「申し訳ございませんでした」。二十一日午後九時すぎ、自民、公明両党の推薦を受けながら落選した元経済産業省課長持永哲志氏(46)は、宮崎市内の選挙事務所の大広間で、支持者数十人に土下座して回った。支持者からは「悪いのは哲志さんじゃない。謝らないで」と声が上がる。
選挙事務所の玄関には、持永氏と安倍晋三首相(自民党総裁)が笑顔で握手する写真が飾られ、壁には中川秀直幹事長ら党幹部の激励文がすき間なく張られている。にぎやかな事務所の装いとは対照的に、集まった支持者は一様に沈んだ表情でテレビのニュースをぼんやり眺めている。
持永氏は「すべて私の力不足です。みなさんの支援に恩返ししたいが、どうしたらいいのか今は思い当たりません」と声を詰まらせた。
■『東氏は相手にせず…予想外』
持永氏は、父・和見元衆院議員の後継として二〇〇三、〇五年に衆院宮崎3区に立候補し、いずれも落選。今回は「政治生命を懸けた戦い」だった。自公両党に加え、県内の経済十団体の推薦を受け、盤石の態勢を築いたはずだったが、東氏には、ダブルスコア以上の差をつけられた。
持永氏は敗因についてこう声を絞り出した。「政権与党に対する県民の一つの考え方が示されたということだと思う。既存政党離れの結果なのかな」
衆参国会議員五人のうち四人、県議四十二人のうち三十二人を自民党が占める「保守王国」宮崎県では、分裂選挙は「お家芸」になりつつある。〇三年の知事選、〇四年の参院選も保守分裂選挙だった。持永氏も過去二回の衆院選では、保守分裂選挙で敗れている。
自民党が持永氏を推薦した背景としては、持永氏が当選すれば、昨年末に自民党に復党した郵政造反組の古川禎久衆院議員(宮崎3区)とのすみ分けができるという“ご都合主義”もささやかれた。自民党の一部は推薦の過程が不透明だと反発し、前林野庁長官、川村秀三郎氏(57)支持に回った。
持永陣営関係者は「当初は東氏なんて相手にしていなかった。川村陣営ばかり意識していた。そこを知名度抜群の東氏にさらわれてしまった。どうしてこうなってしまったのか、さっぱり分からない」とぼやく。選対幹部も「こんな結果は予想外だった」。
もう一方の敗者、川村氏は午後九時すぎ、市内の選挙事務所で「出馬表明が遅れ、時間との戦いだった」と敗戦の弁。川村氏はどの政党、団体からも推薦は受けない「県民党」を掲げ、自民党の一部、民主党が支援に回った。
選対本部長の黒田昭・元西都(さいと)市長は「政治不信の大きな嵐が吹き荒れ、抗することができなかった」と敗因を分析。民主党の井上紀代子県議はこんな見方を示した。
「非常に厳しい選挙だった。県民に官僚に対する不信感がある」
そのまんま東氏の勝利を識者はどう読むか。
地元で選挙戦を見ていた宮崎大の小沼新教授(国際政治)は「意外。たぶん川村氏か持永氏と思っていた。田舎の知事選は一年も二年も前から詰めていくが、今回は選挙戦が短く、知名度が先行した」とみる。
■県民“無視”への怒り
さらに「県民は長年の保守分裂のドロドロにへきえきしている。それを変えようとした前知事も逮捕され、『いっぺんグチャグチャにしたほうがいい』と、やけっぱちのようなことを言う人もいた。(横山ノック氏が知事になった)大阪で起きたことが、十年遅れて宮崎で起きた」と有権者の怒りを表現する。
東氏については「演説が上手で、目と目を合わせて話す。宮崎弁も最初は耳についたが、だんだん慣れた。一番街頭を歩き、一人一人と握手していたのは彼だった」。「談合は必要悪」という発言で物議を醸したが「そう思っている候補は他にもいるだろうが、言わなかっただけ。東氏は『正直に言うた』と県民は受け止め、マイナスに働かなかった」とみる。
過去の淫行(いんこう)騒動も致命傷にはならなかった。「宮崎はそういうことに甘い。『あれだけ謝っているんだから、もうせんちゃない(もうしないんじゃない)』と言う感じ。優しさですかねえ。ただ、『ノック氏の二の舞いにならなければいいが』と言う人もいますが」
■『タイミング』『知名度』効いた
評論家の室伏哲郎氏は「和歌山県など各地で知事の事件が起き、庶民に嫌気がさしたとき、地元に戻ったタイミングも良かった。(淫行などが影響しなかったのは)過去の政治家の、問題のある言動と比べ許容範囲内とみられたから」とみる。
そのうえで「初心を忘れず、県を刷新する気持ちを持ち続けられるか。ごう慢になったらだめだ。過去のタレント知事は田中康夫前長野県知事以外、官僚に丸め込まれた。『談合はやらない』といった信念を一つ持つこと」とアドバイスする。
官製談合事件が取りざたされる中、持永氏や川村氏が官僚出身だったのもマイナスに働いたとみられている。
政治評論家の有馬晴海氏は「勝負を分けたのはやはり知名度。『悪名は無名に勝る』ということ。みんな珍しいもの見たさに集まってきた。自民党の若手がテレビタレント化しているのも、手っ取り早く、金もいらないからだ」と指摘する。
東氏勝利を予測していた政治評論家の小林吉弥氏は「確かに保守分裂はあったが、得票を見ると、一人に絞っても東氏が逃げ切った可能性が高い」と分析する。
今年七月行われる参院選への影響はどうか。
小林氏は「政党から声を掛けられても腰が引けていた人物が、かなり出てくる。芸能界だけでなく、スポーツ界からもタレント候補が擁立される」と予測する。
激震が襲った宮崎県だが、またしても参院選で内輪もめによる分裂が現実のものになりつつある。自民党は参院選宮崎選挙区に現職小斉平敏文氏(57)の公認を決めているが、そこに元自民党参院議員の長峯基氏(65)が無所属で立候補することを表明したのだ。
党関係者からはこんなぼやきも漏れる。
「ここは自民党が強すぎるから、すぐに身内で争ってしまう。そこに県民はうんざりしている。参院選でも東氏みたいな候補者が出てくれば、また負けるんじゃないか」
<デスクメモ> 取材前の打ち合わせでは、川村氏が優勢で、東氏は頑張るが、もう一歩で惜敗するという情勢分析。この情報が「私くらい入れてやろう」という県民へのアナウンス効果になったのか。東氏の再チャレンジで自公推薦候補が三番手となったのも皮肉だ。新知事には、今後も「そのまんま」うまくやってほしい。 (蒲)
東京新聞
最終更新:2007年01月24日 02:06