「疫病神」、「死神」。
これが、幼少時から私に背負わされたあだ名だった。
「アイとノロイとハナコトバ」
―――――私は、呪われている。小学2年生の頃、私は幼心にそう思った。
呪われている、と思うようになった発端は忘れもしない7歳の夏。夏休みを利用して祖父の家に泊りがけに遊びに行った時だった。
祖父の誕生日と両親の都合が合い、両親が経営している花屋の売り物であったいくつかの花を見繕って花束にしたものをもっていくことにして「私が渡してやるんだ!」と無邪気に張り切っていたのをよく覚えている。
そうして車で移動しなければならない程度には距離のある祖父の家について、祖父への挨拶を済ませた後に祖父に飼われていた黒猫と遊んだ。
この黒猫、黒猫だからと安直に名前をクロと付けられていて、なんでも26という若さで亡くなった祖母が拾ってきた猫らしい。今考えると猫にしてはとんでもなく長生きであることと、尻尾が根元からとはいかないものの中央から分かれていることが特徴的で、やけに私に懐いてくる可愛い猫であった。
数時間ほど遊び続けた後に祖父の誕生日を祝い、甘さが控えめになっているケーキやご馳走を食べた後に再び猫と遊び、祖父といろんな話をして疲れた頃に就寝した。
―――――――――そして、全ての発端ともいえる奇妙な〝夢〟をみた。
・・・気がついたら、前後左右上下まで全てが灰色に霞がかっている妙な空間に立っていた。
しばらくキョロキョロとしているといつの間にやら霞がかっているはずなのに目の前に目を伏せた黒髪の美人が立っていた。どこがどういう感じで美人、と思ったわけでもなく、なんとなく綺麗だなぁ、と思っていた。・
特に胸があるわけでもなく、顔つきや体つきも中性的であったために性別はわからない。
伏せていた目を開いてにしてこちらを見つめて、なにやら口をパクパクと開閉していた。
・・・しかし、声は聞こえない。その事に目の前の人も気づいたのか、すこし寂しそうな顔をしていつの間にやらその手に持っていた黒い花を束ねた花束を手渡してきて、それを反射的に受け取ったところで―――目が覚めた。
・・・目を覚まして起き上がった後、枕横に夢で見たものと全く同じ花束がおいてあったのを見て驚いたものだ。
・・・そして何故か、その日にいつも遊んでいた黒猫が失踪していて大泣きをした覚えもある。確か祖父が「よく、動物は死に様を見られたくないために人知れずひっそりと死ぬという。・・・あの猫も長寿じゃったが、寿命が来たのじゃろう」といったのを聞いてさらに大泣きした。
そうやって泣きじゃくりながら車に乗って、家に帰るまでもずっとなき続けた。
帰って、気が済むまで泣いた後にしたことといえば・・・実を言うと、ネットである。ク4ロ失踪のショックで祖父の家におきわすれてしまっていたあの花束の出現と猫の失踪の時期が重なっていたので、なんとか結びつけようとしたのだ。
・・・ちなみに、両親に花屋の娘だからとかで冗談半分に花の特徴と名前をいくつか覚えさせられたためにあの花の名前はわかっていた。
―――クロユリである。
パソコンの側においてあったローマ字表を見ながらなんとか検索できた。
そうして、花のデータを纏めたサイトを見つけ、そこに書いてあったクロユリのデータを読める部分だけ読み終わったのと、母が顔を真っ青にして私の元に駆け込んできたのは、ほとんど同時であった。
真っ青な顔をした母の・・・「お祖父ちゃんが亡くなってしまった」という言葉をきいて、先ほど見ていた言葉と、クロの失踪、祖父の突然の死を結びつけてしまった。
今でも、この三つの事象を結びつけたのはあのころの私が幼かったからだと一笑に付すことはできない。
まだ幼い私は、表情を母のように真っ青な顔に変えて未だ開いていたクロユリについてかかれたページを振り返る。
だって、あの夜夢で手渡され、あの朝枕元に置かれていたクロユリの花言葉は―――
―――「呪い」なのだから。
トチホ
最終更新:2010年10月11日 01:01