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&size(20){鳥取SS} ---- #contents ---- *『書いてて自分でもなんだかよくわからないSS』 ザザッ、ザザッ。 規則正しい音を立てて大地を蹴り走る。 傍らを走る部下の顔に焦りが浮かぶ。 恐らくは皆、いや私ですら同じ顔をしているのだろう。 「隊長!!殿(しんがり)の部隊より通信!!『ご武運を』との事です。」 通信兵の鳴き声に近い叫びが響く。 「通信…途絶しました!!」 「た、隊長!!」 部隊に動揺が走る。 このままでは済まされない。 前方に光が見える。 「次郎は!!後に残った者たちは勤めを果たした!!前を見ろ、じき腐海を抜けるぞ!!」 鳥取大砂丘に突如として出現した巨大菌類の森、“腐海”。 うかつにも足を踏み入れた代償は大きかった。 希望崎学園においてもっとも砂漠環境に適応した我々が砂地以外に足を踏み入れた事が失態だったというのか。 しかしこれよりは砂地。 このまま好きにさせるものか。 多くの部下を弟を盾にしたこの報いを、奴らに味あわせてやるのだ。 「希望崎学園砂漠斥候中隊はこれより戦闘に入る。砂上で我らに勝てる者など居ないことを奴らに教えてやれ!!」 「サー!!イエッサー!!」 ザザザザザッ。 足音が渇いたそれに変わる。 菌類の領域は超えたのだ。 どおん!! 後方で砂煙が…胞子が巻き上がる。 「敵影発見!!数は3!!」 巨大な茸を食い破るようにして巨大な蟲が出現する。 鈍い光沢を放つ体。 鋭く光るシュレッダーめいた口がガチガチと金属音を発している。 その後ろを音もなく得体の知れない白い何かが蠢きながら進んでくる。 「アハ!!久しぶりの苗床!!みんな喜ぶわぁ!!」 おっとりした口調でありながら砂の上を少女が胞子を巻き上げながら爆走してくる。 頭にはキノコが生えている。 あの腐海の主だろう。 「兵を真っ二つに分ける!!敵を両翼から挟撃せよ!!」 「イエッサー!!」 あの菌類の森で多くの同胞を失った。 この事実を希望崎学園に伝えねばならない。 「新入り!!お前は先に行け!!情報を希望崎学園の仲間に伝えるのだ!!」 「…しかし!!兄さん!!」 「隊長と呼べ!!今は通信兵としての務めを果たせ!!お前の補給能力はここよりも仲間のために役に立つ!!」 「…了解…しました!!」 「安心しろ。俺たちが砂上で負けることなど有り得ない!!行け!!」 「はいッ!!」 やつはまだ若い。 しかも戦闘向きの能力を持たない。 通信、補給としての能力はこの戦後にこそ生きるはずだ。 まだ戦闘経験も少なく新入りと呼ばれている。 我々の部隊ではある程度の任務を経験してから名前が与えられるからだ。 新入りが走っていく。 新入り…弟の背中を見送る。 「隊長…」 「すまないな、副長。私も身内に甘い。」 「いえ、気になさらないでください。我々は隊長の判断を信じます。」 「ああ、帰ったらヤツにも名前をつけてやらないとな。フッ…さあ逝くぞ!!反転せよ!!我ら希望崎学園砂漠斥候中隊は砂漠戦のプロフェッショナルだ!!」 「サー!!イエッサー!!」 部隊を二つに分け一気に反転左右より敵を攻撃する。 「あれ?苗床がもどってきたよ?アハハ、しあわせ~」 「…、んふぇおうぃ…」(虚空から響くような虚ろな音。蠢く白い者から発せられた) 「ギチギチ!!」 やつらは油断している。 我々を見た目で判断して侮ったか。 砂漠では有利だと思ったか。 敵に迫る。 ここだ!! 「サンドクロスフォーメーション!!」 「イエッサー!!」 更に兵を二つに分け敵の直前で進路を変更。 敵とすれ違い交差する。 「あれ~?」 「にえおぃ…もぅづさ?」 待ち受けていた敵の攻撃を紙一重で避ける。 これこそが砂漠での機動力を活かした我々の必殺陣形。 動揺した敵を前後左右から一気に襲い殲滅する。 「敵を十字に切り裂け!!我らの圧倒的な勝利だ!!」 勝った!! 次郎!!お前の犠牲は無駄では…。 「敵をfree!にすると思ったのか?」 「な、なんだと…」 足を掴まれた。 砂の中からスイムキャップとゴーグルを装備した若い男の顔が除く。 「ぎやああああああああああああ!!」 「た、助けてください。隊長!!隊長ォ!!」 なんだ、なんだこれは。 敵を後方から襲うはずだった部下たちの体に、みっしりと黒い何かが蠢いている。 小さな蟲、蟻だ。 右の部隊の体には無数の針が突き立っている。 あのサボテンは…動いているのか? 謎のロボットが電撃を放っている。 副隊長のメガネがハンマーで打ち砕かれそのまま頭を割られて死体となっている 無数のキノコを体にから生やして倒れこむ者たち。 巨大な金属甲鱗のワームに食いちぎられる者たち。 白い異形に飲み込まれる者たち。 それらは希望崎学園砂漠斥候中隊。 私の部下だった。 「まったく…伏兵も読めないとはな。お前たちは誘い込まれたのだ。その程度で砂漠戦のプロフェッショナル気取りか?」 軍服を着込んだ少女が呆れ顔で部下たちを駆逐しながら歩いてきた。 「ナチスのロンメル将軍の伝記でも読んで砂漠戦を勉強しなおすのだな、もっとも、いまからお前たちは生きたままキノコの苗床だが」 「馬鹿な、馬鹿な。」 「君たちは囚われのバタフライだ…RAGE ON…」 砂の中を自由に泳ぐ男が呟く。 私は、砂の中に引きずり込まれた。 希望崎学園砂漠斥候駱駝中隊。 隊員、ラクダ135匹死亡。 生き残りラクダ1匹。 生き残ったフタコブラクダのオスはこの事実を希望崎学園に立派に伝えた。 彼は戦闘能力を持たない。 給水するのみである。 顔はなんかムカツクし、モノ食う時クッチャクッチャ言う。 しかし、家族を仲間を失ったというのにその瞳は意志の光を失っていない。 何故かメンタルが異常に強い。 彼の名前は…まだ、ない。 *『Fleeting dreams , more so reality』 ――鳥取砂丘高校、談話室 様々な大小の魑魅魍魎に合わせたサイズの椅子と机(と、キノコ)が用意されたこの巨大な部屋環境は、普段から生徒たちの憩いの場として人気を博している。 だが、現在の部屋の主はただ一人である。部屋の隅の小さな椅子に掛け、腕を組み沈思黙考する少女のみ。 彼女を恐れ、その周りに近づくものはない。 正確には、彼女の取り巻きを恐れて。 「おい、見ろよ……“女王”だ」 「“女王”が御機嫌斜めだな……恐ろしい……」 「おいおい、迂闊な話は止せよ……“近衛兵”がどれだけ見回ってるかわかりゃあしない」 その近づく者無い談話室に、一人近づく姿がある。 凛とした印象を抱かせるその少女は、対異邦(きぼうさき)戦を見越して集められた魔人集団の一人である。 そして机に突っ伏し、うんうん唸り始めた少女も、同じく招集された魔人であるのだ。 「新垣さん」 新垣と呼ばれた少女、新垣華は顔を上げ、入ってきた少女――南崎秀華を漸く認める。 「ニャn……南崎先輩」 「今の噛み方は何……。まあいいわ、もうすぐ作戦会議が始まるわ。 こんな所で油を売ってないで、みんな待ってるから」 「…………はい」 返事もそぞろな新垣の顔は、お世辞にも明るいとはいえないものである。 ――学級委員長である私なら、人並みくらいに相談に乗ってやる力も、その義務もあるだろう。 後輩を前に、南崎はそう思索を巡らす。 できる限り刺激しないような、最大限努力した優しい声音で、新垣へ問いかける。 「悩み事?聞いてあげてもいいけど?」 「先輩……」 潤みかけた目で、南崎を見つめる新垣。どうやら彼女の努力は実を結んだらしい。 「……先輩、私、夢があったんですよ」 抗争を控えているにもかかわらず、いや、だからこそか。 稚気じみた話をする、と南崎秀華は微笑ましく思いかけ、 「――私、女王になりたかったんですよ」 すぐに冷淡な平静さを取り戻した。 「みんなそう呼んでるじゃない」 「違うの!」 机をバンバンと叩き、新垣は反駁する。 「女王ってのは……王砂さんみたいな感じがよかったんですよ! ああやって、砂泳部の女みたいな名前のマッチョイケメン四人衆に神輿担がせたり! ショタっ子侍らせたり、ああいうイケメンパラダイスを!そういうのがよかったの!」 拳をうち、滔々と語る新垣。ただ彼女の目は、微かに憂いに曇っていく。 「それが、にゃんで……」 「ニャン!?」 「すみません!なんで! なんで蟻にたかられてるんですか……?」 「……さあ?」 新垣は更に声を荒げる。 「こんな仕打ちがありますか!?こんな境遇に置かれたことのある人が他に居ますか……?」 「……蛭神さんは?」 「蛭神さんは別です」 「そうね」 「とにかく、私だって普通の女王に戻りたいんですよ。王砂さんみたいにああいう憧れの感じの――」 それを普通とは言わないと思うけど、という疑問を飲み込み、彼女は談話室のすぐ外に警戒をやる。 彼女らを取り囲んでいる、複数の影。 人間サイズの巨大な昆虫めいたシルエット。 鳥取において勢力を広げる、エンジニアリ(学名:Tottorius TechniciAnts)が搭乗する二足歩行兵器である。 顎の巨大な牙(ブレード)が禍々しく煌めくその姿は、近寄ろうとする意志を削ぎ落とすには十二分である。 「げっ」 「そうか、そうだったのか……」 蟻甲兵の一人が、感慨深げに呟く。 「我々は思い違いをしていたのかもしれない……姫、あなたは」 深刻そうに話を切り出す蟻達を見て、新垣華もしおらしく体勢を縮め声を絞りだす。 「あ、はいそうなんですよ……すみません今までずっと黙ってて……」 「――高みより見下ろしたかったとは。今まで気づかず済まなかった。さあ、私の肩に乗りたまえ」 「え、いやいやいやそういうことじゃないんですけど……!」 蟻たちは新垣に詰め寄り、南崎を輪の外へと追いやっていく。 「貴様!抜け駆けは許さんぞ!私の方に乗るのだ!」 「殿方は下がっていてくださる?選ばれるべきはこの私ですわ!」 「待ちたまえ、この僕こそが姫の騎士に最も相応しい筈だ!さあ!さあ!」 「……先に行くわね」 そそくさと退出する南崎秀華。 自分の背中に呪詛の言葉を投げかける少女を残して、彼女は会議の場へと歩を速めた。 *『鳥取軍部下士官手記』  我が鳥取砂丘高校は厳しい自然に囲まれた、決して快適とは言えない環境の中にある。辺りに広がるのは緑なす豊穣の地とは程遠い不毛の砂丘地帯。ここではコップ一杯の水を巡って殺し合いが起こる光景さえ、取り立てて珍しいものではない。  だが、決して無法地帯ではない。  荒れ果てた地に秩序をもたらすのは、鉄の規律で統制された武装集団『軍部』。学内の治安を守り、外敵を撃退する任務を果たす存在。本来はただの部活動の一つに過ぎなかったそれを圧倒的なカリスマで纏め上げ、近隣の諸校にも類を見ない卓越した武力を持つ戦闘組織へと生まれ変わらせたのが現在の『軍部』指揮官である一七千(にのまえ・なち)その人である。  苛烈にして冷静、暴力と策略を両輪の戦車とする彼女は『軍部』を率いて度重なる戦果を上げ、瞬く間に我が校に反抗する敵を制圧し、鳥取砂丘高校が実質上の鳥取の支配者となる立役者となった。その功績と軍事力を背景にした発言力は鳥取砂丘高校の指導者さえ決して無視できない。『軍部』の中でも血気盛んな新兵(いちねんせい)等はクーデターによる政権奪取を口にして憚らない者も居るが、七千司令官自身は「軍人は戦闘こそがその本分であり、統治は我らが責務ではない」と野心を膨張させる事なく『軍部』の組織熟成と任務達成に情熱を注いでいる。──────────少なくとも、そのように振舞っている。  『軍部』の戦闘力の高さは、敵に対するよりもなお激しい兵士訓練に支えられている。烈火の如く熱く、氷雪の如く険しいと恐れられる入部調練を受けた後では、中学では番長でならした暴れ者の戦闘魔人も従順な軍犬と化し、生まれてこの方取っ組み合いの喧嘩などした事もない内向的で貧弱な非魔人の少年でさえ勇猛果敢な兵士へと変貌する。調練の指揮を取るのは無論、七千司令官である。  『軍部』内外で無慈悲なる戦闘機械として恐れられる七千司令官だが、その強圧的ながらも自信に満ち溢れた言動に魅せられて密かに慕う者も少なくない。その証拠に「校内踏んで欲しい美少女ランキング」「校内唾を吐きかけて欲しい美少女ランキング」共に堂々の第一位を獲得している人気ぶりで、昨日投票結果が公開された「校内アナルを犯したい美少女ランキング」でもトップの栄冠に輝いている状況である。  ちなみにそれぞれの秘密投票の首謀者は直ちに特定逮捕され、いずれも背骨粉砕骨折するまで軍靴で踏み潰されたり、一晩中硫酸を頭頂部に少しずつ垂らされたり、肛門に大砲の砲弾をぶち込まれて悶絶失神する等、それ相応の報いを受けている。  全く、愚かな者たちだ。  司令官殿の魅力は何よりもあのおっぱいだと言うのに! 開催するコンテストが間違っている!  おっぱい!  おっぱい!!  おっぱい!!!  「…………と、この手記には書かれている訳だが。これは貴様の私物で間違いないな?」  駱駝の革を鞣した表紙の革手帳を鋼鉄の義手で摘み上げ、女軍人は底冷えする瞳で部下の伍長を見やった。  「あががががが…………!?」  失禁寸前で意味のない呻き声を上げる伍長。砂丘に棲む魔獣さえ恐れさせる強烈な単眼邪視に、彼は全身麻痺を起こしたかのようにただ震える。  「貴様にはどうやら特別調練が必要なようだな。何、命までは取らん。貴様のように低俗で下劣な品性の持ち主であろうと、戦場では弾除け程度の役割は果たせよう」  至極あっさりと女軍人は言い放つと、鋭い眼光を放つ。  「怯えているようだが、心配する必要はない。今から貴様は『早く戦場に出て一思いに名誉の戦死を遂げさせてください』と泣いて頼む程度の目に遭う訳だが…………何か最後に言いたい事はあるか?」  地獄の盟主よりも酷薄な最後通告に、伍長は追い詰められた人間が浮かべる奇妙な絶望と諦念、そして歓喜の入り混じった表情を浮かべた。  「連れて行け」  引き連れていた部下の一人に伍長の処分を命じ、七千は思考を巡らせた。  ──────────このところ、軍紀が乱れている。  それは恐らく、いや間違いなく希望崎学園の影響だった。かの集団には退廃と逸脱を促進する負のカオスが満ちており、悪疫の如く砂の地を蝕んでいた。  逼迫する水情勢。だが、それ以上にこの地を脅かす危険思想。  ──────────最早、開戦は避けられない。  小競り合いでは済まない、血と鉄による本気の闘争。お互いの存在、生き残りを賭けた戦い。  七千の口元に愉悦の微笑が浮かぶ。その身体に流れる血は、熱い。  懸念が一つ有るとすれば、それは戦いの勝敗ではない。  あまりの非現実的事態に皆、思考を放棄している事実。  何故。  如何にして。  或いは──────────誰が。  遠く離れた地から、希望崎学園を此の地へと招き寄せたのか。  その真実を知る為の手がかりは未だに現れず──────────聡明な七千をして、知るすべはない。いや、他の誰を持ってしても叶わないだろう。  何故ならば、それは──────────。                    『砂漠ダンゲロス本編』及び『????』に続く
&size(20){鳥取SS} ---- #contents ---- *『書いてて自分でもなんだかよくわからないSS』 ザザッ、ザザッ。 規則正しい音を立てて大地を蹴り走る。 傍らを走る部下の顔に焦りが浮かぶ。 恐らくは皆、いや私ですら同じ顔をしているのだろう。 「隊長!!殿(しんがり)の部隊より通信!!『ご武運を』との事です。」 通信兵の鳴き声に近い叫びが響く。 「通信…途絶しました!!」 「た、隊長!!」 部隊に動揺が走る。 このままでは済まされない。 前方に光が見える。 「次郎は!!後に残った者たちは勤めを果たした!!前を見ろ、じき腐海を抜けるぞ!!」 鳥取大砂丘に突如として出現した巨大菌類の森、“腐海”。 うかつにも足を踏み入れた代償は大きかった。 希望崎学園においてもっとも砂漠環境に適応した我々が砂地以外に足を踏み入れた事が失態だったというのか。 しかしこれよりは砂地。 このまま好きにさせるものか。 多くの部下を弟を盾にしたこの報いを、奴らに味あわせてやるのだ。 「希望崎学園砂漠斥候中隊はこれより戦闘に入る。砂上で我らに勝てる者など居ないことを奴らに教えてやれ!!」 「サー!!イエッサー!!」 ザザザザザッ。 足音が渇いたそれに変わる。 菌類の領域は超えたのだ。 どおん!! 後方で砂煙が…胞子が巻き上がる。 「敵影発見!!数は3!!」 巨大な茸を食い破るようにして巨大な蟲が出現する。 鈍い光沢を放つ体。 鋭く光るシュレッダーめいた口がガチガチと金属音を発している。 その後ろを音もなく得体の知れない白い何かが蠢きながら進んでくる。 「アハ!!久しぶりの苗床!!みんな喜ぶわぁ!!」 おっとりした口調でありながら砂の上を少女が胞子を巻き上げながら爆走してくる。 頭にはキノコが生えている。 あの腐海の主だろう。 「兵を真っ二つに分ける!!敵を両翼から挟撃せよ!!」 「イエッサー!!」 あの菌類の森で多くの同胞を失った。 この事実を希望崎学園に伝えねばならない。 「新入り!!お前は先に行け!!情報を希望崎学園の仲間に伝えるのだ!!」 「…しかし!!兄さん!!」 「隊長と呼べ!!今は通信兵としての務めを果たせ!!お前の補給能力はここよりも仲間のために役に立つ!!」 「…了解…しました!!」 「安心しろ。俺たちが砂上で負けることなど有り得ない!!行け!!」 「はいッ!!」 やつはまだ若い。 しかも戦闘向きの能力を持たない。 通信、補給としての能力はこの戦後にこそ生きるはずだ。 まだ戦闘経験も少なく新入りと呼ばれている。 我々の部隊ではある程度の任務を経験してから名前が与えられるからだ。 新入りが走っていく。 新入り…弟の背中を見送る。 「隊長…」 「すまないな、副長。私も身内に甘い。」 「いえ、気になさらないでください。我々は隊長の判断を信じます。」 「ああ、帰ったらヤツにも名前をつけてやらないとな。フッ…さあ逝くぞ!!反転せよ!!我ら希望崎学園砂漠斥候中隊は砂漠戦のプロフェッショナルだ!!」 「サー!!イエッサー!!」 部隊を二つに分け一気に反転左右より敵を攻撃する。 「あれ?苗床がもどってきたよ?アハハ、しあわせ~」 「…、んふぇおうぃ…」(虚空から響くような虚ろな音。蠢く白い者から発せられた) 「ギチギチ!!」 やつらは油断している。 我々を見た目で判断して侮ったか。 砂漠では有利だと思ったか。 敵に迫る。 ここだ!! 「サンドクロスフォーメーション!!」 「イエッサー!!」 更に兵を二つに分け敵の直前で進路を変更。 敵とすれ違い交差する。 「あれ~?」 「にえおぃ…もぅづさ?」 待ち受けていた敵の攻撃を紙一重で避ける。 これこそが砂漠での機動力を活かした我々の必殺陣形。 動揺した敵を前後左右から一気に襲い殲滅する。 「敵を十字に切り裂け!!我らの圧倒的な勝利だ!!」 勝った!! 次郎!!お前の犠牲は無駄では…。 「敵をfree!にすると思ったのか?」 「な、なんだと…」 足を掴まれた。 砂の中からスイムキャップとゴーグルを装備した若い男の顔が除く。 「ぎやああああああああああああ!!」 「た、助けてください。隊長!!隊長ォ!!」 なんだ、なんだこれは。 敵を後方から襲うはずだった部下たちの体に、みっしりと黒い何かが蠢いている。 小さな蟲、蟻だ。 右の部隊の体には無数の針が突き立っている。 あのサボテンは…動いているのか? 謎のロボットが電撃を放っている。 副隊長のメガネがハンマーで打ち砕かれそのまま頭を割られて死体となっている 無数のキノコを体にから生やして倒れこむ者たち。 巨大な金属甲鱗のワームに食いちぎられる者たち。 白い異形に飲み込まれる者たち。 それらは希望崎学園砂漠斥候中隊。 私の部下だった。 「まったく…伏兵も読めないとはな。お前たちは誘い込まれたのだ。その程度で砂漠戦のプロフェッショナル気取りか?」 軍服を着込んだ少女が呆れ顔で部下たちを駆逐しながら歩いてきた。 「ナチスのロンメル将軍の伝記でも読んで砂漠戦を勉強しなおすのだな、もっとも、いまからお前たちは生きたままキノコの苗床だが」 「馬鹿な、馬鹿な。」 「君たちは囚われのバタフライだ…RAGE ON…」 砂の中を自由に泳ぐ男が呟く。 私は、砂の中に引きずり込まれた。 希望崎学園砂漠斥候駱駝中隊。 隊員、ラクダ135匹死亡。 生き残りラクダ1匹。 生き残ったフタコブラクダのオスはこの事実を希望崎学園に立派に伝えた。 彼は戦闘能力を持たない。 給水するのみである。 顔はなんかムカツクし、モノ食う時クッチャクッチャ言う。 しかし、家族を仲間を失ったというのにその瞳は意志の光を失っていない。 何故かメンタルが異常に強い。 彼の名前は…まだ、ない。 *『Fleeting dreams , more so reality』 ――鳥取砂丘高校、談話室 様々な大小の魑魅魍魎に合わせたサイズの椅子と机(と、キノコ)が用意されたこの巨大な部屋環境は、普段から生徒たちの憩いの場として人気を博している。 だが、現在の部屋の主はただ一人である。部屋の隅の小さな椅子に掛け、腕を組み沈思黙考する少女のみ。 彼女を恐れ、その周りに近づくものはない。 正確には、彼女の取り巻きを恐れて。 「おい、見ろよ……“女王”だ」 「“女王”が御機嫌斜めだな……恐ろしい……」 「おいおい、迂闊な話は止せよ……“近衛兵”がどれだけ見回ってるかわかりゃあしない」 その近づく者無い談話室に、一人近づく姿がある。 凛とした印象を抱かせるその少女は、対異邦(きぼうさき)戦を見越して集められた魔人集団の一人である。 そして机に突っ伏し、うんうん唸り始めた少女も、同じく招集された魔人であるのだ。 「新垣さん」 新垣と呼ばれた少女、新垣華は顔を上げ、入ってきた少女――南崎秀華を漸く認める。 「ニャn……南崎先輩」 「今の噛み方は何……。まあいいわ、もうすぐ作戦会議が始まるわ。 こんな所で油を売ってないで、みんな待ってるから」 「…………はい」 返事もそぞろな新垣の顔は、お世辞にも明るいとはいえないものである。 ――学級委員長である私なら、人並みくらいに相談に乗ってやる力も、その義務もあるだろう。 後輩を前に、南崎はそう思索を巡らす。 できる限り刺激しないような、最大限努力した優しい声音で、新垣へ問いかける。 「悩み事?聞いてあげてもいいけど?」 「先輩……」 潤みかけた目で、南崎を見つめる新垣。どうやら彼女の努力は実を結んだらしい。 「……先輩、私、夢があったんですよ」 抗争を控えているにもかかわらず、いや、だからこそか。 稚気じみた話をする、と南崎秀華は微笑ましく思いかけ、 「――私、女王になりたかったんですよ」 すぐに冷淡な平静さを取り戻した。 「みんなそう呼んでるじゃない」 「違うの!」 机をバンバンと叩き、新垣は反駁する。 「女王ってのは……王砂さんみたいな感じがよかったんですよ! ああやって、砂泳部の女みたいな名前のマッチョイケメン四人衆に神輿担がせたり! ショタっ子侍らせたり、ああいうイケメンパラダイスを!そういうのがよかったの!」 拳をうち、滔々と語る新垣。ただ彼女の目は、微かに憂いに曇っていく。 「それが、にゃんで……」 「ニャン!?」 「すみません!なんで! なんで蟻にたかられてるんですか……?」 「……さあ?」 新垣は更に声を荒げる。 「こんな仕打ちがありますか!?こんな境遇に置かれたことのある人が他に居ますか……?」 「……蛭神さんは?」 「蛭神さんは別です」 「そうね」 「とにかく、私だって普通の女王に戻りたいんですよ。王砂さんみたいにああいう憧れの感じの――」 それを普通とは言わないと思うけど、という疑問を飲み込み、彼女は談話室のすぐ外に警戒をやる。 彼女らを取り囲んでいる、複数の影。 人間サイズの巨大な昆虫めいたシルエット。 鳥取において勢力を広げる、エンジニアリ(学名:Tottorius TechniciAnts)が搭乗する二足歩行兵器である。 顎の巨大な牙(ブレード)が禍々しく煌めくその姿は、近寄ろうとする意志を削ぎ落とすには十二分である。 「げっ」 「そうか、そうだったのか……」 蟻甲兵の一人が、感慨深げに呟く。 「我々は思い違いをしていたのかもしれない……姫、あなたは」 深刻そうに話を切り出す蟻達を見て、新垣華もしおらしく体勢を縮め声を絞りだす。 「あ、はいそうなんですよ……すみません今までずっと黙ってて……」 「――高みより見下ろしたかったとは。今まで気づかず済まなかった。さあ、私の肩に乗りたまえ」 「え、いやいやいやそういうことじゃないんですけど……!」 蟻たちは新垣に詰め寄り、南崎を輪の外へと追いやっていく。 「貴様!抜け駆けは許さんぞ!私の方に乗るのだ!」 「殿方は下がっていてくださる?選ばれるべきはこの私ですわ!」 「待ちたまえ、この僕こそが姫の騎士に最も相応しい筈だ!さあ!さあ!」 「……先に行くわね」 そそくさと退出する南崎秀華。 自分の背中に呪詛の言葉を投げかける少女を残して、彼女は会議の場へと歩を速めた。 *『鳥取軍部下士官手記』  我が鳥取砂丘高校は厳しい自然に囲まれた、決して快適とは言えない環境の中にある。辺りに広がるのは緑なす豊穣の地とは程遠い不毛の砂丘地帯。ここではコップ一杯の水を巡って殺し合いが起こる光景さえ、取り立てて珍しいものではない。  だが、決して無法地帯ではない。  荒れ果てた地に秩序をもたらすのは、鉄の規律で統制された武装集団『軍部』。学内の治安を守り、外敵を撃退する任務を果たす存在。本来はただの部活動の一つに過ぎなかったそれを圧倒的なカリスマで纏め上げ、近隣の諸校にも類を見ない卓越した武力を持つ戦闘組織へと生まれ変わらせたのが現在の『軍部』指揮官である一七千(にのまえ・なち)その人である。  苛烈にして冷静、暴力と策略を両輪の戦車とする彼女は『軍部』を率いて度重なる戦果を上げ、瞬く間に我が校に反抗する敵を制圧し、鳥取砂丘高校が実質上の鳥取の支配者となる立役者となった。その功績と軍事力を背景にした発言力は鳥取砂丘高校の指導者さえ決して無視できない。『軍部』の中でも血気盛んな新兵(いちねんせい)等はクーデターによる政権奪取を口にして憚らない者も居るが、七千司令官自身は「軍人は戦闘こそがその本分であり、統治は我らが責務ではない」と野心を膨張させる事なく『軍部』の組織熟成と任務達成に情熱を注いでいる。──────────少なくとも、そのように振舞っている。  『軍部』の戦闘力の高さは、敵に対するよりもなお激しい兵士訓練に支えられている。烈火の如く熱く、氷雪の如く険しいと恐れられる入部調練を受けた後では、中学では番長でならした暴れ者の戦闘魔人も従順な軍犬と化し、生まれてこの方取っ組み合いの喧嘩などした事もない内向的で貧弱な非魔人の少年でさえ勇猛果敢な兵士へと変貌する。調練の指揮を取るのは無論、七千司令官である。  『軍部』内外で無慈悲なる戦闘機械として恐れられる七千司令官だが、その強圧的ながらも自信に満ち溢れた言動に魅せられて密かに慕う者も少なくない。その証拠に「校内踏んで欲しい美少女ランキング」「校内唾を吐きかけて欲しい美少女ランキング」共に堂々の第一位を獲得している人気ぶりで、昨日投票結果が公開された「校内アナルを犯したい美少女ランキング」でもトップの栄冠に輝いている状況である。  ちなみにそれぞれの秘密投票の首謀者は直ちに特定逮捕され、いずれも背骨粉砕骨折するまで軍靴で踏み潰されたり、一晩中硫酸を頭頂部に少しずつ垂らされたり、肛門に大砲の砲弾をぶち込まれて悶絶失神する等、それ相応の報いを受けている。  全く、愚かな者たちだ。  司令官殿の魅力は何よりもあのおっぱいだと言うのに! 開催するコンテストが間違っている!  おっぱい!  おっぱい!!  おっぱい!!!  「…………と、この手記には書かれている訳だが。これは貴様の私物で間違いないな?」  駱駝の革を鞣した表紙の革手帳を鋼鉄の義手で摘み上げ、女軍人は底冷えする瞳で部下の伍長を見やった。  「あががががが…………!?」  失禁寸前で意味のない呻き声を上げる伍長。砂丘に棲む魔獣さえ恐れさせる強烈な単眼邪視に、彼は全身麻痺を起こしたかのようにただ震える。  「貴様にはどうやら特別調練が必要なようだな。何、命までは取らん。貴様のように低俗で下劣な品性の持ち主であろうと、戦場では弾除け程度の役割は果たせよう」  至極あっさりと女軍人は言い放つと、鋭い眼光を放つ。  「怯えているようだが、心配する必要はない。今から貴様は『早く戦場に出て一思いに名誉の戦死を遂げさせてください』と泣いて頼む程度の目に遭う訳だが…………何か最後に言いたい事はあるか?」  地獄の盟主よりも酷薄な最後通告に、伍長は追い詰められた人間が浮かべる奇妙な絶望と諦念、そして歓喜の入り混じった表情を浮かべた。  「連れて行け」  引き連れていた部下の一人に伍長の処分を命じ、七千は思考を巡らせた。  ──────────このところ、軍紀が乱れている。  それは恐らく、いや間違いなく希望崎学園の影響だった。かの集団には退廃と逸脱を促進する負のカオスが満ちており、悪疫の如く砂の地を蝕んでいた。  逼迫する水情勢。だが、それ以上にこの地を脅かす危険思想。  ──────────最早、開戦は避けられない。  小競り合いでは済まない、血と鉄による本気の闘争。お互いの存在、生き残りを賭けた戦い。  七千の口元に愉悦の微笑が浮かぶ。その身体に流れる血は、熱い。  懸念が一つ有るとすれば、それは戦いの勝敗ではない。  あまりの非現実的事態に皆、思考を放棄している事実。  何故。  如何にして。  或いは──────────誰が。  遠く離れた地から、希望崎学園を此の地へと招き寄せたのか。  その真実を知る為の手がかりは未だに現れず──────────聡明な七千をして、知るすべはない。いや、他の誰を持ってしても叶わないだろう。  何故ならば、それは──────────。                    『砂漠ダンゲロス本編』及び『????』に続く *『或る少女の神話』 「あれ? 先輩、今日は帰りですか」 「珍しいですね。どうかしたんですか?」  二人組の少女に背後から声をかけられて、一刀両断はびくりと肩を震わせた。 「う、うん……。ちょっと、体がだるくって……」  必死に目をそらしながら答える先輩を、じーっと疑いの目で見て、二人は、 「ほら、てるこ、昨日さ……だから、きっと……」 「あ、そゆコト……?」  顔を見合わせ、にひひー、っと同時に笑った。 「うひひ、先輩。じゃあ、また明日」 「おさるみたいになっちゃダメですよ~」  と、いたずらっぽく念押ししてからトテテと走っていく。一人残された一刀両は真っ赤な顔をしながらも、彼女も飛ぶようにして下宿へ戻った。  *** 「うッ、ひいっ……あふっ……」  下宿に戻った一刀両はすぐさまセーラー服を脱ぎ捨てお布団の中に潜り込んでいた。  そして、中指で自らの股間をおそるおそる刺激し始める。  ――うう……しゅ、しゅごおい、しゅごいよ……これ……ひゃ、ひゃふう……!  そう、純情な少女、一刀両断はついに知ってしまったのだ。己の股間を刺激するという行為を!  それは昨日の部活明けの着替え中のことだった。ふとした弾みから、てるこに「先輩って、白金先輩のコト考えながら股間いじったりしないんですかぁー?」と訊かれた一刀両は、その場では何がなんだか分からずに、ただただ鼓動ばかりを脈打たせていたのだが、訳も分からぬまま夜に布団の中でそのことを試してみたところ、これが、なんだかとにかくスゴかったのである。  これまでの一刀両はお布団の中で白金のことを考え、悶々とする夜を過ごすのが常だった。「先輩のことを考えると、どうしていつもおぱんつが濡れてるんだろう……」と不思議に思ってはいたが、自らの力で股間を刺激するという発想には至らなかった。大体、毎日アベレージ4時間ほど布団の中で悶々としてから眠りに落ちていたのだが、昨日からはそれに指先の動きが加わったのだ。  当然、彼女の興奮は凄まじいものがあった。とてもじゃないがやめられなかった。こんなことがあるなんて彼女は知らなかったのだ。今日の学校もよっぽど休もうかと思った。それでも彼女は鉄の自制心で登校し、日中も「部活が終わったらすぐにおうちに帰ってやろう……」と思っていたのだが、昼過ぎた頃から頭がフットーしそうになり、もういてもたってもいられず、教室の中で誰にも悟られぬように少しだけ股間を触って、漏れそうになる声を必死にこらえたりしていた。そんな具合だから、もう辛抱たまりません!とばかり、彼女は授業が終わるや否や部活になど目もくれず下校しようとした。その最中、先に書いたとおり、てることムツキの後輩二人に呼び止められたのだが、その時の一刀両は、家路までの僅かな時間さえも我慢できずに右手が股間にセッティングされていたため、二人の後輩に己の心理をズバリ見抜かれてしまったのであった。  いまや、家でひとりで布団にくるまれ、もはや誰にも邪魔されることがなくなると、一刀両の行為に歯止めをかけるものはいない。彼女はいつもどおりに妄想する。大好きな白金先輩と真剣で立ち会う己の姿を。自分の一刀があえなく交わされ、先輩の固くて長いものが己の体に深々と突き刺さる様を。先輩の刀が内蔵をぐりぐりとえぐり、幾度となく繰り返し突き刺さる絵を――。最初はシミュレーションのはずだった。来るべき先輩との決闘に備えてのイメージトレーニングのはずだった。いつからだろう。一刀両がこの妄想に囚われて股間を濡らし始めたのは。そして今、彼女の指先はその妄想に更なる刺激を加えているのである。  普通の少女であれば、このような妄想に遊びがら股間をいじくる己を変態だと自覚し深い絶望に襲われたかもしれない。しかし、純情素朴な少女、一刀両にはそのような理解すらなかった。今、自分が激しく興奮し、おぱんつをびしょびしょにしていることの意味さえ分からなかったのだ。「おさるのようにならないように」との後輩の助言もまるで無駄である。魔人の体力をもって、一刀両は16時に帰宅し、23時を過ぎた今となってもなお「イメトレ」を止めぬのだから。  しかし、流石の彼女も興奮が度を極めてきた。既に白目を剥き口から泡を吹いている。絶頂に達するのは目前と思われた。  ――だが、その時、彼女を異変が襲ったのだ!  いつものとおり、大好きな白金先輩を脳裏に思い浮かべ、先輩の長くて硬いものが自分の体に深々と突き刺さる様を妄想していた一刀両だが、その先輩の姿が…………ああ! どうしたことか!! 唐突に、33歳の知らないおっさんの姿に変わってしまったではないか!!! だが、もう彼女には止められない!!!! 「ひ、ひゃあぁあん!!!! し、知らない、おじさんッ! 知らないおじさん大好きぃいい!!! しィ、知らないおじさぁんッ!!!」  彼女は絶頂に至る直前まで、必死に白金翔一郎の姿を脳裏に呼び起こさんとした。だが、ダメなのだ! どうしても白金の顔が33歳の知らないおっさんの顔になってしまう!! しかし、一刀両の指先の動きはもう止まらない! 「しィ、知らないおじさあああん!! あッ、あああッ!! ら、らめぇえ! 知らないおじさん、らめえええっ!!!」  知らないおじさんの胸の中で抱かれ、一刀両はついに絶頂へと達した。そんな……どうして……こんなはずじゃ……そう思いながらも、彼女は仄かな幸福感を覚えて、知らないおじさんの腕の中で安らか眠りに就いたのである……。  ***  だが、異変は、ただ一刀両断ひとりに生じたのではなかった。この日から世界は変わった。輝く未来へ向けて、女子高生たちは最初の一歩を踏み出したのだ。  そして、二百年後――。 「高校を卒業するとね、私たち、どんな人のことでも妄想しながらオナニーできるようになるんだって」 「えっ、そうなの……!?」  クラスで女子高生たちがたわいないおしゃべりに興じている。 「中学生まではそうだったでしょ? クラスメイトの男の子とか、ジャニーズのコトとか、考えながらオナニーしてたじゃない?」 「うん、それはそうだけど。……え。でも、知らないおじさんは、どうするの?」 「別に禁止されるわけじゃないから。知らないおじさんのコト、考えながらオナニーしてもいいんじゃない?」 「知らないおじさんから離れちゃうのって、ちょっと寂しいよね」 「なんていうか、知らないおじさんって安定感があるっていうか」 「ウン、なんだか、おうちみたいだよね。いつでも帰れるっていうか」 「辛いことや悲しいことがあっても、知らないおじさんはいつもいてくれるし……」  少女たちは知らないおじさんの話で盛り上がっている。これは日本だけのことではなかった。世界中で同じような光景が繰り広げられているのだ。だが彼女たちは知らない。自らを犠牲にすることも厭わず、概念となってまでも女子高生の幸せを願った一人の男がいたことを――。彼女たちは知らないし、それを知る必要もないのだ。名を残す必要はない。感謝される必要も、愛される必要もない。ただ、ほんの少しでも世界が女子高生たちに優しくなるならば。それだけで男は幸せなのだから――。

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