(20)061 『海上の孤島 -闇を退き、光を纏いて- 』



あの後、しばらくして仲間たちがやってきた。
仲間たちは二人の姿を見つけ、すぐに笑顔で里沙のもとに駆け寄る。

里沙は久しぶりの再会で嬉しく思うが、同時に裏切ったことを思うと少しいたたまれなくなった。
だが、そんな里沙の背中を隣で支える愛の手の温もりを感じて、里沙は大丈夫だと自分に強く思わせた。
普段通りに戻った里沙を見て、愛はやっと安心することができた。
これならあの店にみんなで帰ることができると、心の中で確信する。

しかし愛は許しても、皆の心中は分からず。
仲間の内の一人、田中れいなが反発した。


「…れいなはガキさんを許せん」


他の皆が里沙との再会を喜んでいたとき、その言葉を聞いて皆は驚きれいなを見た。


「ガキさんは裏切りよった」
「でもれいな!さっきまで助けようって言ってたじゃんっ」
「助けるのと許すのは別やん」



ある意味、れいなの言っていることは正しかった。
助けてほしいと求めた共鳴が裏切り者だった人からのだと知って、
助けることはできたとしても許すことはできないものだ。
それに、れいなの言う通り助けることと許すことは別である。
仲間のほとんどはどんな理由があっても里沙を許すつもりではあったが、
れいなだけは違い、里沙のことを冷静に考えていた。


「れいなは、ガキさんを許せんけん。
 だから一緒に帰っても、また仲間としてやっていけるかどうかは分からん」


れいなは本当の気持ちを里沙に伝える。


「ガキさんはスパイやったっちゃろ?
 あたしたちの情報は敵に見破られてるし、逆にあたしたちは敵の情報を持ってないけん不利やん。
 どう考えたってガキさんはあたしたちを苦しめた存在や」
「っれいな!」


絵里がれいなを一喝する。
しかし、れいなは怯まず続ける。


「やけんガキさん。
 他のみんなは許してるかもしれんけど、あたしはガキさんのことを許せんし信用できん」


里沙はれいなを見つめ、れいなもまた里沙だけを見つめたままだった。
れいなはあまりにも正直で、冷静に言葉を投げかけた。
そして里沙はそんな彼女の言葉を真摯に受け止め、心に落ちる影を感じながらも言葉を発した。


「…そうだね、田中っちの言うとおりだよ」
「ガキさん…」
「カメ、庇ってくれてありがとね」

里沙は絵里を見て笑顔で言う。

「愛ちゃんも、みんなも…」

周りにいる皆を見渡して里沙は言う。


「やっぱり、裏切り者は裏切り者なんだよ。
 だから、たとえみんなが受け入れてくれようとも私は一緒に帰れない。…ごめんね…」


里沙は涙を流しはしなかった。
しかし、いつも見る笑顔よりも落ち込んだ顔で言った言葉は、仲間の心に悲しみを落とした。


「そんなこと言わないでくださいよ!」
「一緒に帰リマス!」


口々に里沙を説得しようと試みる仲間たち。
里沙はそんな皆の言葉に感謝するが、彼女の意志は少しずつ違う方向へと進む。

泣き出す仲間たちに笑顔を送る。
まだ見つめているれいなの表情は少し複雑そうで。
そして愛だけは何も言わず、里沙と仲間たちを遠くから見て話を聞いていた。


「……だから愛ちゃん…これからは私がいなくても…」


愛に今後のことを頼むという里沙。
そんなことを言える立場でないが、言わずにはいられなかった。
それほど里沙は仲間を愛し、共に闘ってきた人達だからこそ言いたかった。

複雑な気持ちで聞いた愛は、里沙を見つめる。
そして、口を開き問う。


「里沙ちゃん、なんで…」




その時、愛の視界の端に見えた銀色の小さな物体。
その物体は仲間のいる間をすり抜け、目の前に立っている里沙の腹部に吸い込まれるように入っていった。
そこから吹き散る赤い液体が、愛の右頬に付着する。


目の前で倒れゆく里沙に手を伸ばす仲間。

はたまた武器を握り締め周囲を伺う仲間。


愛はただ、倒れる里沙を見つめることしかできなかった。



「……新垣里沙に、死を…」



銃を撃った者こそ、先ほど愛に斬られて死んだと思われた、闇に属すあの訪問者だった。



    **


さゆみは真っ先に里沙の傷口に手を当て、治療を始めた。
しかし、力を注げど一向に治る気配が無く、代わりに絵里が傷を移動させようと思ってもできなかった。


「どうして治らないのっ」
「絵里もできないよ!」


血は止まることなく傷口から流れ続けている。
横になっている里沙の顔は少しずつ青ざめていった。


「お前死んだとなかったと!?」
「…ここは特別な部屋。貴女たちは私の手中にあることを忘れるな」
「っお前なんか死んでしまえ!!」


怒りの表情を浮かべ敵に突進していこうという時


「やめろ!!」


急な叫び声に、攻撃をしかけようとした仲間は咄嗟に止まり。
闇の訪問者も攻撃をしようと銃の標準を定めた腕をそのままにして、叫んだ相手に目を向けた。


「……里沙ちゃん」


その叫び声は愛のものだった。

愛は皆が攻撃をやめたことを視界の端で確認すると、里沙のもとに歩み寄り傍に膝をつく。
そして傷口に優しく手のひらで触れ、命の危機に瀕しているのにもかかわらず、
いかにも愛は里沙を助けることができるような優しい言葉で、里沙を見つめて言った。


「里沙ちゃんを撃った奴はあーしが倒すから。
 大丈夫やから、そのまま死なせんからな」
「…あい、ちゃん…」


言い終わると愛はその場で立ち上がり、闇の訪問者の方へと近くに寄る。


「こいつはあーしが倒すから、みんなは手を出さんで」
「でも!!」
「でもやない。その代わり、里沙ちゃんを守っとって」


その言葉を最後に、愛は全神経すべてを闇の訪問者へと向けた。



その手に握るは闇を斬ってきた刀
もう一方の手には大切な人の命を握り
その瞳の奥に宿す怒りと憎しみが闇を捉える

ただ頭の中にあるのは、目の前にいる敵を倒すということのみ


大切な人に微笑むのは後でいい
手を取り合って、笑って一緒に帰ることを目標にして



瞬時の合図で愛は地面を蹴り、笑い狂う敵に刀を振るった――――





















最終更新:2012年11月27日 08:57