(19)431 『コードネーム「pepper」- Inside story I』

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 ( Inside story Ⅰ:第10話)

土居研究員は口を真一文字に結び、警察庁科学技術局の廊下を大股に歩いていた。
ついさっき、LINLINから連絡が入り、「pepper」のメンバー、レイナとコハルが亡くなった事を知らされたのである。

「気持ちの真っすぐな娘たちだった…」とつぶやく。
彼は、彼女らが好きだった。真剣に格闘技術を学ぶ姿、仲間を思いやり、励ましあう姿…。
その命が、理不尽に失われた事を思うと、胸が熱くなる。

彼は「第一特殊作戦指令部」と書かれたドアを開けると、ためらう事無く中に歩みを進める。
本部席の中央、局長代行の席には、入ってきた土居研究員にも気付かぬ様子の秋元が、茫然自失の体で座っていた。
足早に歩み寄った土居研究員が声を荒らげる。
「秋元さん! アンタ、何を考えているんだ!? 阿久博士からも聞いているはずだ…、彼女たちはただのガイノイドではないと! アンタのやっている事は、殺人と変らないぞ!」
秋元はやっと土居研究員に気付いたように、ゆっくりと目を上げる。だが、その視線は宙を泳いでいるように見えた。
「な、何を言っているんだ…? バカな、あれはただのガイノイドだよ…。危険なロボットなんだ…」
「しかし、俺はどうしたらいい…? まさかAK-B8が潰されるなんて…。 しかも2個中隊が壊滅だと…。 重大な責任問題になるぞ…?」
秋元は土居研究員の怒りをよそに、熱にうかされたように話し続ける。
「そうだ、自爆だ…! 残ったAK-B40全てに、自爆用の爆弾を仕込むんだ…! No.1さえ破壊すれば、あとはさほど怖くない…。 1体づつ接近して自爆させる…! なんとしててもあれを全滅させなければ、俺の立場が無い…!」
ふらふらと立ち上がりながら言い続ける秋元がふと見上げると、そこにはすでに怒りを通り越し、氷のような冷徹さをたたえた土居研究員の眼があった。

ブンッ…と、土居の右腕が唸りを上げる。最小限の動きから発せられた掌底が、秋元の顎の先端を横殴りに打ち抜いた。頚椎を中心に強烈な回転をくらった脳は完全な脳震盪を起こし…、コントロールを失った秋元の身体が、糸の切れたマリオネットの様にフロアに崩れ落ちる。

土居研究員は秋元局長代行の机の上から無造作に一枚の紙を取ると、太いマジックペンを手に取り、「辞表 土居 甫」と書くと、失神している秋元の顔に貼り付ける。
ふと振り返ると、二人の若い警備の警官が唖然として土居を見つめていた。
「…コイツが目を覚ましたら、刑事告訴でも何でもしろ、と伝えてくれ。俺は逃げも隠れもしない」
「ただ、今は行かせてもらうぞ? もし邪魔をするなら…」
「…いいえ」
と、警官が答える。
「我々二人がかりでも、土居先輩には敵わないでしょう…。 …皆さんの無事をお祈り致します」
「…なんだ、お前らか…!?」
二人の警官は、特別機動在籍時に、土居が格闘技術の指導にあたった若者であった。
「ありがとう…。すまんが、行かせてもらうぞ…」
立ち去る土居の後姿を、二人の警官は敬礼で見送っていた。

自分の席に戻り、デスク上に警察手帳、通行証、車のキーなどを返却する。
これで「pepper」たち用の移送車両は使えなくなってしまった…。レンタカーでも借りていくしかないな…、などと考えながら廊下を歩いていくと、後ろから金髪の小柄な男が追ってくる。
「土居!! 土居!! ちょっと待ちいな!!」
「寺田か…。 今、秋元に辞表を出して来ちまった。 あとはよろしく頼むわ。俺は阿久博士と、アイたちを迎えに行く」
「そうか…。あの時俺が余計な事をしたせいで、エライ事になってもうたな…」
「悪気は無かったんや…。大阪から来たばかりで、彼女らの事、よう知らんかったからなあ…」
「…ああ、わかってるよ…。博士も、別にお前の事を悪くは思ってないと思うぞ」
「これ、彼女らの移送車のキーや。俺の名前で貸し出して来とる。好きに使ってくれや」
「…お、良いのか? 助かる。」
「うん、何かあったかて、俺が始末書書く位なんでもないわ。博士にもよろしく言うといたってな…」
おう、と手を振ると、土居は駐車場への廊下を走り出した。






























最終更新:2012年11月27日 08:27