(04)014 『走り出した共鳴 後編 ~再会~』

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そこには見知らぬ黒いスーツ姿の男性が2人
ニヤニヤしながら絵里から奪い取った携帯電話のストラップの先をつまんでプラプラと揺らしている

「返してください」

さすがの絵里も表情を引き締めて、強い口調で訴える

「嫌だと言ったら?」
「それでも返してください」
「困ってるんだろ?」
「その携帯があれば困らないの。だから早く返してください」

さゆみも加勢する
しかし男達は小娘達の威嚇などどこ吹く風
急に絵里とさゆみの腕を掴んでビルとビルの隙間にある細くて暗い路地に引き込んだ

「ちょっと!何するんですかっ?!」
「やめてください!」

抵抗するも少女の力が成人男性に適うわけもない
ふたりはずるずると路地の奥へ奥へと引き摺られていく
ふたりの頭を最近、巷を騒がしている言葉がよぎる

  連続少女誘拐事件

引き摺られながらもふたりは顔を見合わせてさらにその抵抗を強める
しかし、男達は頑としてその掴んだ腕を離さない
大通りからだいぶ離れた所で男達はやっと立ち止まった


「で、こいつらヤっちゃってもいいわけ?」
「さぁ?姐さんからは特に何も言われてないから、好きにして良いんじゃないか?」
「じゃ、早速バラすか?」

簡単な会話のあと、男達はそれぞれ上着から小型のナイフを取り出した

「あぁ、そうだ。ひとつ言われてた事があった」
「何だ?」
「ヤるなら、黒髪の女の方からヤれって」

その会話を聞いて絵里とさゆみの顔からサッと血の気が引く
この男達を絵里とさゆみに仕向けた人物がいる
そしてその人物は絵里とさゆみの能力を知っている
さゆみがいなければ、絵里は最良でも最悪でも刺し違えることしかできない

「絵里・・・」

絵里は最初のターゲットに定められたさゆみの様子を窺う
さゆみの表情はみるみる不安と恐怖で塗りつぶされてゆく
絵里はグッと歯をくいしばって考える

ここで自分が弱気になってはいけない
考えろ!腕力では適わない相手からふたり一緒に生きて逃れる方法を

しかし実戦の経験がほとんどない絵里にそこまでの知識と応用力と冷静さは備わっていなかった

混乱した頭の中で思いついたたったひとつの案
たったひとつだけ思いついた、非現実的でなんとも都合の良い展開
思いついた次の瞬間、馬鹿げていると自嘲し否定したたものの、絵里はもはやそれに頼るしかなかった


「れーな・・・」

絵里の口から思わず零れた名前
その声にハッと顔をあげたさゆみは再度抵抗を試みた

「な?!また急に暴れだしやがって!大人しくしろ!」

乾いた音が路地に響く
さゆみが叩かれた頬をおさえてうな垂れる、が、すぐにまた男を睨みつける

「やれるもんならやってみなさいよ!あんた達なんかね、れいながすぐにやっつけてくれるんだからっ!」

悲鳴にも似たさゆみの精一杯の叫び

「だったらすぐにヤってやるよ!」

売り言葉に買い言葉とはまさにこの事
男は持っていたナイフをこれ見よがしに高々と振り上げた

「ぐわっ!」

男の短いうめき声から一瞬遅れて、ナイフが地面に落下する音が響いた

「どうしたっ?!」
「クソッ!何かが手に当たった!」

「こんな所にかわいい女の子連れ込んで、何するつもりと?」

「誰だっ?!」


大通りの街灯も届かないこの暗い路地では、誰がやって来たのかわからない
だがその声とその話し方で絵里とさゆみには十分すぎるほどはっきりとわかった

「れいな!」

絵里とさゆみの声が重なる
その名前、男達も一応は知っているようだった

「ほぅ、あれが田中れいなか・・・一度見てみたかったんだよな」

男達はニヤリと笑うと同時にさゆみは腕を背中のあたりでひねり上げられ
絵里の首元にはナイフの刃が押し付けられた

「田中れいなさん?これ以上近寄ると、お友達が怪我しますよ?」
「・・・ふたりを離せ」

れいなは歩みを止めない

「聞こえてんのか?近寄るなって言ってんだろうが!」
「そっちこそ聞こえとると?ふたりを離せって言っとろーが」

れいなの声に明らかな苛立ちが混ざる
やっとれいなの顔がぼやんりではあるが目視できる位置にまで来た時、男が叫んだ

「こいつらがどうなっても良いのかっ!?」
「良いわけなかろーが。早く離せ」
「うるさい!お前が止まらねー限り離さねーんだよ!」




「・・・・・・なら、潰す」



冷たく言い放った声が絵里とさゆみの耳に届いた時には既にれいなは走り出していた

絵里を掴んでいた男が慌てて近くにあったゴミバケツを蹴りつけた
それは常識では考えられないほどの勢いで一直線に低い軌道に乗ってれいなに向かって行く
しかしれいなは地面を蹴って飛び上がり難なくそれを飛び越えると
空中で浮いたまま持っていた大きめの石を男に投げつけた
絵里を羽交い絞めにしていた男が左目の辺りを押さえながら後ずさる
もう一人の男はその様子に気を取られている隙にれいなに間合いを詰められていた
れいなは走りこんできた勢いを拳に乗せて、男の顔面を殴りつけた
後ろに吹っ飛んだ男は近くに停まっていた自転車に背中から突っ込んだ
声にならないうめき声を上げて男はその場に倒れこむ

「この、ガキ!」

怒りが篭った声にれいなが振り返ると、先程絵里の後ろにいた男が立ち上がっている
まだ目を押さえながら体勢を立て直してこちらに向かって来る
一度は手放した絵里に向けてナイフをすばやく振り下ろした

「キャッ!」
「絵里っ!!」

れいなは小さい手をめいいっぱい伸ばして絵里を引き寄せて
男に背を向けて絵里を庇うように抱きかかえた

衣が裂ける音と共に赤い飛沫が男のナイフとそれを持つ手を濡らした

「チッ・・・」


れいなは小さく舌打ちをすると同時に、絵里をさゆみの方へ押しつけて振り返る
ナイフを勢い良く振り抜いため、バランスを崩して前のめりになったままの男の顔面目掛けて右足を蹴り上げた
絵里とさゆみが耳を塞ぎたくなるような、何かが砕けるような音がした

「まだ、やると?」
「・・・クソッ」
「おい!退くぞ!」

フラフラと去っていく男の背中が見えなくなったところでれいなはやっと絵里とさゆみの方に振り返った

「大丈夫?ケガとかしとらんと?」
「うん・・・大丈夫」
「いやいやいやいや、全然だいじょばんやん。絵里、腕から血、出とーやん!」

絵里が着ている薄手のパーカーの左腕辺りが赤く染まっていた

「え?あ、これは、あのー・・・れいなの血かな?」
「違うって。やって、どんどん広がっとーやん!」

その染みはじわじわと広がっている

「ちょ、見せてみ?」
「わわわわ!大丈夫!絵里は大丈夫だって!」
「そんなに血、出とったらヤバいし!」

ぶんぶんと大きく腕を振って抵抗する絵里の左腕を難なく捕まえて、その袖に手をかけた


「ってか、なんで服はなんともないのに血が出とると?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ってか、なんでれいなはケガしとらんと?」

れいなは絵里の腕を掴む自分の左腕をじっと見つめる
ナイフで切り裂かれたパーカーの間から見える肌には傷ひとつ残っていなかった

  シーーーーーン

沈黙を破ったのはれいなだった

「とっ、とりあえず、絵里の血を止めんッグハッ!!!」

れいなの背後の建物の扉がいきなり開いて、れいなの尾てい骨を強打したのだ

「ッたぁ~~~・・・・」

涙目でお尻を押さえながらその場にうずくまるれいな
突然の事で目が点の絵里とさゆみ
そんな状況もお構いなしで、扉を開けた人は大きな声でれいなに雷を落とした

「ちょっと!誰かと思えばれいなじゃないの!またケンカしてたんでしょ!!」
「へ?ああっ!マスター!!ええ?!」

れいなはうずくまったまま、顔だけで怒り狂っている女性を見上げて素っ頓狂な声を上げた


「ええ?じゃないわよ!アンタ!あれほどアタシの店の近くでケンカするなって言ったのに何してんのよ!」
「いや、あの、れな、そんなつもりはなかったんすけど・・・あの・・・」
「言い訳はいいのよ、言い訳は!」
「う゛~~~・・・・・・」

さっきまでの強気なれいなとはまったく別人のように、口ごもるれいな
絵里とさゆみは状況にまったく着いて行けず、相変わらず黙り込んだまま

「あぁっ!自転車っ!」

れいなを見下ろして烈火のごとく怒り散らしていた女性は、
次に近くで倒れたままの自転車の方へ目を向けた

「アタシの大明神3号のカゴが曲がってんじゃないの!」

先程、男が殴り飛ばされた先にあった自転車

「ちょっと!れいな!またアタシの自転車壊してんじゃないわよ!」
「そっ・・・それはれいなのせいじゃないっすよぅ・・・」
「アンタがこんな所でケンカしたせいでしょうがっ!」
「えええぇぇぇ・・・」
「大明神1号は絡んできた酔っ払いにアンタが投げつけて大破!
 大明神2号はケンカでアンタが不良集団のド真ん中に突っ込んで大破!」
「やけん、それは反省しとるっちゃけど、今回はぁ・・・そのーたまたまって言うか・・・」
「たまたまじゃないわよ、たまたまじゃ・・・」

シューンと小さくなってうな垂れるれいな


「今から電話するわ、あんたの保護者に!あの悪徳警察官に!」
「わぁぁっ!マスター!ちょっ、タンマ!それだけはカンベン!」

れいなは携帯電話を持つマスターと呼ばれた女性の手を慌てて制する

「なによ?」
「いや、ホント、反省してるけん・・・その・・・ごめんなさい」

ペコリと頭を下げるれいな
その姿に小さくため息をついた女性は優しくれいなの頭を撫でまわす
れいなは安心した表情でちらりとその女性を見上げた、その時

ゴンッ!

れいなは殴られた

「イテッ!」
「調子に乗ってんじゃないわよ。アンタ、明日から一週間ウチで皿洗いね!」
「ふぁ~~ぃ」
「返事はハイッ!」
「ハイッ!田中れいな、皿洗いでも掃除でも何でもさせていただきます!」

背筋をシャキンと伸ばして敬礼のポーズ

「解ればよろしい、解れば。じゃね」

そう言って、女性は右手をひらひらさせながら扉を閉めた


  シーーーーーン

そして、またも3人の間に流れる沈黙

「あの・・・れいな?」

今度はさゆみが沈黙を破った

「あは・・・あははは・・・街のゴロツキより、あの人の方が怖いっちゃね・・・はは・・・」
「ぅん・・・そうだね・・・」
「絵里、怒られてないのに怖かった・・・」

  ははは・・・

乾いた笑いがしばらく暗い路地に響き続けたのでした

「って、笑ってる場合やなかと!絵里のケガ!」

急に我に返ったれいなは不意打ちで絵里の腕を取って、裾を捲りあげた

「あれ?」

そこには綺麗な肌だけが・・・

「もぉ、だから言ったじゃん。絵里は大丈夫だってー。ねー?」
「ねー」

絵里とさゆみは声を合わせて笑いあう


絵里はれいなに庇われたとき、無意識に能力を発動してしまったのだった
絵里の能力は自身の傷を他人に与える事はできても、他人の傷を一方的に引き受けることは出来ない
出来なかったはずだった
しかし、絵里はれいなの傷を自分の身で受け止めた
れいなの身の危険を目の当たりにし、絵里のれいなを守りたいという気持ちがこの現象を引き起こしたのだろうか
この時は絵里自身もよくわかってはいなかったのだが・・・

ちなみに、絵里の傷はれいなが怒られている間にさゆみがこっそりと治していた

「むーん・・・」

納得がいかないれいはしばらく難しい顔をしているのだった


その後、3人でれいなの居候先に上がりこんで夜更けまで5人で騒いだ

れいなの乱れた服と絵里の服に付いたものから、すぐにれいはがケンカしたことがバレて、
結局れいなは悪徳金髪婦警さんからきっつ~いゲンコツをもらった
ちっさい方の婦警さんはその立場もわきまえず、未成年の3人に酒を勧めてきた

久々に会った3人はとても楽しい時間を過ごした




そして

部屋の中で仲良く川の字になって眠っている絵里、さゆみ、れいな
そんな3人を横目に、この部屋の主とその後輩はベランダで煙草をふかしている

「なぁ・・・勝手にこんな事してもいいのかよ?」
「なにが?」
「れいなをあっちに渡してもいいのかって」
「ん?ええんちゃう?この1年でれいなとこっちの人間を一通り会わせたけど、誰とも共鳴せんかったし」
「まぁ、そうなんだけどさぁ・・・」
「それにな?広くはないけどちっこい路地が入り組んだこの街で、
 れいなはいとも簡単に襲われてるふたりを見つけ出したんやで?」
「れいなはあの子達と共鳴し合えたって事・・・か・・・」
「そ。それに今のあいつらと遣り合っても手応えなさすぎておもんないやろ。
 れいなをあっち側に付けたんはハンデや、ハンデ」
「ハンデねぇ・・・」
「フッ・・・これでやっとおもろなってきたで・・・」

ベランダから投げ捨てられた煙草が煙と共に闇に消えた
































最終更新:2012年11月23日 21:13