18.ナイトメアサバイバー
「今度こそ止まれ! 今のお前はテロリストと同じ扱いだ!」
糞、流石SATだ。足速すぎ。もう追いついたのか。仕方ないな、ならコンビニにたどり着く前に左に曲がってしまえばいい。
「止まる気はないのか!? そうか! 総員撃て!」
おいおい、マジかよ。咄嗟に建物の影に飛び込んで銃撃をやり過ごす。
さっき煽りすぎたかな。だがまずは学校にたどり着かなくては。そうしなきゃ始まらない。
そして学校に面した通りに出た。まだSATは追いついてない。今の内に……、
「何だ、これは……」
俺が右を向くと、つまり校門がある方を向くと、車や後藤さんが破壊した戦車の残骸、多くの死体がたくさん転がっている先にテロリスト共が待ちかまえていた。
「やぁ、シマリス君。直接会うのはこれが初めてかな」
テロリスト共のリーダーだと思う。中央に立っている奴が俺に話しかけてきた。だが距離があるので話しかけてきたというより半分叫んでいた。
そしてそのリーダーの近くにいるやつの顔を見て俺は安堵と苛つきを同時に感じた。咄嗟でも無意識でもない、その苛つきのせいだな。俺は再び意識がある中でハンドガンをリーダーに向けた。
「おいおい、降ろせよ。少なくともお前の方が不利だ。まぁ、命を投げ出すってんならわかるがな」
リーダーの周りのテロリスト共6人が全員俺にアサルトライフルやハンドガンの銃口を各々向けた。ありがちな展開じゃねぇか、糞。
「ああ、命投げ出してやるからお前が銃口向けてる奴離せよ」
「ほう、勇ましい。ではお前を殺した後にこいつも殺すとすれば?」
「シマリス君……!」
死んだと思われていた上俺に安堵と苛つきを同時に与えた後藤がテロリストのリーダーに首もとをホールドされた状態で銃を向けられながら小さく叫ぶ。
「呪い殺してやるよ」
「ほう、勇ましいだけでなく面白いな。では、試してみるか?」
俺が通ってきた道の方向からSATが追いついたのが感じられた。お前らは一旦引っ込んでいてくれよ。
「ふんっ、そもそも何で後藤を殺したって嘘流しやがった。ホイホイと釣るためか?」
「そりゃそうさ、裏切り者をおびき寄せるのに必要不可欠の切り札をさっさと切り捨てる訳がないだろう。それに人の話を最後まで聞かないのも悪いな」
「シマリス君逃げて!」
「黙ってろ」
リーダーがハンドガンの銃底で後藤の頭を殴った。糞てめぇ。
「さて、状況はこちらの方が把握している。恐らくお前の近くにはお前を追ってきたSATが数人いるはずだ。通信が筒抜けなんだよ」
完全にバレてやがる。畜生、これじゃラチがあかないしあいつが言った通り圧倒的に不利すぎる。死なずして仇を撃つ。こんなことはやはり夢にすぎなかったのか……。
「さぁ、交渉も決裂したまま進展なしでひたすら抗っているのにももう飽きた。面白いものを見せてやろう、やれ」
その言葉の直後、リーダーの周りのテロリストの内の1人が銃を下ろして無線で何か喋った。距離があるというより声が小さくて何と言っているかわからない。だが、そいつが何と言ったのかはすぐにわかった。
「戦闘機が……」
この声は俺を追ってきたSATの1人だ。
そう、戦闘機が突如真上に飛び始めた。そしてあろうことかそのまま180度回転、学校に向かって落ちてきた。
「な!?」
流石に驚きで体が固まった。そんなことを薄ら笑いを浮かべながら命令できるのか……。ありえない。
徐々に距離が迫る戦闘機と学校。友達が多く残されているはずだし、たとえ既に避難していたとしても俺の母校だ。戦闘機で廃墟になるとか認めんぞ。
しかし思った通りのことは起こらなかった。
2機の戦闘機。そうだ。俺はあの時2機の戦闘機を見た。1機は今学校へ向かって落ちている戦闘機、もう1機は、
学校に墜ちている戦闘機に向けてミサイルを発射した自衛隊の戦闘機。
「何と……、ただケツにくっついているだけかと思えばミサイルを撃つのか」
これにはテロリスト共も驚きを隠せないようだな。
そしてそのミサイルは戦闘機が学校に落ちる直前に戦闘機に直撃。爆音と共に多くの命を救った。
その爆風が強風となって後藤の髪をなびかせる。さっきも感じたビリビリ風だ。
「素晴らしい! あそこでミサイルを撃つ英断! お前はまだ命を投げだすと言ったのみ! お前も行動と結果が結び付いた英断はできるか! 俺達を撃てるのか!? この小娘に当てないように俺を撃てるのか!?」
突然テロリストのリーダーにまくしたてられて意識が上空から地上に戻ってきた。そうだ、俺は今テロリスト共に銃口を向けているのだ。
「さあ! 撃つんだシマリス君! 君の覚悟を私に見せつけたまえ!」
「逃げてシマリス君!挑発に乗らないで!」
「逃げればこの小娘の命はないぞ! 君の覚悟を見せるだけでいい! 初弾については反撃しない! さぁ! 撃ってみろ!」
「ダメ! 逃げて!」
「反撃しないと言っている! さぁ! ほら早く!」
「私のことはいいから! お願い早く!」
「うるさい小娘だ! いいか! お前の選択肢は2つに1つだ! 決して逃げてはならない! 撃つんだ!」
「……っ!
撃てません!」
「はっ」
「うて? わかりませんのね。はい、じゃあ授業中に寝てた残念な人の代わりに柏崎君答えてあげて」
「3x-8」
「そうだね」
え、マジで?
(完)
最終更新:2014年09月20日 23:49