作:ゲス
戸外での喫煙には厳しい季節が到来したが、残業の合間、帰宅前のひとときに、
紫煙をくゆらしつつ、温みの残る鉄柵にもたれて見下ろす風景は、
仕事疲れの勤め人の心にも、ほんのりとあたたかなものを灯す。
見下ろす昇降口、二人三人と連れ立って、帰途を急ぐ学生たちの姿。
渡り廊下を行く胴着姿の二人連れ、あれは顧問教諭とその教え子と見た。
時々連れ添って歩くのを見るあちらの二人は──女性の方が非情に好ましいだけに
残念ではあるが──どうやら恋人同士であるらしい。
初冬の寒風の冷たさにも負けず、若々しい笑い声を響かせ、行き交う若人たち。
若さがきらめいているという表現は、こういう様を言うのだろう。
自分の若い頃も、あんなにもいきいきと華やいでいただろうか?
自分がガキの頃も、あれほど生命力に満ち満ちて輝いていただろうか?
とうに覚えはなく、けれど、その情景は渡世に冷えた胸をあたため、
この先、若さからは遠ざかるばかりの身を、それでも明日に向けて、踏み出す勇気をくれる。
『好奇心』は精神の成長においてもっとも大切なもの、を信条にしつつも、
こうして眺めるものから推測する物事に自ら分け入り、触れようとするには、
知り得た頃に去っていってしまうそれら、若人たちに感じる感傷から、
踏み込む事に躊躇する、そんな年にもう、なってしまったけれど。
それでも校舎の狭間、こうして眺める情景に思いをはせ、
自然と浮かぶ微笑みのあたたかさを、まだしばらく感じていたい。
『青春は省みるときの微笑み』とは、さて、誰の言葉だったか。
吸い殻を押し込んだ携帯灰皿をポケットに仕舞い、活力に輝く群像劇に背を向けて、
生計のため、さて、仕事に戻るとしよう。
一陣の旋風が踊り場の落ち葉を巻き上げ、ざっと乾いた音を立てる。
ビルを染める夕映えの眩しさに目を細めつつ、私はもう一度、学舎を振り向いた。
輝く学び舎、黄金の風が吹き過ぎる。
省みるときの微笑み。その暖かさよ。
素晴らしきかな、青春。
素晴らしきかな、人生。
最終更新:2007年12月11日 00:49