アットウィキロゴ

夢を配るのも楽じゃない

作:歌詞主


「おやすみー」
 両親と挨拶を交わし、自分の部屋へと向かうペッシ。
 今日はクリスマスイブ。
 サンタクロースが両親であると知って久しく、クリスマスプレゼントも最近は貰っていない。
 だが、サンタクロースがいるとするなら今頃慌しく飛び回っているんだろうか?
 そんなことを考えながら、ペッシは部屋の明かりを消し、綺麗に整えられたベッドへ入る。
 さぁ寝ようと横になろうとした瞬間、ベッドの左隣のベランダへと出れるガラス戸が開いた。
 音に反応しそっちを見るペッシ。
 すると、レースカーテンの向こうに同じくこっちを見ている女性がいた。
 月光でほのかに照らされているのは赤を基調とし白い綿でできたラインが目立つ服、同じデザインの帽子。
 これまた同じデザインだが、このくそ寒い時期にミニスカートを履いて脚線美をもろに出し、肩には赤い手袋越しにしっかりと握られている白くでかい袋が担がれている。
 その姿は、世界中どこへ行っても指を差されてこう呼ばれるであろう出で立ちだった。
 サンタクロース、と。
 そんなサンタ服に身を包んだ女性がベランダからペッシの部屋に土足で侵入し、その部屋の住人であるペッシと目が合っている。
 この状況がPCゲームや子供は購入できないが中学生にもなると友人の間を回覧板のように回ってくるビデオならこの先に起こる出来事に期待したい所だ。
 だが、現実的に見るとペッシが口に出す言葉はおのずと決まっているだろう。
「ど、泥棒……?」
 悪人にはとても見えない顔立ちの女性の姿に戸惑うペッシ。
 しかし、サンタ女のほうはそんな様子も無関係かのように振舞う。
「あ、間違えた」
 そう言って何事も無かったかのように身を翻すサンタ女。
「ちょ、まてまてまてまて」
 慌てて止めるペッシ。
 その言葉にサンタ女は立ち止まるが、振り向いた顔は不機嫌そうな顔だった。
「何よ」
 逆光で影になった顔は少し怖い。
 しかし、ペッシは怯まずに返す。
「あんた泥棒か?」
 ペッシの質問に対する返答はため息だった。
「あのねぇ、こんな目立つ格好の泥棒がいると思う?」
 開き直った。
「いや、だって勝手に俺ん家に……」
「そりゃそうよ。サンタだもん」
 何でもないことのように言い放ったサンタ女だが、ペッシは開いた口がふさがらない。
「いや、サンタって……小学生でも信じてる奴はなかなかいねぇぞ」
「そーなのよねー、まったく最近の子供ってのはなんであんなにも……」
 そして、サンタ女の愚痴が始まってしまった。

「だいたいねー、最近の家は戸締りをしっかりしすぎよ。せめてイブの夜ぐらいは窓の一つでも開けておけってのよ。
 入るのにも一苦労だわ。後あの入ろうとするとブザーがなるやつも……」
「わ、わかったわかった!」
 5分ぐらい黙って聞いていたが、さすがにキリが無いと判断したペッシは慌てて止めに入る。
「とりあえず、えーっと……」
「どんとこよ」
「へ?」
「名前でしょ? どんとこって言うの。私」
「あ、俺は……」
「ペッシ君、でしょ?」
 ペッシが名乗るより先に名前を言い当てるどんとこ。
「な、なんで……あ、侵入する前に調べてあるのか」
 まだ泥棒だと疑うペッシ。
「違うわよ。君がちっちゃかった頃にも私がプレゼントを配りに来てたんだもん」
「プレゼント?」
 そう言って思い出そうとするペッシ。しかし、記憶では枕元には毎年両親からのプレゼントしか置かれていない。
 そんなペッシの思考を読んだかのようにどんとこが補足する。
「プレゼントは物じゃないわよ」
「物じゃない?」
「ええ、私たちサンタは子供に夢を配るの」
「夢?」
「そう。その子供が望む夢をね。けどねー、たまに見せる夢を間違えちゃうのよね」
「おいおい……」
 無責任な言い様にあきれるペッシ。
「ホラー好きな子供の夢を間違えて君にあげちゃった事もあったなぁ、ごめんね」
「な! あれはあんたのせいだったのか! あのせいで俺は……」
「何? おねしょでもしちゃった?」
「ち、違うわ! まぁ、あんたがサンタだって事は信じてやるよ」
 思い出したくも無い記憶を掘り起こされて少しへこむペッシ。
 だが、すぐさま素朴な疑問が浮かんできた。
「けどよ、サンタがこんな所で油売ってていいのかよ?」
 その言葉にはっとした顔になるどんとこ。
「しまった! そうよ、まだ配らないといけないのに。 もー! 君が邪魔するからー!」
 八つ当たりしてくるどんとこ。
 そんな様子にペッシが苦笑していると、どんとこがペッシの腕を掴んだ。
「え、なに?」
「手伝って!」
 そしてベランダへと連れ出されてしまった。
 ベランダに出ると、目の前にソリが浮かんでいた。
「う、浮いてる……」
 サンタだということを心から信じてなかったペッシは、それが真実であると思い知らされた。
「ほら、ボーっとしないでこれ着て!」
 どんとこが肩に担いでいた白い袋からずるずると出したもの、それはトナカイの着ぐるみだった。
「は? 何これ」
「トナカイよ、いなくてもいいけどいたほうが早いから」
「俺が?」
「そうよ! いいから早くして!」
 身ぐるみ全部はがされそうな剣幕でどんとこがせまってきたので、ペッシは言われるままパジャマの上からトナカイの着ぐるみを着た。
「はい、じゃあこれ腰に巻いて」
 着ぐるみを着た見た目の感想すらなく、次の指示を飛ばしてくるどんとこ。
 渡されたのは革のベルト。よく見ればこの着ぐるみの腰の部分にベルトを通すわっかがついていた。
「それを巻けばソリとつながるから」
 そういうどんとこだがベルトから紐のようなものは伸びていない。
「ほらほら、もたもたしてないでつけたつけた」
 ペッシは不思議に思いながらもベルトを腰に巻く。
 それを確認すると、どんとこは次の指示を飛ばした。
「じゃあ、このベランダの手すりに立って、一歩踏み出して」
 当たり前のように言い放つどんとこ。
 しかし、ここは7階だ。
「いや、まてまてまて! 俺に死ねってのか!?」
 こればっかりは拒否するペッシ。しかし、どんとこは鬱陶しそうに眉間にしわを寄せると、ペッシの手を握った。
「へ?」
 唖然とするペッシ。手袋に包まれた手にぬくもりが伝わる。
 顔を上げるとどんとこの満面の笑みがあった。
 しかし、綺麗な顔だな。などと思う暇さえないぐらい早くどんとこはペッシをベランダから放り投げた。
「う、うわあああああああ」
 夜空にこだまするペッシの叫び声。
 ああ、俺はもう死ぬんだな……と覚悟を決めるペッシ。しかし、その覚悟は無駄になった。
 気がついたらペッシは、空中でしっかりと立っていた。
「ん、あ。あれ?」
 辺りを見回すペッシ。そこへソリに乗ったどんとこがやってきた。
「その服を着てたら空中を歩けるのよ」
「お、おお! マジだ! すげえ!」
 思わず走ったり跳ねたりして感触を確かめるペッシ。
 体の動きも普段より軽い。
「ふふ、それだけ元気なら十分ね。それじゃ、行くわよ」
「おー!」
 ペッシは勇んで楽しい空中散歩への一歩を踏み出した。

 だが、それも最初のうちだけだった。
「はぁ……はぁ……」
 息の上がるペッシ。
 ソリと女性1人の重量を引っ張っているのだから、いくら魔法のように体が軽いとはいえ疲労は当然だった。
「なっさけないわねー」
 夢を配ってるとは思えないほど非道などんとこの言葉に反応する元気すらないペッシ。
 しかし、救いの言葉が次に聞こえてきた。
「ま、いいわ。丁度目的地に着いたし」
 そう言ってどんとこはソリから降りた。
 そこはまたもマンションのベランダだった。
 並んでいる植木鉢を踏まないようにペッシもベランダに降り立つ。
 どんとこはガラス戸を開けようとしたが、やはり鍵がかかっており開かない。
 ため息を一つつき、どんとこが鍵のある辺りに触れると、次はすんなりとガラス戸が開いた。
 もうこの程度のことでは驚かなくなったペッシはどんとこに続いて部屋へと入った。
 月光でほのかに照らされる室内。ベッドの上では幼い少年が寝息を立てて眠っている。
「よしよし、ちゃんと寝てるわね」
 少し小声で話すどんとこ。そして、担いできた袋の中を探り始めた。
 すぐに取り出したのは粉薬のような白い粉だった。
「え! いい夢って、そういうこと!? それはまずいって!」
「ばか! 静かにしなさい! 違うわよ、これは振り撒くの」
 そう言いながら小袋の封を切るどんとこ。
 袋の中を少し見ていたどんとこだったが、ペッシにきつい口調でこう言った。
「ちょっと後ろ向いてて」
「へ?」
「いいから後ろ向いて!」
「お、おう」
 ペッシは言われるままにどんとこに背を向ける。
 すると背後から深呼吸の後、激しい足音と共に変な音頭が聞こえてきた。
「はぁ~、メッタラメッタラムンムンムン!」
 何をしているのか非常に好奇心をそそられるが、振り向いたら殺されると思ったペッシは湧き出てくる笑いを堪えるように俯いていた。
「いいわよ」
 どんとこの咳払いの後、合図を受け振り返るペッシ。そこには光が反射され雪のように煌めき続けている空間と、その中心で安らかな寝顔を浮かべる少年の姿があった。
「おお……」
「これでこの子もいい夢を見ているはずよ」
 そう呟くどんとこの顔は、優しそうな笑顔だった。

 その後、何十軒という子供の部屋を回った二人。
 終わる頃にはすでに東の空が明るくなりつつあった。
「ふぅー、ありがとう。お陰で今年も仕事が無事終わったわ」
 明るく言うどんとこ、対するペッシは空中に座り込んでしまっている。
「も~、だらしないなぁ。若いのに」
「あれだけ……はしったら……、誰でもこうなるって……」
 肩で息をしながら弱々しく手を振るペッシ。
 どんとこはそんなペッシの手を掴み、立ち上がらせた。
「うおっ」
「ほら、しゃきっとして。いい? 今からすんごくきちょお~なプレゼントをあげるから」
 貴重、という言葉を強調していうどんとこ。
 ペッシが何かと思っていると、目の前が赤い服で埋め尽くされ、前髪が上げられて露になった額にやわらかい感触を感じた。
「え? え!?」
 どんとこが離れた後、慌てて額に手を当てるペッシ。
「ふふ、今日は本当にありがとうね。ペッシ君」
 どんとこは少し頬を赤らめながらもウィンクをしてみせた。
 未だ事態が飲み込めてないペッシだが、どんとこが言葉を続ける。
「それじゃ、またね!」
 明るさが増しつつある東の空を背にした笑顔のどんとこが手を振ると、ペッシは体が薄れていくような感覚に飲まれていった。

 目が覚めたらベッドの上にいた。
 体を起こし、周囲が自分の部屋だということを確認したペッシは、額に手を当てた。
 感触の記憶すら残っていない額をさすりながらペッシは考える。
「夢……か?」
 覚えているのに思い出せない、そんな奇妙な感覚に陥りながらも、ペッシは気分がいいので散歩にでも行こうと思い、ベッドから出た。

 住宅街を歩きながら、ペッシは昨夜のことを考える。
 あれはもしかしたら、サンタが配ってくれた夢だったのかもしれない。
 そんな考えが頭をよぎり、口元をゆがめるペッシ。
「あんまりニヤけてると、職務質問するよ。ペッシ君」
 聞き覚えのある声、ペッシははっと顔を上げる。
 そこには婦人警官の制服に身を包んだどんとこがいた。
「……は?」
 自体が飲み込めず、唖然とするペッシ。
 ふと視線を右にやると、そこは交番の前だった。
「あ、コスプレは好きだけど、これはコスプレじゃないよ」
 聞いてもいないことを答えるどんとこ。
「え、あれ? 昨日……?」
「うん、あっちは副業だよ。こっちが本業」
 警察官が副業についていいのか。とかいう突っ込みが頭をよぎるが、何よりも情報が多すぎて処理できない。
 そんなペッシの混乱を知ってか知らずか、どんとこはペッシに言葉をかける。
「よかったら、来年も手伝ってね」
 笑顔でそう言うどんとこを見て、全てがどうでもよくなる気がしたペッシだった。

完

最終更新:2007年12月26日 00:40
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。