(19)277 『その女、K』



その女は闇の装いを身に着けて現れた。

「助けてくれ、俺を殺さないでくれ」
「…聞かせてもらおうかしら。 何故安倍なつみを殺そうとしたかを」

俺は喋った。
自分はダークネスに入りたかったということを。
ダークネスの幹部の一人と接触したら、ある試験を課せられたということを。
ダークネスは少数精鋭の能力至上主義。
もしその幹部の一員として迎え入れられたいのなら、誰か幹部級の能力者を倒さねばならない。
安倍なつみを抹殺せよ。
彼女は組織最大の功労者、でも今は最悪の反乱分子。
誰もが苦々しく思っているが、誰もが手を出すことはできない。

「だから…」
「だから倒そうとしたんだ、それだけだ」

女は憐れむような笑みを浮かべた。

「その幹部も貴方も何か誤解しているみたいだけど、安倍なつみは反乱分子ではないわ。
私たちのような強い力を持っていない人間には到底理解できないでしょうけどね。
彼女は私たちダークネスの能力者にとっての太陽。
今は光り輝くことは叶わないけど、かつては眩い限りに輝いていた。
闇の中でしか生きていくことの出来ない私たちにはお似合いの真夜中の太陽。
そんな安倍なつみに危害を加えようという貴方を私は…許さない」

俺の心臓が悲鳴を上げ、その鼓動がどんどん緩やかに限りなく緩やかに、呼吸を維持できないほどに緩やかになっていく
薄れていく意識の中で俺はある能力者の噂を思い出した。
A、R、ミティ…コードネーム持ちの能力者と同等以上の力を持ちながら、コードネームを持たない女の噂。
でもその女の名がアルファベットの11番目の文字と同じ響きを持つことから、ある者はこう呼ぶ。
その女、K   以上(酒場からホゼナント)





















最終更新:2012年11月27日 00:22