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鳥取SS - (2013/09/18 (水) 21:33:24) の編集履歴(バックアップ)


鳥取SS




『書いてて自分でもなんだかよくわからないSS』


ザザッ、ザザッ。
規則正しい音を立てて大地を蹴り走る。
傍らを走る部下の顔に焦りが浮かぶ。
恐らくは皆、いや私ですら同じ顔をしているのだろう。

「隊長!!殿(しんがり)の部隊より通信!!『ご武運を』との事です。」

通信兵の鳴き声に近い叫びが響く。

「通信…途絶しました!!」
「た、隊長!!」

部隊に動揺が走る。
このままでは済まされない。
前方に光が見える。

「次郎は!!後に残った者たちは勤めを果たした!!前を見ろ、じき腐海を抜けるぞ!!」

鳥取大砂丘に突如として出現した巨大菌類の森、“腐海”。
うかつにも足を踏み入れた代償は大きかった。
希望崎学園においてもっとも砂漠環境に適応した我々が砂地以外に足を踏み入れた事が失態だったというのか。
しかしこれよりは砂地。
このまま好きにさせるものか。
多くの部下を弟を盾にしたこの報いを、奴らに味あわせてやるのだ。

「希望崎学園砂漠斥候中隊はこれより戦闘に入る。砂上で我らに勝てる者など居ないことを奴らに教えてやれ!!」
「サー!!イエッサー!!」

ザザザザザッ。
足音が渇いたそれに変わる。
菌類の領域は超えたのだ。

どおん!!
後方で砂煙が…胞子が巻き上がる。

「敵影発見!!数は3!!」

巨大な茸を食い破るようにして巨大な蟲が出現する。
鈍い光沢を放つ体。
鋭く光るシュレッダーめいた口がガチガチと金属音を発している。
その後ろを音もなく得体の知れない白い何かが蠢きながら進んでくる。

「アハ!!久しぶりの苗床!!みんな喜ぶわぁ!!」

おっとりした口調でありながら砂の上を少女が胞子を巻き上げながら爆走してくる。
頭にはキノコが生えている。
あの腐海の主だろう。

「兵を真っ二つに分ける!!敵を両翼から挟撃せよ!!」
「イエッサー!!」

あの菌類の森で多くの同胞を失った。
この事実を希望崎学園に伝えねばならない。

「新入り!!お前は先に行け!!情報を希望崎学園の仲間に伝えるのだ!!」
「…しかし!!兄さん!!」
「隊長と呼べ!!今は通信兵としての務めを果たせ!!お前の補給能力はここよりも仲間のために役に立つ!!」
「…了解…しました!!」
「安心しろ。俺たちが砂上で負けることなど有り得ない!!行け!!」
「はいッ!!」

やつはまだ若い。
しかも戦闘向きの能力を持たない。
通信、補給としての能力はこの戦後にこそ生きるはずだ。
まだ戦闘経験も少なく新入りと呼ばれている。
我々の部隊ではある程度の任務を経験してから名前が与えられるからだ。
新入りが走っていく。
新入り…弟の背中を見送る。

「隊長…」
「すまないな、副長。私も身内に甘い。」
「いえ、気になさらないでください。我々は隊長の判断を信じます。」
「ああ、帰ったらヤツにも名前をつけてやらないとな。フッ…さあ逝くぞ!!反転せよ!!我ら希望崎学園砂漠斥候中隊は砂漠戦のプロフェッショナルだ!!」
「サー!!イエッサー!!」

部隊を二つに分け一気に反転左右より敵を攻撃する。

「あれ?苗床がもどってきたよ?アハハ、しあわせ~」
「…、んふぇおうぃ…」(虚空から響くような虚ろな音。蠢く白い者から発せられた)
「ギチギチ!!」

やつらは油断している。
我々を見た目で判断して侮ったか。
砂漠では有利だと思ったか。
敵に迫る。
ここだ!!

「サンドクロスフォーメーション!!」
「イエッサー!!」

更に兵を二つに分け敵の直前で進路を変更。
敵とすれ違い交差する。

「あれ~?」
「にえおぃ…もぅづさ?」

待ち受けていた敵の攻撃を紙一重で避ける。
これこそが砂漠での機動力を活かした我々の必殺陣形。
動揺した敵を前後左右から一気に襲い殲滅する。

「敵を十字に切り裂け!!我らの圧倒的な勝利だ!!」

勝った!!
次郎!!お前の犠牲は無駄では…。

「敵をfree!にすると思ったのか?」
「な、なんだと…」
足を掴まれた。
砂の中からスイムキャップとゴーグルを装備した若い男の顔が除く。

「ぎやああああああああああああ!!」
「た、助けてください。隊長!!隊長ォ!!」

なんだ、なんだこれは。

敵を後方から襲うはずだった部下たちの体に、みっしりと黒い何かが蠢いている。
小さな蟲、蟻だ。

右の部隊の体には無数の針が突き立っている。
あのサボテンは…動いているのか?

謎のロボットが電撃を放っている。
副隊長のメガネがハンマーで打ち砕かれそのまま頭を割られて死体となっている

無数のキノコを体にから生やして倒れこむ者たち。
巨大な金属甲鱗のワームに食いちぎられる者たち。
白い異形に飲み込まれる者たち。
それらは希望崎学園砂漠斥候中隊。
私の部下だった。

「まったく…伏兵も読めないとはな。お前たちは誘い込まれたのだ。その程度で砂漠戦のプロフェッショナル気取りか?」

軍服を着込んだ少女が呆れ顔で部下たちを駆逐しながら歩いてきた。

「ナチスのロンメル将軍の伝記でも読んで砂漠戦を勉強しなおすのだな、もっとも、いまからお前たちは生きたままキノコの苗床だが」

「馬鹿な、馬鹿な。」

「君たちは囚われのバタフライだ…RAGE ON…」

砂の中を自由に泳ぐ男が呟く。
私は、砂の中に引きずり込まれた。


希望崎学園砂漠斥候駱駝中隊。
隊員、ラクダ135匹死亡。

生き残りラクダ1匹。
生き残ったフタコブラクダのオスはこの事実を希望崎学園に立派に伝えた。
彼は戦闘能力を持たない。
給水するのみである。
顔はなんかムカツクし、モノ食う時クッチャクッチャ言う。

しかし、家族を仲間を失ったというのにその瞳は意志の光を失っていない。
何故かメンタルが異常に強い。

彼の名前は…まだ、ない。