『SOMETHING BLACK』

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「う……ぅ………」

地下室の冷たい床に転がったまま、亀井絵里は小さく呻き声をあげた。
背中にまわされた両手にも、揃えられた両足にも、相変わらず痛いほどにロープが食い込んでいる。

あれから一体どれくらい経ったのだろう。
今ではロープを解こうともがく気力すらない。
思い出したように呻き声を出すくらいしか、今の絵里に出来ることはなかった。

(まさかこんなことになるなんて…)

朦朧とする頭に、何度となく後悔が去来する。
そう、こんなことになるなんて思いもしていなかった。
まさか「あの人」がこんなことをするなんて……

ガチャリ

そのとき、入り口のドアが不吉な音を立てて開き、絵里はビクリと体を震わせた。

「どう?反省してる?」

地下室に響くその冷ややかな声の方に、絵里は必死で顔を向ける。

「お願い…もう…許して……許してください……」

だが、その絵里の憐れな懇願にも「声」の温度が変わることはない。
それどころか、一段と冷酷さを増した「声」が惨めに横たわる絵里に容赦なく投げ下ろされる。

「許して?まだそんなふざけたこと言えるんか。もう少し痛い目みんと自分の罪が理解できんみたいやね」
「お願い…お願いします……愛ちゃん……もう許してください……助けて……いや……いやぁぁぁぁっっ!!!」


 # # #

「ウソ…だよね?ねえ、ウソだよねみっつぃー?いくらなんでも愛ちゃんがそんな…あは、あはは…」

手を伸ばしかけた姿勢で固まったまま、絵里は光井愛佳に引き攣った笑顔を向けた。

「愛佳は“視”えたこと言うただけですよ。ウソや思うんやったら食べてみはったらどうですか?あんまりお勧めしませんけど」

そう応える愛佳の真顔に、絵里の手が弾かれたように引っ込められる。
その手がほぼ触れかけていたチョコレートの箱が、いつの間にか沸騰しているやかんになっていたかのように。

「そう、それがええ思いますよ。触らぬ神に祟りなしです」

ニコリと笑う愛佳に、もはや笑みになっていない笑みを返しながら、絵里は慌てて席を立った。

「え、絵里急に用事を思い出したから帰るね」

そう言い残してバタバタと喫茶リゾナントを出てゆく絵里の背中を見送りながら、愛佳はニヤリと笑った。
次いで、その視線はカウンターの上に置かれたチョコレートの箱へと移る。
先日14日―聖バレンタインデーに新垣里沙から高橋愛へと贈られた高級チョコレートの箱へと。

「ただいまー。…なあ、絵里どうかしたん?今そこですれ違ったとき、なんか変やったんやけど」

ちょうどそこに買い物袋を提げて戻ってきた愛が、ドアを開けると同時に首を傾げながら愛佳に尋ねる。

「さあ…なんか急に用事思い出したとか言ってはりましたけど…亀井さんのことやからどうせ大したことやない思いますよー」
「んー…まあそれもそやね」
「そんなことより高橋さん、愛佳にもこのチョコ1つくださいよー」
「ん?ああ、それ?んじゃ確かあと2つ残ってたから1つずつ食べよっか」

やったーめっちゃ嬉しーいありがとうございまーす――そうにこやかに言いながら、愛佳は薄く微笑んだ。




















最終更新:2012年12月01日 21:10