(24)044 『春、舞い散る』

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青空の下、桜並木の道を歩くなんて、なんて健康的なんだろう。
もう春だなぁ・・・なんて思いながら、愛ちゃんに書いてもらったメモを見て買い出しの内容を再確認。

「えーと、卵と牛乳と・・・山芋?あぁ、うええおええ丼に使うやつか」

今日はお店が忙しくて、愛ちゃんもれいなも、手伝いに来ていたガキさんも手が離せないから、絵里が買い出しに行くことになった。
近所のスーパーまでおつかいだ。
・・・まぁ、店で手伝えそうなことがなかったから逃げてきただけなんだけど。

お金は後で立て替えるって言われたけど、足りるかな・・・あれ?

カバンから財布を出そうとした時に、異変に気付いた。

ん?
あれ?
え、うっそ。

「財布忘れた・・・?」

そういえば昨日は違うカバンで出掛けたんだった。
あーしまったなぁ・・・。
とりあえずれいなに電話してみよう。
もしかしたらお客さん減ってて、もしかしたらお金持ってきてもらえるかもしれないし。
財布の入っていないカバンから携帯を取り出し、慣れた手つきでれいなの番号を呼び出す。


「もしもしー?」
『もしもし、絵里ー?』
「あ、れいな?お店の方はどう?」
『だいぶ落ち着いたけん、今一息着いとるとこ』
「本当に?ならちょっとお願いしたいことがあるんだけどさー」
『なん?』
「お金、持って来てくれない?」
『はぁ?』

あ、今眉間に皺を寄せるれいなが頭に浮かんだ。

「財布忘れちゃったみたいでー」
『はぁ・・・』
「ごめんごめん」

うへへって笑うのは忘れずに。

『まぁよかよ。どこにおると?』
「えっとねー・・・堤防沿いの桜なみ・・・」

―!
急にダークネスの気配を感じ、絵里は辺りを見回した。

『絵里?』
「・・・ダークネスがいる」
『え?ちょ、今すぐ行くけん!桜並木やね!?』
「うん」

どこだ?
気付いたられいなの声は聞こえなくなっていた。
絵里は携帯をそっとカバンにしまうと、前から歩いてくる人影をじっと見つめた。


あいつだ・・・!
黒一色で身を包んだ、氷のように冷たい魔女。

「ミティ・・・」
「覚えててくれたんだ?」
「まぁ、ね」

額に汗がにじむ。
フッと短く息を吐いた。

「そんなに怖い顔しないでよ」

ミティは悪い笑みを口元に浮かべたまま、じわりじわりと絵里に近付いてくる。

「今日はちょっと様子見に来ただけだからさ」

ミティにバレないように風を右手に宿らせ、いつでも撃てるように息を止めた。

「まぁ、ちょーっとぐらいはケガしちゃうかもしれないけど?」

そう言うと同時に、ミティの背後に無数の氷の矢が現れた。

「っ・・・!」

絵里に向かってくるその“矢”に向かって、絵里は右の手の平を広げた。
絵里の手から放たれた風が氷を跳ね飛ばし、ミティの髪や服を靡かせる。

「いいねぇ・・・どんどんいくよ!」

ミティは楽しそうに笑った後、次々と氷を生み出してくる。


「くそっ」

正直絵里は1対1の戦いには弱い。
身体能力も高くないし、能力も1対1には向かない。
このまままともに戦っていたら、絶対にいつかあの氷の餌食になってしまう。
でも、もうすぐれいなが来てくれる・・・!

「ほらほら。逃げてるだけじゃ終わんないよー」

それまで何とか時間を稼がないと・・・。

「くっ」

寒さと疲れでだんだん動きが鈍くなり、体中に傷が増えていく。

「はぁ・・・はぁ・・・」

同時に能力も使っているから、体力の消耗が早い。

「そろそろいたぶるのも飽きてきたし、足止めしちゃおっかな」
「なっ・・・!」

一際強い吹雪が吹き、地面が凍り、足が凍る。
身動きが取れなくなって、絵里はそのまま地面に手をついてしまった。

「ま、よく頑張ったと思うよ」

ミティの頭上に、大きな氷の塊が見える。

くそっ・・・もう少しだけ、時間が稼げたら・・・!


「じゃあね。みんなにもよろしく言っといてね」

吹雪がだんだん強くなり、ミティがだんだん霞んでいく。
・・・吹雪?

絵里は下を向いたままニヤリと笑った。
まだだ。絵里はまだ終わらない。

「ミティもすんごい吹雪が起こせるけどさ」
「ん?」
「絵里も、すーんごい吹雪、起こせるんだよ?」
「何?」

絵里は上体を起こし、両手でありったけの風を呼んだ。
突風が吹き荒れ、ミティの吹雪を吹き飛ばす。

「はっ!一体何をするのかと思ったら・・・」
「今からだよ」
「っ・・・何!」

真っ白だった一面が、一変して桃色になる。

「クソッ。桜吹雪か・・・!」

ミティと絵里の間に花びらの壁ができる。
かろうじてミティの声は聞こえるが、姿は全く見えなくなった。
これで、しばらくミティは攻撃ができないだろう。


「フッ・・・だがその力も、長くは続くまい」

ミティの言う通りだ。
絵里の能力のエネルギーは、もう限界まできている。

それでも・・・それでも絵里は、勝利を確信した。

「力が尽きた時が、お前の最後だ」
「それはどうかな」

だって、さっきから絵里の身体にエネルギーが流れ込んできてる。
“共鳴”というエネルギーが、絵里の身体を駆け巡って、大きな風を起こしてる。
そして、絵里の背後に大きな力を感じた。

「遅いよ、れいな」
「これでもかなり飛ばしたっちゃけど」
「へへ、ありがと」

徐々に力を緩めると、徐々にミティの姿が見えてくる。

「な、に・・・!?」
「ここからは2人で相手になるよ」

れいなの登場に、ミティは驚いているようだった。

「チッ・・・。仕方ない。結構楽しめたし、今日はこの辺にしといてやる」
「あ、待てっ・・・!」

ミティは一瞬吹いた吹雪の中に消え、れいなの声だけが響いた。



「間に合ってよかった」
「ぎりぎりだったけどね」
「やけん、めっちゃ急いだって」
「うん、助かりました」

本当に、れいなのおかげ。
あ、あと・・・。

「また頑張って咲いてねー!」

すっかり散ってしまった桜の木に向かって絵里が叫ぶと、隣でれいながため息をついた。

「こんなんにしといて、よく言えるっちゃね・・・」
「だってすごく綺麗だったんだよ?」
「れいなも見たかったなー」
「ごめんってばぁ!」

絵里を見て笑うれいなに手を引っ張ってもらって、なんとか立ち上がった。

「お金持ってきたけん、さっさと買い物行って帰るよ」
「うん!」

帰ったら愛ちゃんに暖かいココアでも入れてもらおう。
もう絵里は疲れたよ・・・。
だから、買い物も今日のところはれいなにお任せしよう。
次に備えて、今日は見学見学。
絵里のおつかいは、また今度ね。

その頃には、今より桜が増えてるといいな。
力を貸してくれて、ありがとう。




















最終更新:2012年12月02日 07:47