(20)658 名無し募集中。。。 (緑炎の意味)

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東京都上野動物園から白熊猫が強奪される事件が発生した。
犯行手口等、本国からの情報と事件を突き合わせて分析するに、
犯人グループは最近頻繁に御神体の密漁、密輸を繰り返している窃盗団と推測される。
彼女は一報を受けて迅速に動いた。
リゾナンターとしてのリンリンではなく、刃千吏所属護衛官の銭琳として。


――緑炎の意味――


黒い光沢を放つバイクを駆り、
これも黒のライダースーツに身を包む琳が行き着いた先は港湾地区の倉庫街、その一角だっ

た。
太平洋を列島沿いに迂回して日本海側から半島経由で御神体を輸送するつもりだろう。
裏稼業に身を置く者にとってはあまりに御馴染みの手口だ。
目的は御神体の保護と、犯人グループの拘束。
状況次第では殺害の許可も出ている。
念動力で速度を加えつつ、琳は素早く目標の巨大な倉庫の壁面へ忍び寄る。
路上に積み上げられた木箱に音もなく跳び乗り、通風孔から内部の様子を窺った。
倉庫内の光源はコンテナのひとつに無造作に置かれたランプが数個のみ。
御神体は周囲にうず高く積み上げられたコンテナの陰、檻の中で静かにうずくまっている。
わずかな蠢きから、御神体にまだ息があることを確認してひとまず安心を得る。
毛皮のみが目的の犯行なら盗み出した直後に殺害、というケースも少なくはない。
見下ろした敵の数は気配と視覚から確認できる限り五人。
予想より少ない。
内三人は木箱に並べた酒を呑気に呷っている。

見張り役らしい二人は倉庫の入り口へ気配を尖らせていた。
琳は見張り役が手に持つ得物を注視する。
T-54。
通称、黒星拳銃。
旧ソ連で開発されたトカレフを本国でライセンス生産した、はっきり言って粗悪品だ。
貫通力には優れるがその分、急所さえ外せば命を獲られる心配はない。
日本国内で小規模な窃盗団が入手するとすれば妥当だろう。
対してこちらは米国に赴任している同胞から在日米軍経由でベレッタM92FSにレミントン M1100、M16A3を携えて来ている。
散弾銃やアサルトライフルのフルオート射撃は御神体の安全を考慮すると危険と判断し、琳 は足元の木箱にその二丁と予備弾薬を置いた。
敵の人数と得物を考えれば拳銃ひとつ、ベレッタのみで事足りるだろう。
単純に得物を比較しても、粗悪品のトカレフと米軍正式採用のベレッタでは精度も信頼性も 段違いだ。

彼我の戦力を冷静に分析し、琳は行動に出た。
手に握った無線式の起爆装置のスイッチを押す。
刹那、倉庫の重々しい扉が派手な爆音を立てて内側に引き裂ける。
あらかじめ雷管ごと仕掛けてあったC4プラスチック爆薬の効果だ。
見張り役の二人は慌てて銃口を入り口に向け、酒盛りをしていた三人も懐に手を伸ばす。
だがそちらは陽動。
琳は通風孔の換気扇のプロペラを無造作に握り一瞬で焼き尽くすと、滑らかに倉庫の内部へ とその身を滑り込ませる。

「……、違う囮だッ! 通風孔!」

その不自然に素早い反応に、琳は一瞬虚を突かれた。
男達の銃口が一斉にこちらへと向けられ、琳は舌打ちしつつ壁を蹴りコンテナの陰へと身を投げる。
苛烈な発砲音と甲高い衝撃が背中を預けたコンテナ越しに轟いてくる。
腿に巻きつけたホルスターからベレッタを抜き、
がむしゃらに撃ち続けていた敵の一人の銃がスライドを後退させ弾切れを知らせた音を合図に、コンテナの陰から踊り出る。

「右だ!」

読まれた?!
身を出した瞬間に弾幕に晒され、琳は咄嗟に地面を走り抜け、
マガジンを交換中だった一人の胴体に辛うじて三発撃ち込みまた別のコンテナへと身を隠す。

「刃千吏。この早さでご登場ってことは銭琳か」

母国語で問い掛けられ、同時にその内容に驚愕する。
刃千吏を知っている。
その存在は情報統制の厳しい本国内でもとりわけの国家機密だ。
それを知っているということはその暗部に絡んだことのある人間か。
否。

「半分正解ってトコだな。別に刃千吏に直接絡んだことはない。
 だがまあお国の暗部に関わってたってのは事実だ」

こちらの思考が読まれている。
精神感応能力者(テレパシスト)だ。

「おい。生きてるか」
「ああ。危うく内臓グチャグチャにされるトコだったがな。ったく大した腕前だ」


男の問いかけに応じたのは先に撃ち倒した一人だ。
防弾ベストをつけていても本来なら肋骨がへし折れて動けない筈。
にも関わらずあの飄げた口調。
視線を移すとひしゃげた弾頭が地面に転がっているのが視認できる。
念動力者(サイコキネシスト)か。
それも銃弾を弾き返すほどのレベルの。

「ご明察。ついでに残りの面子も紹介しとこうか」

不意に、肩に人の手が触れるのを感じた。
見れば空間を突き抜けて男の掌が琳の肩を掴んでいる。
腰元からナイフを抜いてそれを引き裂くより早く、腕はするりと引っ込められた。

「銭琳本人だ。間違いない」

また別の声が言った。
今の掌は接触感応能力者(サイコメトラー)のものか。
同時に、その腕だけを琳の傍まで転移させた空間制御能力者(テレポーター)もいる様子だ。

「これで四人だな。あとの一人も無論、能力者だ。能力は――」

男が言いかけた瞬間、琳の脳裏を戦慄が走り抜けた。
反射的にコンテナから跳び退く。
直後、琳が背を預けていたコンテナが轟音を立てて炎上した。

「――ご覧の通り、アンタと同じ自然発火能力(パイロキネシス)だ」


「……私を、知っている?」
「ああ。アンタ有名だからなぁ。俺達が飼われてた施設の研究員の頭を覗いたら色々と読めたぜ」

施設。
聞いたことはある。
本国のまた別の暗部。
超能力者の"製造工場"。
確か、事故があって再建不可能な状況に追い込まれたと風の噂に聞いていたが。

「そうそう。その事故な。さんざん薬打たれて脳ミソに電極差し込まれて、
 拷問みたいな研究に付き合わされたお陰でキレちまってなぁ。
 俺たちで潰してやったよ」
「……つまり、本国に牙を剥いた敵。そういう認識で間違いないのね」
「おおぅ。流石、刃千吏の護衛官殿は愛国心が強くてらっしゃる。
 けどそんな態度を取るのはどうだろうなぁ。
 確か、アンタの能力は念動力と自然発火。レベルは五段階でC。
 天然モノとしては大したレベルだが、人工物の俺らと比較すると不足だな。
 俺の精神感応は能力者相手に鈍っちまうからアレだが、全員レベルは最高評価のAだぜ」

確かに、琳の念動力では銃弾を弾き返すことはできないし、
自然発火も遠距離からコンテナを炎上させるレベルには至らない。
超能力戦では確かにこちらが不利だ。

「念動力はせいぜい人間が担げる程度の重量を自在に操れる程度。
 自然発火に至っては掌で掴まなければ発動しない。
 緑炎で御神体を導く銭家の神童も俺らの前じゃ形無しだな。
 まあ、そういうわけだから――」

呟いて、男は身を晒した琳の心臓に銃口を向ける。

「――大人しく死んでくれや」


男の指が引き金にかかる。
それが絞り込まれようとした、刹那。

「お断りよ」

琳の冷笑と同時に、男の右手が握った銃ごと四散した。
訓練は受けている。
先は動揺していたが、精神感応の詮索を完全に遮断することは集中すれば可能な芸当だ。

「ぐぁあああああ?!」

唐突な銃声と、苦悶を上げる精神感応能力者の男に他の面子が色めき立つ。
男達の驚愕は敵意へと変じ、琳に真っ直ぐ向けられた。
念動力者と自然発火能力者がまず真っ先に殺意を向け、
能力を発動しようとした瞬間――二種類のけたたましい銃声が彼等の頭蓋を熟れたスイカのように噴き飛ばした。
銃声の出所は通風孔。
琳が不必要と判断し置いて来た散弾銃とアサルトライフルの掃射によるものだった。
御神体の方は銃の操作と同時に念動力で保護してある。
跳弾なら弾道を逸らす程度、琳の能力でも十全に可能だった。

「て、めぇえええええ!」

残された接触感応能力者、空間制御能力者が同時に銃口を跳ね上げる。
照準は一瞬出遅れた琳より速い。
だが、男達の指は引き金にかかるより先に、その動きを止められていた。
がしゃんがしゃんと通風孔の下に二種類の銃が落ちる音。
琳の念動力はいま、それとは別の対象に使用されていた。

「貴、様、なに、を……?!」

苦悶を漏らす男達の手から、トカレフが力なく滑り落ちる。
今、彼等の手足には血が通っていない。


「人間が担げる程度の重量を自在に操れる能力。
 貴方達は重大な誤解をしている。
 その程度の力があれば、人間を殺すことくらい造作もないのよ。
 例えば銃を持ち上げて中空で引き金を絞ったり。他にも――」

琳の両の掌が二人の男にかざされる。
人間が担げる程度の重量。
それだけ操れれば、人体を巡る血流の操作くらい片手間で可能だった。
琳はゆっくりと歩み寄り、立っているのがやっとな二人の胸に掌を触れさせる。

「さて問題。私がいま触れている血液の流れ。
 これを通常の数百倍の速さで循環させると何が起きるでしょうか」
「ま、待っ――」
「正解者には静謐な地獄を」

瞬間、男達は文字通り全身から、
動脈、静脈、毛細血管すべてから血液を噴き出し、仰向けに倒れた。
ビクビクと痙攣する男達の心臓を不可視の掌で握り潰し、とどめとする。

「ば、けもの……っ」

右の手首を抑え失血からか恐怖からか腰を抜かしている精神感応能力者に歩み寄る。
そしてゆっくりと、優しいほど軽やかな手つきで男の頭蓋を掌で掴む。


「最期に、私の炎が緑炎と言われる意味、教えてあげる」
「わ、悪かった! 御神体は返す! だからせめて――」
「炎色反応。銅との化学反応の結果、緑色の炎が生まれるの。
 で、その銅がどこにあるかっていうと――」

男の頭部が灼熱に燃え上がる。
脳が液状化するほどの高温。
内部から焼き尽くされる男の頭部を包むのは、紛れも無く緑色の炎。

「――人間の骨の中。例えば、頭蓋骨とかね」

断末魔を上げる遑も無く焼き屠られ事切れた男の死体を放置して、
琳は涼やかな足取りで御神体の保護に向かった。

fin.





















最終更新:2012年11月27日 09:13