「………………アイスココア、一つ」
一人の青年がいた。彼はひたすらに寡黙で、一挙一動が静かな……そう、落ち着いた青年だった。
「おっじさーんっ! あたしこの特別超激辛カレー大盛りでっ!」
一人の少女がいた。彼女はひたすらに賑やかで、一挙一動に華が在り……そう、元気な少女だった。
十数年ほど前。
とある研究所の中で、“自然”というファクターから派生した能力を限界まで高め、それを使用する人間を人間じゃなくすほどに弄繰り回し強化を施し、“自然”そのものの体現である“精霊”という幻想種を人工的に作り出そうという、そんな研究が行われた。
その計画の名は――――「エレメンツ・プロジェクト」
通称『精霊計画』と呼ばれたそれは、たった一人の狂気の学者の妄想から始まった。
結局のところこの計画はその殆どが途中で潰え、多大なる犠牲を出していくのだが――――その中で、唯一といわれる成功を収めたチームがあった。
“選別”概念の研究者が選んだ、“熱”というファクターをさらに二極した最大才能を持つ少年と少女を用いた、狂気の計画。
『イフリート計画』
愛する家族を失い、暖かな家庭は奪われ、幸せな思い出を壊されて少年は狂気によって生まれ変わる――――獄炎をその身に宿した存在へと。
憎んだ家族から逃れ、冷たい居場所から連れ去られ、不幸せな思いでを胸に抱いて少女は狂気によって生まれ変わる――――凍獄をその身に宿した存在へと。
「貴様等みたいな悪党には――――普通の死など生温い」
「安心して? 私の抱擁は気持ちいいから――――震えてしまうほどに、ね?」
一人の青年がいた。彼は瞳に怒りを押し隠し、燃え上がる身体を沈め、ただ静かに生きることを臨んでいた。
一人の少女がいた。彼女は幸せを心に封じ込め、凍てつく身体を動かしながら、ただ愛する人と生きることを臨んでいた。
しかしその願いは叶わない。
彼らの行く末にあるのは、ただただ危険な茨の道だけなのだから。
しかし彼らは臆せず進むだろう。
身体を切り刻む茨を燃やしつくし、あるいは凍りつかせた上で。
願わくば、彼らの行く末に数多の幸が在らんことを――――
パラレル・パラドックス外伝
第二章
IFRIT~紅蓮の業火と蒼氷の吐息~
最終更新:2007年07月06日 01:58