(02)539 『モーニング戦隊リゾナンター 希望の少女』

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高橋は一人、暗い部屋の一室で、トレーニングをこなしていた。エアロバイクを漕ぎながら、頭の中でイメージする。
それは、人を殺すイメージ。あの日出来なかった、ダークネスの心臓に刃を突き立てること。
この数年間、そのことだけを考え続けていた。

数年前。当時、民衆の絶大な支持を得ていた少女戦隊アサ=ヤン。
彼女達は、この世の支配を目論む悪の親玉、ダークネスをあと一歩のところまで追い詰めたが、
ダークネスの秘密兵器「ハロマゲドン」の前に、惜しくも敗れた。
仲間達は、人の心に「絶望」を植え付けるという、その脅威の力に次々と倒れ、
最後に残ったのは先代のリーダー安倍と、当時まだ組織の下っ端でしかなかった高橋だった。

なぜまだ幼い高橋を最終決戦の場に連れて行ったのか。
高橋はその理由を、安倍の心を読み取ることで、理解していた。

安倍は気付いていた。仲間達の、心の弱さに。それは傲慢か、驕りか。
仲間達は皆、優れた能力者であったが、優れるが故に、自らの能力を過信していた。
皆、自分が一番優れた能力者だ、自分は一人で戦える。否、一人で戦っている。そう考えていた。
ダークネスに、そんな心に付け入られる危険は十分あった。
そして、仲間を信じることが出来ない精神の弱さを持つ自分達では、「ハロマゲドン」に対抗できない。
だからこそ、安倍は「精神感応」の能力を持つ高橋をアサ=ヤンに引き入れた。
心の、本当の声を聞くことが出来る高橋であれば、植え付けられた偽りの「絶望」に対抗出来る。
安倍はそう考えていた。

安倍がそう考えていたことを、高橋は自身の能力によって知っていた。
安倍が、自らの命と引き換えにしてダークネスを追い詰め、最後に残るであろう高橋に倒させる作戦だったこと。
だが、当時の高橋はまだ幼く、能力も未熟だった。
高橋は、最後の際で能力をコントロールできず、ダークネスの心を読み取ってしまったのだ。
その心には、血も涙も存在していなかった。ただ、孤独だけがあった。自分と同じ、孤独が。

結果、ダークネスに敗れた。自分のせいで、アサ=ヤンは敗れた。
そのことは、高橋だけが知っていた。


ふと我に返ると、エアロバイクを漕ぎ始めてから5時間が経過していた。
つけっぱなしにしてあったテレビには、砂嵐が映っている。
高橋は、この5時間の間に映ったテレビの内容を思い出すことにした。
始めは、連続ドラマ。次は音楽番組なのか、お笑い番組なのか、判断が難しい内容だった。
そういえばその間に少女誘拐事件についてのテロップが入ったっけ。その後に・・・

その後にも、少女誘拐事件。これはちゃんとしたニュース番組だった。
一連の事件の関連性はいまだ不明。そう読み上げるニュースキャスターの声が蘇る。
この一週間で50人の少女が、何者かに誘拐された。今の2つの事件を合わせれば52人だろうか。
尋常な数ではない。ダークネスがまた動き出しているのだ。
そのことを知っても、高橋は何も出来ずにいた。
今もこうして、自らへの戒めのように、前に進むことのないペダルを漕ぐ。

力の暴走。数年前、ダークネスの孤独を垣間見たときのことを再び思い出す。
同情か憐れみか、私はダークネスを殺せなかった。
私と同じ孤独。そういうことになっている。だけど、あれは。あれは、私の孤独だ。
私自身の孤独を見せられたのだ。ダークネスの手で。私は、自分自身の孤独に同情したのだ。
思わず、顔が悔しさで歪む。目には涙が浮かんだ。ペダルを漕ぐ足は、止まっていた。
(顔を、洗ってこよう)
エアロバイクを降りた高橋は、洗面所へ向かった。すると、ふと、何者かの心を読み取る。

誰か、ねえねえ誰か。助けて、誰か。

助けを呼ぶ声。心の声。少女達の声だろうか。今の高橋には、深く響いた。

唐突に、高橋は洗面所に設置されていた鏡を殴りつけた。
正確には、鏡に映った情けない自分の顔を、思い切り殴りたくなったのかもしれない。
鏡の裏の壁には、刀が、埋め込まれていた。
それは、ダークネスの心臓を一度捉えかけた刀。そして、二度目はもう無い。そう思っていた。
だが、今は。私が、今、出来ることを。そう考えた高橋は、すでに部屋にいなかった。


辺りは暗い。闇に染まった者は、街灯の無い暗い道を好む。
高橋は今も聞こえている声を頼りに、暗い、暗いほうへ移動した。

次第に声が鮮明に聞こえるようになった。声の主が近くにいる証拠だろう。
だが、随分長い距離を移動した。近くにいたからこそ声が聞こえたのではないのか。
いや、そもそも何故顔も名前も知らない、遠い人間の心を読み取ったのか。
思考がまとまらない内に、今は使われていない倉庫街のような場所に立っていた。
ここにいるのは疑いようが無かった。迷うことなく、空間を移動する。

敷地内に移動した途端、高橋は目を疑った。
予想していた厳重な警備。
だが目に入った光景は、意外なものだった。
地に伏せたままぴくりとも動かない、ダークネスの末端構成員達。

彼らは元はただの人間であり、能力者ではない。
とはいえ、ダークネスにより人体を改造され、常人では太刀打ちできない力を得た、いわば強化人間だ。
倒れているのは、20人ほどだろうか。
そして・・・その中心に佇む、1人の少女。

(彼女がやったの?この人数を、1人で!?)

すかさず、少女の精神へ意識を飛ばす。

(これは・・・能力者じゃない!それとも、自分では気が付いていないだけ?)

ゆっくりと高橋に向き直る、少女。その猫のような目が、高橋を捉えた。

激しい怒り。それは、少女を攫った者達ではなく、そういった者達が存在する世の中への怒り。
その矛先が今、高橋に向けられた。

「お前がこいつらの頭っちゃね!!絶対許さんと!!」

少女はそう叫ぶと、尋常ではない速度で素早く高橋との距離を詰める。

だが高橋はその行動を読み取っていたし、さらに回避を容易にする、空間移動の能力があった。

「消えた!?」

少女は目の前の人間が突然消え、別の位置に姿を現したことに驚く。
少女の足が止まった。

「待って!わたしは敵じゃない!あなたと目的は同じよ!」

高橋はそう言い放ち、少女の怒りが収まるのを待った。

「私は、高橋愛。あなた、名前は?」

「・・・れいな。田中れいな。お前、どうやってそこに移動したと!?」

「ああ、それはね・・・」

やはり能力者ではないのか。ならば、この人数をどうやって?それに、今のスピードは?
高橋の思考がまとまる前に、何か、新たな違和感を感じた。

周囲の温度が下がっている。
(これは、冷気?でも、まさか・・・)
高橋は、この感覚に覚えがあった。
少女と逆の方向に構えをとる。今度は、腰に帯びてきた刀を引き抜いた。
そこには、誰もいない。だが、目の前の闇が一層濃くなり、やがて人型に集束していくのがわかる。

ヘケート。氷の魔女。

「高橋愛、生きていたのか」

闇から姿を現す、高橋のかつての仲間。
深すぎた美への欲求。それが、彼女の心の闇だった。
永遠の若さを手に入れるために、ダークネスの僕となったのだ。

「久しいな。どうやってここを見付けた?」

魔女の声が、低く、冷たく響く。
同じ志を持つ仲間だった頃、まだ右も左も分からなかった自分を愛ちゃん、愛ちゃんと可愛がってくれた、昔の声ではなかった。
時を超越したその風貌が、闇に融け、さらに不気味さを際立たせる。
田中れいなと名乗った少女は今、何を思っているだろうか。その心を読み取っている余裕は、今は無かった。

「聞こえたの。少女達の、助けを呼ぶ声が。ヘケート、闇に堕ちたあなたには聞こえないでしょうけど」

「お得意の精神感応か?他者の心を読み取る、汚らわしい力だ。お前に相応しい。
だが、今はお前に構っている暇はない。今夜のパーティーの主役は、お前の後ろにいる女だ」

「!!彼女はやはり、能力者!?あなた達の今回の目的は何!?」

「答える必要はない。邪魔をするというなら、高橋愛、お前はここで死んで行け!」

魔女が掌をかざす。周囲の温度がさらに下がった。大気中の水分を氷結させ、自在に操る。それが、この魔女の能力。
そして高橋に向けて放たれる、無数の氷の矢。
高橋は、戦闘では「精神感応」により相手の心を読み、攻撃を回避する。しかし、氷の魔女にはその術が通じない。
魔女は、自らの心を凍らせ、その心を読み取らせないのだ。
だが高橋も、自身のもう1つの能力、「空間移動」を繰り返し、矢を回避していく。

両者のパワーバランスは均衡に見えた。だが、尽きることの無い魔女の力が、次第に上回っていく。
高橋の出現ポイントを予測し、正確に、素早く攻撃を仕掛ける。空間移動の間隔が、矢のスピードに追い付かなくなっていく。

膝を落とし、肩で息をする高橋。魔女がこの場に現れてから、周囲の温度は下がる一方だった。
寒さの中での戦闘は、体力を著しく消耗する。高橋に空間移動を行使する力は、もう残っていなかった。


田中れいなは、自分の目にした光景を信じられなかった。

少女誘拐のニュースを聞き、怒りに任せて、ここへ来た。
途中にいた誘拐犯の手下みたいな奴らは、全員殴り倒した。
奴らは少し手強かったが、普段相手にしているチーマー共と何も変わらない。
奴らは大勢で群れなければ、何も出来ない。
地元じゃ、負け知らずやったけんね。
でも、途中からいつもと何かが違った。なぜか誘拐犯の真の狙いは、自分だったのだ。
それは今、闇から現れた、目の前にいる二人の会話で気が付いた。
誘拐された少女達はすべて、自分を誘い出す囮だったのだ。

だったら始めから、自分を狙えばいいものを。
何故、自分と関係無い人間を巻き込んだのか。

収まりかけていた怒りが、胸の底からふつふつと沸きあがった。
今だって、消える女・・・高橋愛と言っていたっけ。
あの女が、巻き込まれている。狙いは、自分なのに。
それにあの女、負けそうだ。
もう消えるための力が残っていないと。れいなはそう直感した。

「おい、よく消えよう女!ちょっと引っ込むっちゃ!あいつはれいながぶっとばすけん」

「あ!待って!」

高橋が止めるよりも早く、凄まじいスピードで魔女に接近していく。その姿を見て魔女が毒づく。

「ちっ!大人しくしていればいいものを!」

頭と胴が残れば十分だ。魔女がそう呟く声が聞こえた。
矢が、れいなに向けて放たれる。手と足を、正確に狙い撃つ。

だがれいなは、身をよじり、右に、左に、回避する。
高橋のように、心を読むことも、空間を移動することも出来ないのに。
類まれなる運動神経。反応の良さ。それが、彼女の能力なのか?

しかし、彼女の勢いは完全に止められた。矢が2本、3本と増えていくとともに、
回避するだけで精一杯になる。

(くっ、威勢よく飛び込んだけど、このままじゃやばいと!)
(それに、なんか寒いけん、さっきから!)
(せめて、一回くらい殴らせろっちゃ、あの女!)
(れいな、もしかしてここで死ぬと?まだパパにもママにも、会っていないっちゃよ・・・)

ここまでずっと強気だったれいなの心が、圧倒的な力の前に、次第に折れていく。

高橋には、そんなれいなの心の声が聞こえていた。
先ほどまでは読み取れなかった、彼女の心の深層に潜っていく。


誰か、ねえねえ誰か。助けて、誰か。

高橋はここに来るまでに聞こえた声を思い出す。
私の心に響いた声は、誘拐された少女達のものではなく、彼女の声だったのか。
彼女の心は、とても脆い。精神感応を持つ高橋には、それがよく分かる。
彼女が普段強気を装っているのは、本当は脆い、心を隠すためか。
彼女は孤児院で育ち、親の愛情を知ることがなかったのだ。
そんな心は、やがて孤立していき、誰からも愛情を受けることなく、生活は荒れていった。
この広い世界にいて、誰とも繋がることなく、孤独。

(彼女を・・・死なせてはならない。愛を知らないまま、孤独なまま、死なせてはならない)
(れいなを、助ける)

高橋は、残された力で立ち上がった。
れいなの、助けを呼ぶ声が、まだ心に残っている。

高橋は、イメージした。魔女の懐に飛び込み、心臓に刃を突き立てる。
魔女がれいなに気を取られている今なら、それが出来るはず。
それに、出来なくなっていた空間移動も・・・今なら、出来る気がする。
疲労により消えかけていた高橋の能力が、れいなの声を聞いて再び戻っていた。
そうか、これがれいなの、真の能力。他者と共鳴し、その能力を増幅させる力。

高橋は大きく息を一つ吐き、イメージを、一瞬で実行した。

戦いは、終わった。

心臓を貫かれた魔女は、再び闇に融けていった。死んだのか、逃げたのか、それはわからない。
少女達は皆、無事に警察に保護された。
高橋やれいなの証言は、警察に聞き入れてもらえなかったが、遅れて来た刑事には、なぜか深く感謝をされた。
警察では手に負えないほどの、難解な事件が解決するときには、少女達が現れる。
数年前、伝説の少女戦隊アサ=ヤンが存在したころから残る訓示を、覚えていたのかもしれない。


簡単な事情聴取が終わった後、高橋とれいなは、再び顔を合わせた。

「余計なことするなっちゃ。あのあと2、3回避けてからぶっとばす予定だったけん」

「そっか、ごめん。でも、お互い無事でよかった」

「ふん。まあ一応、お礼は言っておくけん。でも、あいつ何者っちゃ?よく消えよう、あんたもやけど」

高橋は、ダークネスのこと、能力者のこと・・・警察の事情聴取時には伏せていた内容まで、全て話した。

「どう?理解してくれた?」

高橋が話し終わるまで、腕を前に組んだまま黙って聞いていたれいなが、やっと口を開く。

「あんたの話、全っ然、意味がわからんと!でもまあ、あんたが悪い人じゃなさそうってことは分かったけん」

「そっか。なら、いいや」

高橋の説明は、本当に分かりづらかった。時折ひどく訛るうえ、要点を一気にまくしたてる喋り方のせいだろうか。
こんな説明でなぜ刑事が納得したのか、謎だ。
だがれいなは、身振り手振りを加え真剣に話してくれたその姿だけは、信じることにした。

「れいな、突然だけど、私にあなたの力を貸して。一緒に、ダークネスと闘いましょう」

高橋は自分の口から出た言葉に、少し驚いた。
部屋を飛び出してからここへ来るまではずっと、一人でもダークネスと戦うつもりだった。
だがダークネスの標的となったれいなを、このまま帰すわけにはいかない。

悪の組織ダークネス。そんな得体の知れない者達によって、今も誰かが苦しんでいる。
そんな人たちを、救うの。
あなたには。
孤独を知るあなたには、その力がある。
そしてその力で、孤独ではないことを、知らなければならない。
あなたは闘うの。ダークネスと。自らの孤独と。

高橋は、そうれいなに言った。

れいなは、ここへ来た理由を思い出す。
れいなは、憎んでいた。この世界の悪を。悪の存在を許している、この世界を。
そして。
自分を捨てたのかもしれない、両親のことも。
会って確かめる必要がある。自分は生まれてからずっと、孤独だったのかどうか。

邪悪な力で、この世の支配を目論む、悪の組織。そんな悪党を捕まえて、有名になれば、両親が自分のことを見つけるかもしれない。
一度捨てたことを今も後悔していて、泣いて謝るかもしれない。
人知れず悪と闘う、かつて自分の娘だった者の姿を見て、少しは喜んでくれるかもしれない。腕っぷしには、自信があったし。
高橋愛。精神感応の能力者。彼女の言っていることは、どこまで本当なのか。本当は。
本当は、パパとママに、会いたかった。自分が、孤独ではないことを、知りたかった。

れいなは、答えた。

「れいなが孤独?笑わすなっちゃ、れいな、友達たくさん、おるけん!
でもまあ、ダークネスのことは、許せんけんね。れいなも、闘うよ」

れいなは、確かめることにした。

ありがとう。高橋は、そう呟く。

「よし、決まりね。あなたも私も、今までずっと一人で生きてきた。でもこれからは、力を合わせて戦うの。
だって私達は、モーニング戦隊リゾナンターなんだから」

「リゾナンター!?なんそれ、かっこいいと!!れいな、リーダーやりたい!!」

こうして、新たな物語が幕を開けた。
物語とは、リゾナンターとダークネスの戦いのことを指すわけではない。もちろん、それもあるが。
これは、少女達が、自らの孤独と闘う物語なのだ。