一 趣旨
日本国憲法の改正についての国民の承認の投票(以下「国民投票」という。)については、この法律の定めるところによるものとすること。
二 国民投票に関する事務の管理
国民投票に関する事務は、中央選挙管理会が管理するものとすること。
三 国民投票に関する啓発、周知等
総理大臣、中央選挙管理会並びに都道府県及び市町村の選挙管理委員会は、国民投票に際しては、あらゆる機会を通じて、国民投票の方法その他国民投票に関し必要と認める事項を投票人に周知させなければならないものとすること。
第二 国民投票の投票権
国民投票の投票権を有する者は、国政選挙の選挙権を有する者のほか、選挙犯罪により公職選挙法上公民権を停止されている者とすること。ただし、この法律に規定する罪により禁錮以上の刑に処せられた者は、投票権を有しないものとすること。
※ 国民投票の投票権は、国政選挙の選挙権を有する者に与えられることを原則とした。しかし、国政選挙の選挙権を有しない者(公選法11条1項、2項)であっても、選挙犯罪により公選法上公民権を停止されている者(同条1項5号、同条2項、252条)は、選挙のルールを破った者として公職の選挙についての選挙権を否定される理由はあるものの、憲法改正の投票権までも否定する理由に乏しいと考えられる。よって、本法案では、このような者についても、投票権を与えることとした。ただし、このように選挙のルールを破った者が、国民投票に関して他人に働きかける行動をすることを認めるべきではない。そこで、これらの者は国民投票運動をすることはできないこととしている。(第11の4)。
一方、この法律に規定する罪(国民投票運動の規制に違反する罪等)により処罰されたものは、国民投票制度のルールに違反した者として、一定期間、国民投票の投票権を認めないこととした。なお、第11の4参照。
第三 投票人名簿及び在外投票人名簿
1 市町村の選挙管理委員会は、国民投票が行われる場合においては、投票人名簿及び在外投票人名簿を調製しなければならないものとすること。
2 投票人名簿の被登録資格としては、公職選挙法上の選挙人名簿とは異なり、引き続き3箇月以上当該市町村に居住していることは要件としないものとすること。
第四 国民投票の期日等
1 国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後90日以内において内閣が定める期日に行うものとすること。ただし、国政選挙の期日その他の特定の期日に行う旨の国会の議決がある場合には、当該期日に行うものとすること。
2 内閣は、少なくとも国民投票の期日の20日(衆議院議員の総選挙の期日に行う場合にあっては12日、参議院議員の通常選挙の期日に行う場合にあっては17日)前に、国民投票の期日及び内閣に送付された憲法改正案を官報で告示しなければならないものとすること。
※ 国民投票の期日を憲法改正の発議後何日以内にするか、また、告示をいつまでに行うかは、周知期間をどの程度とるべきかという判断とリンクしている。
国民に憲法改正についての周知を徹底させるためには、十分な期間が必要であるが、あまり、期間が長いと逆に関心が薄れるおそれもある。そこで、本法案では、両方の要請の調和点として上記の日数を設定した。
ちなみに、昭和28年の自治庁案では、発議後35~90日の間に国民投票を行い、投票期日の25日以前に告示を行うこととなっていた。
第五 投票及び開票
一 1人1票
国民投票は1人1票に限るものとすること。
二 投票管理者及び投票立会人
投票管理者及び投票立会人に関し、必要な規定を置くものとすること。
三 投票用紙の様式
投票用紙には、憲法改正に対する賛成又は反対の意思を表示する記号を記載する欄を設けるとともに、憲法改正案を掲載しなければならないものとすること。
四 投票の方式
投票人は、投票所のおいて、憲法改正に対し賛成するときは投票用紙の記載欄に○の記号を、憲法改正に対し反対するときは投票用紙の記号欄に×の記号を、自ら記載して、これを投票箱に入れなければならないものとすること。
※ 憲法改正の内容が複数の事項にわたる場合、一部に賛成で、一部に反対という意思表示の方法を認める必要があるのではないかが問題になる。しかし、そのような場合は、国会が改正案を発議する際に、改正の対象となる各々の事項ごとに発議を行えば、各事項に係る発議に対応して投票を行うことになるので、一部賛成、一部反対の票を投じることと同じ結果が得られるのではないか。
すなわち、この問題は、国会の発議の方法を工夫することによって解決できると思われる(国会法の一部を改正する法律案要綱参照)
五 開票管理者及び開票立会人
開票管理者及び開票立会人に関し、必要な規定を置くものとすること。
六 投票及び開票に関するその他の事項
この法律に規定するもののほか、国民投票の投票及び開票に関しては、衆議院比例代表選挙の投票及び開票に関する規定の例によるものとすること。
第六 国民投票分会及び国民投票会
一 国民投票分会及び国民投票会
国民投票分会及び国民投票会について必要な規定を置くものとすること。
※ 国民投票分会、国民投票会は、国政選挙における選挙分会、選挙会に対応するもので、次のような事務を行う。
国民投票分会・・・都道府県ごとに置かれ、その都道府県内の開票が終了した段階で開票結果の報告を調査し、その結果を国民投票長(国民投票会の長のこと。)に報告する。
国民投票会・・・全国に1つ置かれ、各都道府県の国民投票分会長からの報告を調査し、その結果を中央選挙管理会に報告する。
二 国民投票の結果の告示等
中央選挙管理会は、国民投票の結果の報告を受けたときは、有効投票総数、賛成投票数及び反対投票数並びに賛成投票数が有効投票総数の2分の1を超える旨又は超えない旨を官報で告示するとともに、総務大臣を通じ内閣総理大臣に通知しなければならないものとすること。
第七 国民投票の効果
一 国民の承認
国民投票の結果、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の2分の1を超える場合は、当該憲法改正について国民の承認があったものとすること。
※ 憲法改正の効果の要件として、憲法第96条は「(国民)投票においてその過半数の賛成を必要とする」と定めるが、「過半数」の意味として、本案のように、①有効投票総数の過半数が賛成である場合とする考えのほか、②投票総数の過半数が賛成である場合とする考え、③有権者総数の過半数が賛成である場合とする考え、等があるが、棄権票や無効票を一律に反対票と同視するのは適切でないので、有効投票数の過半数が賛成であることを憲法改正の効果発生要件としている。
二 憲法改正の公布
内閣総理大臣は、中央選挙管理会より、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の2分の1を超える旨の通知を受けたときは、直ちに当該憲法改正の公布の手続きを執らなければならないものとすること。
第八 訴訟
一 訴訟の提起
国民投票の効力に関し異議があるときは、投票人は、中央選挙管理会を被告として、中央選挙管理会が国民投票の結果を告示した日から起算して30日以内に、東京高等裁判所に訴訟を提起することができるものとすること。
※ 投票、開票等に違法があったと考える者が国民投票の効力を争うため出訴する手段として、このような訴訟を認めている。この訴訟は東京高等裁判所の専属管轄であり、2審制とした。
早期に訴訟の結果を確定する必要があることから、出訴期間を国民投票の結果が確定してから30日以内に限定した。
二 無効判決
一による訴訟の提起があった場合において、国民投票に関する規定に違反することがあるときは、国民投票の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、裁判所は、その国民投票の全部又は一部の無効の判決をしなければならないものとすること。
三 裁判所の処理に係る原則
一による訴訟については、裁判所は、他の一切の訴訟に優先して、速やかにその裁判をしなければならないものとすること。
四 訴訟の提起が投票の効果に与える影響
一による訴訟が提起されても、その判決が確定するまでは、国民投票の効果に影響を及ぼさないものとすること。
第九 再投票及び更正決定
一 再投票
第八の一による訴訟の結果、国民投票の全部又は一部が無効となった場合においては、二に該当する場合を除いて、更に国民投票を行わなければならないものとすること。
二 更正決定
第八の一による訴訟の結果、国民投票の全部又は一部が無効になったときに、更に国民投票を行わないで国民投票の結果を定めることができる場合においては、国民投票会を開き、これを定めなければならないものとすること。
第十 国民投票に関する周知
都道府県の選挙管理委員会は、政令で定めるところにより、憲法改正案、投票用紙の見本その他国民投票に関し参考となるべき事項を掲載した国民投票公報を発行しなければならないものとすること。
第十一 国民投票運動に関する規制
※ 本法案では、国民投票に関する運動については、基本的に自由であるという原則の下に、公務員のように、立場上、公正であることが求められる者の行為、国民に多大な影響を与えるマスコミによる虚偽報道等の不当な行為等についてのみ、公選法にならった規制を設けている。
しかし、国民投票に関する運動は、公選法の選挙運動のように運動期間が明確に限られているわけでないこと等から、規制の範囲が必ずしも明確ではない。また、規制に違反した場合は罰則が適用されることが想定されるので、罪刑法定主義の要請を満たす必要もある。そこで、規制される運動の範囲をある程度明確にするよう、今後、検討する必要がある。
なお、未成年者使用の国民投票運動の規制の是非についても論議があるが、国民投票に関する運動は基本的に自由とするという原則から、規制を設けないこととした。
一 特定公務員等の国民投票運動の禁止
1 中央選挙管理会の委員等、選挙管理委員会の委員及び職員、裁判官、検察官、警察官等は、在職中、国民投票に関し憲法改正に対し賛成又は反対の投票をさせる目的をもってする運動(以下「国民投票運動」という。)をすることができないものとすること。
2 国民投票の投票管理者、開票管理者、国民投票分会長及び国民投票長は、在職中、その関係区域内において、国民投票運動をすることができないものとすること。
3 不在者投票管理者は、不在者投票に関し、その者の業務上の地位を利用して国民投票運動をすることができないものとすること。
二 公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の禁止
国又は地方公共団体の公務員等及び教育者(
学校教育法に規定する学校の長及び教員をいう。)は、その地位を利用して国民投票運動をすることができないものとすること。
三 外国人の国民投票運動の禁止等
1 外国人は、国民投票運動をすることができないものとすること。
2 外国人、外国法人等は、国民投票運動に関し、寄附をしてはならず、何人も、国民投票運動に関し、外国人、外国法人等から寄附を受けてはならないものとすること。
3 何人も、国民投票運動の関し、外国人、外国法人等に対し、寄附を要求し、又はその周旋若しくは勧誘をしてはならないものとすること。
※ 本法案では、憲法改正は主権者たる日本国民の自主的な判断に基づいて判断されるべきという考えに立って、外国人の国民投票運動を禁止した。
しかし、上記のように、禁止されるべき国民投票運動の外延が必ずしも明確でないことを考えると、外国人に国民投票運動の一切を認めないことは、現在の国際化した社会において、過度の規制となるおそれがないか更に検討する必要がある。
ちなみに、昭和28年の自治庁案では、この案と同様の規制がなされている。
四 国民投票に関する罪を犯した者等の国民投票運動の禁止
この法律に規定する罪により刑に処せられ国民投票の投票権を有しない者及び公職選挙法上公民権を停止されている者は、国民投票運動をすることができないものとすること。
五 予想投票の公表の禁止
何人も、国民投票に関し、その結果を予想する投票の経過又は結果を公表してはならないものとすること。
六 新聞又は雑誌の虚偽報道等の禁止
新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌は、国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を記載し、又は事実をゆがめて記載する等表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならないものとすること。
※ この規定は、新聞紙、雑誌等が国民投票に関して虚偽の報道を行うことを禁止したものである。例えば、憲法を改正した場合あるいは改正しなかった場合に、どのような事態が生じるかについて予想を記載するような行為は、一般的には、虚偽の報道に当たらない。
※ 本案では、マスコミに対する規制は、公選法に規定されているもののうち、虚偽報道の禁止及びマスコミを買収して報道を行わせる行為等の禁止について規定するだけである。表現の自由の尊重の要請がある一方で、マスコミの影響力の大きさを考慮しつつ、マスコミの報道に対してどこまで規制を行うべきかの議論が更に必要である。
七 新聞紙又は雑誌の不法利用等の制限
1 何人も、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者に対し、財産上の利益の供与等を行って、当該新聞紙または雑誌に国民投票に関する報道および評論を掲載させることができないものとすること。
2 新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者は、財産上の利益の供与を受けること等によって、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載することができないものとすること。
3 何人も、国民投票に影響を及ぼす目的をもって、新聞紙又は雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載し、又は掲載させることができないものとすること。
八 放送事業者の虚偽報道等の禁止
日本放送協会又は一般放送事業者は、国民投票に関する報道及び評論において虚偽の事項を放送し、又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならないものとすること。
第十二 罰則
1 買収罪、国民投票の自由妨害罪、投票の秘密侵害罪、国民投票運動の規制違反の罪その他の罪に関し、必要な罰則の規定を置くものとすること。
2 国外犯に対し、必要な罰則の規定を置くものとすること。
第十三 その他
1 国民投票の執行に関する費用は、国庫の負担とするものとすること。
2 この法律の執行に関し必要な事項は、政令で定めるものとすること。
3 その他所要の規定を設けるものとすること。
第十四 附則
この法律は、 から施行するものとすること。
最終更新:2006年12月20日 17:46