「……って、なに?」
忍は不思議そうに首を傾げた。
――――月村総合警備保障本社ビル16階、役員室。っていうか、藤代のねぐら。
昼食持参で忍はそこを訪れたわけだが、部屋の主は、だだっ広い部屋のど真ん中に敷いた布団(*もう一度明記すると、ここは役員室)から顔だけ出して、なにかの映像を移しているらしいノートパソコンを熱心に見ているところだった。
珍しいなと思いながら、何を見ているのか尋ねたところ、帰ってきたのが先の台詞――――「エリアルレイヴ」という単語だった。
「んーと……」
面倒くさそうな顔になりつつ、結局は説明をする藤代。
「もともとは、武器級(Cランク)になって「飛び跳ね」られるようになったガキども(クライム)が始めたバカ騒ぎ。高架下とか、建設途中の鉄骨だけの建造物なんかを会場に、縦横無尽に飛び跳ねまくる、なんかアホな行為」
「ああ。「上がりたて」のとき私も楽しかった覚えがあるよ」
高く高く。
ただジャンプするというだけの行為が楽しかった時代。
「なつかしいなあ」
「うん、まあ、それでね。いろいろやってるうちに口コミで広がって、ローカルルールもできてね。ただの喧嘩から一種の競技じみたことまで、結構いろいろやってるみたい」
なんでも賞金まででる「公式戦」もあるそうで、藤代が見ているのはインターネットで配信されている録画映像なのだそうだ。
「面白いの?」
はっきり言ってめちゃくちゃ意外だった。
そんなのにあの希ちゃんが興味を示すとは。
「や、別に」
が、藤代はあっさりそんなことを言う。
「ただまあ……兵器級の選手が何人かいてね」
「らら。それはそれは」
ちょっと納得。
「あと、虹希と護刃ちゃんがこっそり出入りしてるとか」
メチャ納得。
「そーいえば子供たちも、もうBランクかー」
しみじみ。
「まあ、今の目当てはそのエリアルレイヴで最強とされてる二人のバトルだね」
「Aランクの?」
「そ」
どれどれ、と藤代にのしかかるようにノーパソの小さな画面を覗き込む。
「能力使ってくれないかな……」
藤代は不満そうである。
「……へー」
忍は少し感心した様子で声を漏らした。
限られた足場を使い、三次元的に跳ね回りながら相手と一対一で戦う。エリアルレイヴではもっともベーシックな「SS」、ストライク・スフィアという競技映像のようだ。
画面の中では、真っ白な影と真っ黒な影が絡み合うような機動で交錯し、離れ、また激突し、それを繰り返している。それは、忍の目から見てもなかなかのものだ。一般人(ではもちろんない。観客もクライムかそれに準ずるはずだ。が、忍の感覚ではそうだ)には別次元の芸術に見えるだろう。
画面の下にはテロップで「ステージ:“トルク”」とあり、両サイドには選手名と思しき羅列があった。
「“スパイラルダイバー”「焔」と、“スカイウォーカー”「幽」。この二人が、エリアルレイヴ最強の座を争う二人だよ」
「いやいやいやいやいやいや!! 猫じゃん! 猫じゃん!?」
そう、猫だった。
藤代の言う焔も幽も、明らかにあからさまに猫だった。
式神とかその過剰シンクロではなく、普通サイズの、とくにとっぴな外見でもなく、普通にかわいい、猫だった。
問答無用に猫だった。にゃー。
「でも強いよ? 華もある」
「ねこ――――!」
混乱しすぎ。
「というかなにこの二匹!?」
まずは焔。真っ白な――――本当に濁りのない、雪のように真っ白な毛並みの猫だ(うわっ、目つき悪っ)。
……時間切れ。退散。
最終更新:2007年09月25日 13:42