「約束された――――!」
そうして。
神話級と兵器級の戦は、当然にふさわしいものが勝利する。
衛宮士郎はSスタンダード。
月村雫はAプラス。
贋作の担い手は正しく。
紫電の双剣士は誤っている。
だから当然に、
「――――正義の味方の理想に頷かないものはすなわち全て悪。だからここで殺すもやむなし」
――――舞台戦はここに限定成立。
「これまでそうしてきたように。これからも必ず必ずそうするように」
――――億と十の力の差は均衡し、
「おまえに跪かないものは死んだほうがいい。おまえが言う、どこまでも正論な理想を涙を流してありがたがらないやつは悪だから」
――――そして完全に逆転。
「――――そういうことだろ? だっておまえ。口では理想をいうおまえ。右手に握ってるのはなんなのか自分で解るだろ? ええ? そのために鍛えたんだろ? “守るとか救うとかのために”」
――――当然に。
それに「ふさわしいもの」が。
勝者となる。
「――――なあ正義の味方。私が剣で何かをなすものではなく、ただ「剣」のための「剣士」だとか、だから負けないとかホザいたおまえ?」
――――「正義」だけを守る「セイギノミカタ」?
――――おまえ、鏡を見たことがあるか?
そうして。
神話の者は落つ。兵器の者は立つ。
「……ハナクソだ。てめえの理想なぞ」
どの口でほざいて見せた、ハナクソが。
今ここで倒れ伏すお前が。どの口で私を。
「てめえの言う通りだ。きっと私は、剣のための剣士だ」
だから、あの二人に純度で勝り。あの二人より強く。
そして、あの二人に覚悟で劣り。あの二人より醜い。
「だがてめえは否定した。私をじゃなく、私が憧れたあの人を。あの人が歩む道を」
倒れ伏す士郎に雫は乱暴に蹴りをいれ、吐き捨てた。
「鮮血の守護。誰かに血を強いて、誰かの命を守る。間違ってるさ。解ってる。だが、」
てめえごときが理想(ハナクソ)なすりつけていいほど、安易な覚悟(みち)じゃあねえんだよ。
「けっ……もうどうでもいいがな」
ここで一つ。
士郎が倒れた時点で、決定された事実がある。
士郎が負けた、ということは。
舞台戦が成立した、ということで。
その帰結として。
――――衛宮士郎は、先の雫の言葉を聞いて、魂を減衰された、ということ。
――――その、結論として。
――――彼の魂は認めたのだ。
――――魂を支えるはずの、信念の濁りを。
――――ぴくり。
「ああ?」
ウッザ。
「立つのかよハナクソ。へばりついてろよそれらしく」
「――――それ、でも……」
「「それでも間違いなんかじゃないんだ」」
「「あの笑顔は、あんなにも」」
あざ笑う口調で、雫は士郎の言葉を被せた。
「ああそうですか。論理的に根拠がねえが?」
「…………」
「おまえさあ、もしかして」
あとで悔いれば、今殺していいとか思ってねえ?
「…………」
「なに違げーの? だっててめえ、立つってことは結局私の邪魔すんだろ? 止まらなきゃ殺してでも止めんだろ?」
「…………」
「私を止める理由は、要するに、私があの子供ぶっ殺して事態を解決しようとするからだよな?」
「…………」
「でもなあセイギノミカタ? あのガキがいると人が死ぬ。あのガキが死にゃあこれ以上は死ななくてすむ。私にこの依頼をしたやつだってそれが正しいと思ってそうしたんじゃあねえ。正しいかどうかじゃねえ。――――死にたくねえんだ」
解るか?
「――――死にたくねえんだよ、てめえの理想(ハナクソ)なんぞのためにっ!」
「…………」
「知るかよ、知ったことかよッ! 泣き言垂れてんじゃあねえぞ四十超えた大の大人がよッ! 今こうしてる一秒であのガキゃあ銃器級以下のレジスト能力がねえ民間人逆ギレ大はしゃぎでぶっ殺して回ってる! 私はそれを止めようとしてんのにどこぞのイカレ野郎が俺様の素晴らしいハナクソのために止めろ貴様ときたもんだ! ――――さあここで問題だ。死んだほうがいい奴だーれだ」
1、例のガキ。
2、ガキぶっ殺してハッピーエンドにしようとする極悪人の私。
3、現実みてねえハナクソ愛好家。
複数回答可。
「さあどーれだ。――――二秒で答えやがれハナクソぉ!」
「……助けてみせる」
――――三つ全部。助けて見せるから。
「――――だから! 今は眠れ、月村雫……っ!」
――――その体は、きっと剣で。
折れず、曲がらず、この世の果てまで、光を宿す。
「上等だハナクソ野郎ッ! 教育してやらあ! 逆ギレ(オヤクソク)やりゃあ誰も彼も涙と鼻水流して命乞いしてくれると思ってやがる四十親父(セイギノミカタ)になあッ!」
――――その魂は、きっと雷で。
留まらず、省みず、この世の果てまで、変化無く。
最終更新:2007年07月11日 03:41