(02)034 『the Resonanter i914』

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「あ、ここで、降ります。」

そう言ったあたしに、運転手は複雑な表情をした。
そりゃ、そうだ。こんなめったに車も通らない、山奥で。
急に降りるなんて言い出したものだから。
自殺か、何かを埋めるか、そんな風に思ったに違いない。


「あ、ちがくて。なんていうか、この近くに、祖母の墓があって…」

慌てて、花を見せると、彼はいくらかましな顔になった。
運転手は待とうか、と言ってくれたけど、親戚も来るから大丈夫、と答えた。

帰りのことは気にしなくて良い。
イメージがあれば、すぐに帰れる。
この場所にタクシーを使わないといけなかったのは、
その正確なイメージがなかったから。

車を降り、道なき道を入っていく。

しばらく歩いて出たのは、村落。
正確には、村落の跡地。
過疎化の影響か、最早誰も住んではいなかった。

なんやの。ちょっと身構えてたのに。

素朴な木造の家屋がいくつか立ち並ぶ。
その全てが、鬱蒼とした蔦に覆われていた。
あたしは迷わず、その外れにある、粗末な家屋を目指した。



『死ね』『猿』『鬼』

「だれが猿やねん」

一面に貼られた、誹謗のチラシは、色あせていた。
剥がす事なんて簡単だ。
でも、それはしない。
この字を書いた人間の、そしてあたしらの生きた証のような気がしたから。


「ただいま。」

苔むした玄関の横から、庭へ。
こんもりとした一部分に、持ってきた花を捧げた。

「来ちゃった」

高橋愛。あたしは、作られた能力者。



あたしは祖母と二人で、この村落に住んでいた。
はっきりとした記憶はないが、幼い頃、ここに越してきたらしい。

祖母はもともとこの村落の出身だったらしく、
なんの蟠りもなく、この村に溶け込んでいた。



「いいかい、愛。お前は特別な人間なんだよ。」

そういう言葉で毎日始まる祖母との『やくそくのじかん』

「ひとのまえでは、チカラをつかわない」

そう言うと、少し寂しそうな眼であたしを撫でた祖母の手の意味を
あたしは本当の意味でわかってはいなかった。


母も父もいなかったが、それが悲しいと感じたことはなかった。
当たり前だ、もともと持っていなかったのだから。

祖母と、ともだちがいれば良かった。
あたしの幸せな世界は、そこにあったから。


集落は、嫌なくらい緑に囲まれた山の中だったけど、
少し降りれば、川があった。

夏が来ると、友達みんなでそこに泳ぎに行くのが、何よりの楽しみだった。
あたしは、泳げんけど、足のつくところで、魚をおっかけたり。
それなりに楽しかった。

「がっ…」

どうしたことか、友達の一人が、足を掬われたらしく、
川下の方へ、すごい勢いで流されていく。
あの子は普段、誰よりも上手く、速く泳げるのに。
友達が皆、パニックになった。
迷っている暇は、なかった。

「まことちゃんの体が消えて。」
「急に愛ちゃんの側に」
そう言った子ども証言は、どのようなロジックを辿ればそうなるのか

「愛がおかしな力を使って、あの子を殺そうとした」
「愛には悪魔の血が通っている」
そう、大人の中に浸透した。


あの日から、村人の態度が変わった。
そこに、あたしがいるのに、村の皆は、まるでいないように扱った。
そして自分自身も、おかしくなっていることに気付いた。

『あれが呪われた力の…』
『化け物め』
『気持ち悪い能力だな』
『どうしよう、目があっちゃったけど、わたし、何かされるんじゃないかしら』

決して、口には出さない。
人の心の奥底の声が、音になって、文字になって、あたしの心に流れ込み始めたのだ。
ヒトの心との、共鳴。
よりにもよって、こんな時に、そのチカラが発現し始めた。

人々はあたしを無視したつもりだろう、
あたしからすればそれは無視なんかじゃなかった。

心の中で、信じられないような冷たい言葉を発していた。
どんなに優しそうな人でも、どんなに正しそうな人でも、
女の子でも男の子でも同じこと。

発現し始めたばかりのそのチカラを抑える術をあたしは知らず、
夜毎、心は狂乱した。

憎しみ、怨み、憎しみ
そんなものに染まっている自分が許せなくて。
自分の力を恨んだ
自分の誕生を憎んだ

祖母にそんな姿を見せるわけにはいかなかった。
ただでさえ、あたしの親族ということで、
辛い思いをしていることだろうから。


「あいちゃん!!」

いつものように日の光を浴びないような場所を歩いていたら、
そう呼び止められた。

「まこ…と…」
『愛ちゃん、逢いたかった』
言葉ではなく、心の声を聞いた時、あたしは泣かずにはいられなかった。

「愛ちゃん、ホントに、ゴメンね…」

誰にも見つからない、村はずれで話そうと提案したのは、あたしだった。
まことは、何度もそう呟いて、涙を零した。
あたしはまことの話なんか聞かず、
まことの心の声を聞いていた。
偽りのない、まことの心。
わたしは自分の中で、ツマミの様なものを必死にイメージして、
少しずつ、まことの声を消していった。

この子のことは、信じて良いと、わかったから。

「泣きやめって、マコトー不細工がし」

「え、ちょっと、愛ちゃん」

「あーし、あんたに謝られるために、助けたんじゃ、ないがし。」



「おばぁちゃん!おばあちゃん!!」

今まで静かだった差別のやり口が、急に表向きになった。
あたしが、マコトと会っているのが、バレたからだ。
「マコを操って、殺す気だろうが!!」

村の、オトナたちが、あたしの家に殴り込みに来た。
あたしは、どんな万能の能力なのか。

「汚らわしい血め!』『出てけ!」「殺そう』『こいつを殺しても、罪にはならない」「死ねしねしね!』
それはもう、ヒトの声なのか、心の声なのか、わからなかった。
感応したくない心にも、共鳴する、この能力。

『人殺しめ』

「あ、あたしは、そんな怖い人間やない!人なんて、殺さえん!」

「な、なんで、オレの心の中がわかった!?」

思わず返答してしまったと気付いた時には遅かった。
皆の目が変わる。冷たく、光る漆黒の蒼。
誰ともなくその狂気が、行動に出始めた。
あたしを狙う、幾つもの打撃。

『右、左だっ!ええい、小賢しい!!』

「愛!!」

その狂打の標的は、飛び込んできた祖母になった

頭を抱えてうずくまる祖母を抱えて、家の中に。
飛び込む、石や、火炎瓶、飛び散るガラスには、なんの恐怖も抱かなかった。
雪崩込む心の声が、あたしの心を突き刺す。
心の真ん中がおかしくなりそうだった。
おかしくなってしまいたかった。どうして、こんな目に遭うのか。
心の中が青く渦を巻いて、悲鳴を上げる。青い炎に、身を焼かれるようだった。

静かになってからも、震えは止まらず、ただ座り込むあたしは、祖母が動かないことにやっと気付いた。
「おばあちゃん、あたしのせいで、あーしのせいで…」
涙が、出た。祖母の前では泣いてはいけないと、自分の中で、約束していたのに。

『愛…』
それは、祖母の心の声
『あんたは、悪くない。あんたの力で、マコトちゃん、助けられたやろ?』

「あ…。」

『愛、あんたは、特別な人間や。やから、この力、隠して生きていくしか、ない。』
『そう、言い続けるのが正しいと思うとった。愛、ここを、出て行き。』

「え?」

『いつか、言おうと思うてた。でも、逃げるように出たら、愛の心は、壊れたまんまなんやないか、って。』

祖母はゆるりと目を開けると、
声を出して、語り始めた。

「マコトちゃんと、話せたあんたは、人間がただ、冷たい生き物やないって、わかったやろ?」

でも、世の中には、そのことがわからん能力者がいっぱいおる。
あんたと同じような、孤独を抱える人間が、いっぱいおる。

『その子らを、その精神感応で、助けるんよ』

「助ける…そんなの無理やぁ!あーしは、あーし、は…」

明らかに、心の声が、遠のいていく。嫌だ、おばあちゃん。ずっと、繋がっていたい。

―独りにしないで―

その自分の心の叫びに、はっとする。
この感情を抱えすぎて、あのオトナたちは、こんなことをするのか。孤独にならないために。孤独が恐ろしいから、連帯を乱す、あたしを壊そうとするのか。

『戸棚の奥…お母さ…手紙』
「え?」

祖母は、そう言って、息を引き取った。あたしの、手の中で。


見たことも、感じたこともない、母からの手紙。
それは、祖母に宛てたものだった。

そこには、恐るべき事実が書かれていた。

世界征服を目論む、悪の結社。
孤独を増幅させることによって、
ヒトを支配する、その首領ダークネス。

彼の指示によって始まった、幼児に能力を植え付ける研究の話。
精神感応、瞬間移動……残りの、カタカナばっかで知らない力。
一人で幾つもの能力を持った子どもを作るのが、
この研究の目的らしい。
それが発現するかどうかは、その子次第。

身の毛もよだつような、壮絶な実験の後、
成功例として、献上されたのが、あたしだった。

研究者であった両親は、あたしを組織から逃がしたらしい。
父はその道中、凶弾に倒れた。

手紙の最後には、“i914”をよろしくと書かれていた。
なるほど、それで、あたしは“愛”なのか。
祖母が何を思って、この手紙を託したのかは、わからなかった。

祖母を静かに庭に埋める。正確には、土の中へ、移動させた。

記憶の中にある、都会のイメージ。
そこがどこなのか、わからない。この力、めいっぱい使って、そこで生きていくことにした。

逃げるんじゃない。ここにいれば、あたしと人との違いが、村の人たちの不安を生み出す。
不安は、孤独の予防線。


それに、誰かの声を感じ取ったんだ。

―ねぇ、ねぇ、誰か―

微かだけど、確かに聞こえる。



今は、一人の、朝。

けれど近い将来、それは変わる気がした。
生きる希望を見出した。
あたしを必要としてくれる人間がいるなら、この命、捧げよう。


テレポートのため、あたしは一時、光の粒になる。
朝焼けに透けていく自分の体を見ながら、
あたしはその村を抜けだした。




「ガキさぁん、愛ちゃんからメールきました?」
「うん、さっきやっと来たよ。圏外のとこ行ってたんだって。まったく…」

私は、丁寧に携帯を置くと、彼女の帰りを待つことにした。
みんな基本的には、リーダーに絶対の信頼を置いていて、こうやって急に連絡がつかなくなっても心配しない。

「まーた、新メンバーつれてきたりして~」
「可愛い子やろね。愛ちゃん、美少女好きやけん。」

うん、今の、撤回。愛ちゃんと連絡が取れたとわかるやいなや、みんな急に喋り始めた。

愛ちゃんは不思議な子だ。
別にこれといって、皆を結び付けようとしている訳ではない。むしろ、放任主義。心をいたずらに覗いたりはしない。

だから、私たちはしょっちゅう、ぶつかり合う。それなのに、任務のない日でもこうして集まってしまうのは、彼女のよくわからない魅力もその一因かもしれない。

愛ちゃんは、どのような人生を送ってきたのか。
あまり話そうとしない。


精神感応は、生きていく上で最も辛い力だと、習ったことがある。

大抵、その末路は退廃的。精神に異常を来して、自殺するか、あるいは有能な殺戮者になる。
事実、戦いにおいて、彼女が窮地に陥ったのを見た記憶がない。

ある意味、自己犠牲で、人を助けようとする精神は、一種そのような狂気なのかもしれない。
彼女がもう少し、狡猾であれば、私は全精力を使って、出逢った段階で高橋愛を潰しただろう。

先代リゾナンター最後の生き残り、高橋愛。
あの時下っ端であった彼女が、どうしてもう一度、リゾナンターを集結させるのか。

彼女の過去はいくら調べても、その全容を掴むに至らなかった。
しかしそれ以上に私の“任務”の手を鈍らせたのは、
彼女にも、そしてこの仲間達にも、私は幾分かの愛情を持ってしまっていたからだ。

辺りが不意に輝きはじめる。

「ただいまー」
恐ろしいロリ声を発しながら、急に後ろから抱きしめられた。瞬間移動、テレポーテーション。


「はい、おみやげ~蟹こうてきたやよ~」
「わーい!!」

産地直送の蟹を奪い合うジュンジュンと小春を注意しながら、愛ちゃんの私を抱きしめる腕が、いつもより強いことに気付いた。

「あーし、頑張るよ。」

それが、一体誰に対しての言葉なのか、わからなったけれど、
今はもう少し、ここで彼女の温かさに触れていたい、そう願った。





( ・e・)<って、この人数で、1匹?

川*’ー’)<あかんかった?

( ・e・)<今すぐ買い足してこい




















最終更新:2012年12月17日 11:35