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小説 アデリーナ~もうひとつの誓い~     by.akito




 ガラにもない事をしてしまった。いつもなら、あんな話を他人にしないだろう。
気の迷いか、それとも――
青白く輝く満月を眺め、ぼんやりと考える。グラスに注がれた酒は一向に減る気配はない。
――夜が怖い。
今でも脳裏に焼きついた光景がある。炎と血の赤。己の身を捨ててまで、自分を守ろうとする部下達。そして、その部下達の断末魔の叫び。
無意識のうちに零れた溜息は、誰に気付かれる事もなく潮風に乗って消えていく。
そう、ただ怖かっただけだ。
朽ち果てた船を見るのも、そこで眠る骸を目にするのも。
あれが現実だったと、受け止めたくなかった。
なのに、どうして?
アデリーナはそこまで考えて失笑を漏らす。
似ていたからだ。あまりにも、似すぎていた。アデリーナが経営する武器屋にふらりと訪れた旅人。彼らの顔を見た瞬間、電撃にも似た衝撃が体を貫いた。
希望と夢に満ち溢れた純粋な瞳、何者にも縛られぬ無垢な笑顔。
――アデリーナさんは、僕の憧れなんです。
まだ幼さを顔に残した少年は、かつてそう言っていた。
数多くいた部下の中でも、その少年は印象的だった。汚れを知らぬ、純粋過ぎた想い。
だが、その少年も、自分を庇って死んだ。
そんな少年の顔と、旅人の顔が不思議なほど重なった。
「……私も、どうかしてるわ」
グラスに注がれた酒を一気に飲み干し、アデリーナはテラスから室内へと戻る。
そして、部屋の壁に飾られた一本の剣へと視線を向けた。
折れていたはずの剣は、旅人の協力もあって、既に本来の姿を取り戻していた。
――憎しみを忘れたわけではない。
テーブルの上に無造作に置かれた銃を手に取り、その感触を確かめるように握り締める。
――復讐への誓いを忘れるはずもない。
相手は強大だ。一人では、倒せない。
だが、誰かを頼る事もできない。また、自分のせいで死なせてしまうかもしれない。
それが、怖かった。
「結局……逃げていただけよね……」
不意に零れた笑みは、自嘲に満ち溢れていた。だが、その笑みをすぐにかき消す。
もし、彼らが無事に帰ってきたなら。
私の要望通り、部下達の骨を持って無事に帰ってきたなら。
「そのときは、もう一度アナタの力を借りるわね」
アデリーナは、壁に飾られた愛剣に言葉を投げかけた。



後日、旅人達はアデリーナの要望通り、部下達の遺骨を持って帰ってきた。
「持ってきましたよ。アデリーナさん!」
笑顔で駆け込んできた旅人を見て、アデリーナは瞳を強く閉じた。
そして、微笑と共に瞳を開く。
「ありがとう。そうね……報酬は、私が貴方達に協力してあげる……というのは、どうかしら?」
アデリーナの言葉に双眸を瞬かせる旅人達の姿を見て、アデリーナは笑いを零した。
そこで、ふと思う。
声を出して笑ったのは、いつ以来だろうか、と。
復讐を、忘れたわけではない。
憎しみを、忘れるはずもない。
目尻にうっすらと溜まった涙を指で掬い取り、アデリーナは旅人達の顔を覗きこんだ。
思い浮かぶのは、自分を庇って死んだ少年の、最後に見せた笑顔。血に塗れたその笑顔は、不思議なほど穏やかで、満足気だった。
今、ようやくその笑顔の意味が分かった気がする。

アデリーナは、心の中でもうひとつ誓いを立てた。
――もう、私の前で誰も死なせない。











































最終更新:2008年06月04日 10:17