(22)656 『指導者の資質』

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「保田、報告してくれ」

薄暗い『組織』の会議室の中、巨大な黒い楕円形のテーブルに、幹部メンバーたちが顔をそろえていた。
それぞれの前に置かれた、データ表示用の小さな液晶モニターだけがボウッと光を放っている。

声の主は栗色の髪の女。『組織』のリーダー、中澤裕子である。
漆黒の衣服に包まれた、どちらかと言えば小柄な体躯に、ハスキーな声。
その大きな瞳には、強力な『能力者』である『組織』の幹部メンバーたちをも圧倒する力があった。

「まずは『大陸』からだ。 『刃千吏』の反応はどうだ」

「…はい。結論から言いますと、相互不干渉…です」
保田が報告をはじめる。

「彼等は我々の“新世界建設”に一切の妨害を行わない。ただし、現状の『大陸』政府との利権については守りたい…つまり、『大陸』政府の現体制を温存してほしい、と言う事です」

「現状はそれでいいだろう。『大陸』の攻略は最後になる。おそらく『合衆国』以上に手間がかかるだろうからな」
「それに、我々の『新世界』建設が具体的に見えるようになれば、ヤツラも…『刃千吏』も、いずれ我々にすり寄ってくる」

「『銭琳』についての対応は、当方に一任されました。結果については、『銭琳』の生死を問わず不問とする…と」
「ほう、思い切ったな。『銭琳』はたしか『刃千吏』創始者の家系だったはずだが」


「はい、総統の娘です。血の繋がりはないようですが」
「…総統としても苦渋の選択だったようです。娘のために集団を危険に晒すわけにはいかない、と言うことでしょうか」
「ふん…。指導者とはどこもつらいものだな」
中澤は笑いもせずにうそぶく。

「あとは、『大陸』内の『刃千吏』に属さない…、非公認の『能力者』については、全ての情報を我々に提供する事となりました」
「…彼等への見返りは?」

「『刃千吏』に対する対抗分子の処分です。我々に所属させるか、または“粛清”する事が条件となります」
「…まあ、いずれにせよそれはやらねばならぬ事だ。…いいだろう。ご苦労だった」

「『合衆国』の状況は掴めているのか?」

「はい、例の大艦隊を“消失”させられてから、かなりの動揺と緊張感の高まりが見られます。ただ、手を打とうにも打つ手が見えないという状況かと思われます」
「だろうな…」
中澤はかすかに笑みを浮かべたように見えた。

「…安倍についての情報操作はどうなっている?」
「順調です。主に『極東』エリアからのリークにより、先日の“消失”が、『安倍なつみ』ただひとりの『能力』によるものだと言う事実は、上層部の人間はほぼ全員が信じるに至りました」

「交渉には絶好のタイミングだな。今ならブラフも最大の効果を発揮する」
「…『合衆国』には私が直接乗り込もう。大統領に脅しをかける。…テレポーターを一人付けてくれ」
「リーダー自ら…ですか? …それは危険じゃないですか?」
メンバーの一人が甲高い声を上げた。

「このチャンスを逃す方が危険だ。…石川、お前も同行してくれ」
「…! はい!」


「『北』への交渉は松浦、藤本、お前たちに任せる。それぞれ誰かテレポーターを同行しろ」
「『中東』エリアは保田、お前が指揮をとれ。…他のメンバーは全面的に保田に従え」

「安倍の状態を絶対に悟られる事なく、今回の事件を最大限に利用しろ」
「各国にいる『能力者』の徹底的な調査体勢確立は最低条件だ。最終的には政権を傀儡とできれば上出来だ」

「…さて…、圭織、どうだ?」
リーダーの声に、テーブルの奥にいた黒髪の女が夢から覚めたように眼を開ける。
「大丈夫、うまくいくよ…。また次回、同じメンバーがここで顔をあわせることが出来る…」
「…では決まりだな。各自即刻行動の準備をしてくれ」

立ち上がりかけた中澤は、ふと思い出したように保田に問い掛けた。
「…ところで、高橋愛のところへ送り込んでいる新垣はどうしている?」
「…新垣は先日も顔を見せましたが、特に問題は…。各メンバーの力量も把握できてきておりますし、監視継続で良いかと」
「…そうか…」

中澤はもう一度メンバーを見渡すと言った。
「お前たちにも言っておくが…。高橋愛のグループのみならず、各国の組織に属さない『能力者』たちについても言える事だ」
「我々の“新世界建設”の障害となる者は、たとえ『能力者』であろうとも排除されなければならん。だが、それは最後の手段だ」

「そもそも、我々の究極の目的とは…、彼等のような、若き…幼き『能力者』たちに、笑顔の続く、美しき『新世界』を遺す事なのだから…」


… … …

中澤は薄暗いヘリポートへの廊下を歩きながら、側を歩く石川に語りかけた。
「…石川…。おまえには済まないと思っている」
「…はい…!?」
「安倍が今回のような事になったのも、私の責任だ。私はおまえたちに頼りすぎた」
「…そもそも安倍も…実際にはおまえも、本来はそれほど戦闘向きの性格ではない…そう、私は思っている」

「…苦しい思いをさせるが…、私についてきてくれ。必ずおまえに『新しい世界』を見せてやる」
「『能力者』が皆笑顔で過ごせる『新世界』を…!」

ヘリポートへの扉が開き、眩しい光が眼に飛び込んでくる。海からの強い風に吹かれながら、中澤は海の遥か彼方を見つめていた。

…『能力者たちの新世界』への道程は未だ遠い。




















最終更新:2012年12月01日 20:31