4ページ目

安藤はそのキーボードをいくつかタッチすると、だだだに画面を向けた。そこには奇怪な数字や文字がずらりと並び、だだだには何を示しているのかはさっぱりだった。

「いたずらプログラム23ver.2。たぶん、上手くできてんじゃね?」

だだだの後ろから、坂田が顔を覗かせながらそう言った。
このプログラムは、本来、現実と相似に作られた仮想空間内に、仮想空間だからこそ出来る異質なプログラムを走らせることによって、現実では出来ないことをしようというものである。例えば、仮想空間内でも重力の概念は存在し、いつでも彼らは地面に足を付けていなければならない。だが、そうじゃないようにすることも可能なのだ。
ただし、現実で行えない一定のことを仮想空間で行うことは、『疑似空間改造法』に抵触すると言われ、法律では禁止されている。ただ、ばれなければいいというのが、結局は法律の甘いところであった。
授業中でも無ければ、仮想空間内は監視もされておらず、一応にはフリーな状態だった。

「アンチウイルスプログラムの対策は?」
「今のところは問題なし。引っかからないと思う」
「それじゃ、さっそく……」

そう安藤がエンターキーを押そうとしたとき、そのPCを取り上げた者がいた。

「うわ、岩村……」
「あんたたち、また余計なことをしようとしてるでしょ。迷惑だからやめてよね」

PCを取り上げ、しかめっ面を浮かべるのは、クラス委員長の岩村ちとせだった。しっかり者で堅物、まるで年上であるかのように振る舞う、悪い人ではないが彼らにとって厄介な存在であった。
ため息をひとつして、ちとせはPCとだだだ達を交互に目を向ける。

「あのさぁ『ちとせ』さんよー。別に授業中にやろうってわけじゃないんだから」
「法律に引っかかるでしょ」
「だからそれにも見つからないように……」

坂田がそう言いながら、すっと手を伸ばして、ちとせが持っているPCに手を伸ばした。

だが、それよりも先に、ちとせはPCを叩いていた。手の中から瞬く間にPCは消えていった。

「あー、消しやがったこいつ!」
「いいから、勉強でもしてたら? あなたたち受験生でしょ?」

良い意味でストッパー、悪い意味でお節介極まりない女だと、自分の席へと戻っていったちとせに、坂田はぶつぶつと悪態を投げかけた。これまでにもたびたび、彼らの悪戯というものは邪魔をされて、なかなか成功には至っていない。
確かに、法律に触れれば未成年だろうが重罪ではあった。しかし、ルールは破るためにあるという昔からの言われは、彼らにもきっちりと引き継がれていたのである。

結局、また後で、ちとせやその他に見つからないようにバックアップしていたものを持ってくるということで、その場はお開きとなった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年01月25日 21:08