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Prologue


二年前――――。

 「やめろ、こいつだけは・・・!」
一人の男が一匹のポケモンを抱き抱えながら震えている。
 「フッフッフ・・・。情けない姿だなぁ、ポケモントレーナーの恥め・・・・」
もう一人の男が、懐から黒いモンスターボールを手に取った。
 「やっ、やめろ! 頼む、やめてくれ・・・!!」
男はそのモンスターボールを、震える男に抱かれたポケモンに向かって投げた。
やがて、ポケモンはそのモンスターボールに吸い込まれる様に中に入っていった。
 「あああああああああああああ!!!!」
 「アッハッハッハッハ!!」
二人の男の嘆きと高笑いが辺りに響いた。



2034年8月3日――――。
此処、イッシュ地方にも暑い季節がやって来た。
その中でも人口密度の高いヒウンシティは格別暑いだろう。
俺もその街に住んでいた。

俺は流崎 彰(りゅうざき あきら)。
何処にでも居そうな平凡高校生。
強いて特徴的な部分を言うと、瞳が青いのと高身長ってとこぐらいか。

今はこの街の私立高校に通っているが、数年前まではポケモントレーナー修行の旅に出ていた。
小学五年生くらいからあの事件が起きるまでだったか・・・。


極悪非道の組織「D.D(Destiny Destroyers)」
彼らはその名の通り、人とポケモンとの運命を破壊する者達。
三年前から活動を開始していて、現在に至っては警察もほとんど手も足も出せないほどの脅威を持っている。
それもそうだろう。彼らに関わった者は絶望の谷底へ突き落とされるのだから。

彼らはあらゆるポケモンを必ず捕獲できるDボールというボールを開発した。
モンスターボールの赤い部分を黒くしただけというデザインはともかく、機能はマスターボールをも上回る。
その機能とは、既に別のトレーナーのモンスターボールに捕まえられているポケモンすらも吸い込んでしまうという、恐ろしいものだ。
しかもそのボールに捕まったポケモンは本人の意思に関わらず、Dボールの所有者の指示に必ず従わなければならない。
正確に言えばそのポケモンの意思そのものを操ってしまうということ。
絶望の谷底へ突き落とされる、とはこのことだ。

俺もその絶望を味わった者の一人だ。
二年前、イッシュ地方の8つのバッジを手に入れた者のみが参加の許されるイッシュリーグを目の前にして、全てを失った。
ポケモンと、バッジと、俺自身を。

それ以来、俺はポケモンとはほとんど関わっていない。
捕まえて自分のものにもしていない。
あいつらがいると、また絶望するから。
今のままが、一番楽だから。
そう...俺はもう、ポケモンと一生を過ごすという夢を捨てたんだ。

第一章【作戦開始】


第一話【新たなる旅立ち】



スカイアローブリッジ――――。
イッシュ地方最大の橋で、ヒウンシティに隣接している。
ここは風当たりが良くきもちいので、この俺流崎彰のお気に入りスポットに登録されている。
俺は放課後よく、此所へ来る。
此所で日が暮れるまで風邪に当たりながら海を眺める。
それが好きだった。人によっては「そんなことして何が楽しい」とか思う奴もいそうだが。


パシャッ

目の前の海で何かが跳ねた。
ポケモンだった。
それも、ママンボウと呼ばれるイッシュ地方のほとんどの海に生息する種族。

HPのステータスが非常に高く、耐久に優れている。
バトルに使うならそれを生かして長期戦に持ち込むか―――。


 「・・・こんなことを考えられるってことは、俺の腕はまだ落ちてないってことかな。
ま、意味のないことだけど」
などと一人で呟いた・・・

つもりだった。

 「なんで意味ないの?」
 「だって俺、もうポケモンと関わる気は・・・
      • !?」

隣に人が立っていることに今気付いた。

 「南・・・。なんで此所に?」
 「暇だったから森行こうかなーって思って歩いてたらあんたがいたのよ」
森・・・とはヤグルマの森のことだろう。

彼女は南 留々華(みなみ るるか)。
俺が飛雲高校へ来てから初めて話しかけてくれた人だ。
なんだかんだで話しているうちに何故か仲良くなった。

水色の髪と瞳が印象的。
頭も良いし顔も可愛いが、俺的に性格は苦手だ。
見た目はチラーミィ、中身はヒヒダルマとでも言っておくか。

 「で、あんたこそ何してんの?」
 「海眺めてる」
 「せっかくの夏休みなのに昼間っからあんたは・・・」
確かに今は夏休みで高校は休み・・・。
とはいえ、格別何かしたいことがあるというわけでもない。
よって、いつも通りの毎日を過ごすのみ。
(勉強は除く)

 「ほんっと暇人だね。暇ならちょっと付き合ってよ」
 「んー? やだよ、めんどくさい」
どうせパシりとかにされるに決まってる。
この子は見た目で何か騙しておいてそんなことをする腹黒い子だ。
まさにエモンガの幻影を見せたゾロアーク。


 「どうせ遣ることないんでしょ? 来てよ」
南はしつこく俺の服を引っ張る。
 「ったくだるいなー。なんで昼間っからヒヒダルマと二人っきりにならなきゃいけねーんだよ」
 「なっ///それどーゆー意味よ! あとで覚えときなさい・・・!
それに二人っきりじゃない、翼も後で来るんだから」
翼・・・天宮 翼か。
彼も俺の友達の一人だった。

 「よう翼」
 「・・・あ?」
彼は不機嫌だった。
まぁ理由は大体予想がつく。

 「なんだよーせっかくルルちゃんと二人っきりになれるかと思ってたのにテメーも来たのかよ」
やはり予想通りだった。
 「その南に誘われてきたんだ。文句なら南にどうぞ」
 「ルルちゃん可愛いから許す。お前は許さねぇ」
 「はぁ、めんどくさいなぁ┐('~`;)┌」
俺はわざとらしくため息をつく。
 「まぁいいや。実は俺も今回、お前が必要だと思ってたからな。それに後でどうせ呼びにいくつもりだったし。
でも呼びにいくまでのラブラブタイムがなくなるのはやっぱ惜しいなぁ」
翼も南も俺を必要としている。
となると、今から起きる出来事はポケモン関連であることは間違いと予想した。


天宮 翼。
金髪で紫の瞳。ピアスやネックレスをつけているという、俺とは正反対の目立ちたがり野郎。
一応校内でも一部の女子から人気はあるが、彼にはそんなことどうでも良かった。
何故なら彼の視界には南 留々華という女一人しか入ってないのだから。
彼とも入学当時から仲が良いし、俺的には性格もチラーミィレベルで好ましい。
とはいえ留々華のことしか頭にないのが少し残念だった。

 「二人共そろそろ良いかしら?」
俺と翼の会話を見守っていた留々華が呆れた様子で口を挟んできた。
 「おっと今からルルちゃんのターンだ。彰、口を閉じたまえ」
 「へいへい」
取り敢えず俺らは近くの木の幹に腰を下ろした。

森は人とポケモンで賑わっていた。
主にヒウンシティに住む子供達が遊んでいる。
無邪気に遊ぶ姿はなんとも微笑ましい。
しかし、もしも此所に奴らが現れたら・・・・。
ポケモンの姿を見るとどうしてもその事を考えてしまう。

 「で、何の会議すんの?」
俺の質問に南は少しためらってから答えた。
 「うーん、会議をする前にまずはこれを見て欲しいの」
彼女は肩に下げていたバッグから何かを取り出した。
それは大きな紙―――いや、ポスターだった。

 「なんだ、バトル大会の広告か」
 「うん。そうなんだけどただのバトル大会じゃないのよ。見てよこれ」
――――全国大会。
まず目に入ったのがその単語だ。
なるほど、ザ・ワールド・チャンピオン・リーグ――――TWCRというポケモンバトル大会が此所、イッシュ地方で開催されるらしい。

期間は8月10日~9月25日。
なお、8月31日までは予選とする。
ちょうど夏休み終了直前前までだ。
エントリーは8月8日まで・・・。
ずいぶんギリギリまで募集するな・・・。

 「で、これがどうかしたの?」
 「単刀直入に言わせてもらうよ。参加しよう」
 「は?」
こうなることは予想していた。
しかし、いくらなんでも単刀直入過ぎる。

 「一応、俺とルルちゃんはもうエントリーした。後はお前だけだ」
確かに二人は参加条件の6匹のポケモンを持っている。
しかし、翼はともかく南なんてバトルは滅多にしないしレベルも低い。
翼は確かにバトルのセンスはまぁまぁ良いが、全国に通用するかどうか。
まぁ、どちらにせよ―――

 「悪いけど、俺は出ないよ」
俺はわざと視線をそらして二人に言った。
 「お前らも知ってるだろ、俺の過去。この前話したばかりじゃん」
 「うん。でもやだ」
他人が聞けばまったく会話が成り立ってないのだが、俺には言いたいことが大体解る。

 「なんで俺の過去を知っておきながら出させる? 頼むからもうポケモンとは関わらせないでくれ」
 「ぃぃょ」
今のは承諾のいいよではなく、否定形のぃぃょ。
これもまた異端な会話であるというのは置いといて・・・。
 「なんでそうまでして出させようとする? もしかして、優勝賞品目当てか?」
 「そうだよ。優勝賞品1億円」

      • 金目当てかよ。
もう少しまともな賞品かと思ったが、期待して損した。
 「悪いが本当にこの大会には参加出来ない。ポケモンとは関わらない。そう決めたんだ」
 「え、ちょ―――」
 「じゃあな。大会頑張れよ。夏休み後の結果楽しみにしてるわ」
俺はさっさとその場から消え、ヤグルマの森を出ていった。



 「ほ~らね。あいつはもうモンスターボールを手に取ることがてきないんだって。諦めようよ」
彰が去ったあと、翼が言った。
 「うーん、こんなにもあっさりと私達の計画が捻じ伏せられるのは嫌だなー。もう少し粘りたい」
 「あんまりしつこくすると嫌われちゃうよー。
        • よし、粘ろうもっと粘ろうしつこく付きまとおう」
      • どうせ彼は、私を彰から突き放して自分のものにしようと考えてるんだろう。
この男が考えていることはほとんどお見通しだった。
だからこそ利用価値が・・・おっとこれ以上は禁句。
 「ま、あともう少し頑張ってみるよ」
翼は少し肩を落とした様子だが「俺も協力するよ」と言った。

テーンテケテケテンテンテンテン テーンテケテケテンテンテンテン...。

ケータイの着信音とバイブレーションが響いた。
送信者は見慣れないメールアドレスだった。
内容は・・・。
 『今日の夜8時頃、ヤグルマの森の入り口で待ってる』
見るからに怪しい。
が、俺は行くことを決意した。

夜8時頃――――。
俺は指定された場所に向かった。

昼間いた子供も南達も特区に家に帰ったせいか、辺りは驚くほど静まり返っていた。
暫くじっと待っていたが、誰も現れない。
それどころか物音一つ聞こえない。

 「おい、俺を呼んだ奴、出てこい!」 
取り敢えず叫んでみたが、やはり相手は現れない。
俺がそろそろ帰ろうかと思い始めたそのとき――――。

ガサガサ

近くの木の影から物音が聞こえた。
どうせ野生のクルミルとかフシデとかだろうと思い、軽い気持ちでそれに近寄った。
次の瞬間、突然巨大な何かが俺に襲いかかった。
辛うじて避けたが、再びそれは攻撃を仕掛けてくる。
それもなんとかかわした。
しかし、一歩遅ければ命に関わっていたかもしれない。

暗がりではっきり見えなかったが、それは確かにポケモンだった。
手持ちにポケモンがない今、俺には逃げる以外選択肢はない。
しかし、俺は運悪く相手が橋への入り口側に回るよう躱してしまったらしい。
仕方なく、森の方へ向かって逃げることにした。

10分くらい逃げ回っただろうか。
ポケモンはしつこく俺につきまとう。
対する俺はもう汗だく。
足が悲鳴をあげているのが分かるが、休ませてしまうと今度は体全体が悲鳴をあげてしまうかもしれない。

 「どわっ!」
突如、俺の後ろで何かが地面に衝突し、衝撃が足に伝わった。
その衝撃は俺をすっ転ばせ、更に足を痛めつけた。
 「く・・・やべぇ」
ポケモンはいつの間にか俺の目の前に立っていた。
どうやら先程の衝撃はこのポケモンの攻撃だったらしい。

 「ここまでか・・・」
俺は死を覚悟し、目をつぶった。
そこへ―――
 「戻れ、ゾロアーク!」
懐かしい電子音と共に赤い閃光が頭上を飛び、目の前に立っていたポケモンを吸収した。
 「あらららららららららららららら。ごめんなさい、呼び出しておいてこんな目に遭わせてしまって・・・」
何処かで聞いた覚えのある声だ。
しかし、今はそんなことどうでも良かった。
助かった喜びだけが全身に伝わる。

 「お前が俺を呼び出したのか。ほんと酷い目に遭ったぞ」
若干キレながら立ち上がったが、まだ足の痛みは消えてなかった。
 「ほんとごめんなさいね。目を離してる隙にモンスターボールから出してたゾロアークが消えちゃったから慌てて探しに行ったら、約束の時間過ぎちゃって。おまけにそのゾロアークが貴方を襲ってたなんて・・・」
やはりこの声・・・何処かで・・・。
 「なぁ、ところであんた誰だ?」
 「あらららら、忘れちゃったかしら。数年前、貴方にポケモンと図鑑を託したアラララギ博士よ」
暗がりに目が慣れたのか、その顔がはっきりと俺の目に映った。
 「ア、アラララギ博士!」
 「お、覚えてたかしら。久しぶりね、彰くん」

アラララギ博士は約七年前、俺が旅に出ることを推薦してくれた張本人。
そして俺の旅を一番サポートしてくれた人でもある。
彼女がいなければ俺はあそこまで強くなれなかったかもしれないと言っても過言ではない。

 「久しぶりですね。カノコタウンからわざわざ来たんですか?」
 「まぁね。2日かかってようやくヒウンシティについたってところかしら。

―――で、悪いけど、早速本題に入っても良いかしら?」

彼女の目が変わった。
相当重要な話だと思われる。
 「・・・ここに呼び出した理由ですね。なんでしょう?」
ポケモン関連の話はしたくないと思っていたが、それはどうしても避けられない運命のようだ。

 「貴方にもう一度、これを手にして欲しいの」
彼女が差し出したのは先程ゾロアークを吸収したモンスターボール。
 「・・・申し訳ないですが、お断りします。
貴方も知ってる筈です。俺の過去・・・トラウマを」
俺のポケモンがD.Dに奪われたということは、彼女にも話したことがある。
 「ま、そう言うと思ってたわ。けど、このモンスターボールをそのD.Dを滅ぼすために使うとしたらどうかしら?」
 「・・・!?」
D.Dを滅ぼすため・・・?

D.Dを滅ぼす?
俺が困惑していると、博士は説明してくれた。
 「私はD.Dを滅ぼすべく結成された組織、D.D.D(Destiny Destroyers Deleters)に所属してるの。そして、貴方にもその組織の戦力となって欲しいべく、此所へ呼び出したの」
俺をD.D.Dにスカウト・・・?
確かに俺は過去、優秀なトレーナーだったからスカウトされてもおかしくはない・・・。
しかし・・・・・。

 「俺以外にも優秀なトレーナーは山程いる。なんでよりによって、そのD.Dのせいでポケモンとの縁を切った俺を選んだです?」
 「だからこそ、貴方を選んだのよ」
 「は?」

 「私は貴方にチャンスを与えに来たの。D.Dを滅ぼすチャンスを。
貴方はD.Dに呪われている。
彼らが存在する限り、貴方は愛するポケモンが奪われる恐怖に押し潰され、ポケモンと手を取り合うことを拒む。
だからこそ・・・・そのD.Dを消滅させ、再びポケモンを愛する権利を取り戻す為に、貴方に力になって欲しい。どうかこの通り......」

確かにD.Dの存在さえ消してしまえば俺は再びポケモンと関わることが出来る。
しかし、彼らを倒すのは容易なことではない。
何しろ警察やポケレンでさえ手を出すことを恐れる様な組織なのだから。
俺の想像する未来はポケモンを再び奪われ絶望する光景で埋め尽くされていた。

再び断ろうとしたとき、アラララギがそれを遮るように口を開いた。
 「そして、私達がD.Dを滅ぼした暁には、彼らの所有する絶対ポケモン捕獲器、Dボールを全て破壊するつもりよ。
つまり、全ての操られてたポケモンは我に帰るわけ。もちろん、彰くんのもね」
 「・・・・!?」
彼女の言葉は一瞬で俺の決意を揺るがせた。

俺が昔愛していたポケモン達・・・・・。
また彼らと会える・・・・・。
そんな未来を想像してみた・・・・・。
しかし、再び絶望する未来がそれを押し潰す様に現れ、俺の身を震わす。


俺はいつもこうだった。
何かをしようとしても少しでも不安があると立ち止まる。
今も過去まったく変わらない。

しかし、ポケモンバトルでは違った。
不安など一切無視、希望があればどれだけ可能性が低くてもそちらを優先した。
それはポケモン達が信頼できたからだ。
時には失敗することもあったが、それでも彼らを疑うようなことなど一瞬たりともなかった。
俺達はそれ程強い絆で結ばれていたんだ。

そして、そのポケモン達がいない俺はただの臆病者。
自分でも分かっているのだ。でも勇気が出せない。そんな状態だった。

今日ばかりはそんな自分が心の底から憎く思えた。
未来が輝く可能性はあると言うのに、それを別の可能性で言い訳してやる前から諦める。
だから俺はいつまで経っても本音を露にすることが出来ない。
俺は本当はポケモンをまた愛したいのに・・・・・・奪われるのが怖いからと言って諦めていた。
ポケモンバトルの時はあんなに信じてたのに・・・・・・・一度奪われてから心をずっと閉ざしていた。
このままじゃいけない・・・・・・俺の望む未来にはならない。
やってやろうじゃないか・・・・・俺とポケモンで・・・・・・・・・・未来を変えてやるんだ!

 「・・・分かりました。D.D.Dに入隊します」
アラララギ博士に頭を下げ、言った。
 「はい、入隊許可。これから頑張りましょう! それと、一度入ったら抜けるのには苦労するけど、良い?」
 「抜ける気はないです。ってか、許可する前に言いましょうよそれ」
 「フフッ、そうね。
それじゃ、早速だけどアジトに行って自己紹介しましょう!」
 「え、もうですか・・・・? てかアジトって・・・・?」
 「時間は無駄に出来ないのよ。アジトはヒウンシティの何処かにあるわ。さ、ついてきて」
俺と博士は再び橋を渡り、街へ向かった。

第二話【奇襲】



夜のヒウンシティの歩くのは久々だった。
しかし、例え夜でもこの街を歩く人の数は少なくない。
昼間よりは少ないものの、イッシュ地方で夜これだけの人が道を歩いているのは珍しい光景だ。
とはいえ、人が多いのはヒウンシティの4つある通のうち2つ、ヒウンストリートとモードストリートのみで、残るスリムストリートと名称のないジムがある通り(ジムストリートと呼ばれることが多い)は昼も夜もほとんど人が通らない。
D.D.Dのアジトはヒウンシティ最も西よりのジムストリートにあった。

 「なるほどねー、ヒウンジム正面にある建物を使ってるのか」
 「あそこにはD.D.Dとはまったく関係ない広告が貼ってあるからうまくカモフラージュできてるの。
まだD.Dに我々の存在が知られてないとはいえ、そのうちアジトが狙われるかもしれないk―――」

 「キャアアアアアアアア!!」
―――ジムストリートに曲がろうとした途端、突然スリムストリートの方から叫び声が聞こえた。

俺と博士は急いで今来た道を走り、そこへ向かった。

スリムストリートはシーンと静まり返っていた。
昼間は数えきれる程人はいるが、夜は誰一人見当たらない。
―――いや、一人いた。
電灯に照らされ、道端に倒れている少女が。
しかも、彼女の顔には見覚えがあった。
 「南!」
俺はうつ伏せに倒れている南の体を起こし、軽く揺さぶった。

南はゆっくりと目を明け、俺の顔に向かって手を伸ばそうとする。
 「・・・彰。ポケモンが・・・変な人に・・・」
彼女の手が俺の頬に触れた。
力がほとんど入ってなかった。
俺は彼女の手を握って言った。
 「必ず取り返す・・・!!」

南を博士に預けて走ろうとすらと、その博士は俺を呼び止めた。
 「彰くん、ポケモン持ってないんでしょ?」
 「あ」
 「これを使って!」
アラララギ博士はポケットからモンスターボールとポケモン図鑑を取り出し、俺に向かって投げた。
 「これは・・・」
 「さっきのゾロアークよ! 扱うのは初めてかもしれないけど・・・貴方ならできるわよね?」
 「・・・ああ!」

ポケットにモンスターボールやらを収めたあと、ダッシュでヒウンシティの中央、セントラルエリアを目指した。


セントラルエリアに辿り着いた。
しかし、怪しい人はいない。
というより、ヒウンストリートやモードストリートを行き交う人が多すぎて判別できない。
そして南の叫び声はそれらの人々の声に掻き消されたのか、彼らの耳には届いていなかったようだ。

 「・・・お前、さっきの女の仲間か」
突然後ろから声をかけられ、反射的に振り向いた。
 「ポケモンは持っているな? 来い」
水色の髪にサングラス、そして白のDの大文字が刻まれた黒い服。
間違いない・・・。こいつはD.Dの下っぱだ。

俺はD.Dの下っぱに続き、再びスリムストリートの方へ戻った。
そして、セントラルエリアから少し離れたところで立ち止まる。
ここでバトルすれば博士達にも一般人にも音は聞こえににくいだろう。

「貴様、D.Dだな?」
俺らはスリムストリートの誰にも見られないような位置に移動した。
 「いかにも。この水色に染めた髪、サングラス、この黒いスーツはD.Dの一員である証だ」
やはり・・・D.D!
何故ここにいるのかは分からなかったが、今俺はそんなことを考えている場合ではなかった。

彼らに対する怒りと憎しみが心の奥底から爆発的に沸き出て、おかしくなりそうだった。
とにかく、どうにかその感情を抑え、冷静になろうとするのに精一杯だった。

 「貴様らの暴行は決して許されるものではない。だが今は、南のポケモンを返してもらうことだけを考えさせてもらう。
バトルだ。俺が勝ったら彼女のポケモンは返してもらう。だが、負けたら俺のを好きなだけ奪うが良い」
下っぱはニヤリと笑った。
 「ほぉ、これはこれは・・・! 此方から言う手間が省けた。 ずいぶんヤル気満々じゃないか。これほど倒し甲斐のある人間はいない」
 「倒されるのはどっちかな」

俺はモンスターボール、下っぱはDボールを構えた。

 「行け、ゾロアーク!」
 「カモン、シンボラー!」
俺はゾロアーク、下っぱはシンボラーを出した。
ゾロアークを出した後、俺は素早く図鑑で覚えている技を確認した。
 「ナイトバースト、気合い玉、火炎放射、カウンター・・・・まあまあかな」
 「ふん、技を調べていると言うことはそいつを扱うのは初めてのようだな。
ククク、その程度のトレーナーに喧嘩を売られるとはナめられたものだ…」
今に見ていろ・・・!
俺は拳を強く握り締めた。

 「ゾロアーク、ナイトバースト」
 「シンボラー、エアスラッシュ」
2匹のポケモンはほぼ同時に動きだす。
しかし、ゾロアークの方が一歩速かった。
ナイトバーストはシンボラーを襲い、大きなダメージを与える。
その後、シンボラーが空気の刃を放つ。
しかし、ゾロアークにはあまり効いていない。

 「チッ、相性が悪かったか・・・」
 「まだまだ、ゾロアーク、ナイトバースト!」
ゾロアークは再びナイトバーストを放とうとするが、シンボラーもその攻撃範囲を読み取ってをかわそうとする。
さすがにポケモンにも学習能力はあるということだ。
しかし、そんなことは読んでいた。
 「ゾロアーク、跳べ!」
ゾロアークは技を放つフリをして素早く跳び、溜めていたナイトバーストを再び放とうとする。その目の前にはシンボラーがいた。

 「何!?」
ゾロアークが放ったナイトバーストはシンボラーに直撃、地面まで吹っ飛んだ後、動かなくなった。

 「俺の勝ちだ」
下っぱは悔しそうにシンボラーをボールに戻すと、また別のDボールを構えた。
 「へへっ、俺にはまださっき捕まえたばかりのこいつが残ってンだよ!」
 「さっきって・・・まさか!」
下っぱがボールを投げると、その中からは南が愛用していたポケモン、チラチーノが出てきた。

 「・・・チラチーノ・・・・!」
 「ハッハッハ、お前のお友達のポケモンを攻撃する気か!?」
下っぱは挑発的に言う。
此処で奴に乗ってしまっては俺はハメられるだけ。
チラチーノには悪いが、全力で叩き潰すのみだ。
何故なら、Dボールに捕まったポケモンは心も邪悪化してしまうのだから。

 「ゾロアーク、気合い玉!」
ゾロアークは気合い玉を放つ態勢に移る。
 「フッ、非道なトレーナーだ。チラチーノ、スイープビンタ!」
気がつくと、いつの間にかチラチーノはゾロアークの目の前まで来ていた。
相変わらず素早さが高い。
チラチーノはスイープビンタを2回当てたあと、ゾロアークの気合い玉をかわしつつ距離をとった。

 「フフッ、中々使えるじゃないかこいつ。チラチーノ、今度は目覚ましビンタ!」
先程からチラチーノは威力の低い技を使用している。
これは恐らく、いやほぼ確実に特性テクニシャンの効果をうまく利用していると思われる。
下っぱ・・・いや、南も少しは考えているようだ。

この攻撃を喰らえば大きなダメージを負うことになる。
しかし、チラチーノ自身攻撃力はさほど高くない。
ゾロアークならギリギリで耐えられるだろう。
ならばそれを利用して・・・
 「ゾロアーク、カウンター!」

チラチーノの攻撃をゾロアークは片手で受け止め、もう片方の手で反撃する。
ゾロアークが受けた攻撃の2倍のダメージが、チラチーノを襲った。
チラチーノはその一撃だけで動けなくなった。

 「く、くそ、もう俺の手元に戦えるポケモンはいない・・・!」
 「さぁ、約束通り南のチラチーノを渡してもらおうか」
しかし、下っぱはなかなかボールを離さない。
 「せっかく強い駒を捕まえたのに・・・!」
 「はよ返さんかいドアホ」
中々返さない下っぱに一言押そうとしたら、別の人の声がかかった。

 「何処だ・・・?」
 「約束ごとは必ず守れ。それが我らD.D、いや男のポリシーやろ。分かったらそのDボール速く渡さんかい」
その声の持ち主は、近くの建物の3階にいた。
窓から顔をだし、頬杖をつきながら此方を見下ろしていた。

 「ひっ、すみません十魔様!」
下っぱは慌てて此方にDボールを投げた。
俺はボールを受け取ったあと、中からチラチーノを救出し、ゾロアークにそれを破壊させた。
Dボールの呪縛が解けたチラチーノは理性を取り戻した後、此方に戻ってきた。
 「そうそう、それでよい」
十魔と呼ばれた男は窓から飛び下り、見事に俺の目の前で着地した。

 「彰!」
運悪く、このタイミングで南と博士が遣ってきた。
 「・・・あ、チラチーノ」
俺はチラチーノとモンスターボールを南に渡すと、十魔の方に目を戻した。
 「誰・・・?」
 「知らない」
十魔は暫く下っぱと話をしていたが、やがて此方を向いた。

橙色の髪に黒いD.Dのスーツ。
しかし、黒いマントをしていてサングラスはかけていない。
この容姿から下っ端ではない。まさか・・・。

 「自己紹介が遅れたな。わいは紅恋十魔。D.Dの幹部や」
 「幹部!?」
声をあげたのはアラララギ博士。
 「まぁ、今日はちょいと用があってヒウンシティに来たんやけど、もうその用は済んだ。
あんたらのポケモン奪ったりはせーへんから安心せえ。
ほな、またご縁があったら会おうや」
十魔は此方に手を降りながら去ろうとした。

 「待って」
博士が彼を呼び止めた。
 「貴方達の目的は何? なんで他人のポケモンを奪うの?」
十魔は暫く考えてから言った。
 「あんたに話す必要はないで、アラララギ博士」
そう言って彼と下っ端は姿を眩ませた。

 「なんでポケモンを奪われたんだ?」
ジムの通へ向かう途中、南に訊いてみた。
 「夜、セントラルエリアを歩いてたら怪しい人がスリムストリートに向かうのが見えて、それで追いかけたら突然バトルを申し込まれて・・・」
 「負けたのか?」
 「うん、それでもモンスターボールを手放さないでいたら、後ろから何かで殴られて・・・」
 「奪われたのか・・・」
 「災難だったわね。一人で帰れる?」
 「多分・・・」
アラララギ博士が訊くと、南は元気なさそうに答える。
やはり不安なのだろう。

 「博士、この子をアジトにつれてっちゃいけませんか?」
D.D.Dの人に彼女を保護してもらおうと考えた。

博士は暫く考え、南は首をかしげる。
 「できる限り一般人には知られたくないんだけど、まぁ今回だけよ」
 「ありがとうございます」
 「ねぇ、アジトって?」
 「まぁいいからついてこい」
南は大人しくついてきた。こんな彼女珍しい。

 「へー、此処か」
俺らはついにD.D.Dのアジトへ辿り着いた。
確かになんか変な広告の看板が建っており、これなら目立ちもしない。
おまけにこの通りは人気も少ない。
 「こりゃ最高の隠れ家だな」
 「フフッ、まあね。さぁ、中へ入るわよ」
博士に促され、俺らは建物の中へ入っていった。


一階は誰もいなかった。
無人のカウンターとソファ、TVが置いてあった。
奥にはエレベーターがあり、そこから2階へ上がるのだろう。
そしてそのエレベーターにもロックがかかっており、パスワードを入力しないとドアが開かない設定になっている。
 「パスワードは1227。特に覚え方とかないから、よく覚えといてね」
覚え方がないのに、覚えておいてとは何事だ。
まぁ、たったの4桁なので覚えにくいわけでもないが。

エレベーターが2階で扉を開くと、そこには思った以上に多くの人間がいた。
広さは一階と同じくらいなのだが、10人くらいいるせいでずいぶん狭く見える。
 「皆、ただいま」
アラララギ博士が軽く手をあげると、人々は「おかえりなさい」と口々にする。
 「あれ、その子達は・・・」
隊員の一人が俺らを指差して言う。

 「そうね、紹介するわ。彼がかつて無敗と呼ばれたポケモントレーナー、流崎彰くん。さっきスカウトしてきたの」
すると、その場にいたほぼ全員が感嘆を漏らす。
 「彼があの!」
 「D.D.Dに入ってくれたのか!」
 「再びポケモンを使えるようになったんだな」

しかし、一人だけ違うリアクションをする者がいた。
 「あああああー!! 彰!」
そいつの顔はずいぶん最近見たことがあった。
そして、これまでも何度も見てきた奴だった。

 「つ、翼!? お前なんで此処に!」
 「そりゃこっちのセリフだ!」
二人の会話で、その場にいた全員が沈黙した。
 「あら、二人とも知り合い?」
その沈黙を突き破るように、アラララギ博士が口を開いた。
 「えぇ。同じ高校のクラスメイトです」
横をちらっと見ると、南も驚いた顔をしていた。

 「くっそー、まさかお前が入隊してくるとは・・・。しかもルルちゃんまで」
俺と翼が落ち着いたところで、その場にいる全員が中央に集まった。
 「南は入る気はないよ。な?」
しかし、彼女は頷こうとしない。
 「私、入っても良いかも。D.Dを倒すためなら・・・」

彼女には此所へ来る途中、D.D.Dの説明をしておいた。
しかし、今更になって話さなきゃ良かったと後悔し始めた。
南にはこの危険な組織に入ってほしくなかったからだ。
彼女には世のために働くより、自分自身を大切にしてほしかった。
今まで通りの人生を送ってほしかった。
先程彼女がポケモンを奪われていたときの顔を見てから、なんだかそんな気がしてならない。

 「えっと、南ちゃんだっけ? 此方側としてはありがたいことなんだけど、この組織は決して遊びではないの。
イッシュ地方の未来がかかっていると言っても良い程、危険な仕事なの。
それでも、そんな私達についてこれるかしら?」
南は暫く黙っていたが、やがて「はい」と返事をした。

 「よし、なら入隊許可。これから頑張りましょう!」
その場の全員はいっせいに拍手をした。
彼女を歓迎しているのだろう。
 「さて、それでは新しく入ったばかりの南ちゃんも含め、今から自己紹介を始めたいと思います。
皆まだお互いのこと、あまりよく知らないもんね」
アラララギ博士が主体となって、全員は一人ずつ自己紹介をしていくことにした。
ということは、この組織は創られてからまだそんなに経ってないのか。

 「ハイ! 一番手は俺!」
手を上げたのは翼。
昼間にしても夜にしても相変わらずその無邪気なテンションは変わらない。
 「俺、天宮翼! 16歳で高校高校二年生です!
アラララギ博士にスカウトされて入りました! 宜しくお願いします!」
彼もアラララギ博士にスカウトされた。
まぁ学校では一応強い方だしおかしくはないが。

 「じゃあ、時計回りでいきましょう。次は母さん、お願いします」
アラララギ博士の母、此方からすると近所のおばちゃんみたいな雰囲気を漂わせるその女性が前に出た。
 「私はアララギ。アラララギの母です。今はそんなでもないけど、昔は結構優秀なポケモン博士だったわ。なにか知りたいことがあったら遠慮なく言ってね。ちなみに、D.D.Dでは研究長を務めさせてもらうわ。どうぞ宜しくお願いします」
へぇ、アラララギ博士はアララギ博士の娘だったのか。
んにしてもすごいネームセンス・・・。

 「次は僕かな。僕は坂之 龍騎(さかの りゅうき)。17歳で高校3年生です。翼君たちと同じ飛雲高校の生徒なんだけど・・・知ってる?」
 「知らね。俺先輩とはまったく吊るんだことないし。お前らは知ってる?」
 「「知らない」」
俺と南は同時に首を横に振った。
 「そっかー・・・残念だなぁ。まぁ、とにかく此処にスカウトされるくらいの力は持ってるんで・・・。どうぞ宜しくお願いします」
彼は深々と頭を下げた。
それにしても同じ学校の生徒が此処に来ていることには驚いた。

 「えーと、俺、佐伯 玲音(さえき れお)。歳は翼達と同じ16。ライモンシティからわざわざ来たんだ。まぁ、宜しく」
アラララギ博士がライモンシティに行ってまでもスカウトするとは、どれほどの実力の持ち主なのだろうか。

 「私、夜嶋 美音(やじま みお)です。17歳で、シッポウシティの七宝高校に通ってます。高校二年です。宜しくお願いしま す」
シッポウシティ・・・となると、ヤグルマの森や橋を越える必要があり、一本道の4番道路を突っ切るだけのライモンシティよ りはるかに辛いだろう。
彼女の実力も計り知れん。

 「次私ですね! 私、夜嶋 紫音(やじま しおん)です! 美音と双子の姉妹なんです! これから宜しくお願いします ね!」
姉妹揃ってD.D.Dに・・・。
そして大人しい美音に対し、紫音はずいぶん騒がしそうなタイプだった。

 「ふー、俺か。俺は山田 裕貴(やまだ ゆうき)。22歳。現時点でイッシュ地方の四天王だ。バトルしたくなったらいつでも言ってくれ。宜しくな」
ついに四天王まで入れてしまうとは。
この組織、どれだけ強者を集める気なんだ。

 「私は荒野 岳(あらの がく)。35歳。一応、この組織の創立者なんだ。ボス、とでも呼んでくれ。それと・・・いや、なんでもない。宜しく頼む」
へぇ、この人がD.D.Dを築き上げたのか。
ここまで成長したとなるとさも嬉しいだろうな。

 「私、ですね。富岡 茜(とみおか あかね)と申します。17歳です。サンヨウシティから来ました。宜しくお願いしますね」
今度はサンヨウシティとは・・・。
あんなところからヒウンシティまで歩くとは、一番大変だったろう。
それにその実力も相当のものだろう。

 「えー、私は金谷 美鈴(かなや みすず)。20歳よ。これでも現在、ヒウンジムのジムリーダーなの。まぁ、宜しく頼むわ」
ヒウンジムのジムリーダー。
何処かで見たような顔だと思ったが、今になってようやく確信を持てた。
同じ街に住んでるのに忘れてた俺って・・・。
まぁそれは良いとして、ジムリーダーをもスカウトしてしまうのはまた凄いことだった。

 「えっと、次は私かな。私は南 留々華。翼や彰、坂之さんと同じ飛雲高校の生徒です。実力はそれほどありませんが、宜しくお願いします」
南はそう言って頭を下げた。
ついさっきまでまだ落ち込んでたのに、今はそんなでもなかった。
きっとこの組織の仲間を見て元気をもらったんだろう。

 「えーと、私ね。皆知ってると思うけど、アラララギよ。
基本メンバー集めをするけど、研究員も務めさせてもらうので、用があったら地下の研究室まで来てね。
あ、ちなみに此処にいるメンバー以外にも地下にオーキド博士、ハチカマド博士達がいるわ。
彼らは有名だから分かると思うけど、地下に籠って研究ばかりしてるからこういう場にも来ることは少ないわ。
代わりに私が紹介してあげたけど、挨拶くらいはしておいた方がいいかもね。
そんなわけで、宜しくお願いします」
あの有名なオーキド博士、ハチカマド博士がいるとは・・・。
この組織、なんやかんやでやっぱ強そうだ。

そうこうしているうちに俺の番が遣ってきた。
しかも最後という。
 「えー、初めまして皆さん。流崎 彰です。16歳で翼達と同じ飛雲高校生徒です。
知ってる人もいるかもしれませんが、暫くポケモンを扱ってなかったんで足手纏いになるかもしれませんが、宜しくお願いします」


 「さて、全員自己紹介終えたわね。今日はこれで解散の予定だけど、明後日また8時頃、ここで作戦会議があるの。
茜ちゃん達は大変かもしれないけど、まぁ無理はしない程度に出来る限り来てもらいたいわ。では、ボス、最後になにか一言」
組織のボスこと岳が口を開く。
 「うぬ。諸君、今日は夜遅くご苦労だった。我々は基本、夜に活動をする予定なのでその辺は考慮して頂きたい。
今日は疲れたであろう。明日はゆっくりと休むがよい。それでは、解散」
最後のボスの一言で、全員の緊張感が抜けていくのが分かった。
皆は「お疲れ様でーす」「ありがとうございましたー」と仲間に言い合い、エレベーターに入っていった。
エレベーターは3つあるが、それでも全員が入るにはギリギリだった。
これ以上メンバーが増えたらどうなるやら。

 「あ、待って彰くん!」
俺が南や翼と一緒に建物を出ようとすると、アラララギ博士が呼び止めた。
 「ん、なんですか?」
 「貴方にこれをあげるわ」
彼女が俺に渡したのはモンスターボール。恐らく、ゾロアークが入ってる。
 「え、良いんですか!?」
 「ええ。研究員の私には必要ないし、もともとこれは貴方にあげるつもりだったのよ。受け取って」
俺は彼女の差し出したモンスターボールを手に取った。
 「ゾロアーク・・・。これから宜しくな」
俺はそのモンスターボールに向かって囁いた。


 「良かったね、ゾロアークもらえて」
アジトをでたあと、南が言った。
 「あぁ。自分のポケモンがいると心強い」
そう言いながら話していると、前に人影がいくつか見えた。

 「おーい、翼君達ー!」
彼らはD.D.Dのメンバーだった。
 「お、紫音ちゃん達だ」
翼が言う。
 「途中まで一緒に帰ろうよ」
こうして、俺、翼、南、紫音、美音、玲音、龍騎、茜は途中まで一緒に帰ることになった。

 「へぇ、じゃあ南ちゃんと彰くんは翼君のクラスメイトなんだ。」
 「まあな。ほんとお前がアジトに来たときは驚いたよ」
 「そりゃこっちもだ」
 「お互い様だね」

 「そいやーさ、紫音と美音は姉妹なんだって? 似てるよな、ほんと」
いきなり呼び捨てにしてしまったが、良かっただろうか。ま、良いってことにしとこう
 「似てるのは外見くらいだよ。美音ったらちっとも喋んないもん」
紫音がそう言うと、美音は顔を赤くして言う。
 「わ、私、人見知りなんで・・・」
確かに中身は全然違った。


二人とも髪は紺色で瞳は緑。
妹の美音の方が髪が長く、見分ける手段はそれくらいしかない。
後は声のトーンとか性格か。

 「姉が喋りすぎるから、妹が話す場面がなくなっちまつまたんじゃねーの」
と、玲音が言う。
 「そ、そんなことないよー! ね?」
 「う、うん。多分」
 「多分(笑)」
玲音が笑うと、紫音は「笑うな!」と怒る。
皆して笑った。

 「翼達は学校で龍騎と会ったことないの?」
玲音が訊いてきた。
 「俺は会ったことない。けど、似てる人なら見たことある」
翼が答える。

確かに俺も似たような人は見たことがあった。
そいつは学校で一番強いと噂されてるポケモントレーナー。
白い髪に金色の瞳、まるで猛獣のような威厳を持つ吊り目。
名前は忘れたが、確かにあれは学校一と言える実力を持っていた。

それに比べ、こっちの龍騎は容姿こそほとんど同じだが、この優しそうな顔や口調。
全てが彼とは正反対だった。
もしかしたら彼の兄弟なのかもしれないが、それにしては夜嶋姉妹以上に中身が違いすぎる。
それにD.D.Dに入れるならば、龍騎より彼の方が適当だとは思うが・・・。

 「あぁ、それね。僕もよく聞くけど、一体誰のことだか」
龍騎は知らなかった。
兄弟ではないようだ。

 「茜さん、だっけ。サンヨウシティからわざわざ来てるんだよね」
と、玲音。
 「えぇ、まぁ。ざっと3時間くらいかかりますね」
3時間・・・となると相当体力を消耗するだろう。
今帰っても家につくのは夜中の1時。
俺なら組織に入る気にはなれない。

 「大変だねー。ルルちゃん泊めてあげれば?」
翼が言う。
南は突然指名されて慌てた。
 「え、そんなこと急に言われても!」
 「南さん、今日は近くのホテルにでも泊まろうと思ってるんで大丈夫ですよ」
茜が言うと、南はほっと胸を撫で下ろした。

 「じゃ、俺は此所でバイバイさせてもらうわ。ライモンシティこっちなんで」
玲音がスリムストリートの方を見て言う。
 「あれ、どうせそっち行くならアジト出たとき左に曲がれば速かったのに」
と、翼。
 「いや、今日はお前らと話したかったからこっちまで来たんだ。いろいろと楽しかったよ。改めてこれからも宜しくな。じゃ」
 「「「「じゃあねー」」」」
玲音の赤い後ろ髪がスリムストリートの暗闇に消えてった。

 「じゃ、俺らはモードストリートに家があるからこの辺で」
翼に続き、南もモードストリートに曲がろうとした。
 「じゃあなー」
 「じゃあね、翼くん、ルルちゃん!」
 「おやすみなさい」
 「お疲れー」
 「また明後日会いましょう」
残ったのは俺、龍騎、茜、夜嶋姉妹になった。

しかし、俺が消えるのもそう遅くはなかった。
 「俺、ポケセンの隣に住んでるんだ。だからこの辺でノシ」
 「へぇ、あれが彰くんの家かー。今度遊びいっていい?」
 「ちょ、それは・・・」
相変わらず元気な紫音だ。

 「あ、その前に龍騎さん、どの辺に住んでるか聞かせてもらっても良いっすか?」
同じ街に住む者同士、住んでる場所は知っておきたかったのだ。
 「あぁ、僕? 僕はセントラルエリアからヒウンストリートに入って、右から三軒目の家に住んでるよ。良かったら今度遊びにおいで」
 「へぇ、ヒウンストリートですか。そんなに遠くないですね。今度お邪魔させてもらいますわ(笑)」
 「うん、その時は歓迎するよ」
そうして、俺は彼らと別れた。

第三話【会議】



その夜、俺は眠れなかった。
今日あった出来事を一つ一つ整理してた。

全ての始まりはあの謎のメールが入ってきたことだ。
8時にヤグルマの森へ・・・。
そして久しくアラララギ博士に会い、彼女が所属する組織D.D.Dにスカウトされる。
同時に再びモンスターボールを手に。
その後、D.Dの下っぱとバトル、アラララギ博士にもらったゾロアークで勝利。
そして、D.D幹部の紅恋十魔現れる。
南に下っぱが奪ったチラチーノを返し、D.D.Dアジトへ。
そこには翼がいて、南も組織に入りたい言い出す。
その後、自己紹介をした。


今日一番気になるのはあの紅恋十魔という男。
何故、D.D幹部があんな所にいたのか。
下っ端ならたまに街で泥棒してるのたろう、しかし幹部なんかが現れるということは何か重大な任務を抱えてるということ…。
まさか、これからヒウンシティに何かしかける気か?
      • 考えても仕方ないか・・・。


――――俺はいつの間にか寝ていたようだ。
気がつくと朝になっていた。
ケータイを開いてみた。着信一件あり。

また南に呼び出された。
ヤグルマの森で待ってる、と。

 「何の用だ?」
森の入り口で早速南、翼に会った。
 「昨日の大会の話だ」
大会? あぁ、そういえばそんな話したっけ。
 「あんた、ポケモン使えるようになったんでしょ? なら、出場しなさいよ」
南はもう完全復活していた。
下っ端に襲われた後のあの落ち込みが嘘のように思えた。

 「そうだなー。してやりたいとこなんだけど、俺にはこのゾロアーク一匹しかポケモンがいなくてね。
それに、D.D.Dの活動もあるし忙しいだろうから、多分無理だな」
 「その心配は要らないよ」
翼が口を開く。
 「D.D.Dといったって、まだD.Dに関する情報はほんの少ししか握ってないんだ。せめてアジトの場所くらい突き止めるまでは、そんな俺らに出番はないと思うよ。
ポケモンの数も、予選は3vs3だから3匹いれば十分。予選が終わるまでに6匹揃えておけば出場は可能だ。
今から2匹揃えるのはそれほど大変じゃないだろう?」
 「確かにそれなら・・・。でもそんな即席のパーティじゃ、出られても勝てるかどうか」

今日は8月4日。
エントリー〆切までまだ4日ある。
もう少し考えてみようかと思った。
この4日内でなんとか。


時間はあっという間に過ぎ、もう5日の午後8時。
皆既に一昨日と同じ場所に揃っていた。
机の配置が円をとるような形に変わっており、まさに会議にふさわしい状況だった。
 「全員揃ったわね。それでは、これより第一作戦会議を始めたいと思います」
アラララギ博士が主体となり、作戦会議は始まった。

 「では最初に、今我々が知っているD.Dの情報を全て教えておくわ。これを見て」
博士は立ち上がり、部屋の奥にあるホワイトボードを引っ張ってきた。
 「まず、D.Dを象徴するこの球、Dボールの構造について説明するわ。
Dボールから放たれる閃光は通常のモンスターボールとは異なり、対象となるポケモンにかかったあらゆるプロテクターを解除する力を持ってるの」

プロテクター・・・とは、例えば誰かがモンスターボールでポケモンを捕まえたとき、そのモンスターボールによってポケモンにかけられる保護プロテクターのことだろう。
保護プロテクターは他のモンスターボールによる捕獲を妨害する力を持つ。
つまり、その力が解除されることによってポケモンは無防備となり、別のモンスターボールに収まってしまう。
その力を持つのが、Dボールだ。

 「そして、Dボールに含まれるポケモンの心を邪悪化させる力。
これは、恐らくDボールに収まって電子化したポケモンに、何らかの支障を与えることで発生する力。
この件に関しては詳しいことはまだよく解ってないんだけど、とにかく彼らにはポケモンの心さえも動かしてしまう力がある、ということ」
博士はホワイトボードに表した図を消し、次の話に移ろうとした。

 「そして、次に彼らの組織の規模。団員の数はこれまでに発生した全ての組織の中でも最大、ざっと300人あまりよ。
下っ端は容姿が統一されていて、水色の髪にサングラス、そして黒いスーツを着ているわ。
とはいえ、幹部以外は恐れる程の実力を持ってないわ。奪ったポケモンが強力だった場合を除いてね」
そうだ、彼らは人が育てたポケモンを奪って戦わせるクズ共。
中身がからっぽとはいえ油断してはならない。

 「そして、D.Dの幹部は8人。今のところ入っている情報は少ないんだけど、中には伝説のポケモンを使う者もいるらしいわ」
300人いる団員の中でも幹部はたったの8人、そしてその幹部の一人に俺は一昨日会った。

 「実は一昨日、私と南ちゃん、彰くんはその幹部の一人、紅恋十魔という男に会ったの。
とはいえ、分かったのはその名前と、容姿くらいだけ。容姿は、橙色の髪に黒いマント、サングラスはなかった。瞳も橙色だったわ」
 「あと、関西弁を使ってた」
アラララギ博士の説明に補足してやった。
メンバーの中に此方をチラ見する者が何人かいたが、すぐ博士に視線を戻した。

 「以上が今私の知る、彼らに関する情報の全てよ。何か質問ある?」
手を挙げる者はいなかった。
 「では、次の段階に移るわ」
博士が再びホワイトボードの面を一掃する。

 「次、今私達にできることについてなんだけど・・・。
実際、今の私たちは彼らのアジトどころか、彼らの目的すら知らない。
ただ、彼らのアジトが近いと思われる場所だけは掴めたの。
これを見て」
博士はテーブルの上に置かれたリモコンを操作した。
すると、上から巨大なスクリーンが現れ、イッシュ地方の分布が表示された。

 「今から表示するのは、此処数年でD.Dの被害を受けた数とその場所。見てみれば分かると思うけど、数が多い場所は大きく偏ってるの」
彼女がリモコンのボタンを押すと、それは赤い点で分布に表示された。
 「この分布から分かるように、彼らはイッシュ地方東側に多く現れている。その中でも一番多いのがこの街、
サザナミタウン」
ならば、サザナミタウンを調査するのかと誰もが思っただろう。しかし、違った。

 「でもね、サザナミタウンは人口が多いし、建物も少ないから、アジトを作るにあたって向いてる街じゃないと判断したわ。だから―――」
博士はその街をスクリーンにアップで映した。
 「明日、この街を調査してもらいたい」
ブラックシティ――――。
昔人が栄えていたと有名だが、今では完全に廃墟し、はみ出し者が集うようになった街。

 「このブラックシティは元々人口が少ないから、事件が少ないのも頷ける。
それに、どれも似たような建物ばかりだから隠れるにはうってつけの場所・・・。
明日、このブラックシティに調査に向かってもらうのは、美音、紫音、彰、翼、裕貴で良いかしら?
あと、念のためサザナミタウンの調査もお願いしたい。これは龍騎、美鈴で良いかしら?」
博士が呼んだ名前の中には俺も含まれていた。
呼ばれた者達は同時に頷いた。
 「じゃ、明日の8時前に此処へ来てちょうだい。それぞれ調査する街に送ってあげるわ」
博士はそういうと、再びリモコンを操作し、スクリーンを上層部に収めた。

 「ふぅ、やうやく最後の話よ。今から彼らの目的について考えたことを伝るわ
博士は再びホワイトボードを取り出す。
 「彼らは様々な地方で様々な街にいる一般人やトレーナーからポケモンを奪っている。
それも奪うポケモンには共通点が無く、無造作に奪っている様にしか見えない。
そのことから、彼らの目的はこの二つに絞られた」
博士はホワイトボードにそれを書いてから読み上げた。

 「一つ目は、とあるポケモンを集めている。
とあるポケモンというのは、珍しいとか伝説のポケモンとかそういうのではなく、全てのポケモンの中でもごくまれに存在する、例えば色違いやポケルスに感染したポケモン・・・。
二つ目は、世界に存在する全てのポケモンを奪おうとしている・・・。 二つ目は考えにくいけれど、可能性は0じゃないわ。
そして、どちらの目的にせよ、彼らは多くのポケモンが集まるこの大会、ザ・ワールド・ チャンピオン・リーグ――――TWCRを必ず狙うと思うわ」
昨日と一昨日、南達に誘われたあの大会だ。

「そこで、皆にはこの大会に出場してもらいたいと思うの。取り敢えず彼らの行動を伺うには参加してもらった方 が手っ取り早いと思ってね。 目的はD.Dの行動を探ることだから、予選は誰か一人でも勝ち残ってくれれば良い。本戦が行われるPWTに行くまでは、一人でも良いからどうにか持ちこたえて」
大事なことだから2回言ったのだろう。
それにしても、結局この大会には参加する運命になってしまうとは・・・。

「さて、これにて今日の会議はお終いにするつもりだけど、ボス、何かありますか?」
ボスは暫く悩んでから言った。
「明日は諸君らの初陣だ。期待はしているが、くれぐれも怪我をしないように。諸君らの検討を祈る」
全員ボスに敬礼した。

「皆の方からも、何か言いたいことはある?
        • 無さそうね。それじゃ、これにて解散!」
こうして第一会議は終了した。

 「はぁー疲れたー」
翼が俺にもたれかかった。 
 「お前重ぇよ! 自力で歩け」
翼を押し返すと、彼は今度は玲音の肩に腕を乗せた。 「腰痛い頭痛い。俺明日死ぬかも」
 「お前家近いだろ。俺の方が歩くんだから・・・ってか離れろ重い」
玲音にも突き飛ばされる。

 「あはは、翼君おもしろーいwww」
紫音が腹を抱えて笑っている。 そんなに面白いか。 
龍騎、茜、美音もクスクスと笑う。

 「おいおい、明日は初陣なのにそんなんで大丈夫か?」 玲音が呆れたように言う。
 「その時になりゃ真面目に遣るって。な?」
 「まぁ、意外とこいつ遣るときゃ遣るから。心配ないさ」 俺が助け船をだしてやると、玲音は「ふーん」と疑うような目で此方を見た。
信用されてないのは明らかだ。
 「ま、結果を楽しみにしてな」

 「龍騎君は別行動なんですよね」
茜が言う。
 「うん、ジムリーダーと二人でサザナミタウンを調査。僕もブラックシティが良かったなぁ」
 「どうしてですか?」
 「サザナミタウンは有名だから何回か行ったことあるんだけど、ブラックシティはまだ入ったことないからね」
 「なるほど、そういうことですか。でもブラックシティってはみ出し者が多いらしいですよ。
私としては行きたくないというかなんというか」
 「へぇ、でもなんか逆にそういうところって行きたくなるんだよね、僕。スリルがあるというか・・・」
 「まあ・・・。龍騎さんもある意味はみ出し者?」
 「い、いや、そういうわけじゃ(;´д`)」
この二人、完全に二人だけの世界に入り込んでいた。

 「じゃ、俺はこの辺で」
玲音がスリムストリートの方向に前を向けた。
 「あれ、そーいやなんでお前こっち来たんだ?」
翼が言う。
 「さぁ? 俺自身にもさっぱり」
 「何それ(笑)」
紫音が笑う。
 「こっちに来ることが習慣になっちゃったんだろ」
と、俺。
 「ふーん、まぁなんだっていいや。明日頑張れよノシ」

第四話【偵察】



 「ふぅ、明日は初仕事か」
皆と別れて家にいたあと、ベッドに横たわった。
 「ゾロアーク一匹で大丈夫かなぁ。大会も出なきゃいけないし、あと2匹くらい博士にもらえないかな」
モンスターボールを見ながら呟いた。
その後、自分でも気づかない内に深い眠りについていた。


      • 朝になった。現在7時30分。
起きてすぐに身支度と飯を終え、外に出た。
相変わらず人の多い通りを抜け、ジムストリートまで行くと、もう既に皆アジトの入り口前に集まっている様子だった。
 「遅れてすみませーン」
走って近づくと、皆は俺の存在に気づき此方を向いた。
 「大丈夫よ、皆さっき来たばかりだから。さて、これで全員揃ったわね」

アラララギが今回派遣するメンバーを集め、整列させた。
 「それじゃ、移動にはこの子に協力してもらうわ。出てきて、ケーシィ」
博士が出したケーシィというポケモン・・・。
こいつは技マシン以外では戦える技を覚えることが出来ないが、今回はその唯一自力で覚える技、テレポートに頼るのだろう。
 「皆、準備はイイ?」
全員頷いた。

 「あ、待ってください!」
そう言ったのは整列したメンバーではなく、茜だった。
 「龍騎さん、これを・・・」
 「ん、なにこれ?」
 「御守りです。頑張ってください!」
茜はそれだけ言うと、元の場所に戻った。

 「へぇ・・・ふぅーん・・・そーゆーことか」
 「そーゆーことねー・・・」
翼、南がニヤニヤ笑う。
 「お前ら気持ち悪いぞ」
玲音が冷静にツッコむ。

 「それじゃ、今度こそ準備良いわね? ケーシィ、テレポートよ」
ケーシィは唸りながら体から光を放ち始めた。
 「皆、それぞれ向かう街を想像して」
ブラックシティのことを思い浮かべながら目を瞑った――――。



目を開けると、そこには黒い建物がたくさん並んでいる光景が映っていた。
ヒウンシティではなかった。空が黒い・・・。
 「・・・此処が、ブラックシティ」

 「気になるのか?」
彼らが消えたあと、玲音が茜に訊いた。
 「え?」
 「龍騎のこと」
 「あ、いえ、そういう訳じゃなくて・・・。
昨日あの人、女の子だけじゃ危ないからって、私が家につくのを見届けるまで付いてきてくれたんです。
だから、お礼がしたくって・・・」
 「え? じゃお前、家についたの何時?」
 「1時です」
 「じゃあ、あいつが家に着いたのは4時?」
 「・・・ですね」
 「・・・・・・あいつ寝たのか?」
 「・・・多分」


 「さぁついたぞ。ブラックシティだ」
裕貴が言った。
 「まずは配置を決める。俺は北側を徘徊。お前達にはペアになってもらって、東側と西側を調べてもらう。
南と中央は特に何もないから、まぁ後で俺が調べとくよ。
ペアは出来るだけ男女混合でお願いしたい、女の子同士じゃ危ないからね。
何かあったらDギアで連絡宜しく。それじゃ、各自行動開始!」
裕貴は言うべきことを全て伝えると、先にその場を離れた。

 「いっ!」
頬をつねられた。
目を開けると、美鈴が顔を除き混んでいた。
 「こらっ、作戦中に寝るな」
 「あっ、す、すみません!」
夕べ一睡もしてない僕は眠くて仕方なかった。
 「どうしたらこんなところで寝られるんだ・・・。ポケセンの目の前だぞ」
その問い、自分でも聞きたかった。
 「わぁ、恥ずかしい! 早く離れましょうよ!」
気がつくと人がいっぱいたかってたので、サザナミ湾で作戦を立てることにした。

 「おーい、出てこいD.Dー」
翼が筒状のゴミ箱をあさりながら呼んだが返事はない。
 「そっち何かあった?」
 「いえ、こちらは何も」
捜索を始めてから一時間経過した。
しかし、これといって手懸かりになりそうなものはなかった。

 「本当にこんな街にアジトなんてあんのかなぁ」
翼はとうとう捜索に飽きたのか、その場で大の字で寝転がった。
 「誰もが思いも寄せない場所にあるものですよね、アジトって。だから、こーゆー地味な場所とかよく探した方が良いですよ」
 「へぇ・・・。でもいくらなんでもゴミ箱の中にはないと思うよ」
私たちの向かった東側にはゴミ箱やゴミ袋が散乱していて、臭いが強烈だった。
 「いや、もしかしたら・・・という可能性も・・・」
ゴミ箱をあさりながら言うが、それらしきものは見つからない。
この繰り返しが何度続いたことか。

 「キャッ!」
突然後ろから体を引っ張られた。
 「イイ声出たねー! 驚いたでしょ?」
 「つ、翼さん!」
作戦中にこういうおふざけもありなのだろうか。
どちらにせよ、彼のそのおふざけは緊迫した空気を和ましてくれて、私としてはありがたかった。

 「ふぅー。そっちなんかあった?」
 「イヤー特にない」
俺と紫音は西側を捜索。
しかし、これといって手懸かりになりそうなものは特にない。
それにしても・・・この辺りにはたまに不良っぽい人達が座り込んでいる。
絡まれたくないので見つからないように移動しているが、そのせいで捜索できない場所も多い。


 「はぁーこんなとこに本当にいるのかなぁ」
紫音がため息をついた。
 「どうした、疲れたのか?」
 「だって3時間も探して手懸かりゼロだよ・・・ なんかないものを探してるようで虚しk―――」
 「わああああああああ!」
突如、目の前の曲がり角の向こうで叫び声がした。

建物の影に隠れて様子を伺うと、奥には二つの人影があった。
一人は恐怖でひきつりその場に座り込み、もう一人はそんな彼を見下す。
昔見たようた光景だった。
 「フフッ、バイバニラか・・・。ここの住民にしてはなかなかイイのを持ってるじゃねぇか」
 「ひっ、かかか返してくれ! そいつは俺の相棒なんだよ!」
 「ほぉ、大事な相棒か。ならば安心しろ、この俺が大事に使ってやる。戦いの道具としてな・・・」
座り込んでた人はその場で泣き崩れた。

 「あいつ、もしかしてD.Dじゃ?」
 「・・・・・・・・」
 「? 彰くん?」

遠くから紫音の声が聞こえる。
しかし、はっきりと聞こえない。
俺の体中が怒りで震えていた。
 「人の気も知らずに・・・平気でそんなことを・・・!」
 「え・・・?」
 「ゾロアーク、火炎放射!」
ゾロアークはモンスターボールから飛び出すと同時に灼熱の炎を放ち、その男を焼き払った。
 「あちちちち! 何だ、急に!?」

 「ちょ、彰くん!」
紫音はまだ影に隠れていたが、俺はその身を完全に明かしていた。
 「なんだテメー、いきなり攻撃をしかけやがって」
 「今すぐそのDボールを俺に渡せ。さもないと灰になるぞ」
そう言うと、D.Dの下っぱはプッと吹き出した。
 「ケハハハハ! 灰になるぞ(笑) 脅してるつもりかい坊や? 此処はテメーみてぇな糞ガキの来る場所じゃねぇんだよ!」
下っぱはそう言うと同時にDボールを投げつけ、中からバイバニラをだした。
 「行け、バイバニラ! 吹雪だ!」

 「・・・気合い玉」
バイバニラの放った冷気が寸前まで迫った瞬間、ゾロアークの姿が消えた。
次の瞬間、バイバニラに何処からともなく現れた気合い玉が命中し、それは悲鳴をあげながら後方へ吹き飛ばされた。
 「な、なに!?」
下っ端は慌てふためき、ゾロアークとバイバニラを交互に見た。

 「・・・ケッ、使えねぇ! こんなクズに期待して損した!」
下っぱはバイバニラの入ってたDボールを踏みつけ破壊したあと、今度はそのバイバニラの持ち主を睨み付けた。
 「ひっひいいいいいい!」
その持ち主はバイバニラをモンスターボールで捕まえると、その場から逃げ出した。

 「ケッ、満足したか? 坊主!」
下っ端はぶっきらぼうに言い放つ。
 「・・・そうだな。じゃ、次は灰になってもらおうか」
 「はぁ!? 何でだよ、バイバニラは返しただろ! まだ気が済まねぇのか!?」
 「コイツだけは・・・死ななきゃ駄目だ!!」
 「・・・お、おい、冷静になれ!」
 「ちょ、ちょっと彰くん遣りすぎじゃ・・・!」
紫音も敵に聞こえない程度の声で止めようとするが聞く耳を持たない。
 「ゾロアーク、火炎放射!」
ゾロアークは少しためらったが、口に炎を含んだ。

 「う、うわあああ!!」
ゾロアークの口から放たれた炎が下っ端に襲いかかった。
 「ッ!!」
紫音も思わず目を覆った。






 「アギルダー、まもる!」


ゾロアークの火炎放射が四方八方に飛び散った。
火が消えると、そこには結界に守られた下っ端がいた。
そしてその間に一匹のポケモン―――アギルダーがいた。
 「なっ!?」
 「・・・え?」
俺や紫音だけでなく、守られた下っ端自信も驚いていた。

 「お前なっついトレーナーやなぁ」
聞き覚えのある声が上から響いた。
 「んにしてもポケモン使って人殺しなんて、聞いたことあらへんわ」
 「・・・お前・・・・!」
その男はあの夜と同じように、そばの建物の3階から此方を見下ろしていた。
 「紅恋十魔・・・!」
 「こんな近い内にまた会えるなんて思うとらんかったわ。久々やな、彰!」
十魔はまた窓から飛び降り、俺の目の前で着地した。

 「あれが・・・D.Dの幹部? なんで此処に?」
紫音は困惑していた。
しかし、今の俺には構ってる暇などなかった。
 「そこにいるお嬢ちゃんも出ておいて。上から見ると丸見えやったぞ」
十魔は笑いながら言う。
 「う、バレた・・・」
紫音は一瞬ためらったが十魔達の前に姿を表した。

 「・・・なんで此処にいるんだよ」
 「へ?」
十魔はわざとらしく聞き返す。
 「なんでこんなとこにお前がいるんだよ・・・!」
 「そら決まっとるやろ、この街の何処かにわいらのアジトがあるからや」
 「!?」

彼は俺らがD.Dを潰そうとしていることに気付いていない。
だから簡単に明かした?
いや…だとしても普通そう簡単に自分らのアジトを明かすか?
 「紅恋様、それ言っちゃって良いんですか?」
同じ疑問を抱いたのか下っ端が恐る恐る訊く。
 「こんな坊っちゃん嬢ちゃんに話したところでわいらの計画に支障はないやろ。安心せぇ」
十魔はなめきった口調で下っ端の肩を叩く。

 「せや彰、この下っ端のこと許してもらえんかな? 部下が焼き殺されるってのは・・・まぁアレやし、何よりお前自信ポケモンにそんなことさせてなんとも思わんのか?」
十魔の問いに迷いなく答える。
 「残念だがその話には乗れねぇ。そいつは人のポケモンを奪った上にそれを使えねぇと言った。
これはトレーナーとしてもポケモンとしても許せない行為。俺もゾロアークも気持ちは同じ筈だ! だからそいつはブッ殺す!」
ゾロアークは此方を向き、此方に同意するように頷いた。
下っ端は一瞬身震いした。

 「はぁ・・・。どうやら見込み違いやったな・・・。ポケモンを利用して人殺しなんてトレーナーの道理以前に犯罪や」
 「犯罪組織の幹部が正義ぶんな・・・!」
十魔の目付きが変わった。
 「こりゃ、力ずくで止めるしかないわ・・・」

 「危ない、美音ちゃん!」
突然翼が私に覆い被ってきた。
同時に、彼の頭上で爆発音が響く。
翼はすぐさま私の手を引きながらその場を離れた。
数秒後、先程私たちがいた場所に瓦礫が降り注いだ。

 「・・・誰かが俺らの命を狙ってる。一端此処を離れよう」
 「殺・・・される?」
思いも寄らぬ発言に動揺する。
組織に入ってから命に関わるかもしれないということは覚悟していた。
しかし、実際その場面に直面することで予想していなかった恐怖が私の心を埋め尽くしてくる。

再びビルに攻撃が当たった。
砂埃や瓦礫が辺りに散乱する。

今になって命が惜しくなった。
 「やだ・・・死にたくない・・・」
声に出てしまった。
涙まで出てきた。
なんて情けないんだろう、私。
 「死なせねーよ」
翼が言う。
 「何処の馬の骨とも分からぬ野郎に殺されてたまるかよ・・・! 生きて帰るぞ、美音!」
彼は私の手を一層強く握った。

 「泣いても良いさ。誰だって死ぬのは怖い。特に女の子はそーでねーと可愛くない」
いつの間にか私は翼に抱き締められていた。
 「俺がお前を護るから。安心しろ」
その言葉は私にとってどれほど嬉しかったことか。
尚更涙が止まらなくなった。

「ありがとう」と言おうとしたとき、再び敵の攻撃がビルを襲った。
瓦礫や砂埃が頭上から迫る。
しかし、翼は逃げようとしない。
 「もう逃げない。このままじゃ同じことを繰り返すだけだ」
言い終えた途端、頭上で鈍い音が響いた。
まるで金属と金属が擦れあうような。

 「・・・エアームド、メタルブラスト」
私達を庇ってくれたのは翼のエアームドたった。
そして瓦礫がぶつかったというのに、その鋼の体には傷一つついていなかった。
そしてすぐに攻撃態勢に切り替える。
そのポケモンは鋼タイプ最強の技といっても過言ではないメタルブラストを前方に放った。

エアームドの放ったメタルブラストはビルとビルの間を駆け巡り、遠くで何かに当たって砕け散った。
 「さっき攻撃が飛んできた方向にメタルブラストを撃ったが、見事に命中したな」

翼は私を連れ、メタルブラストが通過した砂埃の舞う細道を暫く歩くと、声を張り上げた。
 「おい、ちょこまかと攻撃してねーで姿を見せたらどうだ?」
 「・・・・・ククク! よくぞ見抜きましたね、と誉めておきましょうか」
その老人に近い人の声は意外と近距離にあった。

砂埃が晴れると、目の前には白髪頭の老人一人とポケモンらしき影が一匹いた。
 「誰だ?」
 「私はD.Dの研究長、兼幹部の湯狩 堅五郎(ゆかり けんごろう)。侵入者である貴方達を排除するため、此処へ来ました」
 「・・・侵入者?」
 「そうとも・・・貴方達は我らD.Dのアジト、ブラックシティに侵入したのです。よって、排除させて頂きます」
さすがの翼も、そして私も驚いた。
私達はいつの間にかアジトに足を踏み入れていた。
いや、もしかしたらこの街全体がアジトなのかもしれない。

気がつくと、いつの間にか周囲を下っ端で囲まれていた。
 「・・・美音ちゃん、俺があのジジィをやる。君は周りの雑魚どもを・・・・・出来るか?」
 「・・・分かりました」

 「・・!西の方が騒がしいな。まさか何かあったのか?」
四天王こと山田裕貴は現在ブラックシティ北側に聳え立つ、黒の摩天楼付近にいた。
 「おい、いたか?」
 「いや、見つからねぇ」
 「まだ近くにいるはずだ!」
しかし、彼はD.Dの下っ端に追われていた。

 「D.Dの連中がこんな人口の少ない場所にたくさんいるってことは、近くにアジトがあるのは間違いないな。
ならもう十分だろ。撤退信号出せ、フワライド!」
裕貴はモンスターボールからフワライドを出した。




 「西側が騒がしい・・・。まさか美音達に何かあったんじゃ・・・」
紫音は心配していた。
しかし、今の俺はそんな心配している場合ではなかった。
 「力尽く? 俺とバトルするつもりか?」
 「せやで。大人しく言うことを聞いていれば、何もせずに済んだものの・・・。
お前達、自分が今どんな立場に立たされているか分かっとるんか?」
 「・・・・?」
 「侵入者や、侵入者。お前達はわいらD.Dのアジト、ブラックシティへ踏み込んだ侵入者という立場なんやで?」

 「ブラックシティがアジト?」
この広大な都市そのものがアジト・・・。
確かに人口が少ないわりに大量のビルや空の摩天楼といった大都市的な雰囲気を出していたのは気になっていた。
それらがD.Dのアジトであるとすれば納得できる。
何しろ隊員は300人を越えるのだから。

 「知ってもーたからにはお前らを此処から逃がすわけにはいかへん。あるポケモンの力を使こうて記憶を抹消させてもらうで。
しかも、消すのはその時の記憶だけでなく、それまで生きてきた記憶を丸ごと。
こうすれば、持っているポケモン全て奪われても別れが惜しくないやろ?」
俺の頭が爆発しそうになった。
心の奥底から怒りが込み上げ、言葉も出なかった。

 「・・・酷い」
紫音が震えながら言う。
 「記憶が無きゃ悲しむ理由もあらへんやろ。出来る限り心の痛みを和らげよう努力しとるんやわいらは」
俺の堪忍袋が限界まで膨らんだ。
 「お前らのその腐ったエゴ、ぶっ潰してやる・・・!! どっからでもかかってこい・・・!」
 「ずいぶん熱くなっとるな。ま、相手したれ、アギルダー」
ゾロアーク、アギルダーはお互い睨み合った。

 「・・・繋がらないわね」
アラララギはため息をついた。
彼女は裕貴達が行ったあと、ずっと彼らと連絡を取ろうとしていた。
しかし、一向に無線通信が繋がらなかった。

 「これじゃ帰還命令も出せないわね・・・。一応美鈴達には連絡できるから、彼女達に知らせにいってもらうことは出来るけど、時間がかかるわ。さて、どうしましょうか」
 「でも、一つだけ分かったことがあるじゃないっすか」
そう言ったのは玲音。
 「無線が通じないってことは、通信遮断施設か何かがあるってことですよね」
 「・・・そうね。ブラックシティがD.Dと何かしら関係あるってのは間違いなさそうね」
博士はそう言いながら美鈴と通信した。

 「聞こえる、美鈴?」
 『聞こえてます』
 「何か異常はなかった?」
 『今のところ、2件だけ事件が起きてます。D.Dにポケモンが奪われるという事件が。
まぁ、我々でなんとか対処しましたけどね』
 「そう。次に事件が起きたら、今度は何もせずに奪われたポケモンが何処へ行くのか見ててくれる?」
 『了解しました』
博士は通信を切った。

 「どうしたの?」
茜が元気無さそうなので声をかけてみた。
 「南さん・・・」
 「皆が心配?」
 「・・・はい」
彼女の隣に座った。
震えが此方にまで伝わってくる。

 「大丈夫よ、特にブラックシティ組はあの二人()がいるから」
彰と翼のことだ。
とはいえ、ポケモン一匹しかいない今の彰はあまり頼りなく、使えるのは翼くらいか。
 「翼はいつもあんなふざけてるけど、真面目になるとほんと怖いんだから」
怖い、というのはその性格の変化が恐ろしいという意味で言った。
まるで別人のように変わるんだ、あいつ。
それもまた利用価try

 「でも、貴女が一番心配なのは龍騎君でしょ」
 「え? はい、まぁ・・・」
昨夜一睡もしてないとかいう話は玲音から聞いた。
茜は恐らく自分にも責任があると感じてしまっているだろう。
 「ま、ジムリーダーがそばにいてくれてるんだから、大丈夫だよきっと」
 「だといいんですケド・・・」

第五話【戦闘】



 「ゾロアーク、火炎放射!」
 「さざめけ、アギルダー!」
二人の声が重なった。
しかし、先に動き出したのはアギルダーだった。
アギルダーの虫のさざめきがゾロアークの鼓膜を襲った。

 「まずい、相性が悪いわ」
紫音が言う。
 「だが、ゾロアークは必ず一撃じゃ倒れない」
彼の言う通り、アギルダーがさざめきを終えたあと、ゾロアークは動き出した。
 「気合いの襷を持ってるからな!」
そして、ゾロアークの放った炎がアギルダーを飲み込んだ。

 「あーあ、良く見たら肩に襷巻いとるやん。もっと速く気付けば良かった。まぁ、どちらにせよこんな奪ったポケモンじゃ勝つのは無理か」
十魔はアギルダーをDボールに収めると、それを下っ端の方に投げた。
 「それいらんからやるわ」
 「マジっすか、ありがとうございます!」
その嬉しそうな下っぱの顔、思いっきり殴りたかった。
そして、十魔は次にDボールではなく、モンスターボールを取り出した。

 「フツーのモンスターボール・・・? 自分のポケモンか?」
 「せや。やっぱ盗んだポケモンなんかより、自分のポケモンが一番やな!」
十魔はそのモンスターボールを上に放り投げた。
馴染みのある電子音と共にモンスターボールが割れ、中から黄金の光を放つポケモンが現れた。
その名はキュウコン。
フィールドに立つと同時に大きな雄叫びをあげ、自らが放つ黄金の輝きを発散させつつ消滅させた。
同時に、雲がキュウコンを軸にして円を描くように割れ、そこから太陽の光が降り注いだ。
 「キュウコンの特性、日照りや」
十魔がニヤニヤしながら言う。
この笑みからは何やら嫌な予感を感じた。


 「待って彰くん、まさかそのまま戦いを続ける気!?」
横から紫音が訊く。
 「当然」
 「そんなの駄目よ、ゾロアーク一匹であいつに勝てるわけないじゃない!」
 「だが、このまま引き下がるわけにはいかない。俺はゾロアークを信じr」
 「いや、貴方はもう戦わないで! このバトル、私が受け継ぐわ」
紫園はバッグからモンスターボールを取り出し、構えた。
彼女はヤル気満々であった。

 「ン? なんや、彰はゾロアーク一匹しか持っとらんのか? そりゃつまらんわな。
じゃ、お嬢ちゃん相手頼む。もちろんさっきの条件は取り消せんけど」
さっきの条件・・・負けたら記憶を消され、全てのポケモンが奪われる。
それは覚悟していた。
しかし、いざ対面してみるとやはり頭に不安がよぎる。

 「・・・確かに敵の幹部相手にゾロアーク一匹で挑むのは無謀すぎる。すまなかった。
このバトル、後は任せる。だが絶対に負けるなよ」
彰が私の肩押してくれた。
 「うん、任せて!」
少し元気が出た。でも、やっぱり少し怖い。

 「6vs6のフルバトルといきたいとこやが、わいとしてはあんまり時間かけたくないんや。持ってるポケモン全て晒すのもあまり好ましくないし。
だから、3vs3でええかな?」
此方としてもあまり時間をかけたくなかった。
先ほど、どさくさに紛れ裕貴が撤退信号を出したのが見えたからだ。
彰はバトルに集中して気付かなかったのだろうけど、私もこのまま見て見ぬフリしている訳にもいかない。
 「構わないわ」

 「行け、コジョンド!」
私の振り上げたモンスターボールからはコジョンドが出てきた。
 「へぇ、コジョンドねぇ・・・。いい目付きしとるやないか」
そう言いながらも十魔は余裕の表情だ。
あのキュウコンにどれほど自信があるのか。

 「ほな、始めるでぇ。キュウコン、大文字や!」
大文字と言えば、炎タイプの技の中ではかなり威力の高い技だ。
おまけに晴れ状態の今、炎タイプの技の威力は大幅に上がる。
このまま大文字を喰らえば、コジョンドは一撃で倒れかねない。

 「だったら技を撃たれる前に倒せば良いのよ! コジョンド、ストーンエッジ!」
キュウコンが大文字を放射する前に、コジョンドが動き出した。

 コジョンドのストーンエッジがキュウコンの懐に食い込んだ。
どうやら急所に当たったらしい。
結果、キュウコンは大文字を放射する前に地面に倒れ、戦闘不能状態になった。
 「わお・・・。一撃とは中々やるな、嬢ちゃん」
十魔はキュウコンをモンスターボールに戻しながら言った。

 「・・・すごいな」
彰が横から感嘆をあげる。
 「コジョンドは素早さも攻撃力も高いからね。私のエースアタッカーなのよ」
とはいえ、二匹目のポケモンでは必ず相手は弱点を突いてくる。
これを乗りきれるかどうか・・・。

 「ほないくでー! 出てこい、バシャーモ!」
次に十魔が出したポケモンはバシャーモ。
コジョンドと、同じ格闘タイプを持っていた。

 「バシャーモか・・・。ストーンエッジじゃ倒せないわね。なら・・・コジョンド、アクロバット!」
コジョンドは両側にある二つのビルを使って高く跳んだ。
日照りによって強まった日差しがコジョンドの体を照らした。
そして、そこから一気に急降下し、バシャーモを狙う。
 「バシャーモ、守るや」
という十魔の冷静な指示。
バシャーモの周りに突如結界が張られ、コジョンドはそれに弾き返された。

 「・・・そう来るのね。でも、守るはそう何度も使えないはず! もう一度アクロバット!」
コジョンドは再び高く跳び、バシャーモに空襲を仕掛けようとする。
 「ヘヘッ、逃がさへんで。バシャーモ、フレアドライブや!」
バシャーモもコジョンドと同じようにビルを使って高く登り、そのコジョンドに後ろから攻撃しようとする。

 「コジョンド、後ろ!」
私の声に気付いたコジョンドは後ろを確認する暇もなく横に体を反らし、炎を纏ったポケモンの突進をかわした。
しかし、バシャーモは攻撃をかわされて尚、コジョンドを追撃する。

バシャーモの素早さが徐々に上がっている。
それはその場にいる誰もが確信した。
 「何であんなに速いの・・・!?」
 「おや、知らんのか? ありゃ、バシャーモの特性『加速』や」
その名の通り、バシャーモはどんどん加速し、いずれはコジョンドに追い付きそうだ。

 「そういえば加速バシャーモって聞いた事がある・・・。とにかく、此処は一旦――――」
 「クジョッ!」
コジョンドをモンスターボールに戻そうと考えた瞬間、そのコジョンドの悲鳴が聞こえた。
上を見ると、炎の塊がコジョンドを後ろから襲撃している瞬間が目に入った。
バシャーモのフレアドライブが命中してしまったのだ。

太陽の日差しにより水分を失われ、その上からフレアドライブを被せられれば、耐久力のないコジョンドは流石に耐え切れない。
一撃で戦闘不能となった。
 「うっ・・・・。ごめん、コジョンド」
コジョンドをモンスターボールに戻しながら言った。
 「これで数は互角やな」
十魔が余裕の表情を見せた。

 「出てきて、チルタリス!」
 「ルリィ!」
私が次に出したのはチルタリス。それもただのチルタリスではない。
通常のチルタリスなら持っていない特性『ノー天気』を持つチルタリスだ。

 「ん? あのチルタリス、ノー天気か?」
十魔が空を見上げながら呟いた。
その空は先ほどあった日射しが雲に飲み込まれ、薄暗い空に戻っていた。
そう、特性ノー天気はその名の通り、天気の影響を無くす特性なのだ。

 「対天気PT用のポケモンが一匹いるのよね。これで炎タイプの技の威力は上がらないわ」
 「へぇ、中々やりおるな」
そう言いながらもまだ余裕の表情を見せる十魔。
恐らく彼はこのチルタリスすらも読んでいたのだろう。
というより、バシャーモが苦手とする飛行タイプ対策の技があるのかもしれない。


ブラックシティ西側・・・。


 「おい、こんなガキ一人に何てこずってんだお前ら!」
 「そんなこと言ってる暇があったら攻撃しろよ!!」
 「おい、仲間割れはよせ!」
 「あうあうあー(^q^)」
私の周りにいるD.Dのメンバーはほぼ半分以上手持ちを失った。
まぁ彼らは手持ちがもともと1~2匹しかなく、それも他人から奪ったポケモンだというので大したことはなかった。

 「ミロカロス、もう一度波乗りです」
 「ロォォ・・・」
私の体を覆うようにとぐろを巻いていたミロカロスは体を持ち上げ、天に向かって吠えた。
 「ロオオォォォォォォ!」
 「ま、まずい、またあれが来る!」
下っ端の一人が慌てるが、もう遅い。
私とミロカロスの周りから大量の海水があふれ、私を囲っていた下っぱ達を襲った。
当然彼らの持つポケモンもダメージを受け、今のでまた半分以上戦闘不能状態になった。

 「お、おい、まだ戦える奴は?」
 「あ、あと3人だ・・・」
 「15人もいたのにもうこれだけか!?」
 「なんだよあのポケモン、化けもんか?」
 「ポケモンじゃなくてバケモンwwwwww」
 「笑い事じゃない!」
D.Dは随分と仲間割れの激しい組織だと分かった。
しかし、そんなことより・・・
 「翼さん、無事でしょうか・・・」
翼のいる方向を見ながらそう呟いた。




ブラックシティ北西・・・。


 「・・・記憶を消すだと?」
D.Dの研究長と名乗る、湯狩が口にした言葉をオウム返しした。
 「そうですとも。貴方方侵入者は捕まったら最後、記憶を消されると同時に持っているポケモンを全て奪われる運命なのです」
確かに記憶を消されればポケモンを奪われても、悲しみや憎しみは沸かない。
まさに一人と一匹の間の運命を完全に断ち切られる。
しかし・・・・これは第三者から見ればあまりにも残酷すぎる。
これがD.Dの遣り方・・・!

 「さて、それはさておき、今からバトルを始めましょう」
突然湯狩が提案する。
 「私が勝てば貴方とお嬢さんの記憶とポケモンは私の手に、貴方が勝てば貴方もお嬢さんも見逃してあげます。
どうです、この方が貴方にとっても私にとっても手っ取り早いと思いません?」
 「・・・なるほどね。そりゃ手っ取り早いな。良いだろう、受けて立つ!」
 「ホホホ、そうこなくては。これで試作人工ポケモンのテストが出来る・・・」
湯狩のだて眼鏡が光る。

 「必ずや勝って見せる、このバトル。俺と美音ちゃんの運命がかかってるんだから・・・! 頼んだぞ、エアームド」
 「キキキィィィィィ!」
そばにいるエアームドに声をかけると、元気良く返事をした。

 「宜しくお願いしますよ、ポリゴンZ」
 「ターゲットホソク。セントウジュンビ」
ポリゴンZと呼ばれたポケモンは初めからモンスターボールの外に出ていた。
つまり、先程俺達を襲ったのはこいつだろう。
遠距離戦の不得意なエアームドにとって、こいつは厄介な相手そうだった。

 「エアームド、メタルブラスト!」
エアームドは翼を折り畳み、そこに鋼の力を溜める。
 「ポリゴンZ、放電です!」
 「デンゲキシュツリョク30・・・65・・・100・・・」
ポリゴンZの体がばらばらになり、3つの水色の腕と、赤水色のしましま胴体に電気が迸る。

 「ホウデンカイシ」
エアームドがメタルブラストを放出するより先に、ポリゴンZが放電し、エアームドの体に大量の電気が流れた。
効果は抜群だ。
そして攻撃が終わると同時にエアームドは溜めていた力を解放し、巨大な鋼色の球体、メタルブラストを放つ。
ポリゴンZの体の至る部位が蹴散らされ、ネジが2~3個落ちた。
しかし、そのくらいでポリゴンZの様子に変化は見られなかった。

 「ポリゴンZ、放電!」
 「ホウデンカイシ」
ポリゴンZの体から出た電撃がエアームドに襲いかかった。
 「キキキィィィィィィ!?」
この一撃でエアームドは倒れた。
やはり特殊攻撃には弱い。

 「戻って休め、エアームド。
行け、ゴウカザル!」
 「ウッキャア!」
俺が次に出したのはゴウカザル。
ノーマルタイプのポリゴンZには相性が良いポケモン。

 「ゴウカザルと来ましたか・・・。厄介ですねぇ。ですが、一撃で葬り去れば問題はありません!
ポリゴンZ、破壊光線!」
 「ハカイコウセンハッシャジュンビ。シュツリョク11・・・33・・・55・・・」
ポリゴンZの各腕から凄まじいエネルギーが胴に向かって放出されると、それは溜められ徐々に大きさを増していく。

 「させるか! ゴウカザル、インファイト!」
ゴウカザルの連撃がチャージ中のポリゴンZの胴を襲った。
胴は簡単に後方へ吹っ飛び、破壊光線を中断させてしまった。
 「ボディパーツ5ソンショウ。ヒンシモードヘイコウ」
ポリゴンZの体が各部位が地面に落ち、動かなくなった。


ブラックシティ東側・・・。


 「バシャーモ、ストーンエッジ!」
やはりバシャーモは対飛行用技を覚えていた。
しかし、耐久力のあるチルタリスはそれをなんとか耐え凌いだ。

 「よし! チルタリス、コットンガード!」
チルタリスの周りに大量の雲が集まり、それらはチルタリスの防御力を大幅に上げた。
コットンガードは数ある防御上昇技の中でも最大の上昇効果を持つ技だ。

 「コットンガードか、厄介やな。だが、次のストーンエッジにも耐えられるか? 行け、ストーンエッジ!」
バシャーモはもう一度尖った岩を大量に飛ばす。
しかし、それらはほとんどチルタリスの雲の中に吸い込まれ、チルタリス自信はほぼダメージを受けてなかった。

 「なんやて!?」
さすがの十魔もこれは予想外だったようだ。
 「よし、次は羽休め!」
チルタリスは雲を吸収し大きくなった羽を地面に下ろし、回復する。
この状況で回復されれば、さすがの十魔も焦るだろう。

 「ハハハハハッ! 中々遣りおるな、お嬢ちゃん! いや、もう姉ちゃんか」
十魔は焦ってなかった。むしろ楽しんでいた。この状況で。
 「天候を完全に封じた上に鉄壁を上回る防御上昇、そして回復技。完全にわいの晴れPTをロックするとは・・・!
此処まで追い詰められたのは久しぶりや!」
彼はD.Dの任務を遂行するより、純粋にバトルを楽しんでいる。
そんな気がした。いや、間違いないだろう。

 「私も強い相手と戦うのは好きよ。もっと楽しませてよ」
この勝負に私と彰の運命がかかってなかったらもっと楽しかっただろうに。
 「こら燃えてきたわ。戻れ、バシャーモ」
バシャーモをボールに戻した十魔は、また別のモンスターボールを取り出した。
 「行ってこい、ナッシー」
相手が次に出したのはナッシー・・・。
炎タイプではないが特性『葉緑素』によって晴れの恩恵を受けている。
だが、それだけではチルタリスを倒すことは出来ない筈。
なのに彼のあの余裕の表情はいったいなんなんだろうか。

 「ほないくで、眠り粉や!」
ナッシーの草から撒かれた粉が辺りに散り、チルタリスの回りを覆う。
 「まずい! チルタリス、逃げて!」
しかし、もう遅かった。
チルタリスは目を瞑り、体を動かさない。完全に寝てしまった。

 「遣られた・・・!」
 「これで動きは封じた・・・。ナッシー、目覚めるパワーや!」
ナッシーの周りに光の球体がいくつか集まった。
それはやがて氷の塊に変わり、チルタリスに襲いかかる。
 「氷タイプ!?」
 「そうや。チルタリスには相性最悪やな」
さっきの自信はこれだったんだ・・・。

チルタリスは技を喰らうと一瞬目を開けたが、やがてまた眠りにつく。
 「起きて、チルタリス!」
私の必死な声も、チルタリスには届いていない。
 「無駄やな。ほなもういっちょ、目覚めるパワー!」
ナッシーの目覚めるパワーがチルタリスに襲いかかった。

 「チルタリス・・・!」
チルタリスが戦闘不能になり、再び日射しが強くなった。
 「形勢逆転やな・・・!」
十魔がニヤリと笑った。
 「・・・! チルタリス、戻って」
チルタリスをモンスターボールに戻し、次なる別のモンスターボールを手にする。
その手は震えていた。

 「・・・お願い、ウルガモス!」
私の最後のポケモン・・・それはウルガモス。
私が持っているポケモンの中で相手の晴れの恩恵を受けられるのはこのウルガモスだけだった。
 「へぇ、最後まで炎タイプのポケモンを隠し持ってたか。しかもそりゃナッシーにとって相性最悪のポケモンやな・・・」
彼の言う通り、ウルガモスの前ではナッシーなど敵ではない。
次なるバシャーモも、ウルガモスのサイコキネシスで倒せる自信がある。
 「この勝負、もらった・・・!」


ブラックシティ西側・・・。


 「では次のポケモンを・・・。行きなさい、ラムパルド」
湯狩が出した次のポケモンはラムパルド。
伝説級のポケモンを除けば攻撃力最大のポケモン。
しかし、素早さは圧倒的に低いはずだ。
ゴウカザルが先行一撃で倒せれば楽なのだが・・・。

 「では始めますよ。ラムパルド、諸刃の頭突き」
 「こっちはインファイトだ」
いくら岩タイプ最強の技諸刃の頭突きとはいえ、一撃で倒されればなんの意味もない。
――――と思い込んでいたのが仇になった。
ラムパルドは遅くなかった。
むしろ超高速でゴウカザルに迫ってきた。
その鉄のように硬い頭を向けながら。

しかし、その頭は狙いより少しずれていた。
そのため、ゴウカザルは軽々とその技をかわした。
 「・・・なんだったんだ?」
そのとき、一瞬湯狩が舌打ちしたような気がした。

そしてゴウカザルのインファイトがラムパルドに叩き込まれ、大恐竜はその一撃でその場に倒れた。
 「むむ・・・スピード重視しすぎて体のバランスがおかしくなったのでしょうか? とにかく改良せねば。ラムパルド、戻りなさい」
ラムパルドは湯狩のモンスターボールに吸い込まれた。


 「さて、次のポケモンが私にとってメインの試作品・・・。
果たしてどれほどの性能を発揮してくれるか楽しみですね。
行きなさい、 オルディナ
彼の最後のポケモン、オルディナは先程のラムパルドの1/10程の大きさ。
見た目はかなり貧弱そうだった。
あの体の何処に力が秘められているのだか・・・。


 「それでは・・・! オルディナ、サイコバーンです!」
オルディナの目の前に念力が収集され、塊ができる。
力を溜めているのだ。
 「まずい、フレアドライブだ!」
ゴウカザルは体に炎を纏いつつオルディナに激突。
しかし、オルディナはまだチャージを止めなかった。

 「クソッ、耐えたか!」
 「ククク・・・・! 発射です!」
オルディナの溜めたエネルギー体が弾け、ゴウカザルに向けて七色に輝くビームが発射された。

 「イ・・・イタイヨ・・・」
サイコバーンを撃つ直前、オルディナが呻いた。
 「・・・? どうしたのです?」
 「カラダガイタイヨ・・・・モウタタカイタクナイヨ・・・」
その声は震えていた。
その後、発射されたサイコバーンはゴウカザルにぶつかる直前に突如消滅してしまった。

 「・・・チッ、これも失敗か・・・。結構自信があったのですがねぇ・・・」
 「オジイチャン、モトニモドシテ・・・」
幼い少女の声・・・これは本当にポケモンなのか?
見た目は人間に程遠いが・・・。

 「・・・仕方ない。戻りなさい、オルディナ。
      • 翼さん、貴方の勝ちです。増援が来ないうちに帰りなさい。先程の女の子も連れて」
んで湯狩はこちらに背中を向け、その場から立ち去ろうとした。
女の子・・・美音のことか。
彼女なら大丈夫だろう、少なくとも下っ端ごときには負けない。
それよりも気になることがいくつかあった。

 「なぁ、あんたのポケモンはなんだったんだ? オルディナって奴はポリゴンZとは違って会話をしてたし、なんか苦しんでた・・・。ラムパルドのあのスピードも気になる。お前、あいつらに何をしたんだ?」
特に気になるのがオルディナ。
そのポケモンの存在自体今まで知らなかったため、どんな力を持ってるのか全く知らない。

湯狩は立ち止まってから言った。
 「おや? 最初に言いませんでしたっけ? 人工ポケモンのテストと・・・」
 「人工ポケモン?」
 「そうです。ポリゴンZやオルディナは我々人間の手によって産み出されたポケモン。ラムパルドも化石を少し弄ってから復元したため、ある意味人工ポケモンと言えますね」
つまり、ラムパルドは素早さを特化するよう化石を加工してから元の体に復元したのだろう。

 「ポリゴンZは知ってる。ラムパルドも理解した。だが、オルディナなんて聞いたことないぞ。それに、ポリゴンZとは違ってあいつの声には人間っぽい感情が籠ってた。何故だ?」
 「そりゃ当然でしょう。あれはもともと人間だったのだから」
薄々そう気付いてた。しかし、所有者に事実を突き付けられても尚信じる気が起きない。

 「人間をポケモンに改造・・・? そんなことが・・・!」
 「さて、これ以上貴方にお話しできることはもうありません。速くしないと増援が来ますよ。速く帰りなさい」
まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、確かにもうこれ以上は此処にいられない。
先程撤退命令が出てたのだから。
 「まだ聞きたいことがあるそうですね。なら、TWCRに出場しなさい。そこで貴方を待ってますよ。翼さん」
湯狩は再び足を動かした。
 「あ、待て!」
そのとき既に湯狩は暗闇の中へ消えていた。
 「・・・あいつ、俺の名前知ってた。何故・・・?
うっ・・・!」
突然頭に苦痛が走る。
まるで失われていた記憶が戻るような・・・
脳味噌がひっくり返されるような痛みが・・・。


ブラックシティ東側・・・・・。


 「あーあ、ナッシーは瞬殺されるか。ま、相性的に不利やから仕方ないか。戻れ、ナッシー」
ウルガモスの虫のさざめきによってナッシーは一撃で遣られた。
とはいえ、葉緑素によって素早さの上がったナッシーに先行だけは譲られ、サイコキネシスを撃たれた。
ダメージは少なかったものの、気合いの襷は効果を発動出来なくなってしまった。

 「よーし、これが最後や。行け、バシャーモ!」
彼が最後に出したバシャーモ。
これをウルガモスのサイコキネシス一撃で倒せれば襷が潰された意味もなくなる。
先程の加速した分のスピードもモンスターボールによってデフォルトに戻ったはず。よって先制出来る。
 「これで・・・お終いよ! ウルガモス、サイコキネシス!」
 「ヒュイィィィィィップ」
ウルガモスの念波がバシャーモに迫る。

 「バシャーモ、守るや」
バシャーモの目の前に結界が現れ、ウルガモスのサイコキネシスから身を守った。
 「・・・え?」
その間、バシャーモの足の炎は徐々に大きくなっていた。
 「ヤバい・・・!」

 「残念やったな、お嬢ちゃん。悪いがこれで今度こそ終わりや。バシャーモ、ストーンエッジ!」
バシャーモの身の回りに浮いた岩がバシャーモに襲いかかる。
 「ウルガモス!」
岩タイプの技はウルガモスにとって相性最悪。
襷も先程の潰されたので、これを喰らえば一撃で遣られてもおかしくはない。

しかし、危機一髪だった。
ウルガモスは迫り来る岩を全てかわした。
これで攻撃の隙が出来た。
 「今よ、サイコキネシス!」
ウルガモスの念波は今度こそバシャーモを捕らえ、宙に浮かす。
バシャーモはウルガモスの思うがままに操作された後、突然急降下して地面に叩きつけられた。
 「・・・チッ、負けたか」
バシャーモは戦闘不能。勝負はついた。

 「・・・危なかった。もしストーンエッジが当たってたら・・・」
私達は記憶とポケモンを失っていた。
そう考えると、この勝負は本当に私の勝ちなのだろうか。
たまたま運が良かっただけじゃ・・・。

 「お疲れ、紫音」
突然肩を叩かれて我に帰る。
肩を叩いたのは彰だった。
 「・・・うん、ありがとう」

 「姉ちゃん、紫音ってゆーのか。ええ名前や」
バシャーモをボールに戻した後、十魔が言う。
先程の彰の言葉を盗み聞きしたのだろう。
 「わいは紅恋十魔や。ま、宜しく頼むわ」
その名は知っていたが、彼からすれば私は初対面だから仕方ない。
 「あーあ、久々に負けてもーたわ。この借はいつか返したるからな」
 「此方としても中途半端な勝利は御免よ。いつか完全なる勝利をしてみせるわ」
 「・・・ほぉ、ならTWCRっつー大会に参加せぇ。全国の屈強者共が集まる大会や。そこで決着をつけようやないか」
その大会はアラララギ博士が口にしてた名だ。
彼女の言ってた通り、D.Dはこの大会を狙ってるようだ。
 「えぇ、望むところよ」
望む望まないに関わらず、結局大会には参加する運命。
私はいずれまたこの男と戦うときが来るだろうと確信した。

 「さて、んじゃ最初の条件の通り、今回は見逃したる。こっから北の方向に向かえば出口やから、はよ逃げな」
彼はそう言って此方に背を向けた。
 「待てよ」
そう言ったのは彰だ。
 「ん、何や?」
十魔は足を止めた。
 「あの下っ端は何処行った?」
そういえばいつの間にかいない。
バトルに集中していて気付かなかった。
 「あぁ、悪い。いつの間にか逃げたしおってたわ。お詫びと言っちゃ難やが、ええ情報教えたる。TWCRにはあいつも参加するで。
お前から全てを奪った、あの男や・・・」
私にはその会話の内容がさっぱり分からなかった。
しかし、一つだけ分かったことがある。
それは、彰がその男を恐れているということ。
彼は震えていた。

第二章【TWCR始動】


第五話【予選開始】



 「そう・・・それは危なかったわね。そんな危険な所にあの子達を行かせちゃったのね、私・・・」
アラララギ博士は落ち込んだように言う。
 「まさか街全体が占領されてるだなんて誰も予想しないさ。仕方ないよ」
裕貴が彼女を励ます。
 「そうそう。それに結果的には皆無事帰ってこれたんだし良かったじゃん。アジトの場所も突き止められたし」
翼が呑気そうに言う。
そんな彼に対し奮起する者が出るであろうという予想は現実となった。

 「無事だなんてよく言うわ、美音は気失ってたのに。まさかあんたが何かしたんじゃないでしょうね?」
紫音が鋭い目付きで翼を睨む。
 「気失ってたというか、疲れて寝込んじゃってただけだよ。そして俺は何もしてない」
 「美音を背負ってニヤつきながら俺らの前に現れた癖に」
 「あ、彰それは・・・!」
その場にいた全員が翼から離れた。
 「翼君・・・」
 「サイテー」
 「お前そーゆー奴だったのか」
 「この年頃は仕方ないよ」
つきさっきまでハイテンションだった翼は急激に沈んでしまった。

 「まぁその話は置いといて、今日あった出来事をもう一度最初から最後まで話してくれるかしら? 話を整理したいの」
と、アラララギ。
 「はい。まず僕達は3チームに別れ、ブラックシティの北側、東側、西側をそれぞれ探索しました。
北側へ向かった自分は黒の摩天楼付近で大勢の下っ端に見つかり、逃走。
振り切るのは容易でしたが、後の2チームが心配だったので撤退信号を出しました。
一応、下っ端があんなに溜まってた時点でアジトが近くにあるのは確定しましたしね。
しかし、彼らが中々ブラックシティのゲートに来ないので、最初に西側を探しにいったら丁度翼が美音を背負って東へ向かってるところでした。
僕も彼らに合流して東へ向かったら残りの二人がいた。そして、ここへ戻ってきました」

裕貴が言い終えると、次にアラララギは翼を見た。
 「じゃあ翼君、西側で何があったか教えてくれる?」
 「はい。西側で・・・・まずアジトの入り口がないかどうか探してたら、突然遠距離攻撃による奇襲を受けました。
暫くその遠距離攻撃を受け続け、最終的に反撃し・・・。
俺はその攻撃を仕掛けてきた本人、D.D幹部かつ研究長の湯狩堅五郎と戦闘。
美音ちゃんは周りにいた下っ端共を排除してくれて・・・。
まぁなんとかお互い勝利し、逃げ切れましたね」
 「ふむふむ・・・なるほど」
アラララギは暫く黙りこんだ後、今度は此方を見た。

 「俺ですね。俺らも最初はフツーにアジト探索してたら
突然近くで叫び声がして、声が聞こえた方に行くと、俺ら以外のブラックシティに入り込んでしまった一般人が下っ端に遣られてた。
俺はそいつを助けようと下っ端とバトルして勝利。
一般人は助かったものの、その後先日博士もみたあの紅恋十魔が現れて・・・。
十魔は俺にバトルを申し込んだが俺の手持ちはゾロアークたけだったんで、紫音に交代してもらいました。
負けたら俺らの記憶とポケモンを奪われるという命懸けの勝負に、紫音はギリギリで勝利。
そんで、今に至るという訳です」
話を終えると、博士はまた暫く黙りこんだ。
 「・・・記憶を奪われるって?」
 「うーん、なんかブラックシティに来たという記憶と一緒にそれまで生きてきた全ての記憶を抹消し、ポケモンを奪うって言ってました」
 「・・・なるほどね」

 「美鈴、D.Dが奪ったポケモンの入ったDボールはどの方向に運ばれてった?」
 「ブラックシティ方面です」
 「そう・・・。やはり、ブラックシティにアジトがあるってことは間違いなさそうね。さて、ならどう攻めようかしら」
博士が暫く唸った後、裕貴が口を開く。
 「取り敢えず、今日はお開きにしません? 自分も彼らも偵察で疲れて休みたいし、明日話しても良いでしょう」
 「そうね。でも美音はどうしましょう? まだ寝てて起きないのよね・・・」
彼女は此方へ戻ってきてから、まだ一度も目を覚ましておらず、一回のソファで横になっていた。

 「また背負ってくかい、君?」
裕貴が翼を茶化すように言う。
 「い、いや、もう俺は勘弁っす!」
と、焦る翼。
 「てか私がさせないんだから。美音は私が背負っていきます」
紫音が進んで前に出た。
 「女の子一人で大丈夫か?」
 「大丈夫です。子供の頃、何度もおんぶしたんで」
 「じゃ、決まりね。今日はこれにて解散。次の会議は決まり次第Dギアで連絡するわ。お疲れ様」


いつもの帰り道・・・。
 「あー疲れたあ」
翼が昨日と同じように俺にもたれかかる。
 「あーもう重いっつーの!」
 「ぐはぁ!」
突き放すと今度は龍騎の首に腕を回す。
 「龍騎先輩疲れました」
 「ははは、お疲れ」
龍騎は苦笑しながらも翼の肩を叩く。
突き放さないとは中々やる。


 「紫音お前大丈夫か? 此処からシッポウシティまで相当な距離あるだろ」
紫音は辛そうに答える。
 「うーん、大丈夫大丈夫。このくらい・・・! ってかこの子いつの間にかこんな重くなったのね」
 「そりゃ子供の頃おんぶしたことある程度だから重くなるわ」
玲音の冷静な発言。
 「はぁー、そうよね。そういえばこの子、子供の頃は転んだだけですぐ泣いて、そのたびに私が背負わなくちゃいけなくて・・・・すごく可愛かったなぁ。今はすっかり大人になっちゃって・・・」
紫音は妹の昔話を懐かしそうに語る。
 「うわああ、俺美音ちゃんの兄貴になりたかったなぁ」
相変わらず俺らと思考回路の違う翼。
 「美音があんたの妹だったらって想像するだけで恐ろしいわ・・・」

 「ああああああ疲れた」
皆と別れて家に帰ったあと、俺はベッドに横たわった。
今日一日がすごく長く感じた。
 「十魔の奴言ってたな。あいつも参加するって・・・」
俺の全てを奪った男・・・。
名前は教えられていないが、彼がD.Dの幹部であることは確かだ。
 「この大会、負けられねぇ。あいつなら決勝まで残ったとしてもおかしくないからな」
しかし、カレンダーを見た瞬間その気は吹き飛んだ。

 「今日は8月6日・・・! 開催日は8月10日だ! やべぇ、早くポケモン3匹揃えないと!」
とはいえ、こんな夜遅くにこんな慌てたって仕方ない。
 「明日、アラララギ博士に相談するか・・・」
結局、その夜は寝るしかなかった。

8月7日。今日は朝早く起きた。
7時43分・・・。こんな時間でもアジトは空いてるのだろうか。

と思って向かってみたが、アジトは空いていた。
中に入ると一階のカウンターにアラララギ博士がいた。
 「博士、おはようございます」
何か書類に書き込みをしていた博士は俺の声に反応した。
 「あら、おはよう彰。こんな時間からどうしたの? 今日は会議はしない予定だけど・・・」
 「あーいや、そのー相談がありまして・・・」
俺は大会の予選に必要なポケモンの数が足りないことを彼女に話した。
 「なるほどねー。でも残念だけど、私の手持ちの内渡せるのはあのゾロアークだけなのよ。残りのポケモンは護衛のために必須だからね。
だから、後はあの人達に頼むしかないわね。D.D.Dの研究員、オーキド博士とハチカマド博士」

そんなわけで、俺はアジトの地下にある研究室へ向かうことにした。
研究室はヒウン下水道に繋がっているが、野生のポケモンを寄せ付けない。
周囲にゴールドスプレーを撒いてるだとか。

地下に行くと、二人の博士がよく分からない装置に向かって何か取り組んでいた。
何をしているのかはさっぱり分からなかったが、近くに俺が立ってても気づかないほど集中しているのは確かだ。
 「あのー、すみません」
勇気を出して声をかけてみると、二人は驚いたように此方を向いた。

 「おや? 君は確かに・・・」
 「彰くんじゃな。アラララギ博士から話は聞いておる。我が組織の期待のルーキー出そうじゃな」
 「あ、はい。会うのは初めてですね。宜しくお願いします」
俺が手を差し出すと、二人の博士はそれぞれその手を握ってくれた。
 「オーキドじゃ。宜しくのう」
 「ハチカマドじゃよ。宜しく」
どちらも高年齢であったが、オーキドの方が年を取っている。
まぁ30年以上前から有名な博士らしいからそれもそうだろう。

 「ところで、此処へ来たと言うことは、何か用があるということかな?」
ハチカマドが言う。
 「はい。実は・・・」
用件を全て言い終えると、二人の博士は暫く黙りこんだ。

「良かろう、君に力を与えあげよう。ただ、そのためには条件が必要だ」
沈黙を突き破ったのはハチカマド博士。
 「ハチカマド博士、まさかあげるポケモンってのは・・・」
ハチカマド博士は一つのモンスターボールを取り出してから言った。
 「ワシの相棒じゃ。だが、こんな老いぼれがこれを持っていたところで、何の役にも立たなかろう。ワシと共にこんな研究室に引きこもってるくらいなら、大会で晴れ晴れとして欲しいところじゃわい」
すると、オーキド博士も自分のモンスターボールを一つ取り出した。
 「そうじゃな。この子にも大会で活躍して欲しいのう。よし、決めた! この子は彰くんに譲ろう。ハチカマド博士の条件とやらを満たしたらの話じゃがな」
 「ありがとうございます。それで、その条件とは?」
ハチカマド博士は窓の外、ヒウン下水道の方を見た。

 「此処最近、ヒウン下水道に潜む野生のポケモンが、増えてるんじゃ。たまにゴールドスプレーを突破して研究室に乗り込んでくるポケモンもいる。そこで、お主にはそやつらを一匹残らず排除してもらいたい。排除、というのはとにかくヒウン下水道の外に追い出してくれればそれでよい。どうかな、頼めるかね?」
俺は迷うまでもなく頷いた。
 「うむ。排除の際には我が相棒やオーキド博士のポケモンを使ってもよい。良いかね、オーキド博士?」
 「全然構わんよ。それに、これから使うことになるポケモンなんだから慣れておいた方が良いしな」
俺は二人からモンスターボールを一つずつ受け取り、下水道に向かった。
 「頼んだぞ、お前ら!」
俺は3つのモンスターボールを同時に投げた。

 「――――その侵入者達は逃がしたのか?」
 「あぁ。見事に遣られてもーた」
 「同じく遣られましたよ。試作品のテストだったとはいえ、あんな子供に遣られるというのは屈辱でしたよ・・・」
 「・・・逃がしてしまったのか」
 「なんや? あんなガキどもに此処の存在知られたところで、何も起きへんやろ?」
 「・・・おかしいと思わないか? 一日に5人も侵入者が出るなんて」
 「んー? 遊びで来たつもりちゃうんか? 規模が大きいとは言え、ブラックシティ=D.Dのアジトだなんて知ってる輩は極僅かや」
 「四天王が高校生4人連れてこの街に来るのが遊びだと言えるのか?」
 「・・・四天王?」
 「あぁ。下っぱが言うには、黒の摩天楼付近に潜んでいた侵入者は四天王の山田裕貴かと思われるそうだ。
容姿はよく確認出来なかったものの、下っぱをいとも簡単に撒いたあの実力は只者ではない。
やはり何かが我が組織に対抗しようとしている。これは放ってはおけないな・・・」
 「ふぅーん・・・」
 (そーいや、彰はヒウンシティにもいたな。確かあの時はアラララギ博士と一緒にいおった・・・。確かに、こらなんかあるでぇ・・・)


TWCR予選前日の夜・・・。
結局この日まで会議は行われなかった。
その代わり、今日の昼間Dギアにメールがきた。
明日の開会式後、全員指定された場所へ集合しろとのことだ。
そこで今後の予定のことは話されるだろう。

 「ふぅー、明日から予選開始だ。緊張するなぁ」
などと独り言をほざく。
二年前の大会でも確かこんな気持ちだったなぁ。
懐かしい・・・けど少し悲しい。
この大会、あいつを倒せばもしかしたら俺のポケモンが戻ってくるかもしれない。
だから絶対に負けられない。
俺はいつの間にか深い眠りについていた。


次の日・・・。
ヒウンシティはいつも以上に人で賑わっていた。
俺、南、翼はその人混みの中に混じっていた。
 「こんな暑い中これだけの人の数がいたらもたないわ・・・」
南が息を切らしながら言う。
 「ほんと暑いな。会場が涼しけりゃいいんだけど」
まだジムが開くまで15分はある。
だというのにこの人の数は異常だ。
まぁ遠くから来てる人も多いらしいし仕方ないか。
 「あ、龍騎先輩達だ。おーい!」
翼の指した方向には龍騎、茜、玲音、夜嶋姉妹がいた。

 「これで皆揃った?」
5人と合流したあと、南が言う。
 「揃ったねー。後はジムが開くのを待つのみだね!」
紫音はずいぶん楽しそうだった。
 「この暑い中、お前なんでそんな笑顔なんだ?」
玲音の鋭い口調はいつもより迫力がなかった。
相当暑いのが嫌いなのだろう。
 「だって大会だよ、大会? 出るの初めてだからすごく楽しみ!」
彼女についていける者は誰一人としていなかった。

 「あの、翼さん・・・」
 「ん?」
声をかけたのは美音。
相変わらず恥ずかしそうで声が小さい。
 「昨日はありがとうございました・・・。その、いろいろ・・・」
 「あぁ、気にしなくて良いよ。女の子を守ることは僕の絶対主義ですから!(キリッ」
 「ただの垂らしだろ」
玲音の冷静なツッコミ。
 「そんなんじゃねぇよ!」
翼は焦る。


そんなことしているうちにジムが開いた。
押し寄せる人の波に呑まれ、俺らは強制的に中へ入れられた。
中は大して涼しくなく、むしろ外にいるより蒸し暑かった。
冷房が全く効いていないからだ。

 「あぢぃぃぃぃぃぃ・・・」
玲音は瀕死の状態だった。
どうやら本格的に暑いのが苦手ならしい。
今にも死にそうな彼に肩を貸してやるが、あまり意味はなかった。

 「えぇ、ご来場の皆さんお待たせしました。これより、TWCR開会式を始めたいと思います」
ようやく開会式が始まった。
 「まず本予選ヒウンシティの部代表、佐藤裕也さんのお言葉」
 「あ、はい。皆さん頑張ってください (`ェ´)ピャー 以上」
人々の合間に拍手が起こった。

 「・・・今のが開会式か?」
誰もが思ったであろうことを翼が呟く。
 「きっと運営の方も暑いから手っ取り早く終わらせたいんだよ」
笑顔で言う紫音。
それにしてもこの暑さにも耐えられるとはどうなってんだこの子。

その後、俺らは一度ジムへ出てアジトの入り口へ向かった。
そこにはアラララギ博士がいた。
 「あら、もう開会式は終わったのね」
 「糞速かったっすよ」
 「なら良かった。待つ時間が減ったわ」

 「早速だけど、話しても良いかしら?」
話す内容とはメールで言ってたことだろう。
全員無言で頷いた。
 「ま、すぐ終わるからそんなに緊張しないで。これからのD.D.Dの方針についてなんだけど、取り敢えずは奴らの様子を見ることにしたの。というのは、大会中に攻める準備をすると言う意味もあってね。尚、準備は此方で行うから皆は大会に集中してくれればいいわ。あと、ポケモンも奪われないようにね」
わざわざ集まって話すほどの内容だったのかと思えるほどすぐに終わった。

 「暫くD.D.Dは休業ってことかー。なんか気楽だねー」
博士と別れたあと、紫音が言った。
 「ま、結局大会で忙しいことに変わりはないけどな」
玲音はダルそうに言う。
ダルさは暑さのせいか大会のせいか知らないが。

 「さて、そろそろ予選開始だな」
再びジムの前まで来たところで言った。
 「ま、こんなところで負けることはないよな皆」
翼は余裕の様子。
こういう彼が一番心配だ。
まぁ、本当はもっと心配なのが一人いるが。

 「じゃ、また後で会おう」
 「ばいばーい」
 「頑張れよー」
皆それぞれのバトルコートへ向かった。

第六話【予選】



開会式はヒウンジムで行われた。
しかし、バトルフィールドは外にある。
それはヒウンシティの海沿いに張り出した5つの港だ。
西からそれぞれリバティピア、ユナイテッドピア、プライムピア、ロイヤルピア、スカイアローピアといい、予選期間中は船の運行も停止されている。
俺と南は最も東よりのスカイアローピアで一戦目が行われる予定だ。

 「緊張してるのか?」
控え室で、南がいつもより元気がない様子だったので声をかけてみた。

控え室とはいっても、それは観客に対してカーテンを張っただけの小室。
後ろに海と港が見えるのは良いが、それでもこれではまるで牢獄にいるような気分だ。

 「そりゃ緊張するわ、初めての大会だもん。翼があんなこと言うから尚更」
そういえばあいつさっき「負けるわけないよな皆」とか言ってたっけ。
D.D.Dは南以外は推薦で選ばれたメンバーだからそんなこと言えたのだろうけど、例外で入った南にとっては結構響いた言葉なのだろう。
俺もこの理由で彼女を一番心配している。

いよいよ南の番が迫ってきた。
彼女の前の対戦者達のバトルはもう終盤を迎えてるからだ。
 「あんま緊張しすぎると遣りにくいぞ。一回深呼吸してみ」
 「ちょっとー今考え事してるんだから話しかk」
 「良いからはい、深呼吸」
しつこく言うと南は大人しく深呼吸を始めた。
2、3回したあと、こっちを見た。
 「落ち着いたか?」
 「うん」
 「バトルする前にもしとけよ。緊張ほぐせるから」
そこへ、控え室に運営委員の人が顔を出した。
 「エントリーナンバー324,341の方、フィールドへ」
その声を聞いた途端、南はビクッと震えた。
そんな反応を見て思わず笑いそうになったが堪える。
 「ほら、行ってこい。さっきの忘れんなよ」
 「・・・うん」
南は立ち上がり、運営委員についていった。


 『それでは、次のバトルに移ります。対戦者入場。エントリーナンバー324、小次郎』
街側の台にリフトに乗って現れたのは、青い髪の老人。
リフトはヒウン地下水道にあり、対戦者は一度そこへいくことになる。
野生のポケモンがいるため控え室には出来ないそうだ。

 『エントリーナンバー341、留々華』
反対側から現れた留々華はがくがく震えていた。
緊張しすきだ・・・。

 「あれ? 留々華って・・・」
 「南留々華のこと?」
 「あ、本物だ」
しかも運が悪いことに観客席にはクラスメイトが何人かいた。
彼女の緊張感は最上限にまで達してしまった。

 『両者は最初のポケモンを出して下さい。 二匹が揃ったところで開始のカウントを始めます』
アナウンスが会場に響く。
 「行くのじゃ、マタドガス!」
小次郎が最初に出したのはマタドガス。
弱点が少ない上に割と耐久が高い厄介なポケモン。
 「お願い、ウォーグル!」
対する留々華が出したのはウォーグル。
攻撃力が高めで耐久も申し分ないポケモンだ。

 『5、4、3、2・・・』
カウントダウンの最中、留々華はしっかり深呼吸をしていた。
少し落ち着いた様子だった。
 『・・・1、バトルスタート』

 「ウォーグル、ブレイブバード!」
 「ウォォ!」
ウォーグルは先制してマタドガスに向かって突っ込んだ。
そのスピードと威圧に圧倒され、マタドガスは攻撃をもろに喰らう。
しかし、ウォーグルも攻撃の反動でよろめく。
 「なかなかの威力だ! しかし、その攻撃力はこれで封じれるぞ。鬼火!」
マタドガスはすぐに体勢を建て直し、ウォーグルに向けて青白い炎を放つ。
ウォーグルは火傷を負った。

 「くぅ・・・! それでも・・・もう一度ブレイブバード!」
再びウォーグルはマタドガスに全力でぶつかるが、相手はほとんどダメージを受けていない。
火傷によって半減したウォーグルの攻撃力、そしてマタドガスの持ち前の防御力が原因だ。
 「その程度の攻撃効かんなぁ! 留めだ、10万ボルト!」
マタドガスの体から放たれた電撃がウォーグルを襲う。
ブレイブバードによって受けた反動とこの10万ボルトが重なり、そこそこの耐久を持つウォーグルもさすがに崩れ果てた。


 「「ま~たどが~す/マータドガース」」
2つの口から放たれる異様な鳴き声は私を挑発しているように聞こえた。
 「ごめんなさい、ウォーグル・・・」
ウォーグルはモンスターボールに吸い込まれるように入った。
とにかく悔しかった。自分の不甲斐なさが。

ウォーグルの攻撃力には自信があった。
しかし、それは鬼火と言う技によりいとも簡単に崩されてしまい、意味を持たなくなった。
遣られる前はこんなこと予想もしていなく、やはり私はまだ未熟者だと思い知らされた気分だ。 

 「次はもうこんな過ちを犯さないから。お願い、スターミー!」
次なる手はスターミー。
マタドガスに相性の良いポケモンはこの子だけ。
しかし、倒せる自信はある。

 「スターミー、サイコキネシス!」
スターミーはマタドガスに向かって念波を放つ。
この一撃で決まる。そう思っていた。
しかし、現実は違った。
 「マタドガス、大爆発!」
スターミーの攻撃が決まる瞬間、マタドガスは全身から火を放った。
フィールド全体を巨大な爆発が包み込み、スターミーもそれに巻き込まれ吹っ飛ぶ。
もちろん、これでマタドガス自信も力尽きた。

 「そんな・・・スターミーがスピードで負けた?」
 「おや? 見てなかったのかい? ウォーグルの二発目の攻撃を受けたとき、マタドガスはイバンの実を口にしたんだ。
イバンの実には素早さを上げる能力があるから、スターミーより早く攻撃できたんだよ」
わざわざ説明してくれる小次郎。
しかし、今のは再び私に私の心に傷を負わせた。
また自分のせいでポケモンを傷付けてしまった。
それがショックだったから。

しかし、幸いにもスターミーはまだ体力がギリギリ残っていた。
せめて相手のポケモン一体でも落としたいところ。

 「よーし。行け、ノクタス!」
小次郎の二番手はノクタス。
スターミーにとって相性最悪のポケモンだ。
とはいえ、さすがに素早さでは負けていないはず。
無理かと思うが、一撃で決まれば・・・。

 「スターミー、冷凍ビーム!」
スターミーの体の中央の赤い部分から冷気の籠ったレーザーが一直線にノクタスに迫る。
ノクタスは冷凍ビームを喰らって一瞬よろめいたが、すぐに体制を立て直す。

 「お返しだ、エナジーボール!」
ノクタスが掌と掌の間に緑色の球体を作り出した。
それはスターミーに向かって放たれ、スターミーは直撃して後方に吹っ飛ぶ。
 「スターミー・・・!」
大爆発により大ダメージを受けたスターミーはこれ以上耐えきれなかった。

 「・・・お疲れ、スターミー」
二匹目のポケモンが私のモンスターボールに吸い込まれた。
これで残るは一匹・・・・
この子にかけるしかなかった。
 「お願い、ヘラクロス!」
 「ヘラクロース!」
最後の希望、ヘラクロスは猛々しくフィールドに立った。

 「おやおや、これは厄介な相手だ。ノクタスじゃ倒しきれないな。
だがこれならどうだね。道ずれ!」
ノクタスはの廻りを黒い影が覆い始める。
恐らく相手は道ずれの準備を始めた。
しかし・・・。
 「ヘラクロス、メガホーン!」
先制したヘラクロスのスピードには敵わず、道ずれは失敗に終わる。

 「チッ、失敗か。戻れ、ノクタス」
一撃で瀕死状態になったノクタスは、持ち主のモンスターボールに吸い込まれた。
 「これで一対一。なんとか最初の失敗は取り戻せたわ」
次の相手のポケモンによって勝敗が決まる。
緊張感が更に増した。

 「行け、デスカーン!」
小次郎の最後のポケモン、デスカーン。
それはヘラクロスの苦手なゴーストタイプを持つ。
格闘、虫タイプの技はどちらもゴーストタイプには相性が悪いのだ。
太刀打ちできそうな技はストーンエッジ一つしかないが、それだけではデスカーンを倒すことはできない。
デスカーンというポケモンは耐久に長けていて、生半可な技―――タイプ不一致の技じゃ相手を倒すことは難しい。
しかし、希望はあった。相手があの技を使ってくれれば――――。

 「とにかく今は攻撃しまくるしかなさそうね。ヘラクロス、ストーンエッジ!」
ヘラクロスの放ったストーンエッジはデスカーンの棺に当たり、簡単に砕け散る。
ほとんどダメージは与えられてない。
 「ふふん、効かないねぇ。これで更に攻撃力を半減してあげよう。鬼火だ!」
―――――来た!
デスカーンの蒼白い炎がヘラクロスに襲いかかった。
ヘラクロスの体が赤く染まり、視覚だけでも熱が籠っているのが分かる。


 「・・・勝った」


 「おいおいお嬢ちゃん、火傷したポケモンは攻撃力が半減するんだぜ? 勝ったってどういう」
 「今に分かるわ。ヘラクロス、もう一度ストーンエッジ!」
ヘラクロスは再び尖った岩をデスカーン目掛けて放つ。
また弾かれる・・・と思いきや、今度は逆に岩が棺を押した。
複数の岩が同じようにぶつかり、さすがのデスカーンも呻き声をあげる。

 「カァァァァァ・・・」
 「何!? 攻撃力は半分になったはず・・・。まさか急所に?」
 「いいえ。急所じゃないわ。ヘラクロスの場合、火傷しても攻撃力は下がらず、むしろ少し上がる。特性、『根性』によってね」
 「・・・あ!」
今更気付いても遅かった。

もうデスカーンにヘラクロスの勢いを止めることは出来ない。
 「これで終わりよ! ストーンエッジ!」
ヘラクロスの放つ三度目のストーンエッジがデスカーンを襲い―――棺の一部が砕け散った。
そして、そのまま地面に崩れ落ち、動かなくなった。

 『小次郎選手手持ち0匹。留々華選手手持ち1匹。よって勝者、エントリーナンバー341、留々華選手』
辺りに歓声が撒き起こった。
 「留々華やるじゃん!」
 「すごーい!」
クラスメイトにも敗北してるところを見せることなく終わり、一安心する。

 「お疲れ、ヘラクロス」
火傷状態のヘラクロスはモンスターボールに戻ったあと、控え室にある回復システムで回復する。
ヘラクロスだけでなく、瀕死状態になったウォーグル、スターミーも。

 「おめでとう、お嬢ちゃん」
小次郎がフィールドを横切って此方まで遣ってきた。
 「どうも。対戦ありがとうございました」
深々と頭を下げると、向こうも「此方こそ」と軽く頭を下げる。
 「まだ若いのに中々の腕前だったね。特に最後のバトルは久々に楽しかったよ」
 「ポケモン達を・・・信じてましたから」
 「そうだね。信じることは良いことだ(昔ポケモン泥棒してた俺が言えることじゃないが・・・)。いつまでも彼らを信じ続けると良い。さすればホワイトホール、白い明日が待ってるぜ?」
彼はそう言って此方に背を向け、軽く手を降りながら去っていった。
優しそうな紳士だった。

 「お疲れ南! お前やりゃできるじゃんか!」
控え室に戻ってきた南の肩を叩いて全力で誉めた。
 「う、うん、ありがとう」
少し疲れているのか、南は反応に困っていた。
 「取り敢えずポケモン達を回復させて。彼らが一番疲れてるだろうから」
彼女はそう言って回復システムに近寄った。

 「全く、最初のマタドガスにウォーグルが遣られたときは心配したよ。おまけに大爆発なんてされたしなぁ。
ヘラクロスのおかげでなんとかやり過ごせたな」
南が戻ってきたあと、俺はバトルの感想を述べる。
 「彰、興奮しすぎ。あんなのたまたま運が良かっただけだって。相手が鬼火してこなかったら負けてたよ、多分」
 「運でも勝ちは勝ちだ。てか、むしろああいう勝ち方の方がかっこいいと思うぜ俺は」

 「えぇ、エントリーナンバー403,389の方、もうすぐ試合開始です。準備をしてください」
そうこうしているうちに、俺の番が遣ってきた。
 「403・・・って彰じゃん。頑張ってね、試合」
 「おう。行ってくる」
リフトのある地下水道へ足を運んだ―――。

 『選手入場。エントリーナンバー403、彰』
リフトが動き出し、港の上まで登っていく。
歓声と拍手が聞こえると共に、頭上に差し込む光が増す。
気が付くと、俺は港のど真ん中に立っていた。
周りは観客で囲まれ、目の前にはバトルフィールドがある。
 「あれ? あれ彰くんじゃない?」
 「ポケモン使わないんじゃなかったっけ?」
南の時より反応が大きい。
まぁ、俺がポケモンを使わないということは学校のほとんどの人が知っているから仕方ない。
理由はただのポケモン嫌いだってことにしているが。

 『続いてエントリーナンバー389、武蔵選手』
対戦相手もリフトでフィールドに登ってきた。
相手はずいぶん長いピンク色の髪をしているおばさんで、しかも厚化粧だった。

 『両者は最初のポケモンを出してください』
アナウンスと同時に、武蔵の方が先にモンスターボールを投げる。
 「行け、ハブネーク!」
 「ペッペップルルル」
ハブネークは毒タイプ。
俺が出そうとしていたポケモンの有利なタイプだ。
 「頼んだぜ、ルカリオ!」
ハチカマド博士が俺に託してくれたポケモン、ルカリオは闘志に満ち溢れながらフィールドに聳え立った。

 「ハブネークねぇ・・・。あまり使ってるトレーナー見たことないんだなぁ。どんな戦法使ってくるやら」
俺は一人で呟きながら試合開始の合図を待った。
 『・・・3、2、1、バトルスタート』

 「おし。ルカリオ、冷凍パンチだ」
ルカリオは先制し、ハブネークに向かって猛ダッシュする。
と思いきや、先制したのはルカリオの方ではなく、ハブネークだった。
 「遅い遅い! ハブネーク、地震!」
ハブネークの引き起こした地震は猛スピードで迫るルカリオを転倒させた。
しかし、ルカリオはそれでも勢いを止めず、なんとか体勢を立て直してハブネークに冷凍パンチを喰らわす。

 「へぇ、ハブネークってあんな速いんだ」
 「そりゃ当然よー。拘りスカーフ持たせてるんだからね!」
得意気に笑う武蔵。
拘りスカーフ・・・同じ技しか出せなくなる代わりに素早さをあげる技か。

 「だが、いくら速くてもこいつには勝てない。ルカリオ、神速!」
一瞬にしてルカリオが消えた。
そして次の瞬間、ハブネークが吹っ飛ばされた。
 「え? え、え、ハブネーク!?」
武蔵が慌てふためく。
ハブネークは戦闘不能状態になっていた。

 「先制技の神速には勝てませんよ」
軽い気持ちで言ったつもりだった。
しかし・・・
 「ぬぬ~・・・。ムカつくわねこのジャリボーイ・・・」
相手は喧嘩を売られていると勘違いしてしまったようだ。
 「戻りなさい、ハブネーク。そして次はあんたよ、ニャース!」
 「ニャースでニャース!」

今のは・・・鳴き声・・・?
いや、喋った・・・?
 「そう驚いくでニャイ。単刀直入に言うと、ニャーは喋るニャースなんだニャ」
喋るニャース・・・どころか喋るポケモンなんてテレパシー使い以外聞いたことがない。
それにしても単刀直入すぎる。
 「ポケモンが喋った!?」
 「すごーい」
観客の歓声が先程より賑やかになった。

 「あの、どうでもいいんだけどさ。
君さっきからニャーニャーニャーニャー言ってるけど、その姿どう見てもペルシアンにしか見えないんだが・・・」
それを言うと、喋るペルシアンは大きく目を開けて此方を見た。
どうやらタブーだったらしい。
つまり、相手は希に見る進化したくなかったのに進化してしまった、という進化前のポケモンだったということだ。
喋る進化嫌い・・・。こんなポケモン見るのは初めてだ。

 「ニャーはペルシアンなんかじゃないにゃ!! 四つん這いになったニャースなんだニャ! その力とくと味わうが良いニャ! 先手必勝、猫騙しニャー!」
いきなり不意打ちを喰らった。
不意打ち、というのは技の方ではなく、ポケモンがトレーナーに指示されず動いたという事実である。
ペルシアンは神速より速く動ける猫騙しをルカリオに喰らわせ、もとの位置に戻った。

 「猫騙しを喰らったポケモンは一時的に怯み、その間にまたニャーが攻撃を仕掛ける。そういう寸法ニャ」
 「ふーんなるほどね。だが残念、ルカリオは別だぜ? インファイト!」
ペルシアンの振り向き様に、ルカリオは渾身の連撃を叩き込んだ。
 「ニャー!!」
自分にとって相性最悪の技を喰らったペルシアンは悲鳴をあげながら後方へ吹っ飛んだ。

 「ちょっとニャース、しっかりしなさいよ! 特性『精神力』を持ったポケモンは怯まないから注意しろと、あれほど言ったでしょ!」
 「ニャーすまニャい・・・。すっかり忘れてたニャ・・・」
体力はかなり減ってるが、ペルシアンはまだ戦闘不能状態になっていなかった。

 「あの攻撃を受けておいてまだ立ち上がれるとは・・・」
思わず口に出た。
 「フッ、ニャーはとんぞそこらのニャースと違って高い耐久力を持ってるんだニャ。この程度の攻撃じゃビクとm」
 「気合いの襷持たせてあげてるからでしょ。良いから速く攻撃なさい。あんたの方が速いんだから」
 「ニャ~! 最後まで言わせろニャ!」
二人のやり取りを俺とルカリオは黙って見ていた。
なんというか、彼らは仲の良い二人だと思った。

 「再び先制ニャ! 喰らえ、催眠術!」
ペルシアンは素早い動きで此方に向かって走り、目を光らせる。
が、途中でその姿が消えた。
相手は後方へ吹っ飛び、痙攣していた。
 「ニャー・・・・・」
 「さっきも使ってたんだけど、神速だ。体力1のペルシアンにゃ耐え切れないだろ」
 「くぅ・・・あんたが最初にミスするから! 戻りなさい、ニャース!」
結局、ルカリオはほぼノーダメージで遣り過ごせた。

 「最後はあんたよ、ココロモリ!」
武蔵の最後のポケモンはココロモリ。
何故相手はこう素早いポケモンばかり使うのだろうか。
 「さっきのハブネークのダメージは大きかったかもな。次攻撃を喰らったらヤバイかもしれない。なら、最後に少しでもダメージを与えよう。ルカリオ、神速!」
本日三度目の神速はココロモリを撃つがあまりダメージはない。

 「効かない効かない! ココロモリ、サイコキネシス!」
ココロモリの放った念波がルカリオを捕らえ、ルカリオは自由自在に操られる。
体中が締め付けられるような苦痛を与えた後、ココロモリはルカリオを放した。
ルカリオは力尽きていた。

 「ふぅー。お疲れ、ルカリオ」
俺はルカリオをモンスターボールに戻してやった。
すると、武蔵が調子に乗ったように高笑いをした。
 「オーッホッホッホ! ざまぁごらんなさ~い^^」
 「いや、一匹倒しただけでしょ。まだ俺には二匹のポケモンが残ってるから、あんまり調子に乗らない方が良いですよ。行け、ゲンガー!」
オーキド博士がくれたゲンガーは「ケッケッケッ」と笑いながらフィールドに現れた。

 「ふん、ゲンガーごときココロモリの敵じゃないわ! サイコキネシス!」
ルカリオの二の舞を喰らったゲンガー。
しかし、相性が悪かったとはいえ力尽きてはいなかった。
ゲンガーは僅かだが特殊攻撃に強いのだ。

 「ゲンガー、シャドーボール!」
ゲンガーの放った黒い塊がココロモリに命中する。
 「コロォ!」
ココロモリは空中でシャドーボールを喰らい、地面に墜落した。
呆気なかったが、ココロモリの体力はそれで尽きた。

 『 武蔵選手手持ち0 、彰選手手持ち2。よって勝者、エントリーナンバー403、彰選手』
会場に歓声と拍手が巻き起こった。
 「くぅー二匹も残させて負けるなんて・・・! 覚えてらっしゃい! 戻れ、ココロモリ!」
武蔵はココロモリをボールに戻すと、その場から苛立った様子で立ち去っていった。
なんというか、ユーモアのあるトレーナーだった。

 「お疲れ、彰」
控え室に戻ったあと、南が声をかけてきた。
 「なんつーか初っぱな面白いトレーナーと当たっちまったよ」
 「へぇ。まぁどこぞの強豪と当たるよりはマシだよ」
 「まぁそうだな」

回復システムにモンスターボールを2つ置いた。
それぞれゲンガー、ルカリオが入ってるボールだ。
 「こいつら、初陣にしては中々だったな。特にルカリオはアタッカーに丁度良い」
 「ふーん。・・・いつか私達同士でも、戦わなきゃいけない時が来るのかな」
突然南が暗い顔でそんなことを言い出す。
まぁ誰もが思ったことだろう。
 「ま、そりゃそうなるだろうな。よほど運がよくないと、全員予選突破なんて難しいよ。
      • とは言っても、ヒウンシティ、シッポウシティ、サンヨウシティ、ライモンシティから選抜される数は合計30人・・・。あいつらが誰にも負けない限りは、そこまで難しくもないかもな」


その後、俺らはそれぞれまた一人のトレーナーと戦った。
俺も南も順調に勝利し、今日の試合はこれで終了した。
他のメンバーも誰一人負けてないようだ。

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最終更新:2014年08月03日 09:42