グラードン虐
俺はロケット団の一員だ。
入団当初、俺はポケモントレーナーに憧れていた。だが、どのポケモンも俺になついてくれなかった。どんなに努力しても振り向いてくれないのだ。まるで町で出会った綺麗なおねーさんのようだ。
涙が出るぜ、まったく。
まあ、そんな俺でも、得意の科学やメカの知識を生かして、この研究所で最強の戦闘ロボの開発に勤しんでいるわけだ。
どんなポケモンも倒す事ができる、究極の戦闘マシーンをな……
そんなある日、ホウエン地方のルネシティで大事件が起きたという話を耳にした。
何でも、超古代ポケモンとやらが暴れているらしい。
奴の名は『グラードン』……
大地の首領(ドン)か……俺は、そいつが自分の相手に相応しいと思った。
そう、先日完成した究極の戦闘マシーン『スーパー(カメ)X』の運用テストの相手にはこいつが最適なのだ。それに、こいつに勝てば、俺は2階級ぐらい昇進するだろう。
そんな期待を胸に、俺は『スーパーカメX』のコクピットに乗り込んだ。
高まるエンジン音、機能も全て異常なし。七島の海底にある格納庫から、海上までカタパルトが伸びる。
「スーパーカメX、飛行モード!」俺がそう叫ぶと、スーパーカメXは手足を格納し、弾丸のようにカタパルトを駆け昇っていった。
目指すはホウエン地方、ルネシティ。
そこに奴がいる!グラードンが!
ルネシティ上空には不思議な光景が広がっていた。
輝く二つの太陽。
もちろん一つ本物。もう一つは、グラードンが作り出したものなのだろう。
サイズは本物の太陽にくらべれば遥かに小さい。だが、海面から1000メートルほどのところに浮かんでいるため、海はまさに干上がらんばかりの勢いで蒸気を吹き上げていた。
もちろんそんなものは、このスーパーカメXには効かない。耐熱シールドと空調のおかげで、コクピットは快適そのものだ。
俺は、その小さな太陽の側を通り抜け、火山の火口の中の町、ルネシティへと降りていった。
ルネシティは火山湖に作られた町だ。大部分は湖……といっても、海と繋がっているため塩水湖だ。その湖の中央に小島があり、そこに奴がいた。はじめてみる姿は意外に小さい。
だが、そのパワーは測り知れず、奴の足下の島は少しずつ隆起しているようだった。
「ブンセキカンリョウ。スイテイたいぷハ、ジメン、ホノオ。ミズニ、ヨワイトオモワレマス。”ヒデリ”トクセイヲモチ
ノウリョクぱらめーたーハ ツギノヨウニ スイソクサレマス……」
スーパーカメXに搭載されたコンピュータが奴の解析結果をはじき出した。
思った通り、相手として不測はないようだ。
「スーパーカメX!陸戦モード!」俺はそう叫ぶと(つい叫んじゃうんだよ、ごめんな。別に音声入力機能があるわけじゃないんだが)
マシンをポケモンジムの前方に着陸させた。
ここなら、多少干上がっているとはいえ、水は幾らでもある。
取水パイプを海面へ降ろすと、俺は「スーパーハイドロキャノン!」と叫び(ゴメン)、トリガーを引いた。
スーパーカメXの背中に装備されたカメックスのごときキャノン砲から、激しい勢いで水流が吹き出す。
その流れはまっすぐにグラードンに襲い掛かった。
”まっすぐに”とはいっても、マッスグマのように突っ込んでいくのとは違う。
このスーパーハイドロキャノンの砲塔はコンピュータによる自動追跡で、100%の命中率を誇るのだ。よって相手が動いて避けようとしても、確実に追い掛け、長時間に渡ってダメージを与える事が可能だ。
そんな攻撃を受け、奴は苦悶の表情を浮かべていた。俺は確実に奴を追い詰めていた。俺の勝利は目前だ!
でも、意外に手がかからなかったな、などと思っていると鼻歌など出ようというものだ。
しかし、その呑気な鼻歌は1分もしないうちに、けたたましい警報によって打ち消された。
「ミズノ キョウキュウガ すとっぷシマシタ。取水ホースをカクニンシテクダサイ。」
恐らく、こういうことだろう。俺の攻撃のダメージを減らすため、グラードンは”日照り”の威力をあげていたらしい。
それによって海面が下がり、ホースが届かなくなってしまったのだ。
水の攻撃がしばらく収まっただけだが、奴はすっかり体制を立て直し、こちらを睨んでいる。
恐るべしグラードン!こうなったら、直接攻撃を仕掛けるまでだ。
俺はスーパーカメXを奴のいる島に上陸させると「スーパーカメX、近接戦闘モード!」と叫んだ!
すると、スーパーカメXの腕から刀……いや、ドスと呼んだ方がいいかもしれない物体が飛び出した。
そして、俺はそのドスでグラードンに切り掛かった。
しかし、その刃は、鈍い音と共に、グラードンの強靱なボディに弾き返された。
まあ、ここまでは予想通り。こちらの武器も刃こぼれなど全く起こしていない。
本番はこれからだぜ。
俺が操縦桿のトリガーを引くと、ドスはうなり声をあげた。
そう、こいつは高周波振動ナイフ……いや、高周波振動ドスなのだ。
何かダサいが、切れ味は確かなはずだ。
グラードンは低く吠え、こちらに殴り掛かってきた。こちらも先ほどとは切れ味の違う獲物で切り掛かる。
火花をあげ、両者はぶつかりあう。ちょうど、鍔迫り合いのようなかっこうになった。
俺のメカとグラードン、パワーは互角らしい。しばらく無言の力比べが続いたが、遂に高周波振動ナイフは奴の装甲を貫いた!
ナイフの激しい振動のせいで、意外に派手な血飛沫が上がる。
奴は苦しそうな顔をしている。
遂に俺は奴を傷つけた!俺の勝ちだ!
そう思った瞬間、奴はもう片方の腕で反撃してきた。
その衝撃で俺は、コンソールに頭を打ち付けた。ちょっと切ってしまったらしく、血がついている。
ちくしょう……俺は、マシンのもう一方の腕からも高周波振動ナイフを出すと、そちらを奴に突き刺そうとくり出した。
コンピュータがはじき出した装甲の弱いところ、奴の腹の節目だ。
今度は”突き刺す”動作のため、貫通させる力が強い。そのためか、さっきよりあっさりと刃が突き通った。
腕の時の倍以上の血飛沫が上がる。
しかし、これでもまだ、奴は反撃する元気があった。グラードンはマシンの頭部に噛みついてきた。だが、コクピットは腹の部分に、分厚いメタグロスの表皮で出来た装甲に守られいるのだから、なんて事はない。
しかし、センサー類は全てお釈迦になってしまったため、ここで逃げられては、奴を捕らえる事は困難になってしまう。
俺はここで決着をつけるべく、最終兵器を発動させようとした。
「地面タイプに、電気の攻撃は効かないとされている。しかし、お前の体の内部に、直接電気を流されれば……どうかな?」
俺はコンソールの封印されたボタンのカバーを外し、薄ら笑いを浮かべながらそれを押した。
激しい高圧電流が、スーパーカメXの両腕から、グラードンの体内に流される。
さすがのグラードンも、電気攻撃とはいえ、これには苦しそうだ。
割れんばかりの叫び。こちらの耐熱シールドがイカれたか、放熱が上手くいかないのか、奴の”日照り”の威力が増したのか、コクピット内部が熱くなってくる。
外が見えないのでよくわからんのだが、奴の反撃のせいか、それとも激しい勢いで地面を隆起させているのか……激しい振動が俺を襲った。
やがて、すべてが収まった。
そう、俺は奴に勝利した。
あちこちぶつけて痛む体をコクピットから引きずり出すと、俺はその事を確信した。
奴が倒れていた。
遂に勝った!自分の作ったメカで、超古代ポケモンに勝った!人間の、俺の、科学の力が勝利したのだ!
ふと奴の目を見ると、どうもまだ息があるらしい。
やつの目は何かを語っているようだった。
俺は何故か懐からマスターボールを取り出すと、奴をゲットした。
何故かはわからない。
それから、俺はロケット団には戻らなかった。
新型メカの無断持ち出し。発進カタパルトの無断使用。発進の際ハッチを破壊し、海底基地を水没させた……その他諸々。
これだけやらかせば、タダでは済まされまい。
俺は実家のあるハジツケタウンに戻り、両親のやっていた農家でも継ごうと思っていた。
しかし両親は既に畑を手放し、キンセツシティの側で「ポケモン育て屋さん」なる商売をはじめてしまっていた。
ポケモンになつかれなかった俺の親が育て屋かよ!一体どうなってるんだ?
まあそんな訳で、俺は111番道路の砂漠の側に安い土地を買い、農業をはじめたところだ。
心をも痩せさせる渇いた大地を耕すのは……そう、アイツ、グラードンだ。
アイツのシッポは畑を耕すのに丁度いい。まるでポケモントラクターだぜ。
日照りの特性に難があるが、元々砂漠なので気にしていない。井戸をほって、そこから水を確保しているので、何とか作物も育ってくれている。
それに、強い日射しは作物の光合成を活発にして、いい収穫が望めそうだ。
それにしても、あのグラードンはなぜ俺のいう事を聞くのだろう。
奴を倒した時、メカから出てきた俺を、”謎の鋼ポケモンを体内から攻撃して倒した人間”に見えたのだろうか……
それとよくわからん事がもう一つ。
アイツ、俺の前に立つと、よく仁侠ものの映画で見るようなポーズをするんだよなぁ。
あの「親分、おひかえなすって」ってやつだ。
忠誠心を表わしているのか、それともドス型の武器の影響か?
そんなことはどーでもいい。
とりあえず一匹でも、俺はすごいポケモンのトレーナーになる事ができたんだ。
でも、何か納得がいかない……
二つの太陽は、そんなことで悩む俺を笑い飛ばすかのように、今日も豪快に輝いている。
おわり
最終更新:2011年03月24日 18:30