(13)670 『蒼の共鳴番外編-希望の歌-』

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トレーニングルームという部屋が喫茶リゾナントの建物の地下一階にはある。
その名の通り、能力を使った戦闘や肉弾戦の訓練をするようにと作られた部屋だが。
大抵は外界に影響を与えないような能力の行使と、肉弾戦の訓練にしか使われてはいない部屋。

喫茶リゾナントの営業が終わり、れいなはいつものようにトレーニングルームへと向かう。
早朝は数㎞のランニングをしてからリゾナントの手伝いをして、リゾナントの営業が終わればこうして自らの技を磨くれいな。
いずれ、愛もそのトレーニングに付き合うために部屋に降りてくるだろう。
それまでにウォーミングアップを済ませようとトレーニングルームのドアを開けようとして、れいなはその手を止めた。

僅かな隙間から漏れてくる、伸びやかで力強い歌声。
聞き慣れない歌声に、一体誰が歌っているのだろうという興味が沸いてきた。
だけど、今部屋に足を踏み入れたらその歌声の持ち主の邪魔になる。
歌が終わるまで少し待つか、とれいなは壁に寄りかかって目を伏せた。

楽しそうに響く歌声だが、さすがに部屋の外では何と歌っているのかまでは分からない。
ただ、本当に歌うことが好きなんだろうなというのが聴いていて伝わってくる。
自然と、聴こえてくる歌声に合わせて鼻歌を歌ってしまうれいな。


「…れいな、何してるの?」

「シー、静かにすると、愛ちゃん。
歌の邪魔になる」


後から現れた、ジャージ姿の愛はれいなの言葉にとりあえず口を閉じた。
愛の耳にも届く、優しくも力強い歌声。
ここに居るということは、間違いなくメンバーの誰かである。
メンバーの中にここまで歌が上手い子がいたんだと、愛はれいなと同じように聞き耳を立てながら想う。


歌が終わった。
何も聞こえなくなったのを確認して、れいながトレーニングルームのドアを開け。
れいな、愛の順に部屋に足を踏み入れる。


「歌ってたの、リンリンやったんか…」

「リンリン、歌めっちゃ上手いとー。
れーな、すごくびっくりした」


2人の驚いた声に、リンリンは振り返って照れくさそうに微笑む。
愛もれいなも、その微笑みに応えながら。
いつもとは違うリンリンの一面が見れたことに、自然と笑顔になる。

リンリンはというと。
2人がジャージ姿なのを見て、今が何時なのか知ったようだ。
2人がジャージ姿、イコール、リゾナントの営業はとっくに終わり。


「あー、高橋サン、田中サン、ごメんなさイ。
歌うノに夢中になっテいましタ…」


そう言って、耳を垂れた犬のように。
申し訳なさそうにその場に佇むリンリンに、愛は笑って声をかける。


「別に気にしなくていいんやよ。
何だったら、もっと歌っていけばいいがし。
ね、れいな」


「そうそう、ここはトレーニングルーム。
歌のトレーニングをしたって別にいいとれいなは思うっちゃ。
っていうか、歌ってた歌、あれってどういう曲なのか教えてほしいと」


愛とれいなの言葉に、リンリンの表情は申し訳なさそうなそれから穏やかな笑顔に変わる。
リンリンの笑顔に、愛もれいなも笑顔になって。
心と心が繋がって、温かな想いが溢れていく。
独特の感覚は、言葉に表すことが出来ない複雑な想いまでも繋ぐ「絆」。

リンリンは微笑みながら、曲のタイトルを言う。
そのタイトルを聞いて、聞いたことないという顔になる愛とれいなに。
中国の歌ですからと言って、小さく笑うリンリン。


「この曲、中国にイた時からズっと歌っテきた歌でス。
この歌にハ、未来への希望が込めラれていまス。
この歌を歌うト、心に力が沸いてクるんでス」


希望を噛みしめるように言葉を紡ぐリンリンの姿は。
いつか本当に、幸せな未来が訪れると信じて祈りを捧げる信仰者のようでもあり。
その希望を心の拠り所としながら日々を生きる、普通の一般人のようでもあった。

生まれ持った特異な力のために、リンリンもまた自分達と同じように苦しんできたのだろう。
あまり、中国に居た頃のことを話さないリンリン。
話さないのは、言いたくない何かがあるからかもしれない。
空気が少し変わったことに気付いたリンリンは、慌てて言葉を紡ぐ。


「いツになるカ分かりませんケど、リンリン、ダークネスを倒すこトが出来たラ。
そしタら、歌手になりたイって思っテるんでス。
ダークネスを倒スくらイ難しいこトかもシれませんけド、きっト、ダークネスを倒すコとが出来タら。
その夢モきっト、叶う気がスるんデす」


リンリンの言葉に、愛とれいなにそれぞれ生まれる想い。
生まれ持ってきた能力に気付かずに居た頃、今のリンリンと同じように未来の自分を夢見ていた。
愛は舞台で歌い踊りながら熱演する女優。
れいなはテレビ番組で皆を笑わせるバラエティタレント。

いつしか、そんな夢は見なくなった。
人と違うものを持って生まれてきたことに気付き、自分はけして他の人間と同じような人生は歩めないと気付いたその時。
その時に描いていた未来は跡形もなく消え去り、今はダークネスとの戦いに身を投じている。

人の夢と書いて儚という字になる。
人の夢は儚いのか。
叶うことなく消えてしまうから、儚いのか。

戦いに身を投じ、いつしか忘れていった想い描く理想の未来。
2人の胸に蘇ってくる、あの頃の純粋な想い。

ダークネスを倒すということは、とても困難なことかもしれない。
だけど、それをすることが出来たらきっと。
あの頃想い描いていた未来に向かって、新しい日々を始めることが出来るかも知れなかった。

れいなは微笑みながら、口を開く。


「歌手かぁ、それもいいね。
ていうか、皆でアイドルグループ結成して歌うってのも面白いと思わん?
ほら、アイドルって舞台も歌もバラエティも何でも出来るし」

「アイドルって…あ、身近にいたやよ、アイドルの仕事をしてる子が。
小春に色々聞いてみるのもいいかもしれないねー」

「てイうか、久住サンに言えバ今すぐデビューも出来ルかもしレないでス、バッチリデース!」


リンリンの無茶苦茶な物言いに、さすがにそれはないってと2人揃って答えを返して。
しょげかえるリンリンに苦笑いしながら、愛は声をかける。


「ねぇ、リンリン、さっきの歌もう一度歌ってよ。
で、今度はあーしとれいなにも、教えて欲しいな」

「れーなも、歌ってみたいと。
中国語の歌やけん、上手には歌えんかもしれんけど…歌ってみたい」


2人の言葉に、リンリンは微笑みながら頷く。
大きく息を吸い込んで。

トレーニングルームに響く、力強い歌声。
その声に耳を傾けながら、愛とれいなはそのメロディに交互に即興で言葉をのせて。
2つの異なる言語が織りなす、不思議な歌声が響くトレーニングルーム。

未だ見ぬ未来と自分への希望を描きながら、その歌声は何処までも続く。
この胸に宿る希望がある限り、闇と対峙することに躊躇いはなかった。

―――その歌声は終わらない。




















最終更新:2012年12月02日 12:58