とらんし。
 だからそんな、帰れんとか言わんでよ。
 仲間への後ろめたさから帰れんとか言ってるんなら…

 そんなん、考えんでえーよ。仲間やろ、一緒に帰ろう。」


愛は再び、血で汚れていない左手を里沙に差し伸べる。

そんなにも苦しめているなら包み込めるように
そのつらさを少しでも和らげることができるように

そんな思いを込めて、なかなか顔を上げない里沙にもどかしくなり、
差し伸べていた左手で里沙の身体ごと抱きしめる。


「里沙ちゃんが帰らんって言うなら、あーしも帰らんよ」


なぜそこまでして帰れないというのか分からないが、
愛は大丈夫だからと安心させるように里沙を優しく抱きしめる。
里沙もまた両腕を愛の背中に回し、さらに涙を流す。


「……帰るから、…帰らないって言わないでよ」


愛はその言葉に少し驚くが、素直じゃない里沙を可愛く思い微笑む。


「良かった。帰らんと、みんなに何言われるか分からんからな」


やっと泣き止んだのか、里沙は身体を離す。
愛は身体を離すも、腕はまだ里沙の背中に回しているまま。

「もう、大丈夫だから」
「ホントかー?」
「もうっ、ホントだよ」

いつもの里沙に戻った気がして、またも愛は微笑む。


「よし、じゃあ…」
「待って!」
「へ?」
「その前に、言いにくいんだけど…」
「…なんや?」

なかなかその先の言葉を口に出さない里沙を、愛は少し疑いながらも待つ。

「あのね……お守り、置いてきちゃって…」
「…は?」
「あ、あのね、私が収容されてた牢屋に、置いてきちゃって…それで…」


里沙は困った顔をして言うが、またも愛はそんな里沙を可愛いと思う。


「…取りに戻りたいんやろ、ええよ」


今の疲弊しきっている状態の里沙を連れていくのは少し気が引けるが、
里沙がいないとお守りがどこにあるのか分からないので渋々了承する。

その代わり、帰るまで里沙が傷付かないようにしっかりと守ろうと、密かに愛は誓った。





















最終更新:2012年11月27日 00:08